令和3年度の専修学校関係予算案をポイント解説!【AR・VR/遠隔教育、渡日できない留学生支援、リカレント教育、高校連携…】

第204回通常国会が開催中です(2021年1月18日から150日間)。
今国会では、2021年(令和3年)度予算案が審議されています。
この記事では、予算案から専門学校に関係のある箇所をピックアップしてご紹介します。
VR・AR等先端技術の利活用や人生100年時代のリカレント教育などの継続テーマに加え、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて「遠隔教育導入モデルの構築」「渡日できない留学生の支援」など新しい取り組みも。
ぜひチェックしてくださいね!
※記事の内容は執筆時点(2021年2月)のものです。令和3年度予算案は今後の国会審議などの過程で変更となる可能性があります。
今回扱う文書:
[文部科学省]予算・決算、年次報告、税制
https://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/index.htm
[文部科学省]専修学校・各種学校教育の振興
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/senshuu/main11_a1.htm
[文部科学省]令和3年度「専修学校関係予算」(案)
https://www.mext.go.jp/content/20210107-mext_5000001_01.pdf
目次
予算のしくみについて
国の歳入(税金などによる収入)をどのように使うかを決定するのが予算編成です。
2021年(令和3年)の予算は2020年に編成され、2021年に執行されたのち、2022年に決算が行われます。
予算編成のスケジュールをおおまかに説明します。
次の年(例:2021年)の予算は、
(2020年)8月下旬頃:概算要求(各府省庁が「概算要求書」を財務省へ提出)
(2020年)9~12月中旬:財務省が予算案を査定&各府省庁へヒアリング・調整等~財務省原案策定&各府省庁へ内示
(2020年)12月中旬:政府内で最終調整~財務大臣が予算案を閣議提出~政府案として閣議決定
(2021年)1~3月:国会審議~予算成立!
(2021年)4月~:予算執行、制作実施
というようなスケジュールで毎年編成されています。
この記事の執筆時点(2021年2月)では、予算案が国会で審議されている段階です。
令和3年度専修学校関係予算案の概観

2021年(令和3年)度の専門学校に関係のある予算案は、以下の四つのカテゴリーに分かれます。
- 専修学校教育の振興に資する取組
- 専修学校の教育体制及び施設整備等に関する取組
- 専修学校への修学支援に資する取組
- その他関係予算
この記事でもこのカテゴリーごとに見ていきます。
特に「専修学校教育の振興に資する取組」は要チェックです!
専修学校教育の振興に資する取組――人材養成機能の向上

「専修学校教育の振興に資する取組」カテゴリーはさらに「人材養成機能の向上」「質保証・向上」に分けられます。「人材養成機能の向上」に含まれる事業は以下のとおりです。
- 専修学校における先端技術利活用実証研究
- 専修学校による地域産業中核的人材養成事業
- 専修学校留学生の学びの支援推進事業
- 専修学校リカレント教育総合推進プロジェクト
前年から継続する事業も多いですが、以下の三つは2021年(令和3年)度の新しい取組です。
- 「専修学校における先端技術利活用実証研究」に「遠隔教育導入モデル構築プロジェクト」が追加
- 渡日できない留学生の学習開始・継続を支援する「専修学校留学生の学びの支援推進事業」が追加
- 「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」に「高校との有機的連携プログラムの開発・実証」が追加
【VR・AR等先端技術の利活用&遠隔教育導入モデル構築!】専修学校における先端技術利活用実証研究
「専修学校における先端技術利活用実証研究」事業の背景には、人口の減っていく日本社会では生産性の向上が喫緊の課題であり、企業等の現場では研修等にAR・VR等先端技術を導入する動きがみられることを踏まえ、職業人材の養成場面でも先端技術を活用した教育方法等の改善が求められているという事情があります。
また、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響を受けて遠隔授業の導入が急速に広がりましたが、2021年はその質を向上させるフェーズに。
「遠隔教育導入モデル構築プロジェクト」が新規メニューとして追加されます。
具体的には、①先端技術利活用・研修プロジェクト、②専修学校遠隔教育導入モデル構築プロジェクトを実施。
それぞれのプロジェクトで産官学からなる協議体を構成し、①では座学や実習授業等での先端技術の活用方法の実証・研究を、②では遠隔教育の実践モデルを構築します。
また、①②をまたがって「分野横断連絡調整会議」を設置し、各プロジェクトの進捗管理・連絡調整や成果のまとめ、新しい技術開発動向や活用事例のリサーチ等を行います。
▼2020年(令和2年)度の採択一覧はこちら。
R2年度「専修学校における先端技術利活用実証研究」採択一覧
https://www.mext.go.jp/content/20200929-mxt_syougai01_01.pdf
医療系からIT系、美容系、動物系等々幅広い分野でのAR・VR利活用の実証研究が行われていますね。
【Society5.0スキル・地域課題解決・高校から一貫したプログラム等】専修学校による地域産業中核的人材養成事業
「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の背景には、経済社会の発展のため、経済再生を先導する分野の雇用拡大・人材移動&日本再生・地域再生で中核的役割を担う専門人材の養成が求められていること、また、専門学校での学びの質向上のためにより早い時期からキャリア意識・専門知識を得られるようなアプローチが求められていることが挙げられています。
具体的には、専門学校等に委託して各職業分野で今後必要とされる新たな教育モデルを形成するとともに、各地域で人的・物的協力等を得てカリキュラムの実効性・事業の効率性を高め、各地域の特性に応じた職業人材養成モデルを形成するとされています。
これからの時代に対応したプログラムの開発については、以下の4種が挙げられています。
- Society 5.0等の時代に求められる能力を整理し、その養成に向けたモデルカリキュラムを開発
- 地方創生のために各地域の課題解決・発展に向けた構想を策定し、それを実現する人材に必要な能力養成に向けたモデルカリキュラムを開発
- 「学びのセーフティネット」機能強化のため、高専と地域・外部機関等との連携を通じた教育体制「チーム高等専修学校」を構築
- 専門学校・高校・行政・企業が協働して高校~専門学校一貫の教育プログラムを開発するモデルを構築(※令和3年度新規メニュー)
四つめの「専門学校と高等学校の有機的連携プログラムの開発・実証」事業は2021年(令和3年)度の新規メニューです。
高校との連携にはすでに多くの専門学校が取り組んでおられますが、出前授業や職業体験等にとどまらず、共通の目標設定・一貫したカリキュラムの構築など、出口(就職等)までを見据えたさらなる連携を進めようというものです。
具体的には、①高校・専門学校・行政・企業が協働して高校・専門学校接続モデルを構築すること、②分野横断連絡調整会議を設置して各取組の進捗管理・連絡調整や成果のまとめを行うことが挙げられています。
また、高校時点から専門的な学習を行うことで将来像のイメージを持ち、明確な目的意識を持って専門学校へ入学する学生が増えることで、中途退学者が減少することなども期待されています。
▼2020年(令和2年)度の採択一覧はこちら。
R2年度「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」採択一覧
https://www.mext.go.jp/content/20200914-mxt_syougai_000007044_01.pdf
【渡日できない留学生を支援!】専修学校留学生の学びの支援推進事業
2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大により、留学生と受入校は多大な影響を受けましたね。
文部科学省の予算案資料に引用されている全国専修学校各種学校総連合会によるデータでは、令和2年度の日本語教育機関の入学者数は前年度比47.6%とのこと。
半数以下まで減ってしまったのですね。
そのような状況を受け、「専修学校留学生の学びの支援推進事業」では入国できない留学予定者や一時帰国中の留学生を支援します。
具体的には、①母国にいる留学生に遠隔で教育を提供するためのコンテンツの開発や学習サポート体制(オンライン面談、留学生同士の交流など)の構築、および現地の教育機関での学修の評価、来日後の残りの学習、就職支援までを「トータルパッケージで」支援するモデルを構築すること、②分野横断連絡調整会議を設置して各取組の進捗管理・連絡調整や成果のまとめを行うこと、③留学動向やその後の就職状況について全国的な調査・分析を実施して①②の取り組みに反映させることが挙げられています。
【社会人向けリカレント教育のモデル形成&普及!】専修学校リカレント教育総合推進プロジェクト
人生100年時代、個々のライフスタイルに合わせてキャリアを選択することの重要性が増す中、社会人が新たな能力・スキルを獲得するための学びの機会の拡充が求められています。
また、特に「就職氷河期世代」への支援、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて新たな学びが必要となった方への支援として、アクセスしやすく効果の高いリカレント教育の確立が重要となっています。
専門学校でのリカレント教育の実践モデルの開発・普及への取り組みが「専修学校リカレント教育総合推進プロジェクト」です。
具体的には、①専門学校と企業等が分野を超えて共同体制を構築し、異分野の知見で既存分野に付加価値を創出できる人材を育成する「分野横断型リカレント教育プログラムの開発」、②専門学校・企業・行政が連携し、企業のニーズに合わせて既存の教育課程をカスタマイズすることで就職氷河期世代の非正規雇用者等に受けやすく即効性のある短期リカレントプログラムを提供する「産学連携によるリスタートプログラムの開発・実証」、③リカレント教育に取り組む必要性があるものの正規過程以外に割ける教育リソースがないという学校でも取り組める持続可能なリカレント教育運営モデルを整理・検証する「リカレント教育実施運営モデルの検証」が挙げられています。
▼2020年(令和2年)度の採択一覧はこちら。
R2年度「専修学校リカレント教育総合推進プロジェクト」採択一覧
https://www.mext.go.jp/content/20200903-mxt_syogai01-000007019_1.pdf
専修学校教育の振興に資する取組――質保証・向上

「専修学校教育の振興に資する取組」の「質保証・向上」に含まれる事業は以下のとおりです。
- 職業実践専門課程等を通じた専修学校の質保証・向上の推進
- 専修学校と地域の連携深化による職業教育魅力発信力強化事業
- 専門学校生への効果的な経済的支援の在り方に関する実証研究事業
【先生のスキルアップ&職業実践専門課程をさらに充実!】職業実践専門課程等を通じた専修学校の質保証・向上の推進
「職業実践専門課程等を通じた専修学校の質保証・向上の推進」事業は、教職員の資質能力の向上と、職業実践専門課程を軸とした学校の質保証・向上を推進します。
具体的には以下の四つの取り組みが挙げられています。
①調査研究協力者会議等の開催…質保証向上推進の司令塔となる「専修学校の質保証・向上に関する調査研究協力者会議」および都道府県等との研究協議である「専修学校教育研究協議会」を直轄事業として開催
②専修学校の教学マネジメントの強化…教育課程編成~シラバス作成~履修指導・成績評価基準の運用~学修時間の確保~学修成果の把握まで、教育の質を高める取組等の状況についての実態調査&好事例・手引の作成・改訂やセミナーを実施
③教職員の資質能力向上の推進…各地域での教育成果の公開方法等の研修を実施する体制づくりを推進する「効果的な教育成果の公開方法等に関する支援体制づくりの推進」および教職員の指導力・マネジメント力等を向上させる研修プログラムの開発・成果普及を行う「教職員研修プログラムの構築」を実施
④職業実践専門課程等の充実に向けた取組の推進…職業実践専門課程による取り組みの質向上や普及に向けたモデルの開発を行う「社会的評価の一層の向上のための共通的基盤整備の推進」および職業実践専門課程に関する実態を調査(+比較のために非認定の専門課程や高等課程等も調査)する「質保証・向上のための実態調査」を行う
▼2020年(令和2年)度の事業実施一覧はこちら。
「職業実践専門課程等を通じた専修学校の質保証・向上の推進」事業実施一覧(令和2年度)
https://www.mext.go.jp/content/20200909-mxt_syogai01-000009841_4.pdf
【脱・大学進学一辺倒!職業教育の魅力を発信】専修学校と地域の連携深化による職業教育魅力発信力強化事業
「大学志向」の風潮の中、アカデミックな教育よりも職業技能教育に適性のある生徒まで大学を選んだり、大学に入ったものの職業意識・職業的自立に必要な能力が不十分なまま卒業して職業・社会とのミスマッチが生じてしまったりということが起きています。
この状況を克服するため、職業教育の魅力を発信していこうというのが「専修学校と地域の連携深化による職業教育魅力発信力強化事業」です。
具体的には、①中学・高校や企業等のステークホルダーを意識した効果的な情報発信を考える「社会のニーズに応える効果的な情報発信の推進」、②職業体験講座や出前授業の効果・留意点をステークホルダーごと・地域特性ごとに整理する「専修学校と各地域の連携による「職業体感型教育」等の効果検証」の取り組みが挙げられています。
▼2020年(令和2年)度の採択一覧はこちら。
R2年度「専修学校と地域の連携深化による職業教育魅力発信力強化事業」採択一覧
https://www.mext.go.jp/content/20200929-mxt_syougai01_03.pdf
【経済的困難な学生を支援する効果的な方法を探る!】専門学校生への効果的な経済的支援の在り方に関する実証研究事業
意欲・能力のある専門学校生が経済的な理由によって就学を断念することがないよう、経済的支援と修学支援を行い、その効果を分析・検証して普及する事業です。
平成27年度から継続している事業ですが、前年度予算が3,400万円のところ、2021年(令和3年)度の予算案では2億1,700万円に増額しています。
専修学校の教育体制及び施設整備等に関する取組

学校施設・設備の整備などを補助する取り組みで、「私立学校施設整備費補助金」と「私立大学等研究施設整備費等補助金」があります。
私立学校施設整備費補助金
教育装置・耐震化・アスベスト対策等にかかる経費のほか、新型コロナウイルス感染症対策のための空調・換気設備、トイレ改修等にかかる経費を補助する補助金です。
私立大学等研究施設整備費等補助金
新型コロナウイルス感染症等への対策を講じながら授業を実施するために必要なIT関係設備の整備にかかる経費を補助する補助金です。
専修学校への修学支援に資する取組

こちらは文部科学省ではなく内閣府の計上する予算です。
高等教育の修学支援の着実な実施(内閣府計上)
低所得世帯の子供に対する高等教育の負担軽減の実施にかかる経費です。
その他関係予算

ほかに以下の予算があります。
- 高等学校等修学支援金交付金(私立高等学校授業料の実質無償化)
- 高校生等奨学給付金
- 日本学生支援機構の奨学金事業
- 国費外国人留学生制度
まとめ
2020年の新型コロナウイルス感染症の影響は社会全体に及び、教育を取り巻く環境も激変しました。
結果として遠隔授業などICTの活用が急速に進んだ面もありますが、2021年はその質を高めたり、変化した社会で求められる技能を見直したり、困難な状況に置かれる学生の学習継続を支えたりしていかなくてはなりませんね。
次々に状況が変化していくことが想定されますが、行政の取り組みや支援などにもアンテナを張りながら苦境を乗り越えていきましょう。
私どもも先生方のお役に立ちそうな情報を発信していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
文部科学省も、YouTube動画などで最新動向を発信しています。文書よりもとっつきやすいかもしれませんね。
ぜひチェックしてみてください。
[YouTube動画]令和3年度予算案をはじめとする専修学校関係の最新の動向について (文部科学省 専修学校教育振興室)
https://youtu.be/Vhu9evva7r8
[↑動画の資料]<資料> 令和3年度予算案をはじめとする専修学校関係の最新の動向について (PDF:2,800KB)
https://www.mext.go.jp/content/20210114-mxt_syogai01-100003309.pdf
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