
口をつけたペットボトルの中では、飲んだ直後から細菌が増え始めます。それでも、朝に一口飲んだきり夕方まで机の上に置いたままにしてしまう日もあるのではないでしょうか。職員室でも、よく見かける光景です。
では、何時間後までなら飲んでも差し支えないのでしょうか。実のところ、その公的な目安は存在しません。一方でメーカー各社はそれぞれ独自の目安を示しており、「8時間以内」から「その日のうち」まで幅があります。その理由を見ていきましょう。
目次
メーカー4社の目安は「8時間」から「その日のうち」まで幅がある
ペットボトルに直接口をつけて飲むと、飲み物の中に唾液が混ざります。唾液には様々な細菌が含まれているため、残った飲み物は時間の経過とともに菌が増える可能性があります。大手飲料メーカー4社が公式サイトで公表している、開栓後の飲み切りの目安を並べてみましょう。
| 伊藤園 | 冷蔵庫で保管したうえで開封後8時間が目安。口をつけない場合は無糖茶飲料・青汁飲料・水が2〜3日以内、野菜飲料・果汁飲料が3〜4日以内 |
| キリンビバレッジ | その日のうちに。口をつけない場合はキャップを閉めて冷蔵庫で2〜3日 |
| 日本コカ・コーラ | 280mLや500mLの小型ボトルは開栓後すぐに。大型ボトルも口をつけたらその日のうちに |
| アサヒ飲料 | その日のうちに(口をつけた場合・水筒など他の容器に詰め替えた場合・常温保管の場合)。飲む分だけコップに取り分けて冷蔵保管した場合は2〜3日 |
注意したいのは500mLに「数日」という目安がないこと
口をつけなければ日持ちする、と考えている方は多いのではないでしょうか。ところが日本コカ・コーラの場合、2〜3日という目安は1L・1.5L・2Lなどの大型ボトルに限られます。280mLや500mLの小型ボトルは「開栓後はすぐに」と案内されています。もっとも手に取りやすい500mLに、「数日」という目安は存在しません。アサヒ飲料が常温保管の場合を「その日のうちに」としているように、数日以内という目安はいずれも冷蔵保管を前提としています。
公的機関は「何時間なら大丈夫という目安はない」と明言している
内閣府食品安全委員会は、飲み残しのペットボトルについて次のように述べています。
飲料の種類、口内細菌の状態、保管の状況が千差万別なので、何時間以内なら大丈夫という目安はありません。
内閣府食品安全委員会「生活の中の食品安全−ペットボトル、飲み残しに気をつけよう−その2」
自治体の見解も同じです。福岡市保健環境研究所は「『口を付けた後、何時間は大丈夫』と明確なものはありませんが、心掛けが大事です」と説明しています。メーカーが示す「8時間」や「その日のうち」という目安は、公的機関が定めた安全基準ではありません。
実験では2時間で数え切れないほど増えた
実際に経過時間ごとの菌数を測った研究もあります。吉井美穂氏らが日本看護研究学会雑誌に発表した研究では、常温25℃で保存した場合飲み物によって細菌の増え方に違いが見られました。
- 茶:飲用直後はほとんど検出されなかったものの、2時間後には80CFU/mL(1mLあたりの生菌数を示す単位) となり、24時間後以降は菌の集まりである 「コロニー」を数えられないほど増加
- ミネラルウォーター:直後78CFU/mL、10時間後93CFU/mLと大きな変化はなかったものの、24時間後には255CFU/mL、72時間後には424CFU/mLまで増加
この研究は、室温で保存した茶とミネラルウォーターの細菌について、「急速に増殖するため、2時間以内に飲みきることが望ましい」と述べています。食品安全委員会も、緑茶飲料を開封して口をつけたあと2時間常温で保存すると細菌数が計数不能まで増えた事例を紹介しています。
口をつけた直後にすでに基準を超えている
時間が経過する前から注意したいことがあります。和歌山県立医科大学保健看護学部の森岡郁晴氏らが日本衛生学雑誌に発表した調査では、口をつけて飲んだあとにボトルへ残った飲料の細菌数について「最も少ないときでも、飲料水の水質基準を超えていた」と報告されています。
唾液1mLに含まれる細菌の数は、資料によって幅があります。名古屋市立大学の資料は『標準微生物学』(医学書院)を引用して10億個から100億個、森岡氏らの論文は1000万個から100億個としています。下限には差がありますが、非常に多くの細菌が含まれていることは共通しています。それが一口ごとにボトルへ入っていきます。
冷蔵庫に入れても賞味期限まではもたない
ここでよくある誤解を2つ見ておきましょう。
【誤解1】冷蔵庫に入れれば大丈夫
食品安全委員会は冷蔵したものについて「細菌数が少ないだけであり、細菌が増殖しないわけではありません」と説明しています。名古屋市立大学の看護研究も「冷所(5℃)保存していても、24時間後には衛生的ではない」とまとめています。
【誤解2】賞味期限まではもつ
消費者庁食品表示課は「期限表示は、開封前の状態で定められた保存方法により保存した場合の期限」(共通Q&A(第2集)Q24-2)と説明しています。つまり、印字された賞味期限は、開栓後の飲み残しに適用されるものではありません。
コップに注いでも、安心とは言い切れません。食品安全委員会は「口をつけずにコップに注いで再度栓をした場合も、細菌などが入ってしまう」と説明しています。また、空気中に浮遊している細菌が、一度開封したペットボトルに入って増殖することもあるとしています。
口をつけない飲み方は、菌をゼロにする方法ではなく、増え方を緩やかにする方法だと考えておきましょう。
菌が増えやすい飲み物・増えにくい飲み物5種類

口をつけたあとに菌が増えるかどうかは、中身によって大きく変わります。宇都宮市衛生環境試験所が、5種類の飲料を半分ほど飲んで残りを30℃(夏場の室内を想定)に保ち、菌数の変化を測定した結果を公表しています。
| 飲料 | 飲用直後 | 24時間後 | 48時間後 |
|---|---|---|---|
| ミルクコーヒー | 約1,000個 | 約1,000万個 | 3億個以上 |
| 麦茶 | 約2,900個 | 約9,000個 | 3万個超 |
| 緑茶 | 約1,700個 | 直後の10分の1以下 | 約100個 |
| スポーツ飲料 | 約100個 | ほぼ0個 | ほぼ0個 |
| オレンジジュース | 約100個 | ほぼ0個 | ほぼ0個 |
数値はいずれも1mLあたりの菌数です。
増えやすいのはミルクコーヒーと麦茶
もっとも増えたミルクコーヒーの細菌数は、48時間後に3億個以上へ達しました。宇都宮市は、その理由を糖分やタンパク質が細菌の栄養になるためと説明しています。2番目に増えた麦茶についても、原料である大麦の炭水化物が栄養源になると解説されています。
酸性の飲み物では増えにくい
逆に、スポーツ飲料とオレンジジュースはpH3.5程度の強い酸性で、菌が増えにくい環境にあります。宇都宮市は「一般的に細菌の多くは、pHが4.6より小さい酸性の状態では増殖が抑えられると言われている」と説明しています。
この2つは「3時間後にはほぼ0個になり、以降増えることはありませんでした」と記録されており、表の24時間後・48時間後はその状態が続いた結果です。細菌を人工的に加えた実験でも、pH4.5以下の酸性飲料では細菌が死滅したと報告されています(日本家政学会大会・片平理子氏、別府道子氏「ペットボトル飲料の衛生について」)。
ただし、酸性なら大丈夫というわけでもありません。宇都宮市は「上記3種と似た種類の飲料であっても、必ずしも細菌が増えにくいものばかりとは限りません」と付け加えています。食品安全委員会も「酸性に強い細菌もいるので、酸性飲料だから大丈夫とは言えません」との見解です。
緑茶は公的機関のあいだで見解が割れている
緑茶については、見解が真っ二つに分かれています。
- 宇都宮市衛生環境試験所:直後の約1,700個から48時間後には約100個へ減少。カテキンという増殖を抑制する成分の働きによるものと推測
- 内閣府食品安全委員会:「カテキンが殺菌作用を発揮して、開封後のペットボトル飲料の細菌などの増殖を防ぐ効果はあまり見込めないでしょう」
前述の吉井氏らの実験でも、茶を常温25℃で保存した場合は2時間後に80CFU/mL、24時間後以降は数えられない状態まで増えました。
保存温度や条件が変われば結果も変わるため、緑茶だから安心とは言えません。
今日からできる4つの対策
自治体が公表している対策と、研究結果から見えてきた飲み方の工夫は次の4点に絞られます。あわせて、学生への指導に活かせる視点も最後に紹介します。
- コップに注いで、その場で飲み切る
- 飲み切れるサイズを選ぶ
- 飲み口を深くくわえない
- 見た目やにおいで判断しない
それぞれ、根拠となる資料とあわせて見ていきましょう。
1. コップに注いで、その場で飲み切る
宇都宮市衛生環境試験所と福岡市保健環境研究所が、表現は違えど同じ3点を挙げています。『コップに注ぐ、その場で飲み切る、残ったら冷蔵庫に入れる』。食品安全委員会は「できるだけ、一度で飲み切ってください。何度かに分けて飲む場合は、コップに注いで飲むよう」と促しています。会議や研修で長時間ボトルを手元に置く場面では、紙コップを1つ用意しておくと、口をつけずに飲むことができます。
2. 飲み切れるサイズを選ぶ
容量の選び方も対策になります。名古屋市立大学の看護研究は280mLや350mLなど小さい容量のペットボトルを選択すべきと提案しています。福岡市保健環境研究所も「短時間で飲み切れる、小さめのサイズを選ぶ」を対策に挙げています。500mLを1本買って半分残すのではなく、飲み切れる量を選びましょう。
3. 飲み口を深くくわえない
飲み方そのものでも差が出ます。森岡氏らの調査では、飲み口をすべてくわえて水を飲んだ場合と、上唇を当てて飲んだ場合とで、ボトルに残った水の細菌数に差が出ました。
- 飲み口をすべてくわえた場合:飲用直後で10平方センチメートルあたり53.6個、2時間後に76.2個でピーク
- 上唇を当てて飲んだ場合:直後で15.5個と有意に少ない
この数値は残った飲料を培地に採取して数えたもので、他の研究の1mLあたりCFUとは測り方が違います。被験者も5名で、論文自身が「実験数は5回であり、十分とは言えない」と限界に触れていますが、道具も費用もかからない工夫です。
4. 見た目やにおいで判断しない
食品安全委員会は「見た目やにおいに変化がなくても、細菌などが増殖している可能性があることは知っておいてください」と注意を促しています。そのため、見た目やにおいだけで安全かどうかを判断することはできません。
その先にはペットボトルが破裂する危険もあります。食品安全委員会によると、飲み残しのペットボトルが破裂するのは、口から飲料中に入った微生物(特に酵母)が増殖するためです。それが作る二酸化炭素で内部の圧力が上がり、破裂につながります。実際に、骨折や眼の損傷などの重いけがにつながった事例も報告されています。
気温が30℃前後になると微生物が繁殖しやすくなり、福岡市保健環境研究所は暑い夏の時期はより一層の注意が必要だとしています。
学生指導では「知識」より「行動」を埋める
森岡氏らが看護系大学生324名に配布し279名から回答を得たアンケート(回収率86.1%)に、指導のヒントがあります。
- ペットボトルを持ち歩く人:63.1%
- 飲み干すまで12時間以上かかる人:37.9%
- 推奨される2時間以内に飲み切れている人:1.1%
- 汚染を意識している人:62.7%
- 実際に時間や飲み方を工夫している人:15.9%(持ち歩く176名のうち28名)
この結果から、知識と行動のあいだには大きな差があることがわかります。指導において重要なのは、知らないことを教えるだけでなく、すでに知っていることを実際の行動につなげるための具体的な方法を伝えることではないでしょうか。
まとめ
飲みかけのペットボトルに「何時間までなら安全」という公的な目安はありません。押さえておきたいのは次の3点です。
- メーカーの目安も直接口をつけた場合で8時間からその日のうちと幅があり、500mLには口をつけない場合でも数日という目安がない
- 細菌の増え方は中身により異なる(ミルクコーヒーや麦茶は30℃で48時間置くと大幅に増える)
- 『コップに注ぐ・飲み切れるサイズを選ぶ・残ったら冷蔵庫へ入れて早めに飲む』を心がける
見た目やにおいでは判断できないという前提も、学生と共有しておきたい点です。暑い時期の水分補給は欠かせないからこそ、知識として目安を知っておくことは大切ですね。
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宇井 馴次 (うい なれじ)
ウイナレッジ編集部所属のバーチャルヒューマン。
専門学校の先生方の多忙な日常を、お役立ち情報で支える探求者。
私生活では、予測不能な動きを見せる双子の娘に翻弄されるパパ。プロレス観戦でエネルギーをチャージし、毎週金曜日は自分へのご褒美として、スタバのベンティサイズ・フラペチーノを嗜むのがルーティン。
「先生の笑顔が、学生の未来を作る」をモットーに、役立つ情報を発信中。









