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TOP特集インタビュー通信制高校の在学者数が過去最高に。今、専門学校に求められるものは?

通信制高校の在学者数が過去最高に。今、専門学校に求められるものは?

お話を伺ったのは▼

NPO法人キャリアbase 理事長/for next株式会社 代表取締役

草場勇介さん

「for next株式会社」代表取締役として、2012年に小中高生向け個別学習指導塾「正学館北柏校」を千葉県柏市に開設。2021年には“アソビとマナビで探究する次世代型教室”として「zunŌw STEAM教育研究所」を開校し、STEAM教育の実践の場を創る。2021年11月、NPO法人「キャリアbase」を設立。これまでに通信制高校を中心に延べ246校、28,000名を超える生徒・教職員へ向け、キャリア教育や進路・就職に関する授業を行っている。

2024年度に通信制高校へ通う生徒数が29万人を超え、高校生の約10人に1人が通信制へ通う時代となりました※。

※参考:文部科学省「令和6年度学校基本調査

また、通信制高校を卒業した後の進路状況として、大学よりも専門学校へ進学する人数が多くなっています。そういった状況の中、専門学校に求められることとはどんなことでしょうか?

通信制高校に通う高校生を中心に、キャリア教育・就労支援を行っているNPO法人「キャリアbase」の代表・草場さんに、通信制高校を選ぶ生徒の特徴や、専門学校の先生に必要な考え方、求められる取り組みについて、考えをお伺いしました。

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支援が必要な高校生の進路選択をサポート

――まずは「キャリアbase」様の事業内容や取り組みについて教えてください。

草場さん:「高校生の進路未決定のままの卒業を一人でも減らす」というミッションのもと、高校生に対する「キャリア教育」、ハンディキャップを抱える子たちを対象にした「個別就労支援」、さらに「居場所作り」を軸に活動しています。

「キャリア教育」に関しては、通信制高校に通う高校生を中心に、年間およそ1万人に対して実施しています。「個別就労支援」では、昨年度160名を超える高校生に伴走して、就労や進学に向けたサポートをしてきました。「居場所作り」は、我々の拠点である千葉県柏市に開設している居場所「ふらっぽ北柏」に加え、キャリアbaseのキャリアコンサルタントが直接キャンパスへ出向き、いつでも生徒が自分の進路について相談ができる「校内キャリアサロン」という場の提供も開始しました。生徒には「進路全般の相談で大丈夫だよ」と言っていますが、学校側から「就労支援団体」と見ていただいているので、やはり就職を考えている生徒の相談が多いですね。進学の相談もときどき受けています。

――高校生へのキャリア教育を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

私は以前代表をしていた会社で、「ビジネス」として高校生の就活をサポートする、いわゆる高校生版の「リクナビ」「マイナビ」のような事業を展開していました。ビジネスですので、企業からお金をいただいて、我々が採用のお手伝いをする形だったんですが、特に通信制高校において就職活動でサポートを必要とする子が多いという課題に気付きました。全日制の工業高校や商業高校で就職を希望する生徒の場合は、学校のサポートだけで十分に就職できることが多いと思います。ですが、通信制高校では、対人関係が苦手だったり、不登校経験があったり、家庭に事情を抱えているような生徒の割合が多く、社会福祉的な観点で、一人ひとりに寄り添った支援をする必要があると感じました。「ビジネスとして、企業の採用成功のために就職支援をするのではなく、高校生の自立を最大の目的とし、彼らに100%寄り添って支援をする必要がある。そのためにはNPOとして社会資源を活用しながら行うべきだ」と考え、2021年11月にNPO法人「キャリアbase」を設立しました。

増え続ける不登校経験者の受け皿に。能動的に選択するケースも

――近年、通信制高校へ進学する生徒が増えている理由について、お考えを教えてください。

草場さん:従来ですと、一度全日制高校へ進学したものの不登校になってしまい、出席日数が足りない、進級できない、居場所がないなどの理由から、通信制高校へ転入してくる割合が高い傾向にありました。そういった生徒は今も多いのですが、近年は、小学校・中学校時代に不登校を経験した子が中学3年生になり、「進学先として最初から通信制高校を選ぶ」ことが増えていると感じます。現在、小学校・中学校の不登校児童数は11年連続で増加し、最新データでは34万人を超えました。通信制高校は、そういった子たちの受け皿になっているのだと思います。

※参考:文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」

一方で、「目的を持って通信制高校を選択している子が増えたな」という印象もあります。「こういうことがしたいから、自分に合っているのは通信制だ」と、あくまで能動的に通信制を選択しているんです。その最も象徴的な学校がN高グループさんかと思います。「この環境で勉強がしたいから」「芸能活動やスポーツを中心に頑張りたいから」というように、自分のやりたいことをするために、「あえて通信制」という選択もあるようです。

――受動的な理由と能動的な理由の二極化の傾向が見られるんですね。では、通信制高校へ通う生徒に、近年多く見られる特徴などはありますか?

草場さん:ネガティブな面とポジティブな面、両方あるのですが、ネガティブな面としては学力についてですかね。やはり、小学校・中学校で不登校を経験している子が多いので、学び直しを必要とする場合が多いです。例えば中学校2年間の勉強がまるっと抜けてしまっていて、高校のカリキュラムをすぐに始められない…といったケースもありますね。

ポジティブな面としては、これまで不登校で学校生活を満喫できなかったけど、通信制高校では徐々にスクーリングを通して人間関係を構築できて、学校生活を思い切り楽しめているという子が多いことです。通信制高校でも積極的に行事やイベントを行っている学校って多いんですよ。「青春を取り戻せ!」と言って、企画運営側に回って学校を盛り上げてくれるような子が増えているなと感じます。

特色を打ち出す一方、先生の負担が増加

――通信制高校自体も増えていますが、課題はありますか?

草場さん:いろいろな側面で課題は山積していると思います。近年爆発的に学校数が増えているため、生徒の取り合い状態になっていますね。だからこそ、しっかりと特色を出してらっしゃる学校が多いと思います。ただ、手厚い支援をキャンパス単位でやるのが難しいという現状もあります。一人の先生にかかる負荷がかなり大きい。これは全日制の高校でも同様ですが、例えばみんなが大学進学を目指す学校の場合、授業も受験対策が中心になるので指導がスムーズかと思います。これが大学に行く生徒、専門学校に行く生徒、就職する生徒…とさまざまに分かれる場合、キャリア教育ってどんどん難しくなっていくんですよね。通信制高校は、そういった現場がほとんど。さらに、今年は就職の生徒が多い、次の年は進学の生徒が多い…と毎年特色が違うこともあって、ノウハウをためるにしても人的リソースの問題は大きいですよね。今後は学校内だけで補うのではなく、外部からのサポートも重要になってくるんじゃないかなと思います。

将来に直結する専門学校を選択

――通信制高校卒業後の進路として多いのが「専門学校」となっていますが、その理由についてお考えを教えてください。

草場さん:通信制高校は、比較的自由な時間を多く取れます。そのため、高校生のうちから長時間アルバイトをしている生徒も多いです。そういった環境で進路を決める際、大学でまた全般的なことを学ぶより、将来に直結した専門的なことを学べる場に進みたいと考えるのかなと。「将来これをしたい」「資格を取りたい」などハッキリした目的を持って、専門学校を選んでいるんじゃないかなと思いますね。

「基礎学力」と「コミュニケーション」に配慮が必要

――将来を考えて専門学校へ進学するケースが多いのかもしれませんね。では、通信制高校出身者が専門学校へ入学した際、心配されることはありますか?

草場さん:大きくは「学力面」と「人間関係の構築」ですね。

先ほど申し上げたように、不登校経験から学力面の空白期間が長い子もいます。また、通信制高校は単位制なので、学んでいない科目が生じることもあります。そのあたりに対する配慮は必要かなと。最近大学では、キャンパス内に学習支援のコーディネーターのようないつでも相談できる機関を設け、授業とは別に学習支援をする場合もあるんですが、そういう取り組みはすごくいいなと個人的に思っています。

人間関係でいうと、ネガティブな体験を持っているケースが多いので、やはりコミュニケーションが苦手という傾向があると思います。特に入学直後は、いろんな形で打ち解けられるような配慮をしていただけるとありがたいです。

「頑張った結果、今がある」背景を想像してもらえたら…

――通信制高校出身の学生に対して、専門学校の先生に求める接し方があれば教えてください。

草場さん:ケースバイケースなので一概には言えませんが、学生の事情や背景を想像していただきたいというのはありまして。学生に対して、「みんなやっているんだから、もっと頑張りなさい」となるのも仕方ないんですが、ただ、いろんなことを乗り越えて専門学校入学まで辿り着いている子が多いんですよ。なかには「その状況下でよく踏ん張ってこられたね」という子もいて…。学校でのつらい経験だけでなく、家族を亡くした経験、両親の離別離婚、ヤングケアラー、家計を支えるくらいアルバイトしているなど…。「この状況をなんとかしなきゃ」と通信制高校に進学して、前へ進んでいる。社会の一般的なレールとは違うかもしれないけど、自分なりの努力をしてきた子が多い。通信制ってサボろうと思ったら結構サボれちゃうんですよね。卒業するには、自分でペース配分して勉強を進めなくてはいけない。さまざまな背景を持ちながらも、自分なりにそれを乗り越えて頑張ってきた結果、専門学校に進学してきてくれたんだと、これまでの背景や努力も想像していただけるとうれしいです。

――専門学校全体としては、どういった取り組みが求められるでしょうか。

草場さん:「民間や地域社会に開かれた学校」を目指してもらえるといいのではないかと思っています。我々はよく「寄ってたかってキャリア教育」と言っているんですが、大人1人だけで学生を支援するのって難しいですよね。いろんな立場の大人が関わることで、そういった学生をサポートできると思うんです。最近実感しているのは、「キャリアコンサルタント」の資格を取得して、学生世代のキャリア支援をしたいという方が本当にたくさんいらっしゃるなと。そういった外部の力も積極的に活用していただきたいと思います。

また、就職においても同じなのですが、例えば社会人からするとスタンダードな「9時から18時までの週5日勤務」。もうそれを聞くだけでかなりのプレッシャーなんですよね。もともと毎日学校へ行ってなかった子が多いので、専門学生になったからといって急にできるようになるかというと、肉体的にも精神的にも難しい。専門学校もカリキュラムがしっかりしている分、入学した直後のハードルが高いのではないかと少し心配はあります。取り組みをされている学校も多いと思いますが、いきなりの環境の変化につらくなってしまう学生も、やはりいるのではないかと。

そういったことへのサポートとして、我々が高校生の就職において積極的にお願いしているのが「ステップアップ採用枠」というもの。企業の人事の方と学校の先生に協力いただいて、正社員求人ではない別の求人を企業に作っていただくんです。例えば「最初は週2~3回、時短という形でスタートさせてください」というように。昨年から試験的に始めまして、まだ十数人ほどの実績なんですが、この形で入った子はまだ誰も辞めていないんですよ。

やはり今の高校生の実態を考えると「入り口の柔軟性」が重要だと感じています。彼らも意欲は持っているんです。それを尊重したペースで進めると、就職では「半年後から少しずつペースを上げていこう」とか「週2だったのを、週3、週4に増やしていこう」となるケースが多いですね。

少しずつステップアップできるような仕組みを

――通信制高校へ進学する生徒は今後も増えていくと考えられます。社会全体で必要な取り組みや考え方について教えてください。

草場さん:1つは先ほどの「寄ってたかってキャリア教育」のように、いろんな経験を持ったたくさんの大人が、彼らの世代に接するってすごく大事だなと。学校は開かれた場所であってほしいですし、逆にその開かれた学校に対して、地域や社会の方から積極的に関わっていくことが重要だと思いますね。

2つ目は、「ステップアップ採用枠」の考え方と重なるんですが、次のステップの「入り口の柔軟性」がもっと広まってほしいと思っています。近年、通信制大学が通信制高校出身者の新たな受け皿になりつつあります。それはやはり、彼らに対して配慮された「入り口の柔軟な設計」があるからではないでしょうか。就職において企業の皆さんへはお願いしている部分ではあるんですが、ぜひ高等教育機関の皆さんにも考えてもらえたらうれしいですね。彼らからすると、2年3年で必ず卒業するというだけでなくて、自分のペースに合わせて、「もう少し年数をかけてもいいからその資格を取りたい」という要望もあるかもしれません。これは制度から変えなくてはいけないことかもしれませんが、今後何かしらの対策をお願いできるとありがたいです。

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