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TOP特集インタビュー専門学校教育の新しいアプローチ!穴吹学園が力を入れる「非認知能力の育成」

専門学校教育の新しいアプローチ!穴吹学園が力を入れる「非認知能力の育成」

お話を伺ったのは▼

学校法人 穴吹学園
専門学校穴吹リハビリテーションカレッジ
作業療法学科 非認知能力育成 主担当

馬場広志さん

「穴吹リハビリテーションカレッジ」を卒業後、作業療法士として経験を積む。2019年より母校で教員として勤務。現在は1年生の担任を務めながら、非認知能力育成の主担当としてさまざまな施策に取り組んでいる。

学力のように数値で測れる「認知能力」とは違い、意欲や協調性、自制心などの数値化できない能力は「非認知能力」と呼ばれ、近年注目を集めています。

幼児教育の質的向上及び小学校教育との円滑な接続を目指す、文部科学省の「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」において、非認知能力は以下のように記されています。

非認知能力とは、主に意欲・意志・情動・社会性に関わる3つの要素((1)自分の目標を目指して粘り強く取り組む、(2)そのためにやり方を調整し工夫する、(3)友達と同じ目標に向けて協力し合う)からなる。特に幼児期(満4歳から5歳)に顕著な発達が見られ、学童期・思春期の発達を経て、大人に近づく。

※参考:文部科学省「中央教育審議会 初等中等教育分科会 幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会―第2回会議までの主な意見等の整理―

ただし、児童期~青年期においても非認知能力を高める取り組みは可能とも考えられています。

今回は、2022年から学園全体で学生の非認知能力の育成に取り組んでいる「専門学校穴吹リハビリテーションカレッジ」の馬場先生に、その取り組み内容や感じられる効果についてお話を伺いました。

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自信を持って社会で活躍できる人材育成を目指して

――非認知能力の育成に力を入れ始めた背景を教えてください。

馬場先生:2022年に穴吹学園内の各専門学校から代表者を集めた「非認知能力研究会」が発足しました。これをきっかけに、各学校で非認知能力の育成に関する取り組みがスタートしました。私自身、教員になってから3年ほどのタイミングだったので、自分の研鑽も含めて非認知能力の理解を深めたいと思い、代表者に立候補しました。

専門学校として、知識や技術の習得は当然の使命ですが、それだけでは臨床現場で求められる「人と関わる力」や「主体的に学び続ける姿勢」は十分に育ちません。

また、本校には学力面において自信のない学生も少なくありません。そうした学生が将来社会に出て、自信を持って活躍できるようになるためには、知識・技能とともに、「自己理解」「共感」「粘り強さ」といった非認知的な力の育成が不可欠です。

これらの思いが、本校の「人間的成長を支援する教育」の原動力となっており、非認知能力の育成に力を入れる理由となっています。

目指す職業に必要な非認知能力キーワードに着目

――貴校ではどのように「非認知能力の育成」に取り組んでいらっしゃいますか。

馬場先生:取り組みを開始した当初は、穴吹学園全体で掲げた15項目の「非認知能力キーワード」をもとに、Googleフォームを活用したリフレクションシートを用意し、学生自身に行動を振り返ってもらい、4段階評価をつけてもらう方法を実施しました。4段階でチェックするだけなので、学生にとって負担が少ない反面、適当になってしまう懸念もありましたが、まずは「非認知能力に関するキーワードを学生に目にしてもらうこと」を目的にスタートしました。

最初は徳島、広島、福山、本校が所属する高松の専門学校がいずれも同じ方法を用いていましたが、「学校ごとに必要な資質や学生の傾向、目指す職種が異なるのだから、着目すべき非認知能力も異なる」という認識が生まれて、学校ごとに内容を変えていきました。現在本校では、3つの方法を中心に進めています。

1つ目は、本校が独自で着目している非認知能力キーワード6つをピックアップしたリフレクションシートを毎月紙で配布し、学生に4段階で評価してもらう方法です。同時にGoogleフォームにコメントも入力してもらっています。4段階評価は紙で残すことで学生が振り返りやすくなるように、コメントはフォーム入力の方が学生が入力しやすいだろうということで、あえて分けて活用しています。

非認知能力キーワードは、学生にも一目でわかるように簡略化していますが、今後は理学療法士・作業療法士にとって、実際にどんな場面で影響するキーワードなのかがわかるように、もっと具体性を持たせたものに変えていこうと考えています。

また、これらの結果を半期ごとに集計・分析して、始業式などで全学生に共有しています。全体としてどういう傾向があるのか、特にプラスの面をフィードバックすることで、一人ひとりが次の学期への課題意識を持てるように働きかけています。

2つ目は、「今月の行動指針」として、「自分から挨拶する」「計画的に勉強する」といった非認知能力に基づく具体的な目標を毎月設定し、全学生が共通して意識できるようにしていることです。下駄箱や教室にポスターを貼り、学生へのメッセージツールでも発信することで、常に目標が目に入る環境を作っています。

3つ目は最近スタートしたのですが、自分が目標とする非認知能力キーワードを付箋に書いて名札に貼り、教員や学生同士で日常的に声をかけ合うというもの。私のクラスでは、どうしてそのキーワードを書いたのか全員に発表してもらっているのですが、それもとてもいい時間になっています。ゆくゆくは、付箋にもっと具体的な目標を書いてもらい、達成度を振り返る形に持っていきたいと考えています。

名札に付箋を貼る方法は、もともと「穴吹ビューティカレッジ」が行っていたものです。学校ごとに違ったやり方で実施しているため、いいところを取り入れられるのはとてもありがたいです。

また、非認知能力育成の第一人者である中山芳一先生(元岡山大学准教授、All HEROs合同会社代表)による講習会が年に数回あるため、そこで情報を共有したり中山先生からフィードバックしていただいたりして、取り組み内容をブラッシュアップしている最中です。

――講習会はどのように行っているのですか?

馬場先生:中山先生に高松へ来ていただき、対面で講習会を実施しています。オンライン配信も行っているため、全教員が視聴できるようになっています。徳島、広島、福山で講習会を行う際もオンライン配信されるので、年間を通して教員が非認知能力について学べる機会が多く用意されています。

当初は中山先生による講義とワークが中心でした。最近は各校で進めている取り組みや抱えている問題を発表し、非認知能力の観点でどう捉えるかを中山先生からアドバイスしてもらうスタイルに変わり、より現場に即した内容になっています。

教員にも学生にも生まれた「共通言語」

――「非認知能力の育成」に関する取り組みを始めてから、どのような変化がありましたか?

馬場先生:導入前は、教員間で「知識や技術は身に付いても、人としての成熟が追いつかない」「指導が断片的で共通の軸がない」といった課題がありました。しかし、非認知能力を学ぶことで共通言語が生まれ、学生への声かけや評価の視点が統一されてきていると感じます。例えば、「この学生、自制心のところが気になるね」「自分を高める力が高い学生は、普段のアンケート結果でも高い結果が出ているね」「他者とつながる力があるよね」という風に、非認知能力を切り口に共通の話ができています。

学生自身も、月ごとの振り返りを通して「できていないこと」だけでなく「できていること」に気づき、自分の変化を自覚する姿が見られるようになりました。面談時にも「今回テストが振るわなかったのはどうしてだと思う?」といった話の中で、学生が「自制心が足りなかったと思います。スマホをリビングに置いて勉強するようにしようかな」と自ら話すことがあります。

また、例えば積極性を苦手としている学生が「実習に行く自信がない」といったときに、「『自分と向き合う力』『あきめない力』があるから簡単には折れないと思うよ」と伝えることで、「私は何かあっても立ち直って、逃げずに立ち向かえる人間なんだ」と自分自身で気づき、実習を頑張ろうと思ってくれるんです。ほかにも、「勉強が苦手で、ついスマホゲームばっかりしちゃいます」という学生を「勉強ができない学生」と捉えるのではなく、「他者とつながる力」が高くて、クラスを明るい雰囲気にしてくれる学生と見ることができる。そんな風に、できないことだけじゃなくて、できているところを一緒に言語化しながら振り返られるのは、とてもいい変化だと感じています。

保護者対応の際にも、「うちの子は勉強が苦手で」「勉強嫌いで迷惑かけます」と話す保護者の方がいらっしゃいますが、学生の数値化できない良さを具体的に伝えることができています。

また、「日本作業療法学会」といった職域の関連学会において、非認知能力に関する発表の機会を何度かいただいています。これは、実習を受け入れてくれている病院の先生方に対して、学校の取り組みを発信できる場でもあります。例えば、「長期実習の1回目と2回目で、学生が捉える非認知能力に違いがあるのか」というテーマで、「最初の実習では『ストレス管理』『積極性』など自分に目が向く傾向があり、2回目の実習では、『患者さんやバイザー(臨床実習指導者)との関係性を保つ』といった他者に目が向く傾向が見られたため、こうした特徴を指導に活かしていく」という発表をしました。

このように発信することで、病院の先生方から「後輩育成にも通ずる」とお声がけいただいたり、障がい者雇用関連のお仕事をされている作業療法士の方から、「見ている観点が似ているので情報共有したい」とお声かけいただいたりしています。

現場でも非認知能力が求められていることを改めて実感しますし、学生にも共有することでキャリア形成を意識するきっかけになっています。

――馬場先生ご自身の変化はありましたか?

馬場先生:以前は、学生の学力を中心に考え、どんな勉強方法がいいのか、どれくらい時間をかけるか、記憶に残すには…といったことを重視していました。非認知能力を学んだことで、「まずは興味を持ってもらうことが大事だな」「どうして勉強が必要なのか理解してもらわないといけないな」というように考えが変わりました。

また、一人で勉強するのが苦手なタイプの学生には、「友達と一緒に勉強する方法もあるよ」といった、学生の得手不得手に合わせた勉強法のアドバイスもしやすくなりました。私自身の考え方が変わることで、学生を取り巻く環境も変わるのではないかと思っています。

Z世代における非認知能力育成の課題

――今後の課題や目標を教えてください。

馬場先生:1カ月ごとに振り返った際に「来月も引き続き意識していきたい」「目標に向かって頑張る」と語る学生もおり、非認知能力の観点から働きかける効果は確かに見られます。ただ、学生の反応は二極化しており、自ら意識的に振り返り、変化を実感している学生がいる一方で、形式的に取り組んでいる学生もいます。20歳を超えた学生が自らの価値観を意識的に変えることは容易ではなく、「意識化」「内省」「行動変容」までをどう支援するかが今後の課題です。

また教員の間でも、当初「小学生向けの取り組みではないか」「専門学校で実施する意義は?」といった戸惑いがありました。講習会で理論や事例を学び、学生の変化を観察する中で、「今まで行っていた指導が言語化され共通言語となった」「もやもやがカテゴライズされることで、何ができて、何が不足しているのかが明確になった学生がみられる」との声が聞かれるようになりました。一方で、「学生への浸透には時間がかかる」「Z世代には響きにくい」などの課題も共有されており、教員側の関わり方を模索している段階です。

今後は、教員間での認識をさらに統一し、授業や実習、学校行事などあらゆる場面で非認知能力の視点を自然に取り入れられる環境を整えたいと考えています。特に「体験を通して学ぶこと」が非認知能力育成の鍵であるとの認識から、日々の授業においても近隣施設へ出向くことも含めた体験型授業やグループワークなどの拡充を検討しています。

また、学生の自己評価と他者評価を組み合わせた双方向的なフィードバックの仕組みを強化し、自分の行動変化をより実感できるサイクルを作っていきたいと考えています。

さらに、以前実施していた、教員自身の「自分と向き合う力」「他者とつながる力」を高めるために、学生の状況に合わせて実際にどんな声かけや関わりをしたか、学生の反応はどうだったかを書く「見取りシート」を再検討したいと思っています。以前は紙ベースで行っていたのですが、なかなか上手くいかなかったので、入力しやすいGoogleフォームなどを活用した取り組みを検討しています。

また、「非認知能力」と「認知能力」、この2つは相関関係があるとも言われています。なかなか即効性という点では評価が難しいのですが、「自制心」「向上心」「あきらめない心」といった非認知能力を高めることによって、学力の向上にもつながるよう、引き続きさまざまな取り組みを進めていきたいです。

最後に…

穴吹学園が全体で取り組んでいる「非認知能力の育成」は、専門職としての知識や技術を支える「人間力」を高める重要な取り組みであり、学生だけでなく教員の指導観にも変化をもたらしていることがわかりました。

特に印象的だったのは、馬場先生がおっしゃった「私自身の考え方が変わると、学生を取り巻く環境も変わる」という言葉。教育現場における、教員側の意識改革の大切さも教えていただきました。

この記事が、学生の人間力育成に取り組む先生方のお役に立てることを願っています。

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