
連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
最近、専門学校の先生方とお話ししていると、以前よりも多く聞くようになった言葉があります。
それが「学生が打たれ弱くなった」という言葉です。これは、「最近の若者は…」という言葉で簡単に片づけられる問題ではありません。
近年の学校現場では、真面目で指示されたことはをしっかり行える学生が多く存在しますが、それと同時に、
・失敗すると強く落ち込む
・他者と比較して自信をなくす
・人前で発言することを避ける
・グループワークで疲弊する
・挑戦する前から「無理です」と言ってしまう
など、精神的な負荷への弱さが感じられる学生も多いように見受けられます。
これは大学でも同様の傾向が見られます。ある大学のFD(Faculty Development)研修では、学生の「思考力」は高い一方で、「レジリエンス」や「リーダーシップ」などのコンピテンシーが低いということが課題として共有されていました。特に、「ストレス耐性」「回復力」「チャレンジ精神」の低さが顕著だそうです。
専門学校においても、この問題は決して他人事ではありません。むしろ、実習・資格・就職活動など、“結果”を求められる場面が多い専門学校だからこそ、学生の「レジリエンス」は重要になってきています。
今回は、その「レジリエンス」について、授業づくりや日々の関わり方という視点から考えていきたいと思います。
目次
「レジリエンス」とは何か
「レジリエンス」という言葉は、ここ数年で教育業界でもよく聞くようになりました。レジリエンスは、簡単に言えば「困難から回復する力」です。ただし、「精神的に強い人」「落ち込まない人」という意味ではありません。むしろ、落ち込むことや不安になること自体は自然なことであるという前提の上で、
・失敗した後になるべく早く立て直せる(切り替えられる)
・失敗への不安があっても何度も再挑戦できる
・うまくいかなかった経験を学びに変えられる
・他者の評価だけで自分を否定しすぎない
という“回復する力”を指しているのです。
例えば、実習で失敗した学生がいたとします。レジリエンスが低い状態では、「自分は向いていない」「もうやりたくない」「また失敗するのが怖い」となり、行動そのものを止めてしまいます。
一方で、レジリエンスが高い状態では、「今回は〇〇がうまくいかなかった」「次はこうしてみよう」「失敗したけれど学びになった」と、振り返りを行いながら再挑戦へ向かうことができます。
つまり、レジリエンスとは「折れない力」ではなく、“折れても戻ってこられる力(しなやかさ)”のことなのです。
レジリエンスを高めるためには
レジリエンスを高めるために意識すべきことがいくつかあります。
有名なのは、アメリカのカレン・ライビッチ博士が提唱した、以下の「レジリエンス・コンピテンシー」(レジリエンスを高めるため行動特性)です。
(1)自己認識
(2)自制心
(3)精神的俊敏性/柔軟性
(4)楽観性
(5)自己効力感
(6)(人との)つながり
この6つのコンピテンシーを支える土台であり、学生時代に教員のサポートによって高めることができるのが、
・自己肯定感
・自己効力感
・自己有用感
の3つであると私は考えます。
まず、「自己肯定感」とは、ありのままの自分を価値ある存在だと認められる感情です。苦手なことや弱みがあったとしても、「それでも自分には価値がある」と思える状態です。簡単に言えば、「自分で自分を認められること」です。
次に、「自己効力感」とは、「自分ならできそうだ」と思える感覚です。こちらは単なる根拠のない自信ではなく、経験や知識を土台にした“できるという予感”に近いものです。例えば、「前回よりできるようになった」「練習してきたから大丈夫そうだ」という感覚です。
そして、「自己有用感」は、「自分は誰かの役に立っている」と感じられる感覚です。専門学校では特に重要で、「クラスで必要とされている」「実習班で役割がある」「後輩から頼られた」などの経験が、自己有用感につながります。
これら3つが高まることで、「失敗してもまた挑戦してみよう」というレジリエンスが育っていくのです。
なぜ今の学生はレジリエンスが育ちにくいのか
では、なぜ最近の学生たちはレジリエンスが育ちにくいのでしょうか。もちろん理由は1つではありませんが、学校現場で感じる大きな理由の1つが、“失敗への不安の強さ”です。
最近の学生たちは、非常に周囲を見ています。空気を読む力も高く、トラブルを避けようとします。その一方で、「間違えたくない」「失敗したくない」という気持ちが強く、行動を起こすハードルが高くなっているように感じます。特に近年は、SNSなどを通して他者と比較する機会が増えています。常に“誰かの成功”が見える環境の中で、「自分はまだできていない」「恥をかきたくない」という感覚を持ちやすくなっています。
また、「Must思考」が強い学生も増えています。「Must思考」とは、「○○しなければならない」「〇〇するべきである」「失敗してはいけない」「完璧にやるべきだ」という考え方です。真面目な学生ほど、この傾向が強くなります。一見すると意識が高いようにも見えますが、実際には自分自身を追い込みやすく、失敗への恐怖につながることがあります。
さらに、コロナ禍の影響も大きいと考えられます。人との関わりや挑戦経験が減少し、「失敗しながら学ぶ経験」が不足している学生も少なくありません。文部科学省所管の国立青少年教育振興機構が行った調査※では、子どもの頃の体験活動が豊富なほど、自尊感情や主体性が高くなる傾向が示されています。また、ベネッセ教育総合研究所の調査※でも、チャレンジ経験が多い子どもほど、「粘り強さ」「自己肯定感」「学習意欲」などが高くなる傾向が報告されています。
つまり、レジリエンスは「根性」で育つものではなく、“挑戦と回復の経験”によって育つものなのです。
※出典:国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する意識調査(令和4年度調査)」
※出典:ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2015年~2023年(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所による共同調査)」
専門学校の授業で重要になる「心理的安全性」
そこで今、授業づくりで重要になっているのが「心理的安全性」です。心理的安全性とは、「失敗しても否定されない」「意見を言っても大丈夫」と感じられる状態のことです。よく、「プレッシャーがない」「みんな仲良しで心地良い」「厳しい指摘がない」という状態のことだと誤って解釈されることがあるので、ご注意ください。
正しくは、例えば
・質問しても笑われない
・失敗しても人格を否定されない
・意見を言いやすい
・挑戦したこと自体を認めてもらえる
という環境のことです。
ここで重要なのは、「甘やかすこと」ではありません。注意すべき場面では注意する必要があります。ただし、「ダメな人間だ」と否定するのではなく、「今回の行動をどう改善するか」を一緒に考えることが重要なのです。
実際、学生は“無関心”に非常に敏感です。褒めること以上に、「見てもらえている」「気にかけてもらえている」という感覚が、安心感につながります。だからこそ、日々の授業の中で、「前回よりできるようになったね」「最後まで取り組んでいたね」「その視点は面白いね」など、“過去の自分との比較”や“プロセス”を承認する関わりが大切になります。
レジリエンスは、特別な指導だけで育つものではありません。
むしろ、毎日の授業の中で、
・失敗しても大丈夫だと思えること
・挑戦したことを認められること
・自分の成長を実感できること
の積み重ねによって育っていくものなのです。
次回は、レジリエンスを高める授業実践についてお伝えします。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)









