
連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
前編では、レジリエンスとは「困難から回復する力」のことであり、「折れない力」ではなく「折れても戻ってこられる力」であることをお伝えしました。
また、レジリエンスを高めるための行動特性として、カレン・ライビッチ博士らが提唱した6つのレジリエンス・コンピテンシーと、その土台となる自己肯定感・自己効力感・自己有用感についても紹介しました。
前回の記事:指導スキル(21)~なぜ今、専門学校で“レジリエンス”が必要なのか―自己肯定感を支える授業デザイン―(前編)
では実際に、授業の中でどのような経験を積ませればレジリエンスは育つのでしょうか。
今回は、6つのレジリエンス・コンピテンシーを中心に、専門学校の授業の中でどのようにレジリエンスを育てていくかという視点でお伝えしていきます。
目次
レジリエンスを高めるために意識すること
1.自己認識を育てる
レジリエンス・コンピテンシーの1つ目は「自己認識」です。自己認識とは、自分の感情や思考、行動の特徴を理解する力です。例えば実習で失敗したときに、「自分には無理だ」「自分はダメだ」と考える学生もいれば、「緊張していたから失敗した」「ここの部分が○○不足だ」と分析できる学生もいます。この違いは非常に大きく、後者の方が次の行動につなげやすくなります。
しかし、最近の学生を見ていると、自分自身を振り返る経験が不足していると感じることがあります。そこで授業の中で意識したいのがリフレクションです。
例えば、授業終了時に、以下のことを記入させます。
・(目的・目標に対して)今日できたこと
・(目的・目標に対して)今日うまくいかなかったこと
・次回意識したいこと
・次回改善したいこと
重要なのは、単なる感想や反省文にしないことです。「できなかったこと」だけではなく、「できたこと」も必ず書かせることで、自己肯定感を維持しながら自己認識を高めることができます。
2.自制心を育てる
2つ目は「自制心」です。自制心とは、自分の感情や行動をコントロールする力です。専門学校では実習やグループワークの中で、「思い通りにいかない」「相手が協力してくれない」「評価が低い」など、感情が揺れる場面が数多くあります。そのようなときに感情のまま行動するのではなく、一度立ち止まって考える力が必要です。授業では、「どのように感じたのか?」「なぜそのように感じたのか?」という発問を行うだけでも効果があります。
また、グループリーダーを中心に、グループフィードバックを行うことも有効です。感情を言語化する経験は、自制心の育成につながります。
また、教員自身が感情のコントロールを見せることも重要です。学生は教員の姿をよく見ています。トラブルが起きたときに冷静に対応する姿そのものが、参考になることもあります。
3.精神的俊敏性・柔軟性を育てる
3つ目は「精神的俊敏性・柔軟性」です。簡単に言うと、多様な視点から物事を見て、状況に応じてなるべく早く適切に対応する力です。例えば、実習中に予想外の状況が起こったときに、フリーズせずにリカバリーして、実習を続けるといったことです。レジリエンスが低い学生ほど、「失敗=終わり」という極端な考え方をしがちです。
そこで授業では、「リフレーミング」を活用します。例えば、「失敗した」を「改善点が見つかった」と捉え直したり、「積極的に発言できない」を「人の話を良く聞き、分析する」と捉え直したりすることです。
また、グループワーク後に「別の見方をするとどう考えられるだろう?」という発問を行うだけでも柔軟性は高まります。
4.楽観性を育てる
4つ目は「楽観性」です。ただし、ここで言う楽観性は、「なんとかなる」という「根拠のないポジティブ思考」ではありません。困難があっても、「改善できる可能性がある」「こうすれば次はうまくいくかもしれない」と考える、「なんとかできそう」という「イメージを伴った思考」です。
楽観性を育てるためには、成功体験が必要です。授業では大きな目標だけではなく、以下のような小さな目標を設定します。
・グループワークでファシリテーターを行う
・実習で1つの技術を習得する
・前回よりも良い報告書を書く
達成経験を積み重ねることで、「自分は成長できる」という感覚が生まれます。これは自己効力感の向上にもつながります。
5.自己効力感を育てる
5つ目は「自己効力感」です。前編でもお伝えしたように、自己効力感とは、「自分ならできそうだ」という感覚です。この感覚を高めるために教員ができることは、「成長の可視化」です。
例えば、「前回より具体的な質問になっていて良かったよ」「最初の頃より説明が分かりやすくなったね」など、過去の本人と比較して成長を伝えます。他人との比較ではありません。過去の自分との比較です。これによって、「自分は成長できる人間だ」という感覚が生まれます。
6.つながりを育てる
6つ目は「(人との)つながり」です。レジリエンス研究では、人とのつながりは、回復力を高める最も重要な要素の1つとされています。実際、中退する学生の多くは学習内容だけではなく、人間関係にも課題を抱えています。だからこそ授業の中で、
・ペアワーク
・グループワーク
・相互フィードバック
などを取り入れて、自然に交流できる機会を設けることが重要です。
また、学校行事や実習も活用できます。もちろん交流によるささいなトラブルも起こりますが、そのことを解決するたびに「つながり」は強くなります。トラブルを過度に恐れないことです。
さらに、ここで育つのが「自己有用感」です。「自分がいることでチームに貢献できた」という経験は、学生のレジリエンスを大きく高めます。
3つの土台を意識した授業づくり

ここまで6つのコンピテンシーについて見てきました。しかし実際には、それぞれが独立しているわけではありません。自己認識、自制心、柔軟性、楽観性、自己効力感、つながりを支えているのが、
・自己肯定感
・自己効力感
・自己有用感
の3つです。
「苦手なことがあっても自分には価値がある」という自己肯定感。
「努力すればできそうだ」という自己効力感。
「誰かの役に立てている」という自己有用感。
これらが育つことで、学生は失敗しても再び挑戦できるようになります。そのため授業づくりにおいては、何を教えるかだけではなく、「どんな経験を積ませるか」を考えることが重要です。
まとめ
今回、前後編にわたってレジリエンスについてお伝えしてきました。専門学校は資格取得や技術を教える場所であると同時に、「社会の中で生きていく力を育てる場所」でもあります。
変化の激しい時代だからこそ、知識や技術だけではなく、困難から立ち直り再挑戦できる力が求められています。 ぜひ日々の授業の中で、「学生のレジリエンスを育てる」という視点を取り入れてみてください。その積み重ねが、卒業後も学び続け、成長し続ける人材の育成につながるはずです。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)









