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TOP特集インタビュー専門学校の「単位制」導入に向けて考えたい、柔軟な学びを叶える中央情報大学校の「科目選択制」とは?

専門学校の「単位制」導入に向けて考えたい、柔軟な学びを叶える中央情報大学校の「科目選択制」とは?

お話を伺ったのは▼

学校法人 有坂中央学園 専門学校 中央情報大学校
教務部部長/情報教育課課長/電気通信教育課課長

内池雄さん

「中央情報経理専門学校高崎校(現:中央情報大学校)」を卒業後、システムエンジニアとして経験を積み、教員の道へ。現在は「データサイエンス」「ビジネスソリューション」「プレゼンテーション実践」といった授業を担当しながら、教務部長として学校運営に携わる。同時に、教育関係者に向けた講義・講演、検定問題作問、書籍出版・校正など幅広く活動し、IT業界を盛り上げる人材育成に注力している。

2024年6月、学校教育法等の改正が成立しました。施行は2026年4月1日を予定しています。

※参考:学校教育法の一部を改正する法律の公布について

今回の改正では、専修学校の設置要件の1つである「授業時間数」が、「授業時間数または単位数」へと見直されることになりました。

単位制は、専門課程と大学との間での進学や転学を円滑にし、学修成果を適切に評価するうえで重要な仕組みとなります。こうした背景から、特に専門学校においては、すべての学科で単位制への移行が検討されています。

経過措置を含む詳細については、今後、文部科学省において関係省令の改正が行われる予定とのことですので、新制度についての続報を注視する必要がありますが、2026年4月に向けて、すでに単位制移行の準備を進めていらっしゃる専門学校も多いのではないでしょうか。

今回は、20年前から「科目選択制」を導入し、今回の単位制への移行に前向きに取り組んでいる「専門学校 中央情報大学校」の内池先生にお話を伺いました。単位制の高校や大学で採用されることの多い「科目選択制」について、仕組みやメリット、そして現場で感じる課題などを詳しく教えていただきました。

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学生の「自分らしさ」を育む「科目選択制」

――貴校が採用している「科目選択制」について教えてください

内池先生:本校では現在、30時間を1単位とし、2年生過程では1,860時間=62単位以上の単位取得で卒業を認める形をとっています。そして、本校の前身である「中央情報経理専門学校高崎校」時代から、約20年「科目選択制」を採用しています

エンジニアやデザイナーなど目指す職種は同じでも、やりたいことやなりたい自分は人それぞれです。学生が「なりたい自分」に近づくためには、一人ひとりに合ったカリキュラムを提供する必要があります。そのため、科目選択制を取り入れることで、学生が自分らしさを磨けるようになればと考えています

私は「中央情報経理専門学校高崎校」の卒業生なのですが、自分自身もIT企業への就職が決まっていた2年次に、就職先で使用するプログラミング言語の授業を選択しました。就職先に合わせて科目を選択できたことは、今の学生風に言えば「タイパ(タイムパフォーマンス)」「コスパ(コストパフォーマンス)」の観点からも、非常に意義がありました

群馬県高崎市にある中央情報大学校。

また、職員や教室といったリソースを最大限活用したいという思いもあります。担任が毎朝ホームルームを行うスタイルでは、教員が休みを取りにくくなってしまいますが、科目選択制を導入することで担任制が必要なくなり、ホームルームも不要になります教員はそれぞれが専門分野の授業の質を高め、安定した授業を目指すことができます。専門分野を教える先生、人間教育に特化した先生など、それぞれが得意分野を極めることで、お互いの負担が減ります。教員同士でしっかりとコミュニケーションが取れていれば、まったく問題ありません

――担任制ではなく、ゼミ制度を採用されていらっしゃるんですね。

内池先生:ゼミ制度も、科目選択制と同じく20年ほど前から実施しています。ゼミを担当する教員が、そのクラスの担任のような役割を果たしています。ゼミの時間は週に2コマで、そこで連絡事項の伝達や就職指導、ボランティア活動、人間力育成などを行います。ゼミで行う内容はある程度決まっていますが、それ以外にも、例えば作品制作の時間を設けたり、検定が近い時期に対策授業を行ったりと、ある程度教員が内容を柔軟に決められる時間になっています

興味・関心に応じて自由に“学びを選べる”環境

――科目選択制はどのように運用されているのでしょうか?

内池先生:授業は1コマ90分で、1日4コマ、週20コマあります。そのうち8~10コマが必修科目で、残りが選択科目になります。

必修科目では、1年次は資格取得をベースに、知識の習得や勉強方法を学び、基礎的な技術を身につける授業が中心です。2年次には、実践的な技術を活用する実習形式の授業が中心になります。情報分野でいうと、1年次の前期には基本情報技術者試験に向けた「コンピュータ概論」を学び、後期には「Java Bronze」の内容を実習形式で進めます。2年次には、実際にチームで開発を行う授業へと進みます。ゼミも必修科目のひとつです。

選択科目は、学科や学年を問わず、自由に選択することができます。プログラム系の授業では、「Python」や「C#」などの実習科目を選ぶこともできますし、情報系の学生がデザイン系の授業を受講することももちろん可能です。たとえば、プログラミングを学んでいるけれど絵を描くのも好きという学生であれば、「Live2D」の授業を選択して、自分で描いたイラストを動かせるようになります。音楽が好きな学生は、「DTM(デスクトップミュージック)」の授業で音楽制作を学びます。

必修科目、選択科目の割合はおよそ半々。

そのほかにも、ランニング、筋トレ、ヨガといった体を動かす「ワークアウト」という授業、日本文化を学ぶ授業、英会話の授業など、技術的なものだけでなく、教養を身につけられるような幅広い選択肢が用意されています。また、選択科目の中で、企業と連携してバーチャルアイドルをデビューさせるプロジェクトも進行中です。カップリング曲には、学生が制作した楽曲が採用される予定です。必修科目で専門的な技術を学びつつ、選択科目では自分の興味や関心に沿った知識を得ることができる、非常に恵まれた環境が整っていると思います。

履修内容は、半年ごとに学生自身が決めます。1年生には、入学前に登校してもらう「ビフォアスクール」で説明を行い、「初めて学ぶならこの授業がおすすめです」「高校で〇〇を学んでいた方はこの授業が向いています」などと一通り説明した上で、個別相談も実施しています。履修登録は、私がGoogleサイトで作成した学生専用サイトから行ってもらうようにしています。

――学生が単位を落としてしまうことはありますか?

内池先生:たとえば前期で単位を落としてしまった場合には、後期に多めに履修するよう指導します。進級には1年間で31単位が必要なため、前期で16単位取得予定だった学生が14単位しか取れなかった場合には、後期で17単位履修するように促します。また、事故などでどうしても授業を受けられなかった場合には、成績判定会議でどのように対応するかを検討します。補講や追試を行うのか、それとも単位を落とすのかといった判断を、学校長・副校長・全教職員で協議のうえ決定しています。

学生の「責任感、主体性、魅力」が伸びる

――科目選択制のメリットはどういった部分だと思われますか?

内池先生:学生が「自分で選んだ」という責任のもと、真剣に授業に取り組んでいると感じます。今の学生は、「なぜやらなければならないのか」ということに対して非常に敏感です。「学校だから仕方なくやるもの」と気づいてしまうのも早い。そういった感覚は、10年前と比べると明らかに鋭くなっていると実感します。そのため、本校では「全員がまったく同じカリキュラムで学ぶ」というのは、現実的ではないと考えています。

また、勉強や技術面以外で、学生の“良さ”に気づくことができるという点も大きなメリットです。教員をしていると、つい学生をラベリングしてしまうことがあるかと思います。たとえば、テストの点が悪い、授業中に居眠りをする…そういったことがあると、「この子はできない子だな」と無意識にレッテルを貼ってしまう可能性がある。しかし、たまたま勉強が苦手なだけで、別の分野で大きな才能を持っているかもしれません。専門学校とはいえ、勉強だけの物差しで学生を評価することは絶対にしてはいけないと考えています。

学生の個性を見つけるきっかけとして、選択科目は非常に有効です。たとえば「イベントマネジメント」という選択科目では、前期に学園祭の企画を考え、後期には大きな会場を借りて卒業制作展示会の企画を立てます。ほかの授業ではあまり目立たなかった学生が、ここではアイデアを出して活躍してくれる。こうした一面は、学業の成績だけでは見えてこない部分です。教員が学生を一面的に評価してしまうのを防ぐことができる点でも、選択科目は非常に意義のある存在です

「イベントマネジメント」の授業では活発なディスカッションも。

また、学生にとって「この先生はちょっと苦手だな」というような相性の問題もありますよね。特定の先生と相性が合わず、その先生の授業を理由に欠席がちになってしまうケースもあるかと思います。しかし、科目選択制であれば、前期で相性が合わなかった場合、後期にはその先生の授業を選ばないという選択ができます。学生が、自分にとって「過ごしやすい学習環境」を校内で選択できるという点でも、大きなメリットだと感じています。

課題は人気科目集中への対応とカリキュラム調整

――科目選択制のデメリットを感じることはありますか?

内池先生:人気のある科目に履修希望が集中してしまうと、学生が第2希望や第3希望の科目を受けることになってしまう点ですね。情報系でいうと、最近は「Python」に人気が集まっています。また、「ワークアウト」も、体を動かすのが好きな学生に人気です。多い授業だと希望者が150人を超えることもあり、さすがに1つの教室には入りきらない状況です。

学生に人気の高い、体を動かす授業「ワークアウト」。

第1希望の科目を履修できなかった学生にとっては、やはり面白くないと感じることもあるでしょう。大学のように大講堂があれば対応できるかもしれませんが、本校ではどうしても物理的な制限があります。そのため、たとえば「Python」の授業に希望者が100名いた場合は、30名ずつ教室を分け、各教室をオンラインでつないで授業を進行し、教員が巡回してフォローアップする方式をとることもあります

また、特定の選択科目に学生が集中しないように、学科によって必修科目の時間帯をずらすなど、カリキュラムの工夫も行っています。まれに、希望者が少なすぎて開講できない授業もありますが、それは半年に1件あるかないか程度です。

とはいえ、このカリキュラム調整が一番大変な部分です。「この科目とこの科目は必修だから時間が重ならないようにしよう」「この先生はこの時間帯には授業を入れられない」「履修者数に応じて教室を割り振る必要がある」「専用機材が必要な授業は特定の教室を確保しなければいけない」…さらに、非常勤講師のスケジュールも考慮しながら、すべての制約を踏まえて組み立てていきます。この作業だけで、毎年2〜3週間はかかります。

これまでは私一人で全体の調整を行っていましたが、今年からは各学科で素案を作ってもらい、それをもとに私のほうで最終調整する形に変更しました。

学びの成果が口コミで広がる

――学生や保護者の科目選択制に対する反応はいかがでしょうか?

内池先生:「科目選択制だからこの学校を選びました」という声は非常に多いです。オープンキャンパスに参加した高校生が「こういう授業があるって聞いたよ、面白そうだよね」と、友人に話して広めてくれることもあります。

授業時間を使って、現地に赴いたり、企業からヒアリングを実施したりすることも。

在校生の中には、自分で作った曲やイラストがテレビで放映され、その対価として報酬を得たケースもあります。企業のロゴデザインが採用された学生もいて、そうした実績を保護者や高校の先生方に伝えてもらえることで、口コミ的な広がりも感じています。なかには「勉強は苦手だと思っていたけれど、今ではうちの“稼ぎ頭”だね」と親御さんに言われた、と話してくれる学生もいます。

――在学中からお金を稼ぐこともあるんですね。

内池先生:はい。私が授業で個人的に目指しているテーマの1つが、「学びながらお金を稼ぐこと」です。例えば、私が担当している選択科目に「ビジネスソリューション」という授業があるのですが、これは教科書もなく、「世の中の課題をみんなで解決しよう」という内容のプロジェクト型授業です。現在は、企業と共同で開発したセキュリティシステムを特許申請中です。

授業で学んだことを活かして開発し、それを企業に売り込む。前期にその基盤ができたので、後期からは、授業で学んだことがそのまま収益につながるような流れをつくっていきたいと考えています。この授業は選択制なので、4年生、3年生、2年生が一緒に受講しており、4年生が設計、3年生がプログラミング、2年生がドキュメント作成を担当するなど、それぞれのレベルに応じて役割を分担しています。

その中で、自分のスキルをどう活かすかを考えてもらいます。技術力だけでなく、コミュニケーション力が高い学生であれば、企業との打ち合わせや交渉もスムーズに進めることができます。そういった力も含めて、この授業で学んでもらえたらと思っています。

制度運用の知恵を専門学校間で共有したい

――2026年4月に専門学校の単位制移行が施行される予定ですが、ご意見を教えてください。

内池先生:本校では現在、授業時間数をそのまま単位として換算していますが、今後単位制を導入することで、大学と同様に授業時間に加えて事前学習や事後学習の時間も含めて単位を認定する形になると考えています。そのため、事前・事後課題の内容や運用体制を整えていく必要があると認識しています。たとえば、授業を受けるための準備としてアプリやソフトをインストールしたり、テキストの〇ページから〇ページを事前に読んでレポートを提出したりする、といった形で事前学習の内容を組み込んでいく予定です。

これまでの授業のように、「では一緒にインストール作業をしましょう」とか「テキストの〇ページを開いてください」といった進め方ではなく、より主体的な学びを促す授業スタイルを確立していくための制度改革だと受け止めています

また、単位制は学生の可能性を広げることができるためプラスに受け取っていますが、設備やカリキュラムの面で、専門学校が大学とまったく同じように単位制を運用するのは、難しい部分もあると思います。だからこそ、校内での理解や協力体制を築くことが必要です。そして、こうした取り組みについて、学校の垣根を越えて情報交換ができるようなコミュニティがあればいいのに、という思いもあります。他校ではどのように対応されているのか、共有し合うことで、より良い制度運用につながるのではないかと感じています

最後に…

「学生により良い教育環境を提供したい」という先生方のお気持ちが、カリキュラムの調整や教員間での連携など、さまざまな課題を乗り越えてこられた歩みから伝わってまいりました。

今後、単位制への移行に際して、さまざまな課題が浮かび上がってくることも予想されますが、専門学校間で情報を共有しながら、学生にとってよりよい学びの場を共につくっていけたらいいですね。

ウイナレッジでも、これからも先生方のお役に立てる情報をお届けしていきます。

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