
連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
前回は、学生が陥りやすい生成AIのNG活用例として、さまざまな学校・学科で起こり得る、レポートや就職活動、情報収集などにおける問題を取り上げました。
指導スキル(25)~その使い方は大丈夫?学生が陥りがちな「生成AIのNG活用例」(前編)
生成AIを使うこと自体が問題なのではありません。重要なのは、「AIに任せてよい部分」と、「自分自身で確認・判断しなければならない部分」を理解することです。
専門学校では、実習を通じて個人情報を知り得たり、作品を制作・発表したりすることがあります。生成AIの使い方を誤ると、学生自身だけでなく、第三者を巻き込む問題につながる可能性があるのです。
そこで今回は、特定の専門学科で起こり得る具体的なケースを取り上げながら、「なぜ学生はそのような使い方をしてしまうのか」「教員はどのように指導すればよいのか」について考えていきます。
目次
ケース1:看護学生Aさんが実際の患者情報をAIに入力し、情報漏洩のリスクを高めてしまった
看護学生Aさんが、病院での実習中に、担当した患者について学んだことを整理していました。患者の状態を踏まえ、どのような看護が必要なのかを整理しようと思い、生成AIを使いました。「〇〇〇の症状の患者に対して、どのような看護が考えられますか」とAIに質問すれば、学習のヒントを得られると思ったのです。より正確な情報を得ようとするあまり、Aさんは質問の中に、患者の年齢や性別、症状、既往歴、入院している診療科など、実習で知った情報を詳しく入力してしまいました。Aさんは、「患者さんの名前は書いていないから大丈夫だろう」と考えていました。しかし、患者に関する情報を生成AIに入力することは、情報漏洩のリスクがあるとして、実習先から注意を受けました。
原因
Aさんが、名前を記載していなくても、ほかの情報を組み合わせることで個人を特定できる可能性があること、また、生成AIサービスによっては、入力した内容がAIの学習などに利用されることがあることを十分に理解していなかった点が問題です。
そして、このケースで重要なのは、Aさんに悪意がなかったということです。
「学習のためにAIを使いたかった」「少しでも実習について理解したかった」 という気持ちから入力したのであれば、本人としてはむしろ真面目に学習していたつもりかもしれません。
対処法
このケースでは、「個人情報をAIに入力してはいけません」と禁止するだけではなく、「AIに入力してよい情報なのかを判断する力」を育てる必要があります。そして、サービスの利用規約やデータの取り扱いに関する説明を確認するとともに、学校や実習先のルールがある場合は、その目的や本質を正しく学生に伝え、利用させることが重要です。
例えば授業の中で、
「この情報は第三者に見られても問題ないだろうか」「この情報をAIに入力する権限が自分にあるだろうか」と、一度立ち止まって考えさせることが有効です。
また、「名前さえ消せば大丈夫」という単純な判断をさせないことも大切です。
実習先やアルバイト先などで知り得た情報には、個人情報や機密情報が含まれている可能性があります。
卒業後、医療や介護、美容、保育など、個人情報を扱う仕事に就く学生も多いでしょう。
だからこそ、学生には、「AIに入力していい情報かどうかを確認・判断することも、仕事の一部である」という意識を身に付けさせる必要があります。
ケース2:美容系の学生Bさんが、SNSで見つけた写真を無断でAI加工して使用し、問題となった
美容系の学生Bさんが、授業でヘアスタイルを提案する課題に取り組んでいました。Bさんは、SNSで見つけた実在する人物の写真を使い、生成AIを利用してヘアスタイルやメイクなどを加工して課題を完成させました。写真の本人から許可を得たわけではありません。しかしBさんは、「SNSに公開されている写真だから使ってもいいだろう」「授業の課題で使うだけだから問題ないだろう」と考えていました。さらにBさんは、完成した画像を自分のSNSに投稿しました。すると、写真の本人から「写真を無断で加工され、公開されている」と指摘があり、問題になってしまいました。
原因
これは、Bさんの写真の利用に対する認識の甘さが原因です。
このようなケースでは、肖像権やプライバシー、著作権など、複数の権利や法的な問題が関係する可能性があります。
Bさんからすると、「美容の勉強のために使っただけ」という感覚だったかもしれません。
しかし、「インターネット上で公開されている写真」と「自由に加工・利用してよい写真」は同じではありません。
また、Bさんが利用条件などを確認せず、他人の写真を勝手に加工した画像を、自分の作品としてSNSへ投稿したことも問題です。
対処法
単に「SNSの写真を使ってはいけない」というルールだけ教えればいいわけではありません。
例えば、
「その写真を利用できる条件を確認しているか」
「写真を加工することや、加工した画像を公開することに問題はないか」
「学校の課題として使用する場合と、SNSで公開する場合では何が違うだろうか」
といったことを考えさせることが大切です。
美容業界では、写真や動画を使ってヘアスタイルやメイク、ネイルなどを紹介する機会が多くあります。
生成AIの進化によって、これまで専門的な技術が必要だった画像加工も、手軽にできるようになりました。
そのため、学生時代から、「技術的に加工が可能なこと」と「実際に加工・使用してよいこと」は別であると理解させる必要があります。「できるから使う」のではなく、「使ってよいのかを考えて確認してから使う」という習慣を身に付けさせましょう。
ケース3:AIで作った作品が既存作品に酷似。権利者側から指摘を受けた
デザイン系の学生Cさんは、生成AIを利用してイラスト作品を制作しました。Cさんは、特定のアーティストの作品を模倣するように指示したわけではありません。完成した作品も、本人はオリジナルだと思っていました。そこで、Cさんはその作品をコンテストへ応募し、さらにSNSでも公開しました。ところが、作品を見た人から、「海外の著名なイラストレーターの作品に酷似している」という指摘が寄せられました。調べてみると、構図や人物の配置、特徴的な表現などに、既存作品と非常によく似た部分があることが分かりました。Cさんは、その作品を知らなかったため、「自分は真似していない」「AIが作ったものだから、自分には責任がない」と考えていました。しかし、既存作品の権利者側から抗議を受ける形になりました。
原因
完成した作品について、既存作品との類似性や利用上の問題を十分に確認しないまま、コンテストへの応募やSNSでの公開を行ったことが、このケースの問題点です。
もちろん、AIが生成した作品と既存作品が似ているからといって、直ちに著作権侵害が成立するとは限りません。
しかし、「AIが作った作品だから、何の確認もせず自由に使える」と考えることはとても危険です。
作品を制作するにあたり、AIからヒントを得る場面もあることでしょう。
著作権などの権利に関する正しい知識がなければ、意図せず権利侵害につながる可能性があります。
対処法
「作品を作る」だけではなく、「その作品を社会に出してよいのか確認するところまでが制作である」という意識を身に付けさせましょう。
「どの生成AIサービスを使ったか」
「どのような指示を入力したか」
「生成された作品をどのように修正したか」
「既存作品との類似性を確認したか」
「公開や商用利用をする場合、問題がないか確認したか」
といった項目をチェックリストにして確認する方法もいいでしょう。
学生には、「AIが作ったから大丈夫」「自分は知らなかったから大丈夫」と考えるのではなく、「社会に出す作品について責任を持つ」という意識を持つように伝えましょう。
また、これは、AIを利用した作品に限った話ではありません。
将来、デザイナーやイラストレーターなどとして仕事をするのであれば、作品の権利関係を確認することも仕事の一部になります。
専門学校での学びを、卒業後の仕事につなげるためにも、こうした視点を身に付けさせることはとても大切です。
まとめ|「便利だから使う」から「責任を持って使う」へ
今回は、個人情報、肖像権、著作権に関する生成AIのNG活用事例を紹介しました。
前回紹介したケースでは、主に学生自身の学習や就職活動に関する問題を取り上げましたが、今回のケースでは、実習先の患者や写真に写っている人、作品の権利者など、第三者を巻き込むおそれのある事例を取り上げました。
生成AIにより、これまで専門的な知識や技術が必要だった作業を手軽に行えるようになりました。
一方で、「手軽にできるようになった」からこそ、これまで以上に利用者自身の判断と責任が求められています。
「この情報をAIに入力してよいのか」
「この写真を加工してよいのか」
「この作品を公開してよいのか」
「この生成物を仕事で利用してよいのか」
こうした問いに対して、一度立ち止まって考える。
そして、自分だけでは判断できない場合には、教員や専門家に相談したり、利用するサービスの公式情報などを確認したりする。
学生にこうした習慣を身に付けさせることも、専門学校で行うAIリテラシー教育の重要な役割なのではないでしょうか。
専門学校は、学生が社会に出る前の最後の教育機関となることも少なくありません。
だからこそ、「AIを使えるようにする」だけでは十分ではありません。
AIを使ってよい場面なのか、どのように使えばよいのか、そしてその結果に誰が責任を持つのかを考えられる人材を育てる。
これからの専門学校教育では、こうした視点がますます重要になっていくでしょう。
生成AIをめぐる環境は、これからも変化していくはずです。
教員自身も、「AIを使わせるか、使わせないか」という二択ではなく、「学生がAIとどのように付き合えば、社会人として適切に活用できるようになるのか」という視点から、指導方法をアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)









