
お話を伺ったのは▼

公認心理師/臨床心理士
関根 香緒里さん
「合同会社カウンセリングルームさくら」にて、カウンセリングを担当。不登校や子どもの不安に関する相談に数多く携わる。あわせて、小・中学校ではスクールカウンセラー、大学では学生相談員としても活動している。
「最近の若者は打たれ弱い」「メンタルが弱い」…日々学生と接する中で、そんな風に感じたことがある先生もいらっしゃるかと思います。
しかし、本当に若者のメンタルは“弱くなっている”のでしょうか。
今回は、小・中学校のスクールカウンセラーや大学の学生相談員として活動されている関根さんに、近年の若者のメンタルヘルスの傾向や、専門学校ができる支援のあり方についてお話を伺いました。
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目次
メンタルヘルスへの関心の高まりが影響
――若者のメンタルは本当に弱くなっているのでしょうか?
関根さん:令和6年版の「厚生労働白書」※を見ると、0~24歳の精神疾患の外来患者数は平成29年度の38.5万人から令和2年度の79万人へと、ほぼ倍増しています。気分障害や神経症性障害、そのほかの精神および行動上の障害の大幅な増加がみられます。
精神疾患には「好発年齢」といって疾患ごとに発症しやすい年代があり、これらの疾患は若者世代に発症しやすいものです。
※参考:令和6年版「厚生労働白書」
それから、令和5年度「少子高齢社会等調査検討事業報告書」※において、「精神病を引き起こすようなストレス」を健康上の最大リスクと考える人の割合も、この20年で約3倍に増えています。若者だけでなく、社会全体でメンタルヘルスへの関心が高まっていることがうかがえます。
私は週に1度大学で学生面談を担当しており、今年で5年目になるのですが、当初は予約が取りやすい状況でした。しかし、ここ3年ほどは枠を増やしてもすぐに埋まることが多く、明らかに面談を受ける学生が増えています。
ですので、「若者が弱くなった」というよりも、自分自身のメンタルの状態に目が向きやすくなっており、そのため「しんどくなりそうな場面を避ける」という選択が増えているのかな、という印象です。それが結果として「学校を休む」といった行動につながっている可能性があると思います。
※参考:令和5年度「少子高齢社会等調査検討事業報告書」
「ダメだと思われたくない」思考が行動を制限
――単純に弱くなっているというわけではないんですね。では、近年の若者に共通して見られるメンタルヘルスの特徴はありますか?
関根さん:2024年にパーソル総合研究所が実施した「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」※では、「拒否回避志向」という傾向が指摘されています。怒られたくない、人目が気になる、失敗を極端に恐れる、対立を避けるといった傾向です。
この傾向が強いほど、叱責を受けたときのストレス反応が高まりやすいと指摘されています。また、「保護的で従順さを期待される環境で育ち、インターネット検索に頼りがちだった人に多く見られ、若年層ほどこのような環境で育った人が多い」とも分析されています。
※参考:パーソル総合研究所 「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
また、カウンセリングの中で「迷惑をかけた」「だめなやつと思われる」といった、自分の評価についての困りごとを話す方が多くいらっしゃいます。SNSがなかった時代は、相手がどう思っているのかを知る術が少なかったですよね。でも今は、他人の評価が可視化される時代です。さまざまな意見がSNSによって可視化されることで、「こう思っている人がいるんだ」「そういうのって迷惑だよね」というように、他者評価を自然と意識してしまうのではないでしょうか。
ですから、「叱責を受けたとき」というのは、叱られる場面だけではなく、意見を言えなかったときや課題が出せなかったときなど、「相手にダメなやつだと思われるかもしれない場面」も含まれてくるのではないでしょうか。
メンタル不調のサインは「睡眠」に表れる
――学生のメンタル不調を、どのように察知すればいいのでしょうか?
関根さん:専門学生は成人ですから、小・中・高校生とは違い、家庭からの情報が入りにくいこともあるかと思います。そこで見ていただきたいのが「睡眠」です。睡眠はメンタルヘルスと非常に密接に関係しています。睡眠時間が7~8時間の人が最も抑うつ感が低いというデータ※もありますし、短すぎても長すぎてもリスクが上がります。
また、10代後半から20代前半は自然と夜型になりやすい時期です。基本的に学生は夜型で、頑張って朝起きている、という前提があります。そのため睡眠の問題は、朝起きられず午前の授業に出られない、授業に出られないから勉強がわからない、友達との関係もうまく築けない、誰にも聞けなくてますます授業についていけなくなる…といった、適応の問題につながる可能性もあると思います。
ですので、
・1限の欠席が続いている
・授業中とても眠そうにしている
・課題提出の時間が深夜に集中している
といった様子があれば、睡眠の問題を疑ってみてください。
いきなり「気分はどう?」と聞くよりも、「最近眠れている?」「朝起きづらくない?」といった生活面から入ると、学生も答えやすいはずです。まずは答えやすい入口から、というのが大切ですね。
※参考:Kaneita Y, Ohida T, Uchiyama M, Takemura S, Kawahara K, Yokoyama E, Miyake T, Harano S, Suzuki K, Fujita T. The relationship between depression and sleep disturbances: a Japanese nationwide general population survey. J Clin Psychiatry. 2006 Feb;67(2):196-203
継続的な面談と学校でできる環境調整
――メンタル不調が疑われる学生への対応について教えてください。
関根さん:先ほどお話した「睡眠の変化」に加えて、食欲の変化、楽しめていたことが楽しめない、物事に時間がかかるようになった…といった生活面の変化がある場合には、一度専門家と話してみないかと勧めていただくのがよいかと思います。
すぐに了承してもらえなくても、「2週間後にまた様子を教えてほしい」と次の約束をしてください。短時間でも時間をとって面談を繰り返し、状態を把握することが大切です。
行動の改善が見られないにもかかわらず、本人が専門家への相談に応じてくれない場合は、保護者の方へ連絡し対応を相談するのがよいと思います。
また、メンタルヘルスの問題は、必ずしも精神疾患とイコールではありません。「やる気が出ない」「課題が提出できない」という状態に、診断名がつくとは限りません。
私の経験でも、相談の入り口は「気分が落ち込んでいる」という話でも、よく聞いてみると課題の先延ばしなど時間の管理がうまくできなくて落ち込んでいるというケースが度々あります。学生も自身の困っていることが「メンタルヘルスの問題なのか、自分の性格の問題なのか」という区別がついていないことが多いと思います。だからこそ、学校現場での環境調整が重要になります。
認知行動療法では、行動を変えるためには「環境」を整えることが大切だと考えます。例えば、忘れ物をしてしまう学生に「忘れ物するな」と注意しても、それだけで忘れ物が直ることは少ないですよね。それよりも、「帰ってから必ず見るところに付箋を貼ろう。その付箋に『見たらすぐカバンに入れる』って書いておこうね」とか「スマホで何時何分にリマインダーを入れて、音が鳴ったらすぐにカバンに入れるようにしよう」と、具体的に方法を決める。レポートの提出が遅れてしまう学生には、「帰ってからではなく、学校でレポートを書いていこう」と提案し、実際に一緒に練習します。そうすることで提出できるようになった学生もいます。
困りごとを「性格の問題」「メンタルの問題」だけで終わらせず、まずは「どうすれば行動しやすくなるか」を一緒に考えることも大切だと思っています。
早期発見と専門家への橋渡しが支援の要
――今後の学生支援の在り方について、お考えをお聞かせください。
関根さん:学生のメンタルヘルス支援において、「早期発見」と「適切な専門家への橋渡し」が非常に重要です。
入学時や学期ごとにアンケートなどを実施し、希望する学生や遅刻・欠席が増えている学生と面談をして、必要に応じて専門家につなぐ。ポイントは、「問題が深刻化してから対応する」のではなく、「いかに早く気づき、専門家へ結びつけるか」という視点です。
とはいえ、先生方にとってメンタル面は専門外であることも多く、「もう少し様子を見よう」と判断が遅れてしまうこともあるでしょう。学生にとっても、いきなり精神科や心療内科の受診を勧められるのは心理的なハードルが高く、保護者の受け止め方も気になるところです。だからこそ、スクールカウンセラーや相談員といった“クッションとなる存在”が重要になります。専門職を介することで、学生や保護者が支援を受け入れやすくなります。
アンケートなどの「早期発見」の仕組みを導入しても、その後に対応できる体制が整っていなければ意味がありません。「気になる学生が見つかったが、どうしたらよいかわからない」という状況を防ぐためにも、まずは受け皿を整えたうえで実施することが大切です。
日々学生と接している先生方の「ちょっとした違和感」が、支援につながるきっかけになるケースも少なくありません。その違和感を共有し、気軽に話し合える職場風土があることも、学生のメンタルヘルスを守る大きな力になります。
早期発見の仕組みと、安心して相談できる環境づくり。この両輪が、これからの学校現場には求められているのではないでしょうか。
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