実務教育・職業教育に関わる皆さまにお役立ち情報をお届け!

実務教育・職業教育に関わる皆さまにお役立ち情報をお届け!|ウイナレッジ WE KNOWLEDGE

実務教育・職業教育に関わる皆さまにお役立ち情報をお届け!

TOP特集インタビュー専門学校教員の「見えない専門性」とは?―支援のあり方を考える

専門学校教員の「見えない専門性」とは?―支援のあり方を考える

お話を伺ったのは▼

福岡大学 人文学部 教育・臨床心理学科 教授

植上一希さん

専門学校生・卒業生・教職員へのインタビューやアンケート調査をもとに、専門学校教育に関する研究を行う。現在は、専門学校教員のキャリア形成を中心に研究を進めている。文部科学省による研修プログラム開発や講師、政策立案にも携わる。

専門学校教員は、学生の「最後の学校教育」と「職業教育の出発点」を担う、非常に重要な存在です。しかし、その役割の大きさや求められる資質に対して、支援体制が十分に整っているとはいえません。

本記事では、専門学校教育を研究する植上一希教授へのインタビューを通じて、専門学校教員に求められる役割や資質能力、そして研修・サポートの課題と今後の方向性について解説します。

こちらも読まれています

専門学校教員は「最後」と「最初」を担う存在

―――専門学校教員に求められる社会的役割について教えてください。

植上さん:私が研修などでお伝えしているのは、「専門学校教員には大きく2つの役割がある」ということです。

1つ目は、「最後の学校段階の教育者」です。多くの学生にとって、専門学校は“最後の学校”になります。つまり、職業世界へ移行する前の最終段階で学生と向き合う教育者です。

専門学校はこれまでの学校生活の集大成である一方で、小中高で学校に馴染めなかった学生や、社会に出る準備が十分でない学生もいます。そうした学生を支え、学校に適応させ、社会へ送り出す重要な役割を担っています。

2つ目は、「職業世界における最初の教育者」です。学生にとって専門学校教員は、職業の世界における“最初の教育者”となります。学生が憧れを抱いて目指す職業へと導き、その仕事の誇りや厳しさを伝える役割です。

求められるのは「職業人」と「教育者」の融合

――非常に重要な役割を担っていますが、求められる資質能力はどのようなものでしょうか?

植上さん:専門学校教員には、小中高の教員とは異なる資質能力が求められます。

参考:専門学校教員の多様なキャリアパスを 考慮した研修のあり方(2)

まず、「専門学校教員に必要な資質能力モデル」の左上にあるように、「職業領域おける専門家としての側面」です。技術や業界知識、職業人としての価値観や姿勢などといった専門性が必要となります。

もう1つは上段の右上「学校領域における専門家としての側面」です。教育に関する知識や授業設計、カリキュラム編成など、学校教育に必要な能力となります。これは小中高とも共通する部分です。

この2つを融合したものが専門学校教育の専門家として必要な資質能力”となります。

例えば、「職業人ルーキー」を養成するにあたり、どのような人材設定、どのような教育課程編成をするのかといったことは非常に難しい課題です。小中高や大学ではあまり議論されない領域であり、専門学校教員特有の高度な専門性といえます。さらに、実習の設計や現場との連携も、専門学校ならではの重要な能力です。

小中高との違いは「育成の仕組み」にある

――小中高の教員との違いについてはどうでしょうか。

植上さん:大きく異なる点が2つあります。

まずはキャリアルートです。小中高の教員は養成課程を経て教員になりますが、専門学校教員にはその仕組みがほとんどありません。そのため、十分な教育訓練を受けないまま教壇に立つケースも少なくありません。

もう1つは、研修や横のつながりについてです。小中高の教員は、入職後も教職経験年数に応じた研修制度が整っており、教員同士のつながりも多い。これが教員の資質能力を高め、職業上の不安や困難を乗り越える重要な要素になっています。

一方、専門学校教員は研修制度が十分ではなく、学校を越えた情報共有の場も限られています。そのため、自身の資質能力を高める機会や、悩みを相談する機会が不足しています。

ただ、専門学校教員は実務経験を持つプロフェッショナルであるという強みがあります。小中高の教員は、職業世界の実情を知らない場合が多いです。専門学校教員は学生が目指す職業世界の先輩として、専門知識や技能、価値観を伝えることができるというのは大きな強みだと考えます。

質・量ともに発展が必要

――研修や研鑽機会における課題を教えてください。

植上さん:専門学校教員の多くはOJTで学びますが、教員数が少なく、校内に指導者がいないというケースも少なくありません。特に新設学科やマイナーな学科の場合は横とのつながりが弱いことも考えられます。OJTのしにくさも、特に小規模校が抱えている課題といえます。

また、協会や民間団体が実施する外部研修についても、質・量ともに十分とはいえません。調査結果から、「必要とされる内容の研修が提供されていない」という課題も見えてきています。

また、「忙しくて参加できない」「費用負担が大きい」「必要性を感じない」といった声も見られます。これは裏を返せば、“参加したくなる研修になっていない”とも言えます。「忙しいけど役に立ちそうだから行きたい」と思えるような、また気軽に行けるような研修を用意できるかが大きな課題として考えられます。

必要なのは「教員になった後の支援」

――それでは、今後求められるサポートについて教えてください。

植上さん:専門学校教員には高い資質能力が求められる一方で、支援体制は十分とはいえません。とはいえ、「専門学校教員になる前に長期間の養成課程を設ける」となるとハードルが高く現実的ではありません。だからこそ、教員になった後の研修や支援を充実させる必要があります。

これは学校単体ではなく、団体や政策レベルで取り組むべき課題です。

――なぜサポートが少ないのでしょうか。

植上さん:職業教育や専門学校教育の高度さや求められる資質能力が可視化されてこなかったことが要因の1つです。

専門学校教員は、自らの職業経験をもとに学生に教えていると思いますが、それは簡単なことではありません。ご自身が培ったキャリアと教員としての資質能力をミックスさせながら、職業教育をするというのはものすごく高度なことです。これまで個人の努力に委ねられてきた側面があります。その結果、「支援が必要な仕事である」という認識が広がってこなかったのだと考えられます。

社会や学生の変化、また職業世界で必要とされる能力の変化によって、教育も変わってきています。専門学校教員に対する解像度をもっと上げていかないと、求められる資質能力とケアとのギャップがますます広がってしまうのではないでしょうか。

「職業的アイデンティティ」を形成する場を用意

――では、専門学校教員に必要な研修はどのようなものがあるでしょうか。

植上さん:新任段階では、「学校の先生」としての基礎知識や技能の習得が重要です。中堅以降は、実習の進め方やカリキュラム設計など、専門学校特有のマネジメント能力が求められます。

また、先生方が学生との向き合い方で悩まれているという話をよく伺います。学生とコミュニケーションを取る際に必要なのは他者理解です。今の若者がどのように育ってきたのか、どういう教育を受けて、どんな意識を持っているのか。もっと言うと、専門学校に進学してくる学生たちがどのような若者なのか、解像度を上げていくことが重要です。近年は留学生や社会人学生も増え、学生像は多様化しています。昔の常識のままでは通用しません。そこは研修で基本的な知識や技法をカバーできると思います。その上で、自分の学校の学生とどのように向き合うのか、現場での実践的な研鑽が必要になってきますが、やはり基本的な知識や技能を学んでいるのといないとでは、心構えも違ってくるかと思います。

さらに強調したいのは、専門学校教員としての「職業的アイデンティティの形成」です。具体的に言うと、専門学校教員という職業に対する誇り、やりがいをもち、価値観、行動様式などを身につける機会が必要だと考えます。

小中高の教員は、多くの場合学校を卒業してそのまま教員になっているので、「私は学校の先生」というアイデンティティを持ちながら過ごしているものです。子どもの頃から「学校の先生になりたい」と憧れを抱いていた人も多い。

一方で専門学校教員は、もともと別の職業から転身するケースが多く、「最初から教員を志していた」という人は少数です。そのため、「職業的アイデンティティ」が専門学校教員にあるわけではなく、ともすると、前職にある場合もあり得ます。それも決して悪いことではないんですが、専門学校教員としてプロフェッショナルになることを考えると、専門学校教員としてのアイデンティティを身につける機会も重要だと思います。

そのため、専門学校教員の社会的役割ややりがいを教員同士、または社会的にも伝えていけるような場を作るべきだと考えます。

研修を後押しする環境づくりを

――学校単体でできる教員のサポートにはどんなものがあると考えられますか。

植上さん:学校単体で企画して研修をするのは多大な労力と時間が必要となり、なかなか難しいと思いますので、まずは「研修を後押しする環境づくり」が大切です。例えば、外部研修の情報提供、研修費用や研修に行く時間をサポートするなど、研修を奨励するムードを作ります。すでにそのようにされている学校もありますので、ひとつの手段として有効かと思います。

また、先輩教員と話す場があると、新任教員は励みになります。例えばアイデンティティの話もそうですが、無理に外部から講師を呼ばなくても、「こういったところでやりがいを感じるんだよね」「こんなときに不安を感じるんだけど、こういうふうに乗り越えたんだよね」というように、教員同士が互いに励まし合い、交流する場を作っていくことが大切です。

また、孤立を生まないような仕組みを取り入れる、例えばメンター制度、面談や職員室の空間づくりを工夫する、教員同士で困りごとを話し合う場を作る、学生について意見共有する、そういった小さなことの積み重ねでも変わってくるかと思います。

卒業生の活躍の様子を共有するといったこともいいですね。専門学校の先生方からは、卒業生の活躍にやりがいを感じると聞くことが多いので、そういった機会を作ることは、学校単体でできる教員へのサポートになると思います。

加えて、前職とのギャップを埋める支援も重要です。実務経験を活かしつつ、教育者としての視点を持てるような校内研修の実施が望まれます。

まとめ

専門学校教員は、「学校教育の最終段階」と「職業教育の出発点」を担う存在であるということがわかりました。

その役割の大きさに対して、支援体制はまだ十分とはいえません。今後は、教員の専門性を可視化し、研修や支援の仕組みを学校単体だけでなく、社会全体で整えていくことが求められています。

こちらも読まれています

この記事は役に立ちましたか?

\ぜひ投票お願いします/
この記事を書いた人
株式会社ウイネット

株式会社ウイネット

「ウイナレッジ」を運営する教育専門出版社。
30年以上にわたり、全国の専門学校、大学、職業訓練校へ教材を提供してきた知見を活かし、教職員の皆様に役立つ実務ノウハウを発信しています。
[公式HP:https://www.wenet.co.jp/]

週間アクセスランキング

週間アクセスランキング

お問い合わせ
LINE登録
メルマガ登録
LINE登録
メルマガ登録
トップへ戻る