
近年、訪日外国人旅行客(インバウンド)の増加に伴い、ホテル業界では国際的な接遇力がより一層求められるようになっています。文化や言語、宗教の違いを理解し、相手を尊重した丁寧な対応ができることは、プロのホテリエにとって重要な資質の一つです。
本記事では、ホテリエを目指す専門学生に伝えたい、外国人旅行客をお迎えする際に必要となる基本的な接遇マナーや心構えについてご紹介します。
※本記事の内容は書籍「ホテル業務関連知識」(株式会社ウイネット)の一部を再編集したものです。
目次
大切なのは「おもてなしの心」
コロナ禍を乗り越え、2024年の訪日外国人旅行者数は過去最高※を記録しました。政府の観光政策の後押しもあり、今後さらに外国人のお客様をお迎えする機会が増えると考えられます。
※参考:訪日外客数(2024年12月および年間推計値)/日本政府観光局(JNTO)
外国人のお客様を接遇する際の基本マナーは、日本人のお客様に対するものと変わりません。大切なのは、「笑顔」と「おもてなしの心」です。接遇の5原則である「挨拶」「表情」「態度」「身だしなみ」「言葉づかい」に気を配りながら、相手の文化や習慣、宗教、言語などが自分たちとは異なるということを理解し、丁寧に対応する必要があります。
相手が外国人だからといって、過剰にへりくだったり、反対に横柄な態度を取ったりしてはいけません。また、国籍や肌の色、人種によって接し方に差をつけることも、もちろんあってはならないことです。
接客時のマナー

(1)会話時のマナー
接客における最も基本的なマナーは、相手のお話をよく聞き、笑顔を忘れずに対応することです。うなずきや表情で反応を示し、落ち着いた態度で会話をしましょう。会話中は相手の目を見て話すことが大切です。また、ときおりお客様のお名前を会話に入れることで、より丁寧で親しみのある印象を与えることができます。
外国人のお客様と接する際には、言語の違いが障害になることがあります。相手のおっしゃっていることがわからないからといって、曖昧に「Yes」や「No」と答えてしまうのは避けましょう。聞き取れなかった場合は、1回程度なら聞き返しても問題ありませんが、何度も繰り返すのは失礼にあたります。
ホテルスタッフとして語学力があることは理想的ですが、自信がない場合には無理せず「Just a moment, please(少々お待ちください)」などと伝えて、語学が堪能なスタッフに交代してもらいましょう。「I don’t know(わかりません)」という表現は、無責任で不親切な印象を与えるため、使用は控えましょう。
また、イギリス人やアメリカ人のお客様に対しては、会話の終わりに「Sir」や「Ma’am」を付け加えると、より丁寧な印象になりますので、必要に応じて使うとよいでしょう。
(2)エレベーター乗降時のマナー
お客様とエレベーターに乗る際には、ホテルスタッフがまずドアを押さえます。お客様が1名の場合は、その方を先にご案内します。複数いらっしゃる場合は、スタッフが先に乗り、開閉ボタンを押しながら扉を手で押さえ、安全を確保したうえで、上位のお客様から順にお乗せします。
エレベーターの中では、入り口から見て左奥が最上位の位置となるため、その場所に上位のお客様をご案内します。スタッフは乗車後、階数ボタンの前で半身になり、お客様の方を向いて立ちましょう。
降りる際にはドアを押さえながら、下位のお客様から順に誘導し、最後に上位のお客様をご案内します。
(3)自動車乗降時のマナー
タクシーなど運転手付きの車両(右ハンドル・左ハンドルいずれも)においては、座席の位置にもマナーがあります。通常、最上位者の席は後部座席の右側、第二位は左側、第三位は中央席となり、最後が助手席です。
ただし、車寄せの位置や道路の通行方向によっては、左側が最上位の席となる場合もありますので、状況に応じて配慮が必要です。
また、警護の警察官(SP)が助手席に乗車している場合などには、後部座席のドアを勝手に開けるのは控えましょう。お客様の安全と尊厳を守る丁寧な対応が求められます。
外国人にとっての「握手」
握手は、多くの外国人にとって挨拶や親しみを示す大切な行為です。その起源には諸説ありますが、相手に対して「武器を持っていない」という安心感を伝えるために行われていたともいわれています。日本ではあまり馴染みのない習慣かもしれませんが、国際的なマナーとして、握手のルールを知っておくことはホテリエを目指すうえでとても重要です。
握手の注意点
握手をする際には、以下の点に注意しましょう。
- 手袋をしている場合は外してから握手をします。
- 相手の目をしっかり見て、手全体をやさしくしっかり握りましょう。
- 女性と握手をする場合は、やや軽めに握るのが一般的です。
- 基本的には、握手をしながらお辞儀はしません。ただし、日本のホテルスタッフの場合、お客様に対する敬意を示すために、軽く会釈する程度であれば問題ありません。
- 自分の名前を名乗ってから握手を行い、その後に名刺を渡すのがスマートな流れです。
なお、目上の人に対してこちらから握手を求めるのは失礼にあたることがあるため、注意が必要です。また、男性から女性に握手を求めることは控えるのが基本的なマナーとされています。
レディーファーストの心得
外国人女性のお客様を接遇する際には、特に「レディーファースト(女性優先)」の考え方を意識して行動することが大切です。これは欧米をはじめ多くの国で、日常的なマナーとして根付いており、ホテリエとして理解しておくべき接遇の一つです。
以下に、一般的なレディーファーストの例をご紹介します。
- エレベーターやドアの出入りの際には、男性がドアを押さえ、女性を先にご案内します。
- エスカレーターや階段では、上り・下りどちらの場合も、男性が先に立ち、女性を見守るようにします。
- レストランなどでお席にご案内する際は、女性を先にテーブルまで誘導し、椅子を引いて着席をサポートします。
- 車に乗るときは、男性がドアを開けて女性を先にご案内し、降車時には男性が先に降りてから女性側のドアを開けてエスコートします。
- クロークや玄関などでは、男性が女性のコートや上着の着脱を手伝うことも、レディーファーストの一環とされています。
食事に関する宗教的なタブー
現在の日本には、世界各国からさまざまなお客様が訪れています。その中には、民族や宗教、あるいは個人の価値観によって、食事に制限を持っている方も少なくありません。
日本ではあまり多くないかもしれませんが、たとえば宗教上の理由で特定の食材を避けている方や、菜食主義(ベジタリアン)の方など、対応が必要となるケースもあります。
ただし、宗教や食習慣には個人差があり、必ずしも一律とは限りません。たとえばイスラム教徒であっても、厳格に戒律を守る方もいれば、多少緩やかに対応される方もいらっしゃいます。あくまでも「一般的な傾向」として理解し、お客様一人ひとりの意向に合わせた対応が必要です。
最も大切なのは、お客様からご要望があった際に、柔軟に、そして誠実に対応できる準備と心構えを持っていることです。
さらに、もしそのお客様がリピーターやお得意様であれば、お申し出をいただく前に、あらかじめその方の食の制限やご希望を把握しておくことが、ホテリエとしての信頼につながります。
例として、各宗教における食事のタブーについて、以下に代表的なものをまとめました。
| 宗教 | 食事におけるタブーの内容 |
|---|---|
| キリスト教 | 宗派の1つであるモルモン教では、アルコール類、コーヒー等に含まれるカフェインを禁じている。 |
| イスラム教 | 豚肉、アルコール類、ラードは禁止。 左手は不浄とされ、右手で食事をする。 |
| ユダヤ教 | 豚肉、馬肉、貝類、甲殻類、イカ、タコは禁止。 「魚と卵を除く動物に由来する食品+乳や乳製品」の組み合わせで食べることを禁じている。 |
| ヒンドゥー教 | 肉類(牛肉は厳禁)、アルコールは禁止。 ベジタリアンが多いとされている。 |
このような知識と配慮は、国際的な視点を持つホテリエには欠かせません。日々の学びの中で、文化の違いを尊重する姿勢を大切にしながら、より良い接遇力を身につけていきましょう。
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