
大阪・関西万博で、注目を集めている技術の一つが「培養肉」です。これまでの畜産とは異なる方法で作られる食用肉で、私たちの食生活や地球環境を大きく変える可能性を秘めています。
本記事では、培養肉の基本や期待されている4つのメリット、実用化に向けての課題を詳しく解説します。未来の食を考える教育のきっかけとして、授業のテーマに取り入れてみてはいかがでしょうか。企業の取り組み事例も紹介しています。
目次
培養肉とは?基本を解説

新たな可能性を切り開く技術として、世界中で研究開発が進められている培養肉。ここでは、基本を解説します。
- 動物の細胞から作られる人工肉
- 代替肉との違い
- 注目される背景
それぞれ見ていきましょう。
動物の細胞から作られる人工肉
培養肉は、動物を屠畜することなく人工的に肉を作り出す技術です。牛や豚、鶏などの動物から採取した筋肉の細胞を培養液のなかで増殖・成長させ、細胞が充分に増えたら肉の形に成形していきます。成分のバランスを調整し、栄養価をコントロールすることも可能のようです。環境への負担が少ないことから「クリーンミート」とも呼ばれることもあります。
代替肉との違い
よく培養肉と混同されるのが「代替肉」です。どちらも従来の食肉に代わるものですが、製造方法や原材料は大きく異なります。代替肉は大豆やえんどう豆などの植物性タンパク質を主原料とし、味や食感を肉に似せる形で作られた製品です。
一方、培養肉は動物の細胞を原材料としており、科学的に見ると本物の肉とほぼ同じ構造を持っています。つまり代替肉が「植物から作られた肉もどき」であるのに対し、培養肉は「より本物に近い肉」といえるでしょう。
注目される背景
培養肉が注目される背景には、現代社会が抱えるさまざまな課題が挙げられます。たとえば、世界人口の増加に伴う食糧不足への懸念です。国連の予測によれば、2050年には世界人口が約98億人に達するといわれており、従来の畜産方式では食肉の需要を満たせなくなる可能性があると指摘されています。
また畜産業に伴う森林伐採や水資源の大量消費など、地球環境にかかる負荷も深刻です。このような問題の解決策として、世界中の研究機関や企業が日々開発に取り組んでいます。
培養肉の実用化で期待されている4つのメリット
培養肉が実用化されれば、従来の食品生産の常識を覆す技術となるでしょう。期待される主なメリットは、次の4つです。
- 動物の尊厳を守れる
- 食料危機の解決に繋がる
- 環境への負荷を減らせる
- 食の安全性向上が期待できる
それぞれ解説します。
1.動物の尊厳を守れる
従来の畜産は、食肉用に育てられる動物の飼育環境や屠畜時のストレスが問題視されてきました。培養肉技術を使えば、動物から少量の細胞を採取するだけで大量の肉を生産できるため、生体を傷つけることなく安定的な供給が可能になります。
そのため「動物に苦痛を与えたくない」「命を大切にしたい」と考える人たちに注目されているのです。
2.食料危機の解決に繋がる
世界的な人口増加に伴い、食料需要も大幅に増加すると見込まれています。しかし限られた土地と資源では、それを従来の畜産のみで賄うのは困難です。一方で培養肉は、狭いスペースと少ない水資源で生産できる可能性を秘めています。
「将来、食べ物が足りなくなったらどうしよう」と不安を感じる人にとって、培養肉は新たな希望となるでしょう。
3.環境への負荷を減らせる
畜産業は温室効果ガスの排出や森林伐採、水資源の大量消費など、環境に大きな負荷をかける産業です。特に牛のげっぷから発生するメタンガスは、二酸化炭素よりも温暖化に与える影響が大きいとされています。
培養肉は生産時に必要な土地や水の量が少なく、排出される温室効果ガスも大幅に削減可能です。地球環境に優しい食料生産への転換は、持続可能な社会の実現に不可欠であり、培養肉は重要な役割を果たす食品となるかもしれません。
4.食の安全性向上が期待できる
従来の畜産は、病気予防のために抗生物質が多用されるケースもあり、その影響で薬剤耐性菌が発生するリスクが指摘されています。動物の飼育環境や輸送時の衛生管理が不十分であれば、細菌や寄生虫による汚染も起こりやすくなるでしょう。
培養肉は管理された環境下で生産されるため、これらのリスクを回避できます。抗生物質や成長ホルモンの使用も最小限に抑えられるため、人体の健康への懸念も減らせるでしょう。より安全で安心な肉を消費者に届けられる可能性を秘めていることは、培養肉の大きなメリットといえます。
培養肉の4つの課題とデメリット
多くの可能性が期待されている培養肉ですが、実用化するには乗り越えなければならない課題とデメリットがあります。それが以下の4点です。
- 生産コストが高い
- 味や食感の再現が難しい
- 消費者の心理的ハードルが高い
- 畜産業界に大きなダメージを与える可能性がある
順番に解説します。
1.生産コストが高い
実用化における大きな課題の一つが、生産コストの高さです。現在の培養肉は開発段階で特殊な培養液や設備が必要となるため、従来の食肉に比べて高価となっています。2013年に初めて開発された培養肉バーガーは、1個あたりの生産コストが3,000万円以上かかったそうです。
その後、1個あたりの生産コストを1,300円程度まで下げることに成功したようですが、それでも一般的な肉製品と比べると高く、大量生産する方法も確立されていないことから実用化はされていません。一般消費者が手軽に購入できる価格にするためには、生産効率の向上やコスト削減のための技術開発が不可欠です。
2.味や食感の再現が難しい
肉の「おいしさ」は単に筋肉細胞だけでなく、脂肪や結合組織、焼いたときの香ばしさなどが複雑に絡み合って生まれるものです。現状の技術では、従来の食肉が持つ味や食感を完全再現するまでには至っていません。消費者が満足できる品質の培養肉を開発するためには、さらなる研究と技術革新が求められます。
3.消費者の心理的ハードルが高い
「実験室で作られた肉」と聞くと、どうしても「不自然」「怖い」といったネガティブな印象を持つ人も少なくありません。特に高齢層や伝統的な食文化を重視する層にとっては、人工的なイメージが大きな壁となる可能性があります。
普及には正確な情報提供や試食体験の機会を作るなど、消費者の理解を得るための取り組みが必要となるでしょう。
4.畜産業界に大きなダメージを与える可能性がある
従来の畜産業に大きな影響を与える可能性も考えられます。培養肉が食肉市場の大きなシェアを占めるようになれば、これまで畜産農家や関連産業に従事してきた人の雇用が失われてしまうかもしれません。地域経済への影響も懸念されます。
そのため単に技術革新を進めるだけでなく、畜産業との共存や新たな産業への転換支援も検討する必要があるでしょう。
禁止している国も?培養肉の安全性

未来の食材として注目されている培養肉ですが、安全性に関しては世界各国で議論されている最中です。さまざまな懸念から、販売や流通を禁止している国もあります。たとえばイタリアでは、2023年11月に培養肉を含む細胞性食品の製造・販売を禁止する法案が可決されました。禁止の背景には、食文化の保護や伝統的な農業の維持、消費者保護の観点があるとされています。
日本では2025年5月時点で法が整備されておらず、販売は認められていません。一般家庭の食卓に並ぶまでには、まだ時間がかかりそうです。
培養肉に関する企業の取り組み事例3選
培養肉の実用化に向けて、国内でもさまざまな企業が研究開発に取り組んでいます。ここでは、注目度の高い3つの取り組みを紹介します。
- 培養ステーキ肉の開発:日清食品グループ
- 培養肉の商用化に向けて新会社を設立:日揮ホールディングス株式会社
- 培養肉自動生産装置の開発:培養肉未来創造コンソーシアム
それぞれ見ていきましょう。
培養ステーキ肉の開発:日清食品グループ
日本の食品大手である日清食品グループは、2019年に世界で初めてとなる「培養ステーキ肉」を開発しました。従来の培養肉はミンチ状のものが多かったのに対し、ステーキのような塊肉の作製に成功したことは、今後の可能性を大きく広げる画期的な成果といえるでしょう。
培養肉の商用化に向けて新会社を設立:日揮ホールディングス株式会社
日揮ホールディングスは、2021年11月に「株式会社オルガノイドファーム」を設立し、世界で初めて「オルガノイド技術」を培養肉(クリーンミート)生産に応用する取り組みを開始しました。医薬品分野で培った細胞培養技術とエンジニアリング技術を駆使し、2030年の商業プラント稼働を目指しています。
培養肉自動生産装置の開発:培養肉未来創造コンソーシアム
「培養肉未来創造コンソーシアム」は、以下の大学・企業・研究機関が連携して設立された共同組織です。
- 大阪大学大学院工学研究科
- 株式会社島津製作所
- 伊藤ハム米久ホールディングス株式会社
- 凸版印刷株式会社(現・TOPPANホールディングス株式会社)
- 株式会社シグマクシス
- ZACROS株式会社
このコンソーシアムでは、3Dバイオプリント技術を活用した培養肉の自動生産装置の開発に取り組んでいます。大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンでは、培養肉の実物やミートメーカーのコンセプトモデルが展示中です。
まとめ
培養肉は、食料問題や環境問題の解決に向けた技術として注目を集めています。一方で生産コストや味の再現性、消費者の心理的な壁といった課題も残されており、さらなる取り組みが不可欠です。今後の進化に注目していきましょう。
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鶴巻 健太
新潟在住のSEOディレクターで「新潟SEO情報局」というサイトを運営中
ウイナレッジのコンテンツ編集を担当
朝は農業を楽しみ、昼はスタバのコーヒーと共にパソコンに向かうのが日課









