
連載専門学校の先生のお仕事ライフハック
全国の専門学校の先生にインタビュー!先生の「お仕事ライフハック」=働くうえでの仕事術やアイデアを共有してもらいます。同じ職業だからこそ分かるお悩みやテクニックを参考に、明日からのお仕事ライフをアップデートしちゃいましょう!
資格取得や検定の合格を目指す専門学生にとって、モチベーションを維持することは非常に重要です。ただ、専門学生の退学理由のうち、一番高い割合を占めるのが「学生生活不適応・就学意欲低下※」。モチベーションが、資格や検定だけでなく、「学校に居続けられるか」ということにまで影響してしまっているようです。
※出典:令和5年度 専⾨学校⽣の中途退学者・休学者数等の調査結果
第11回は、専門学校教員として学生指導にあたりながら、アスレティックトレーナーとしてスポーツ選手への運動指導を行う、学校法人 三幸学園 大阪リゾート&スポーツ専門学校の井ノ下耕大先生にお話を伺いました。

学校法人 三幸学園 大阪リゾート&スポーツ専門学校
教務主任 /全国教科チーフ
井ノ下耕大 先生
これまでにオリンピックメダリストや日本代表選手など、数多くのトレーナー経験を持つ。現在は専門学校教員として学校の運営や資格指導に従事しながら、現役のアスレティックトレーナーとしても活動。
目次
経歴 ・先生になった理由
トレーナーとして活躍中に母校からスカウト
私は本校の卒業生なんですが、実は高校3年生のときにあまり進路について考えていなくて…。卒業間近の冬にたまたま図書館で「13歳のハローワーク」という本を開き、「アスリートを支える仕事」として「アスレティックトレーナー」という仕事があることを知りました。高校野球をやっていたものですから、「そんな仕事ができたらいいな」と安易に考えて(笑)。アスレティックトレーナーを目指せる学校をいくつか見学して、本校へ入学しました。無事、在学中に目指していたアスレティックトレーナー資格に合格。学校で学ぶうちに、「根本的に体が傷まないようにケアする仕事がしたい」と思うようになり、2年生の2月から整骨院でアスレティックトレーナーとして働き始め、そのまま新卒で入社しました。
ただ恥ずかしながら、1年ほどでそこを退職しまして。その後、トレーナーの派遣会社のようなところから、個人でチームに派遣される形でアスレティックトレーナーとして経験を積みました。同時期に父から「これだけが仕事なわけじゃないんだから」と言われたこともあり、興味のあったバリスタの仕事もしていましたね。
そんなときに、ありがたいことに母校から「教員にならないか」と誘っていただいて。実は専門学生時代、先生方がすごく楽しそうに働いている印象があり、教員になりたいと思ったことがあったんです。すぐにオファーを受けました。
以前はアスレティックトレーナーの資格に合格するのは本当に難しく、在学中は合格者が学内で私1名のみだったんです。そんなこともあり、卒業後、オープンキャンパスにゲストとして何度か呼んでいただいて、高校生に向けていろんな話する機会がありました。その様子から、「教員に」と声をかけていただけたのかなと思います。
現在の業務
教員を務めながらトレーナーとしても最前線で活動

現在は、教務主任として大阪校の運営、AT(アスレティックトレーナー)全国教科チーフとして三幸学園のAT資格合格率向上を目的に、カリキュラムや施策、三幸学園オリジナルAT全国模試の方向性の決定などを担当しています。
また、アスレティックトレーナーとして個人的にも活動しています。個人で契約させていただいている大学の女子ラクロス部と兵庫県の高校野球部、この2チームには、平日の夜に本校へ来てもらい、私が管理者、学生が実習生という形で選手に運動指導やリハビリを行っています。現場の即戦力を育成する、とてもいい機会になっています。
そのほかにも、和歌山県の小学校で子どもたちへの運動指導、パーソナルトレーニング指導としてアイスホッケー日本代表選手、ライフパフォーマンスを向上させたいという方や人工関節の手術をした方など、シーズンによっていろいろな方を担当させていただいています。2017年~2021年の4年間は、空手男子組手の東京2020オリンピックメダリストの選手をサポートさせていただきました。
また、大阪府堺市の中学校を対象とした「部活動改革」にも関わらせていただいています。
学生は、実際にその分野を学んでいない先生から教えてもらっても、納得しにくいんじゃないかと思うんです。学生のためにも自分自身のためにも、学校外での活動は今後も続けていきたいです。
やりがい・おもしろさ
学生が成長していく姿を見守れること
本校では、一年生の終わりに、アスレティックトレーナーの資格を目指すか、一般の方への運動指導の道に進むか、学生が自分で選べるんです。アスレティックトレーナーは正直難しく、勉強がハード。あるとき、どちらに進むか悩んでいる学生がいました。あまり人前で話すことが得意じゃない学生で。「実習でいい経験が絶対にできるから、だまされたと思ってアスレティックトレーナーの方においで」と伝えました。その子は今3年生なんですが、先ほどお話しした実習で班のリーダーとなり、AT全国模試もトップスコアを取っています。ミーティングを仕切ったり、後輩指導をしたりと、1年生の頃とは別人のようです。私はただきっかけと環境を与えただけで、細かく指導したわけじゃないんです。昨日もトレーナーになった卒業生と会ったんですが、学生時代とはもう別人のような顔をして現場で仕事していて…。そういう風に人が変わっていく、成長していく姿を見守れるのは、教員のやりがいだと思いますね。
達成感を得た経験
高難易度資格の合格率100%を達成!学校全体の空気が変わった

日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー資格の合格を目指した資格教育です。私が在校生のときは、合格者が学内で私1人、歴代で現役合格2人目という状況でした。そんな高難易度の資格に、初めて担任を持たせていただいた学年から「10名合格させましょう」と宣言したんです。私が教員になって2年目、大阪校のチーフになったタイミングでした。最初は会議で笑われましたね。ただその翌年に理論試験で10名が合格しました。私がしたことは、実習の環境を作ったり、細かな声かけをしたりと、今考えれば少ないんですけど。そこから周りの先生方の温度も上がっていき、会議で笑っていた先生も前向きになってくれて…。学生要因のネガティブな話をする先生が圧倒的に減っていき、今では「学生は頑張っている、伸ばしてあげられないのは学校側の要因」という考えに変わりました。
現在は2桁合格が平均となり、昨年度は受験者全員が合格、合格率100%を達成することがきました。もちろんこれは私だけの成功体験でなく、先生方の熱量、学校としての風土、AT全国模試など、さまざまな要素が重なった結果だと思います。
お仕事ライフハック
体感・体験型の授業で学生のモチベーションを維持
本校の学生は、体を扱う仕事ということもあり、頭で考えるのでなく、体感・体験型の学習がマッチします。自身の身体の変化を体感すること、また、ペアの学生の身体を変化させることができたという「経験」がないと、モチベーションを保てないんじゃないかと思っています。
実習では、1人の選手に対して私と実習生の2人でサポートに入り、選手には申し訳ないんですが、ケースワークのような形でアプローチします。例えば肩が痛い場合は「こことここをチェックしてみよう」と試してみる。自分のやったことで実際に肩の痛みが取れる。「全然痛くなくなりました!」と選手に言われる。そんな成功体験を積み重ねられるようにしています。
学生とのコミュニケーション
ときには熱をもって学生を引き込むスタンス
寄り添って同じような目線が必要な学生には最初はそうしてみたり、ときには引っ張るような声かけをしたり、状況によって距離感を意識していますね。
ただ、例えば「やめたいです」「勉強のやる気が起きません」といったネガティブな相談を受けたとき。自分は学生時代にやめたいと思ったことはなかったし、学校の勉強をいやだと思ったこともなかったんですよね。それなのに「わかるわかる」と話を合わせても、あまり学生には響かなくて。根性論みたいになっちゃいますが、「四の五の言わずに1回本気で、全力で取り組んでみたら、新しい景色が見えるんじゃない?サポートするから一緒にやってみようぜ」というスタンスで、こちらが熱をもって学生を引き込むことも大切にしています。資格って合格の水準が絶対にあるわけで。それを変えることはできないので、その水準へ学生を連れていくには、ある程度こちらに巻き込むスタンスの方がいい。その方が、合格率も上がるし、学生も納得感をもって話を聞いてくれる気がします。
ワークライフバランス
忙しい日々に充実感。最近はバランスも意識

土日にアスレティックトレーナーとして個人の仕事があるので、休みは月6日ほど。教員になる前は年間で数日しか休んでいませんでした。他の方から見ると仕事に偏っているように見えると思うんですが、私はハードワークの中でタスクをクリアしていくことで、仕事や生活の充実感を得られるタイプなんです。暇な時間は、逆に不安になるというか「なんかもっとやらなあかんことがあるんじゃないか?」と思ってしまう。なので、忙しいことに全くストレスは感じていません。
ただ、家族が増えたことで価値観に変化があり、休む時間も取りたいと思うようになりました。最近は少しずつ休日を増やして、子どもとの時間を大切にしています。
学校の自慢
徹底的に作り込まれたオリジナルのAT全国模試
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー資格合格を目標とした、三幸学園グループオリジナルのAT全国模試は、ほかにはない最高のものだと思っています。本番に近いCBT形式、過去の合格者の傾向を分析し、結果をAランクからEランクで出すランク付け。これで現状の合格確率が出るんですが、この相関性がかなり高い。自分の立ち位置が分かるから、どれくらい勉強しないといけないのか分かります。この資格は協会がやっている公式の模試がないんですが、AT全国模試はかなり作り込まれていると思います。学生のモチベーションにも大きく影響していて、Aランクならすごくテンションが上がるし、Eランクなら泣くほど落ち込む。点数が少し上がるだけでもモチベーションがすごくアップします。これも小さな成功体験の積み上げの一つになっていますね。
一日のスケジュール
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8:15出社
コーヒーを準備して仕事を始めます。
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8:25メール確認・本日(明日)のタスク確認、会議準備
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9:30リモート会議
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10:30会議終了、業務整理
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12:30昼食
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13:30学生対応
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14:00授業
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18:00授業終了、退勤
教員としての業務はここで終了です。
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18:30実習(トレーニング指導)
ここからは個人契約のアスレティックトレーナーとして実習指導にあたります。
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20:00実習終了、実習振り返りミーティング
その日の課題を学生と振り返ります。
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20:40ミーティング終了、トレーニング
学生と一緒にトレーニング。いい息抜きになっています!
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21:30トレーニング終了、帰宅
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23:15自宅到着
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24:00お風呂・軽食・自由時間
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24:30就寝
必須アイテム

MacBook・ノート・筆記用具
スケジュール管理、タスク管理、メール返信などはMacBookで。やらないといけないことや、頭の中を可視化するとき、ノートに書くことが多いので、ノートと筆記用具はずっと持ち歩いています。ノートは使いすぎてボロボロです。トレーナーとしては、強いて言えばジャージとシューズぐらいですね。
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ウイナレッジを運営している出版社。
全国の専門学校、大学、職業訓練校、PCスクール等教育機関向けに教材を制作・販売しています。