連載IT弁護士が教える!最新インターネット・SNSトラブル
近年、後を絶たないSNS・インターネット上でのトラブル。学生だけではなく、先生個人としてや学校公式のSNS運用においても注意が必要です。 元ITエンジニアで「IT弁護士」として活躍しているモノリス法律事務所代表弁護士、 河瀬弁護士に最新の事例とともにアドバイスしてもらいましょう!
学校によるSNSの活用は、近年の教育現場において重要な役割を果たしており、新たな可能性を広げていると言えるでしょう。
しかし、その一方で、教育現場におけるSNSの活用はまだまだ手探りの状態にあり、SNS上のトラブルに対する理解も不十分である場合が多いように思われます。
そこで本記事では、学校の公式SNS運用や先生個人のSNS利用において、特に気を付けたい法律や規約について解説します。
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目次
学校によるSNS活用事例
学校によるSNS活用方法としては、SNSに広告を出稿したり、インフルエンサーに依頼したりするなどさまざまな方法があります。本記事では、学校の公式SNSアカウントを開設して運用するケースについて解説します。まず、どのような活用事例があるのか見てみましょう。
1.写真や動画で学校の雰囲気を伝える
Z世代を含むユーザー数が特に多いYouTubeやX、Instagram、TikTokなどのSNSは、いずれも写真や動画といった視覚的なコンテンツが重要視されています。そのため、写真や動画をうまく活用できれば、外部に対して学校の雰囲気や魅力を効果的に伝えることができ、広報としての役割を果たすでしょう。ただし、SNSごとに、アクティブユーザーの年齢層やメインとなるコンテンツの種類が異なるため、SNSをうまく活用するためには、訴求したいターゲットに応じて最適なSNSを選択したり、SNSごとに投稿する内容を変えたりといった戦略的な部分も重要となってきます。
2.ハッシュタグを活用して対象者に届ける
各SNSには、ハッシュタグという投稿内容に関連するキーワードを「#(ハッシュマーク)」に続けて入力することで、自動的に当該キーワードがリンク化され、同じキーワードを含むSNS上の投稿を一覧できる機能があります。使用率の高いハッシュタグを使用すれば、既存のフォロワー以外にも投稿を拡散できますし、逆に独自性のあるハッシュタグを使用することで、対象者による情報の整理や検索を容易にするといった使い方もあります。
3.在学生向けにチャットボットによる問い合わせ窓口を開設
在学生向けの問い合わせ窓口として、公式LINEアカウント上にチャットボットを導入した例があります。チャットボットを導入することで、学生は24時間いつでも気軽に質問や相談ができるようになり、回答の一貫性も担保できます。また、これにより教員の問い合わせ対応の負担が軽減されることから、学校の組織体制としてSNSを有効活用した良い例と言えるでしょう。
学校のSNSトラブルと関連する法律・規約
SNSにはさまざまな活用方法・メリットがありますが、多くの人の目に触れる以上、やはりトラブルが発生しやすくなるのも事実です。
1.他人のコンテンツの無断使用
写真や動画などのコンテンツを投稿することは、SNSの有効な活用方法の1つですが、それらが他人の著作物だった場合、無断利用は「著作権侵害」であり、教育機関も刑事罰および損害賠償請求の対象となりえます。
なお、著作権法第35条には、教育機関における著作物の複製などに関して、権利制限規定(無断で利用しても例外的に著作権侵害とならない場合)が定められていますが、「授業の過程における利用」のみを対象としており、広報などの目的で利用する場合には適用されない(原則通り著作権侵害となる)ため、注意しましょう。
2.運用担当者による“誤爆”
学校の公式アカウントを開設する場合、アカウントの運用担当者による“誤爆”(個人アカウントと間違えて公式アカウントから私的な投稿をしてしまったり、公式アカウントとして不適切な投稿をしたりすること)にも注意が必要です。誤爆した内容によっては、「個人情報保護法」に違反するおそれがあるだけでなく、「プライバシー侵害」や「名誉毀損」などの不法行為に該当するおそれもあります。
また、誤爆した内容が違法でなくとも、SNSの利用規約に違反する可能性があります。例えば、誤った情報の発信や不適切な内容の投稿は、プラットフォームのコミュニティガイドラインに違反することがあり、この場合、アカウントの停止や削除といったペナルティが科されることがあります。
3.先生の個人アカウントによる不適切な投稿
学校の公式アカウントだけでなく、先生による個人アカウントでのSNS投稿も、学校の評判に多大な影響を与える場合があります。先生の個人的な投稿が仮に違法であったとしても、学校側が法的責任を負うということはほぼありません。ただし、学校の教育方針やイメージを過度に害するような投稿をした場合には、先生が懲戒処分などの対象になるケースも考えられます。
そのため、学校として事前に「どのような場合にどのような処分の対象とするのか」ということを、就業規則やガイドラインなどで一定程度明確にしておくと良いでしょう。
トラブル対策と注意点
以下では、前述のようなトラブルを念頭に、学校でSNSを活用する際のトラブル対策の例と注意点について解説します。
1.公式SNS運用ポリシーの作成
「公式SNS運用ポリシー」とは、主にアカウントの運用担当者に向けた、学校のSNSアカウントを適切に管理・運用するための基本的な指針です。ポリシーには、投稿内容の選定基準、投稿頻度、承認プロセス、緊急時の対応方法などを明確に記載することや、学校のブランドイメージを守るために、使用する言葉遣いや画像の選定基準を含めることが重要です。
また、SNSは、日々新たなサービスや機能が登場したり、仕様が変更されたりすることも多いため、ポリシーは定期的に見直し、最新のSNSトレンドや学校の状況に応じて「公式SNS運用ポリシー」を更新することも重要です。
2.先生向けのSNS利用ガイドラインの作成
先生向けの「SNS利用ガイドライン」は、先生個人のSNSアカウントを使用する際のルールを定めたものであり、就業規則などにおける処分の対象や基準を明確化する意味でも重要です。ガイドラインには、法律に関することのみならず、学校の名誉やイメージ保護の観点から、遵守してほしい事項を記載しておくと良いでしょう。
ただし、個人的なSNS利用のすべてを拘束するものではないため、ガイドラインの適用範囲や内容については適宜協議して、学校側と先生側が互いに理解を深めておくことも重要です。
3.個人情報の取り扱いとプライバシー設定
学校のSNS運用において、個人情報の保護は重要な課題の1つです。そのためには、公式アカウントにログインできる者を限定したり、2段階認証を設定したりするなど、SNS上のプライバシー設定を適切に行うことが重要です。また、定期的なセキュリティチェックの実施や、個人情報が漏えいした場合の対応についても事前に共有しておくと良いでしょう。
まとめ
学校によるSNSの活用は、単なる情報発信という側面にとどまらず、今後ますます重要になっていくものと思われます。SNSを利用する以上、さまざまなトラブルは付き物ですが、法的リスクを回避して、安全で信頼性の高い教育環境を構築するために、今できる対策を講じて有効にSNSを活用しましょう。
学生のネットリテラシー教育に
河瀬弁護士に監修いただいた書籍「SNS・ネットで違法行為をしないためのガイドブック」(ウイネット)では、実際に起こり得る身近な例をもとに、SNSやインターネットで誰もが起こしてしまう可能性がある違法行為のリスクや、その防ぎ方を学べます。学生に伝わりやすいよう、トラブル例は漫画で紹介、法律違反もイラスト付きでやさしく解説しています。グループワークなどで使用できるトラブルクイズも掲載。学生がSNSやネットをより安全に使用できるようにするための指南書です。
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河瀬 季
モノリス法律事務所 代表弁護士
小3でプログラミングを始め、19歳よりIT事業を開始。
ベンチャー経営を経て、東京大学法科大学院に入学し、弁護士に。
モノリス法律事務所を設立し、ITへの知見を活かして、IT・ベンチャー企業を中心に累計1,297社をクライアントとしている。
モノリス法律事務所:https://monolith.law/