
連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
専門学校の先生と話していると、「作品の完成度は高いのに、なぜか外部から評価されない」「技術力はあるはずなのに、就職活動やコンテストで結果が出ない」という学生がいると聞くことがあります。原因はさまざまだと思いますが、その一因として考えられるのが「プレゼン力」です。
「プレゼンテーション」とは、単に人前で話すことではありません。自分の考えや成果、価値を「相手に届ける行為」であり、言い換えれば「相手にプレゼントを贈る」コミュニケーションです。相手が何を求めているのかを考え、それに合わせて伝え方を工夫する。この意識があるかどうかで、プレゼンの伝わり方は大きく変わります。専門学校の教育現場においても、プレゼンは特別な場面だけで行うものではありません。作品発表、課題説明、実習報告、就職活動――あらゆる場面で「伝える力」が求められています。
それにもかかわらず、学生自身は「プレゼンが苦手」「人前で話すのは向いていない」と感じているケースが少なくありません。その背景には、「伝える力」が十分に育っていないという課題があります。
そこで今回は、専門学生のプレゼン力をどのように捉え、どのように育てていくかについてお伝えします。
なお、教員としての授業プレゼンについては、こちらの記事「指導スキル(1)~伝える力(説明力)を高めるプレゼンスキル」をご覧ください。
目次
1.専門学生が「プレゼンが苦手」と感じる理由とは

学生に「プレゼンは得意ですか」と尋ねると、多くが「苦手です」と答えます。その理由をよく聞いてみると、「人前で話すのが恥ずかしい」「緊張する」といった性格的な問題よりも、「何をどう話せばいいのかわからない」という声が目立ちます。
制作や実習では、手順や評価基準が比較的明確に示されます。一方で、「説明する」「発表する」ことについては、「とりあえずやってみよう」「頑張って話そう」と、感覚的に扱われがちです。
その結果、学生は頭の中では理解している内容を、相手に伝わる形に組み立てられないまま発表に臨むことになります。つまり、学生がプレゼンを苦手とする本当の原因は、「何をどう話せばよいのかが整理できていないこと」である場合が多く、頭の中の考えを言葉として組み立てる経験が不足しているのです。
また、真面目な学生ほど、PowerPointなどの資料とは別に原稿を用意し、それを丸暗記して、文章をそのまま読み上げようとしてしまう傾向があります。このことも「伝える」ことから逆行してしまう原因になり得ます。
2.学生へ伝えたい四つの要素
プレゼンには、「上手な人がやるもの」「才能が必要なもの」というイメージがあるかもしれません。実際、プレゼンが苦手だと感じる学生ほど、「自分には向いていない」「話すセンスがない」と思い込みがちです。しかし、プレゼンは決して才能や性格に左右されるものではありません。
プレゼンは大きく分けると、「目的」「相手」「構成」「表現」という要素で成り立っています。
- 目的は何か
- 相手は誰か
- どんな構成で伝えるのか
- どの言葉や資料を使うのか
これらを整理すれば、プレゼンは“再現性のある技術”になります。デザインや音楽、映像、ITといった専門分野で行う指導と同様に、「意図を持って構成し、相手に届く形で表現する」作業にほかなりません。プレゼンを「センスの問題」から「技術の問題」へと位置づけ直すことが、学生の心理的ハードルを下げる第一歩になります。
3.指導において意識すべきこと
プレゼン指導で特に大切にしたいのが、「相手にプレゼントを贈る」という考え方です。伝える内容を準備する際、話し手はつい「何を説明するか」に意識が向きがちですが、同時に「相手は何を受け取りたいか」を考える必要があります。
聞き手が無意識にプレゼンへ求めているものは、大きく分けると次の三つです。
- わかりやすいこと
- 興味や関心を持てること
- 自分にとって役に立つこと
これらを意識して話を組み立てることで、プレゼンは「一方的な説明」から「相手に届くコミュニケーション」に変わります。また、この意識は話し手自身の表情や態度にも影響します。「相手に何を贈ろうか」と考えることで、自然と前向きな気持ちが生まれ、それが伝わりやすさにつながります。
また、プレゼンというと、一方向に話すイメージを持たれがちですが、プレゼンは本来、双方向のコミュニケーションです。相手の反応を見ながら調整することで、伝わり方は大きく変わります。
ここで重要になるのが「環境づくり」です。同じ内容のプレゼンでも、環境によって伝わり方は異なります。会場の雰囲気、座席配置、使用する資料やICT機器の使い方なども、プレゼンの一部と捉える必要があります。例えば、スライドに文字を詰め込みすぎると、受け手は「読むこと」に意識を奪われ、話を聞く余裕がなくなります。
伝えたい内容を資料でどう見せ、話でどう聞かせるか、この視点を意識させることもプレゼン指導には欠かせません。
4.通常の授業中におけるプレゼン指導とは
プレゼン力は、発表会のような特別な場面だけで身につくものではありません。通常の授業の中で、小さなアウトプットを積み重ねることが重要です。
例えば、「今回の課題で一番工夫した点を30秒で説明する」「次の作業の意図を隣の人に伝える」といった短い説明活動を取り入れます。時間を区切ることで、学生は自然と要点を意識するようになります。 また、完成形を発表させる前に、途中段階で説明させることも効果的です。試行錯誤の過程を言葉にする経験が、その後のプレゼン力向上につながります。
5.プレゼン後のフィードバック
プレゼン後のフィードバックでは、内容の良し悪しだけでなく、「どのように伝わったか」に注目します。
「結論を最初に言ったので分かりやすかった」
「専門用語が多く、初めて聞く人には難しかったかもしれない」
このように、伝わり方を言語化して返すことで、学生は次に改善すべき点を具体的に理解できます。これは、プレゼンを技術として捉えるためにも重要なプロセスです。
また、プレゼン力を高めるためには、話し手だけでなく聞き手である学生の姿勢も重要です。目的やゴールを全体で共有し、「どのような点を意識して聞くのか」を明確に指示することで、学生のプレゼンに対する当事者意識が高まります。 「質問を考えながら聞く」「イメージと照らし合わせながら聞く」といったアドバイスを繰り返すことで、学生は「聞く側」としても成長していきます。この積み重ねが、教室全体のプレゼン力を底上げします。
まとめ:プレゼンを“技術”として育てていこう
専門学校で育てるプレゼン力は、発表のためだけのものではありません。自分の学びや成果を社会に向けて翻訳するために必要な力です。
プレゼンを「相手にプレゼントを贈る行為」と捉え、技術として丁寧に育てていくことで、学生は自分の価値を自分の言葉で伝えられるようになります。その力は、就職活動だけでなく、社会に出た後も長く役立ち続けるはずです。
次回は、この「伝える力」をさらに一歩進め、授業そのものをどのように就職やキャリアにつなげていくかについて考えていきます。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)









