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TOP教養スキルアップ指導スキル(15)~ケーススタディーで学ぶ「学生の多様性に応じた指導法」(後編)

指導スキル(15)~ケーススタディーで学ぶ「学生の多様性に応じた指導法」(後編)

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

冬の訪れを感じる季節となりました。学期の終盤を迎え、学生たちの意識や関係性にもさまざまな変化が見られる頃かもしれません。

さて、前回の記事『指導スキル(15)~ケーススタディーで学ぶ「学生の多様性に応じた指導法」(前編)』では、クラスの内的な意識の差から生じる課題(年齢・経験のギャップやモチベーションの温度差)への具体的な対応策についてお伝えしました。

多様な学生の内なる動機を引き出し、協働を促す環境を整える重要性を再認識してもらえたのではないかと思います。

今回は、どのようにアプローチすべきか悩むという声が多かった、「海外からの留学生が多数在籍している場合の異文化理解と指導の壁」「集団になじめず、発達特性やスマホ依存の可能性がある学生へのアプローチ」についてお伝えします。

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【ケーススタディー3】海外からの留学生が多数在籍する場合の対応

課題
「私のクラスには海外からの留学生が複数在籍しています。日本語は多少わかるようですが、授業を正しく理解できるほどではありません。また、出身国ごとに文化の違いがあり、ルールや指示が伝わりにくいです。どのように対応すべきでしょうか」

このケースは、「正しい翻訳」と「文化的背景の違い」の二つの壁をどう乗り越えるかがポイントとなります。言葉の壁だけでなく、日本の専門学校における「当たり前」の学習態度、時間厳守の意識、集団行動のルールなどが、出身国の文化や教育制度と異なり、誤解を生むことが多々あります。

具体的な対応策

留学生を「日本に慣れていない学生」として扱うのではなく、「多様な視点を持つ学生」として、彼らが持つ可能性を最大限に引き出すための環境づくりと指導が必要です。

1.言葉の壁を越えるためのテクノロジー活用

多くの留学生を受け入れるのであれば、精度の低い無料の翻訳アプリに頼るのではなく、有料のAI翻訳機や翻訳ソフトを学校で導入し、活用することをおすすめします。授業資料の翻訳、リアルタイム字幕表示、課題の確認など、日常的に使用できる環境を整備しましょう。 ただし、翻訳機はあくまで補助的なツールです。重要な専門用語や指示については、翻訳された言葉だけでなく、教員やほかの学生が平易な日本語や英語(共通語)を併用して、「意味」や「文脈」を補足説明する時間を設けることが必要です。

2.視覚教材を活用した理解促進

言葉の理解が不十分でも、視覚的な情報は国境を越えて伝わります。授業資料は、文字情報だけでなく、図表、イラスト、グラフ、写真などを多用し、内容を可視化しましょう。また、専門的なスキルや実習の手順は、必ず教員が実演するか、手順を細かく区切った動画などを用意して、言葉に頼らずに理解を促しましょう。

3.文化的背景をふまえた説明による理解促進

文化の違いでルールや指示が伝わりにくい場合、単に「〇〇しなさい」と伝えるだけでなく、「なぜそのルールが必要なのか」という文化的背景や目的を丁寧に説明することが重要です。例えば、「時間厳守」については、「チームの仕事に支障をきたさないため」といったプロとしての意識に結びつけた説明が必要です。

4.日本人学生との協働と相互理解

留学生の抱える課題を、教員一人で抱え込まず、日本人学生も巻き込んだ「クラス全体の課題」として捉えます。グループワークでは、意図的に留学生と日本人学生を組み合わせ、互いの文化や考え方の違いをテーマに含めた課題を設定します。その際、日本人学生に「留学生の意見を正確に理解し、クラス全体に伝える」というコミュニケーションの責任を負わせることで、相互理解と協働のスキルを育成します。日本語能力(場合によっては英語能力も)が高い日本人学生を「ランゲージ・サポーター」として募り、授業外での日本語の補習や、文化的な疑問の解消をサポートする非公式の体制をとることも有効です。

【ケーススタディー4】発達障がい/スマホ依存症の可能性がある学生への対応

課題
「私のクラスには、集団になじめず、スマホばかり見ている学生がいます。グループワークにも参加せず、グループのメンバーも困っています。どのようにアプローチすればよいでしょうか」

このケースは、外見上の「スマホ依存」という行動の裏に、発達障がい(ADHD、ASDなど)や精神的な困難、あるいはコミュニケーションの課題など、さまざまな背景が隠れている可能性があります。安易な断定や、感情的な注意は、状況を悪化させる危険性があります。

具体的な対応策

最も重要なのは、「教員一人で抱え込まず、多角的な視点と専門的なサポートで対応すること」です。アプローチは、「情報の収集・理解・連携」の三段階を踏んで慎重に進める必要があります。

1.状況の背景を探るための慎重な情報収集

授業中だけでなく、休み時間、学内イベント時、他教員の授業など、さまざまな場面で学生の状況や行動を観察します。特に「集団になじめない背景」として、聴覚過敏、特定のタスクへの強いこだわり、コミュニケーションの困難さなど、発達障がいの特性を示唆する行動がないかをチェックします。また、学生生活の状況や、小・中・高校での様子、幼児期からの発達に関する情報を、守秘義務を守りつつ、保護者との面談で丁寧に聞き取ります。この聞き取りは、専門的な対応の必要性を判断する上で重要な情報となります。

2. 個別対応と専門家への連携

まずは、本人への声掛けと面談を試みます。「なぜスマホを見ているんだ」と注意するのではなく、「最近、授業についていけているか心配しているよ」「何か困っていることはない?」といった支援的な姿勢で接することがポイントです。スマホの使用が、集団から自分を守るための「避難場所」になっている可能性を考えたうえで、その背景にある不安や困難を探っていきましょう。収集した情報から、発達障がいや精神的な問題が強く疑われる場合は、本人の同意を得た上で、速やかに学内のカウンセラーや、提携する医療機関(専門医)などの専門家へ相談することをおすすめします。教員は教育の専門家ですが、診断や治療の専門家ではありません。そのため、専門家への「つなぎ役」に徹することが重要です。

3.環境調整と教員間の連携

クラス全体でのスマホ使用のルールを明確にし、その場で注意するのではなく、個別指導の場でルール順守の必要性を穏やかに伝えます。ただし、困難さが特性に起因する場合は、授業中の座席位置の配慮や、グループワークからの部分的な免除など、合理的配慮として個別に対応することも検討が必要です。このようなケースは、一人の教員や一回の面談で解決するものではありません。状況を教員間で共有し、統一した対応方針を持つことが不可欠です。対象の学年に関わるすべての教員が定期的に情報共有の場を持ち、対応の進捗を確認し合います。これにより、教員自身の精神的な負担軽減にもつながります。

多様性に応じた指導の鍵は「共有」と「協働」

今回は、ケーススタディーを通して「学生の多様性に応じた指導法」を伝えてきましたが、専門学校の現場には、不登校やLGBTQ+の学生への対応など、このほかにも多岐にわたるケースが存在します。これらの多様な課題に対応するための最大のポイントは、教員が「一人で抱え込んで悩みすぎないこと」に尽きます。

学生の抱える課題は、その背景が複雑であればあるほど、一人の教員の知識や経験だけで解決できるものではありません。専門学校には、キャリアセンター、学生相談室、そして何より共に学生を育てるさまざまな分野の教員という、強力なサポートネットワークが存在します。

課題を抱える学生の状況を、個人情報に配慮しつつ、学年や学校全体で共有し、多角的な視点から解決策を見出すこと、そして、 教員同士、場合によっては専門家、保護者、学生自身を巻き込み、連携して指導に当たることが、多様性に応じた指導を成功させるための鍵となります。

学生の多様性は、教育の現場を豊かにし、教員自身を成長させるための、大きな機会でもあります。繰り返しとなりますが、一人で抱え込まず、組織として対応に当たっていきましょう。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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