連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
「プレゼンテーション」と聞くと、先生方はどのような感想を持たれますか?
「得意だよ。問題ない!」と思われた先生は、少ないのではないでしょうか。「説明が苦手で、相手にうまく伝わらない」「しっかりと予習をしたのに、うまく伝えられなかった」「何度も伝えたはずなのに、全く伝わっていない」ということは、ほとんどの方が経験していることだと思います。
実は私も若い頃、考えていることや言いたいことを相手に伝えることが苦手で、克服に苦労した経験があります。
この苦労した経験をもとに、今回は「伝える力を高めるプレゼンスキル」というテーマで、プレゼン力を向上させる考え方やトレーニング方法などをお伝えしていきます。教員だけでなく、学生のプレゼンスキルを向上させる方法としても活用できますので、その視点からもお読みください。
目次
授業におけるプレゼンテーションの考え方
「プレゼントを贈る」意識を
授業の準備をする際、多くの先生は説明する内容のことばかりに意識がいっていると思います。もちろん内容の準備は最も重要な要素ということは言うまでもありませんが、少しだけ「受講している学生の表情」を思い浮かべて準備をしてみましょう。
特に、笑顔でうなずいていたり、目を輝かせながら話を聞いていたり、「プラスの表情」をしている学生たちの表情です。きっとその表情は、欲しいプレゼントをもらったときの表情に近いのではないでしょうか。「どんな内容や話し方であれば、学生は楽しんでくれるかな~」と考えて話を組み立てることが、伝わりやすい説明への第一歩となります。
さらに、学生が無意識に授業に求めている以下の3つのニーズを軸に、伝える内容を組み立ててみると、より伝わりやすくなるはずです。
- わかりやすい内容
- 興味・関心が持てる内容
- 役に立つ内容
また、この「プレゼントを贈る」という意識こそが、話し手自身のワクワク感を引き出し、先生の楽しそうな表情を自然に生み出す要因となるのです。話し手の表情も、相手に伝わりやすくするためのエッセンスです。
プレゼンは「コミュニケーション」
「スピーチが上手いからといって授業が上手いわけではない」
「講義と授業は違う」
この2つの言葉は、まだ経験が浅く、伝えたいことがなかなか相手に伝わらなかった頃の私に先輩が教えてくれた言葉です。当時の私は一方向のコミュニケーションだったのでしょう。それでは相手にうまく伝わらないということを、上述の表現で教えてくれたのだと思います。授業には必ず「学生」という相手がいるわけです。双方向のコミュニケーションであることに気をつけて話をすることも、伝わりやすい説明の第一歩です。
さらに気をつけるべきことは、「人間関係」「環境づくり」の2つです。
日本人は特に「だれが、どのように伝えているのか」を無意識に重要視します。初めて会った学生の前で話をする初回の授業以外であれば、それまでの人間関係によって授業の伝わり方は変わってきます。普段から学生との人間関係の構築も忘れずに行ってください。
また、「どのように伝えているのか」の要素の一部が「授業環境づくり」にあたります。例えば、教室の温度や学生の座り位置、グループ編成、授業中のルール、PowerPoint、タブレットなど授業で使用するICT機器の使用方法や配置などが環境づくりの一例です。授業観察の際によく目にするのが、PowerPointに文字を詰め込みすぎてしまっているケースです。これでは、見にくかったり、読むのが面倒だったりするので、学生の意欲が下がってしまうことも少なくありません。ご注意ください。
授業におけるプレゼンテーションのテクニック
(1)話し方のテクニック
前述の「どのように伝えているのか」のもう一つの要素が「話し方」です。「話し方」において意識することは以下の3つです。
- か・い・わ
- 声の表情
- 目線と動き
1.か・い・わ
「か・い・わ」は、「簡潔に・印象深く・わかりやすく」の頭文字のことを指します。
まず、「簡潔に伝えるコツ」についてです。いくつかありますが、キーワードや要点を極力短い言葉にすることや、結論・ゴールを先に伝えることがその一例です。
次に、「印象深く伝えるコツ」はキーワードやポイントを何度も繰り返すことです。一度言っただけでは聞いていない学生もいるはずです。それではなかなか印象には残りません。あえて何度も繰り返し伝えることで、印象に残りやすくなります。
また、ジェスチャーやデモンストレーションなどの動きを加えれば、学生の視覚を刺激することにもなり、印象に残りやすくなります。
3つめに、「わかりやすく伝えるコツ」です。こちらも数多くの方法が存在しますが、私が推奨するのは、相手が理解しやすい言葉をチョイスすること、相手がイメージしやすい具体例を入れることです。
例えば、専門家やその業界の方にとっては当たり前の単語でも、一般の方にとっては初めて聞く言葉というのは意外と多いものです。学生相手でも同じことが言えます。「知っていて当たり前」と思う専門用語でも、説明もしくは別の言葉に言い換えるなどの補足が必要です。特に専門学校の先生は、専門職の仕事から転職されてくる場合も多いので、気をつけるべき点の一つです。
具体例に関しても学生がイメージしやすいものにすべきですが、そのような具体例になっていないケースが多く存在します。イメージしやすい具体例を提示するためには、まず学生のことをよく理解する必要がありますが、それには時間がかかってしまいますよね。まずは具体例を伝えた後、イメージできているか学生に確認することから始めるとよいと思います。
2.声の表情
「声の表情」とは声の大きさ、声の聞き取りやすさ、抑揚、リズム、間の取り方などのことです。声には個性があるので、教員自身の個性を把握するために録音(録画)をして、どのように聞こえているのか知ることが必要です。
また、特に意識してほしいことは、学生が理解するための「間」をとることです。初めて聞く内容や聞き慣れない言葉を聞いた場合、ほとんどの方は一瞬、次の言葉が聞こえない(実際には聞こえているが意識できていない)現象が起きると思います。そのことに教員が気付かず、そのまま話を続けてしまうと、学生の理解が追いつかなくなってしまうことがあります。話し言葉の句読点で、意識的に「間」をとることで、問題はかなり解決するはずです。
3.目線と動き
最後に「目線と動き」です。授業を観察していると、学生を見るのではなく、PowerPointや自分のパソコン、板書してある黒板やホワイトボードなどに向かって話しかけている先生が多くいらっしゃいます。これでは学生からすると、「自分に言われている」という当事者意識が薄くなり、伝わりづらくなってしまいます。PowerPointや板書を見て話すことは問題ないのですが、話の語尾で必ず学生の方に目線を向けるクセをつけてください。これだけで伝わる割合が増えていきます。
また、説明中に一定の場所から全く動かない先生もいらっしゃいます。セミナーのように聞き手の自由度が強い場合は別ですが、授業では先生が動いた方が学生の視覚などを刺激することになり、結果的に伝わりやすくなります。特に、ときどき学生の机間を中心に移動することをおすすめします。「机間指導」というほど大げさなものでなくても、説明中に先生が近くを通っただけで、学生にとっては緊張感が走ります。眠気対策にもなりますので、行っていない先生は試してみてください。
(2)聞き手を育てるテクニック
セミナーやスピーチなどとは違い、授業では聞き手である学生の「学びの当事者意識」を向上させる必要があります。この学びの当事者意識が向上すればするほど、伝わる割合が高くなることは言うまでもありません。だからこそ、学生の聞き方を改善する必要があるのです。聞き手を育てるポイントは、「目的・目標(ゴール)の共有」「聞き方の指示」の2つです。
まずは「目的・目標(ゴール)の共有」です。伝わりやすい集団には必ず「目的意識」と「当事者意識」が強くあります。ただ残念ながら、大多数の学生は何となく授業に参加していることがほとんどです。そのため、目的意識を持ってもらうための手立てが必要で、その方法が「目的・目標の授業開始時の伝達」と「授業中やまとめ時の確認」です。学生が「もういいよ。わかっているって」と心で思う程度に伝えて、ようやく「共有」となります。
次に「聞き方の指示」です。本来であれば高校を卒業するまでに、話を聞くときの意識を学んできてほしいのですが、残念ながら全てを身につけている学生はほとんどいません。聞き方には段階があり、「聞く・聴く・訊く」と変化していきます。専門学生の場合は「訊く」を中心に指示を出すと良いでしょう。つまり「質問を考えながら聞く」ということです。例えば、以下のような指示です。
次回の実習に向けて、これから教科書の〇ページを説明します。まず皆さんは頭の中で実習のイメージを持ってください。そのイメージに照らし合わせて説明を聞いてください。説明終了後にグループでの意見交流と全体での質疑応答の時間をとるので、自分自身のイメージとの相違点やイメージしづらい点を確認し、質問を考えながら聞きましょう。
このような指示出しを試してみてください。継続することで、学生の意識は変わっていきます。
プレゼンテーション上達のためのトレーニング
話し手を鍛えるためのトレーニングの一例に、「アウトプットトレーニング」というものがあります。4人ほどのグループになり、1人ずつそれぞれのお題に対して1分間しゃべり続けるという単純なゲームのようなものです。ただし、お題は直前までわからない状態からスタートします。つまり、事前にお題に対する知識の準備ができないわけです。話を始める直前までお題がわからずドキドキしている心理状態も、プレゼン直前の緊張状態に似ています。お題が発表された直後から1分間しゃべり続けるためには、考えながら(もともと持っている知識を思い出しながら)言葉をアウトプットする必要があるので、脳のトレーニングにもなります。ポイントとして、お題は「はな」「うみ」「かめ」といった誰でも知っている単語であること、漢字ではなく平仮名で書くことです。平仮名で書くことで、同音異義語への拡散が起こり、より脳トレになる点が挙げられます。こちらは授業冒頭のアイスブレイクとして、学生にやらせても必ず盛り上がります。
また、あえて簡単なお題にせず、実習などに必要な専門用語をお題にすることで、学生の学習効果を上げることも可能です。ただ、その場合は十分な目的説明と、ある程度の用語の範囲を伝えておかないと盛り下がる可能性もありますのでご注意ください。
次回は、「指導スキル(2)~学生の思考力を鍛える発問」をお伝えいたします。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)