デザインが「イメージと違う」をなくすコツ!顧客とのコミュニケーションが重要な理由
連載デザイナーが教えるデザイン技術以外の大切なこと
専門学校で教える様々なデザイン技術。でも、現場に出るとデザインスキル以外にも必要なものがたくさんありますよね。本連載では現役デザイナーが「スキル以外に必要な〇〇力」を紹介します。立派なデザイナーを送り出すためにも学生に伝えていただけると幸いです。
「かっこいいデザインにしてくれませんか?」
こんな感じの依頼は現場だとあるあるですよね。今教えている学生たちは、このようなボヤっとしたデザイン依頼から、顧客の求める成果物を制作できるでしょうか。
今回は、顧客に「なんかイメージと違うんだけど…」と言われないためのコミュニケーションのコツについて掘り下げます。
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目次
顧客とのコミュニケーション不足で起こり得ること
コミュニケーションを密に取らないとクライアントとのイメージの違いで、望まれない物を制作してしまう恐れがあります。
イメージ違いによる弊害として、
・時間の無駄
・納期遅れ
・モチベーションの低下
などが挙げられます。コミュニケーションの不足はプロジェクトの全体の進捗に支障をきたしかねないため、注意して進めたいです。
イメージ違いを作ってしまう原因
「なんかイメージと違う」と言われてしまう原因として、つくる前のヒアリングの段階で課題の本質や顧客の望むものが引き出せていなかったなど、顧客との「コミューケーション不足」が考えられます。
主な原因として以下のようなものが挙げられます。
制作物(目的)の本質が掴めていない
「もし、人々に”移動手段として何が欲しいのか?”と聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう。」
これはアメリカの自動車メーカー創立者、ヘンリー・フォード氏の有名なフレーズです。「顧客に聞いても、顧客の要望はわからない」という意味ですね。人々の本当のニーズは「速く移動できる”何か”」です。しかし、馬より速く移動できる”何か”の存在が想像できないため、言葉にできないのです。
このように、顧客の要望には、表現できない課題の本質が隠れている場合があります。デザイナーの役割はセンス良く見た目を整えることだと思われますが、実はその手前の「本当は何がほしい・何を望むのか」を上手に見抜いてあげることも重要なのです。
表現が抽象的で想像しているものに違いがある
要望やテイストを表す表現として「かっこいい」「かわいい」「大人っぽい」「落ち着いた」などは良く使われる言葉です。しかし、これらは人によってさまざまに解釈される表現ではないでしょうか?
極端な例ですが3歳のこどもが言う「かっこいい」と30代の女性がいう「かっこいい」は随分と違うイメージになると思います。このように抽象的な言葉だと人それぞれに解釈や捉え方が違い、結果として「なんかイメージと違う」という事態を招いてしまうのです。
イメージ違いを起こさないコミュニケーションのコツ
このように、すれ違いをおこしてしまう根本的な原因は顧客との「コミュニケーション不足」にあります。
「コミュニケーション不足」と聞くと時間や量が足りていないという印象がありますが、この場合求められることは単に量を増やすことではありません。顧客の意図を正しく汲み取って掘り下げること、抽象的な表現は具現化して提案することが大切です。
例えば、冒頭の「かっこいいデザインにしてくれませんか?」という要望を紐解くと、
などの情報を追加で聞く必要があると分かります。
それでは、ヒアリングや工程を進めて行く際に気をつけるべきポイントについて見てみましょう。
顧客の意図を正しく汲み取って掘り下げる
ミーティングなど限られた時間で相手の本音や問題の本質を掴むのはなかなか難しいもの。必要な情報を漏れなく把握できるよう、ヒアリングシートを用意しましょう。
ターゲット・コンテンツ・デザイン仕様・現状広報物の情報など、相手から引き出したい設計に必要な要素を洗い出します。特に重要なのは「目的・背景」を聞くこと。顧客は「こんなのを作って!」と物をゴールにやってきますが、本当に必要なのはその先にある”何か”です。ここをしっかりと聞き出すことができれば、「なんか違う」というズレを避けられるでしょう。
抽象的な表現は具現化して提案
言葉では抽象的になりがちな顧客のイメージをつかむ方法として、事前にデザインの参考になるビジュアルサンプルを用意しておき、それらを確認しながらその場ですり合わせる方法も効果的です。
ビジュアルサンプルは「Pinterest(ピンタレスト)」などのWeb上のサービスを使うとよいでしょう。大量の素材を提示し、顧客のイメージを把握することができます。
また、雑誌・キャンペーン事例・店舗などを例に上げて「〇〇のような感じですか」とイメージを確認するのも有効なアプローチです。こうした媒体はそれぞれのトーンマナーに沿って作られているので、双方が作りたい雰囲気や方向性を具体的に掴むことができるでしょう。
また、サンプルを見ながらイメージに近いもの・違うものを確認しながら、何故そう思うのか、なぜその素材がよいと思うのかも掘り下げましょう。ここまで聞けば、顧客の要望やイメージを具体的に明確にとらえることができるでしょう。
学校でおすすめのコミュニケーション能力養成方法
ここからは、学生のコミュニケーション能力を養うおすすめの方法を紹介します。
クライアント・デザイナー両方の立場になってみるロールプレイ学習
ロールプレイ学習は実際の現場や場面を想定してそれぞれの役割を演じ、擬似体験する学習方法です。学校での課題は制作者(デザイナー)として取り組むことばかりなので、発注者(クライアント)の視点を持つ機会をつくるこのロールプレイは効果大です。
「既存のウェブサイトをリニューアルしたい」など具体的なテーマを設定し、制作者役・クライアント役・俯瞰的にやりとりを見てフィードバックを返すオブザーバー役に分かれ、制作ミーティングの現場を実演する形で行います。
・伝えたいことを誤解なく伝えられたか
・顧客から課題を引き出すヒアリングができたか
・ネガティブな反応への対応がうまくできたか
などを互いに評価しあってみましょう。社会に出てからはなかなかできないことです。学生の間にたくさん練習できると良いでしょう。
「グラレコ」で、要約のスキルを身につける
「グラレコ」とはグラフィック・レコーディングの略で、ミーティングでの議論内容や提案を、絵や図形などのシンプルなグラフィックを用いて分かりやすくまとめる手法です。ファシリテーション・グラフィックと呼ばれることもあります。
「グラレコ」をする利点として、
- 本質をとらえる練習になる
- 内容の振り返りができる
- その場にいない人にも伝える技術が身に付く
などがあります。
最初は5分程度の短い動画や本やブログの記事の内容を1枚の上にまとめる練習から始めるのがおすすめです。空き時間に1人でも取り組むことができ、数を重ねるごとにコツを掴めるでしょう。誰かに見せて内容を理解できるか感想をもらっても良いですね。
まとめ
進行中や制作後で「なんか違う」と言われてしまう「コミュニケーションギャップ」は、作業の具体的内容などの情報不足や曖昧さが原因となる場合が多いです。
顧客との密なコミュニケーションを取りイメージ違いを起こさないためにも、学生のうちから意識しながら、相手の要望や考えを引き出し目的や要点を掴めるようコミュニケーション能力を高めていけると良いですね。
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カワカミ アヤカ
美術大学を卒業し、デザイン事務所、印刷会社勤務を経てカナダに留学。
帰国後、2018年より専門学校講師・フリーランスデザイナーとして活動。グラフィックデザイン・DTPを得意としています。