連載デザイナーが教えるデザイン技術以外の大切なこと
専門学校で教える様々なデザイン技術。でも、現場に出るとデザインスキル以外にも必要なものがたくさんありますよね。本連載では現役デザイナーが「スキル以外に必要な〇〇力」を紹介します。立派なデザイナーを送り出すためにも学生に伝えていただけると幸いです。
デザインに取り組むときに「アイデアが思いつかない…」と頭を悩ます学生たちは多いと思います。ですが、デザイナーになってからはなおさら多くの作品をつくる必要があり、どうしてもアイデアが浮かんでこないときがあります。
そのため学生の間にアイデアの発想力をとことん鍛えておきたいですよね。今回はそんな発想力をどう鍛えるか解説します。どうしてもアイデアが出てこないときの対処法も記載していますので、ぜひご覧ください。
おすすめの資料
ポスター・チラシデザイン演習(課題実例付き)
目次
デザインアイデアが思いつかない理由
まずはデザインアイデアが思いつかない理由についてまとめます。
1.自分のひらめきに固執してしまう
期限が決まった課題を早く提出したいとき、最初にひらめいたイメージに固執してしまい、視野が狭くなってしまうことはよくあります。
しかし単に思いついたひらめきをデザインにまで昇華させるには、そのひらめきをよく吟味し、分析、進化させるなど、創造的かつ柔軟に発想するスキルが必要となります。スキルがない場合、即座に別のやり方を模索できないとドツボにはまります。
2.デザインの引き出しが少ない
デザイナーは顧客のニーズをデザインに落とし込むことが求められます。しかし経験や知識が浅いとデザインの引き出しが少なく、多様なニーズに答えることは難しいですよね。
日頃から身の回りのデザインにアンテナを張り、豊富なデザイン知識の引き出しを蓄えておくことが大切です。
3.疲れているとき
体力や気力が下がっているときに集中して物事に取り組むことは難しいものです。ベストな状態で作業に向き合えるよう普段から規則正しい生活を送ることが重要です。また、疲れたら休む余裕のあるスケジュールを確保しましょう。
集中力が下がってきたと感じるときに集中力アップや疲労回復・チャージできる自分に合った方法を知っておくのも良いですね。
デザインアイデアの発想力を鍛える方法
発想力を鍛えるには、たくさんのデザインに触れ、デザインの技術を知り、デザインを深める術を磨くことが必要です。これらを成し遂げるには以下のような方法があります。
- 参考になるデザインをたくさん見る癖をつける
- デザインを別視点で考える癖をつける
それぞれ詳しくご紹介します。
参考になるデザインをたくさん見る癖をつける
新しいインスピレーションを得るために、デザインギャラリーサイトなどで資料を集めておくことがおすすめです。サイトの種類、特徴、業種、色、デザインなどでカテゴリ分けが可能なものもあり、参考になる表現やデザインを絞り込んでおきましょう。
たとえばインターネット上にある画像を収集してブックマークできるSNS「Pinterest(ピンタレスト)」が効率的にビジュアルイメージを集めるのに役立ちます。私が特に使いやすいと感じているのがPinterestのボード機能。オリジナルのボードを設定し、参考になる画像やサイトをピン留めできます。
また、各ボードにピン留めした画像を一覧として確認できます。参考になるデザインを集めておくことで、目指したいイメージをすばやく掴めます。課題に対して0からアイデアを思いつくのは大変ですが、課題に+1の変化を与えることでアイデアを広げることは可能です。学生のうちから様々なデザインを参考素材として集めておき、発想の幅を広げておきましょう。
デザインを別視点で考える癖をつける
伊丹市立産業・情報センターマルチメディアホールで「伊丹西台ポスター展総選挙」が実施されました。そのグランプリに輝いたのは、焼き鳥屋である比内地鶏専門店とりしげのポスター。通常、焼き鳥屋であればいかにおいしそうな焼き鳥の画像やイラストを配置するかと、味覚の面で考えるものです。しかし、こちらのポスターは味覚ではなく、「秋田・ふるさと・食材へのノスタルジー」といった感性に訴えかけています。
このように当然とされるもの(=例の場合は焼き鳥の味覚)から少し離れたところ(=秋田・ふるさと・食材へのノスタルジー)に視点を移し重点を置いて訴求することで、印象深く興味を引くアイデアを生みだすことができます。
このようなアイデアを深める手法を知っていれば、行き詰まったときでも発想につなげることができます。たとえば以下のような変化のパターンを使ってみると良いでしょう。
- 逆転:通常の常識から外してみる
- 連結:他の要素と結んでみる
- 擬態:他の形態のようすや姿に似せる
- 欠失:通常より欠けさせる・なくす
- 増殖:常識よりも増やしてみる
- 転移:通常の場所からうつす
1つの素材に対して上記のようなパターンを使い、複数の作品をつくってもらう演習はおすすめです。ぜひお試しください。
どうしてもアイデアが思いつかないときの対処法
ここからは、どうしてもアイデアが思いつかない…というときの対処法をまとめます。
良いデザインでなくてもいったん形にしてみる
頭のなかだけで考えていると想像力と記憶力を同時に使うので、脳にとても負担がかかり、考えがまとまらず新しいことを思いつくのが難しくなりがちです。
そんなときは、考えついたデザインが良いと思えなくてもいったん形にして視覚化してみます。そうすると、いくら考えてもまとまらなかったデザインも、追加・削除・変更したい点を認識しやすくなって作業を進めやすくなります。
誰かに相談する(デザイナーでもデザイナーでなくても)
先生やデザインチームのメンバーはもちろん家族や友人などに相談してみると、様々な視点や立場での意見を聞くことができ、問題解決の糸口が見つかることがあります。
またデザインを相談するときに必要になる「どんなデザインを作りたいか説明する」という行為自体が客観性を持ちます。そのため「どんなデザインが良いかな。」と相談話をしている最中に、ふとアイデアが思いつくこともしばしばあります。一人で作業をしているときは、紙に書き出し分析するだけでも解決のヒントに繋がります。
また、デザインの本質を見失っている場合もあります。前章で述べた「いったん形にしてみる」を済ませたら、依頼主に「一度方向性を確認いただけますか?」と相談してみるのもアリです。この会話のなかでデザインアイデアが降りてくることもよくありますので。
関連記事:デザインが「イメージと違う」をなくすコツ!顧客とのコミュニケーションが重要な理由
時間・環境を変えて挑戦する
根を詰めて作業に向かった結果、疲労がたまって頭が回らないことも。そんなとき「今日はやらない!」と決断する思い切りの良さもデザイナーには必須スキルかもしれません。この決断をするにはほかのタスクや納期がしっかり頭に入っている必要があります。
関連記事:デザイナーに必須のスケジュール管理スキル!計画を予定通り進めるコツとは
また、ただ時間を置くだけではなく良質な睡眠や散歩などの軽い運動を行い、精神力や集中力を回復すると良いでしょう。新しいアイデアは良い刺激を受けて生まれるものですが、脳が疲れていると刺激を受けにくくなります。すっきりした気分で作業をすれば、良いインスピレーションが生まれやすいでしょう。
まとめ
「全然アイデアが思い浮かばない…」「デザインの完成が見えない」という事態に陥らないよう、今のうちに発想力を鍛えておきたいですね。また、どうしても詰まったときに複数の対処法を知っていると、作業が停滞するのを防ぐことができるでしょう。
作業にメリハリをつけ、アイデアをデザインに昇華するスキルを磨いていきましょう。
***
連載「デザイナーが教えるデザイン技術以外の大切なこと」
全ての記事はこちらでご覧いただけます。
***
おすすめの資料
ポスター・チラシデザイン演習(課題実例付き)
\ぜひ投票お願いします/
カワカミ アヤカ
美術大学を卒業し、デザイン事務所、印刷会社勤務を経てカナダに留学。
帰国後、2018年より専門学校講師・フリーランスデザイナーとして活動。グラフィックデザイン・DTPを得意としています。