
2025年12月、日本国内のローマ字表記は「訓令式」から現在広く使われている「ヘボン式」を基本とするという新ルールが内閣告示で発表されました。これによって、駅名・案内表示、学校教育など、さまざまな分野で見直しが必要となります。
私たちが学校で学んだ訓令式から、なぜヘボン式に変わるのか。そもそも、なぜローマ字の書き方が複数あるのかも気になるところです。
表記の変更時期、変更することで期待できるメリットなど、約70年ぶりとなる日本のローマ字表記の見直しについて解説します。
目次
ローマ字表記のつづり方「訓令式」と「ヘボン式」
| 音 | 旧表記:訓令式 | 新表記:ヘボン式 |
|---|---|---|
| し | si | shi |
| ち | ti | chi |
| つ | tu | tsu |
| ふ | hu | fu |
| じ | zi | ji |
| しゃ | sya | sha |
| しゅ | syu | shu |
| しょ | syo | sho |
| ちゃ | tya | cha |
| ちゅ | tyu | chu |
| ちょ | tyo | cho |
| じゃ | zya | ja |
| じゅ | zyu | ju |
| じょ | zyo | jo |
「つ」は、tu(訓令式)tsu(ヘボン式)と表記されるように、日本のローマ字表記は主に2種類あります。それぞれの特徴を整理して見ていきましょう。
現行ルールは「訓令式」
訓令式とは、日本語の音を正確に表すローマ字表記です。学校教育でも用いられている表記であり、例えば「し」はsi、「ち」は ti と表します。英語の発音に近いヘボン式とは異なり、日本語の規則性を重視している点が特徴です。
新ルール「ヘボン式」
ヘボン式では、「し」はshi、「ち」はchiと表記し、パスポートや駅名、道路標識や駅名看板など、国際的な場面で広く使用されています。日本人だけでなく海外の人々にとっても読んで発音しやすい表記です。
ローマ字表記はいつから変更される?
小学校の国語教育で用いられてきた訓令式は、2026年度以降、ヘボン式へ移行する見通しです。ただし、「matcha(抹茶)」「judo(柔道)」のように定着した表記や団体名は、変更で混乱が生じる恐れがあるため、ただちには変更を求めないとされています。
訓令式からヘボン式へは一気に切り替わるのではなく、個人の姓名、団体名などを書き表す場合、当事者の意思を尊重しながら、段階的に統一されていくようです。今回のローマ字表記改定は、国際社会や日常使用の実態に合わせたものといえます。
また、長音(伸ばす音)の表現も少し変わります。「Tôkyô」のように長音の母音の上に符号「^(サーカムフレックス)」を付ける表記はあまり見かけませんが、今後も符号を付けて表記する方法が採用されました。ただし、長音符号は「^」の代わりに「¯(マクロン)」を使うことになります。
そのほか、「お母さん」=「okaasan」のように、母音の字を並べて書いてもよいことになりました。
ローマ字表記はなぜ複数あるのか?

外国人向けで読みやすさを重視したヘボン式と、日本語の音を正確に表す訓令式。用途も目的も異なるローマ字表記が生まれた背景には、歴史的経緯があります。
ローマ字=日本語のアルファベット表記
ローマ字とは、英語ではなく、アルファベットを使って日本語を表す表記のこと。もともと、古代ローマ人が使用していた文字に由来して「ローマ字」と呼ばれています。日本語のローマ字表記を最初に使用したのは、16世紀後半に来日したポルトガルの宣教師たちといわれています。その時代は、日本語を学ぶために一部の外国人が使っていただけでした。
ローマ字表記を採用すると、アルファベットを使う国の人たちにも日本語の発音が理解しやすくなります。こうした理由から、駅名や地名の標識にもローマ字表記が併記されるようになりました。幕末の開国で欧米との交流に役立ったのがヘボン式ローマ字です。
ヘボン式の起源
ヘボン式は新ルールとして扱われていますが、実は訓令式よりも先に国内外で使われてきた歴史があります。その起源は19世紀にまでさかのぼり、来日したアメリカ人宣教師ヘボンによって考案されたといわれています。1867年には、日本初といわれる和英辞典『和英語林集成』が完成し、明治期を通して広くヘボン式が使われました。
しかし、英語の発音がベースになっていることから「日本人には変則的で分かりにくい」という問題が挙げられ、昭和初期に訓令式が日本のローマ字表記として内閣訓令で定められます。
明治時代に日本人のために生まれた訓令式
明治時代真っただ中の1885年、物理学者の田中館 愛橘(たなかだて あいきつ)が五十音の各行の子音をそろえた「日本式ローマ字」を提唱します。これを基にできたのが訓令式ローマ字です。1937年に内閣訓令で呼称が決まり、訓令式は日本の正式なローマ字表記として定められました。
ローマ字表記の完全移行で変わる主なポイント3つ
ローマ字表記がヘボン式に完全移行した場合、社会のさまざまな場面に影響が及ぶと考えられています。特に変化が大きい分野は以下です。
- 自治体や企業の表記
- 教科書の表記
- 政府のデータベース
3つのポイントについて解説します。
1.自治体や企業の表記
ローマ字表記の変更にともない、自治体や企業の表記も大きく変わります。特に、海外向け情報発信や輸出入業務では、表記改定は実務の安定化にも役立つと予想されます。
観光案内・地図アプリ・鉄道の英字表記では既にヘボン式が定着していることから、混乱解消に繋がりそうです。
2.教科書の表記
教育機関でもローマ字表記の変更が導入されます。これまで訓令式で授業を進めてきた小学校の国語では、2026年度以降、ヘボン式に変更となる見通しです。
3.政府のデータベース
71年ぶりとなるローマ字表記改定に踏み切れた背景には、デジタル庁の創設や行政DXの推進が大きく影響しています。今後、デジタル庁を中心に、全国的なデータベースの整理が加速すると予想されます。
ローマ字表記の改定で期待されるメリット
ローマ字表記見直しの最大の狙いは、長年混在していたヘボン式と訓令式の表記のゆらぎを整理し、国際基準としてヘボン式に統一することにあります。これまで混在していた表記を統一することができれば、さまざまな領域でメリットが生まれそうです。
| ジャンル | 期待できるメリット |
|---|---|
| 観光 | 外国人がサイトやパンフレット、看板などを読みやすくなり、案内の精度が向上する。検索や移動もスムーズになる。 |
| 教育 | 学校で習う表記と、生活で目にする表記が一致する。より実用的な教育が実現できる。 |
| 行政 | データベースの表記統合が進み、デジタル化が加速。文書表記の混乱が解消される。 |
| ビジネス | 国際書類や海外向け情報発信の品質向上。住所表記の誤りが減少する。 |
| 防災 | 多言語情報がより正確に伝わる。災害時の混乱防止にも繋がる。 |
ローマ字表記改定で押さえておきたい主な変更点
訓令式ローマ字は規則的でキーボードでの変換も簡単という利点がありましたが、発音と表記がかけ離れている問題がありました。
今後、ヘボン式に改定されることで身の回りの表記が少しずつ変わります。ローマ字表記改定で押さえておきたい主な地名・人名の新表記をチェックしましょう。なお、公的書類の人名においてマクロンは、省略される場合が一般的です。
| 旧表記:訓令式 | 新表記:ヘボン式 | 備考 |
|---|---|---|
| Aiti | Aichi | 愛知県 |
| Sibuya | Shibuya | 渋谷区 |
| Sinzyuku | Shinjuku | 新宿 |
| Titibu | Chichibu | 秩父 |
| Hukusima | Fukushima | 福島 |
| Atugi | Atsugi | 厚木 |
| SATOU / SATOH | SATO/SATŌ | 佐藤 |
| OONO / OHNO | ONO/ŌNO | 大野 |
| YUUKO | YUKO/YŪKO | 優子 |
まとめ
ローマ字表記は教育・行政・ビジネスなど、さまざまな領域が交錯する複雑なテーマであることから、これまでなかなか更新できずにいました。しかし、ようやく71年ぶりの表記改定に踏み切ることができたのは大きな一歩です。
ローマ字表記改定は、単なる「つづりを変える作業」でも、インバウンド対応というだけでもなく、日本に住む外国人や海外企業とのやり取りにも優れた利便性をもたらすと考えられています。
移行期には一時的な混乱も予想されますが、長期的に見れば国際的な理解と利便性を高めるきっかけとなるでしょう。観光や海外ビジネス、日本語学習者の支援にもつながる施策であり、外国人に分かりやすい日本の形成にも寄与します。さらに、デジタル社会での日本の存在感を強化し、未来の基盤を整える取り組みにもなりそうです。
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