
少子化の進行により人材獲得競争が激しさを増す中、社会人による学び直しやリスキリングへの関心が高まっており、政府による支援策の拡充や、企業研修の外部委託も進んでいます。そして、実務教育を担ってきた専門学校は「新たな学びの場」として期待される存在です。
本記事では、リカレント教育・リスキリングの基本を整理した上で、専門学校がリスキリング分野に取り組むメリットや課題、実務的に検討しておきたいポイントについて解説します。
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目次
リカレント教育・リスキリングとは?
リカレント教育とリスキリングは、どちらも新たな知識やスキルを身につけるための学びですが、目的や位置づけには違いがあります。リスキリングについて考える前に、まずはその違いを理解しておきましょう。
リカレント教育
「リカレント(recurrent)」には、「繰り返す」「循環する」という意味があります。学校を卒業して社会に出た後も、キャリアやライフステージに応じて、仕事と学びを必要なタイミングで行き来する考え方です。
社会人が学びの場に戻り、仕事やキャリアに役立つ知識・スキルを身につけることを目的としています。
たとえば、大学卒業後に就職した人が、数年後に専門性を高めるために専門学校へ進学したり、別分野の知識を学ぶために教育機関へ通ったりするケースが挙げられます。また、定年後に教養や新たな分野を学ぶことも、リカレント教育の一例です。
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このようにリカレント教育は、人生のさまざまな段階で学び直しの機会を提供することを目的としています。
リスキリング
「リスキリング(reskilling)」は、より職業に直結した学びを指します。新しい職業に就くため、あるいは現在の仕事で求められるスキルが大きく変化した場合に、必要なスキルを新たに身につけ直すことがリスキリングです。
DXの推進などにより、業務内容や求められる能力が変化する中で、キャリアアップやキャリアチェンジを目指して学ぶケースがこれに当たります。
まとめると、リカレント教育は“生涯を通じた学び直し”という広い概念であり、その中でも職業能力の再構築や転職を目的とした学びがリスキリングといえるでしょう。
リスキリング時代に専門学校が動くべき理由3つ

社会人の学び直しやリスキリングへの関心が高まる中、専門学校を取り巻く環境も変わりつつあります。国の施策や企業の動きを踏まえると、専門学校がこの分野に取り組む意義は明確です。ここでは、今動くべき理由を3つの視点から整理します。
- 政府によるリスキリング予算拡充
- 人材育成における外部活用が増加
- 社会人教育市場が伸長
それぞれ見ていきましょう。
1.政府によるリスキリング予算拡充
国はリスキリングや学び直しを成長戦略の一つとして位置づけ、1兆円規模の支援を打ち出しています。実際に、学び直し支援には年間600億円以上の予算が投じられており、「人材開発支援助成金」や「公的職業訓練におけるデジタル分野の重点化」など、さまざまな施策が進められています。
これらの制度は、教育機関と連携して人材育成を行うことを前提としたものも多く、専門性の高い実務教育を行ってきた専門学校にとっては、大きなチャンスといえるでしょう。
2.人材育成における外部活用が増加
企業の人材育成のあり方は、近年大きく変化しています。これまで主流だった内製研修に加え、専門性の高い分野については、外部機関へ委託する動きが広がっています。特にDXや高度な専門技術分野では、社内だけで人材を育成することに限界を感じる企業も少なくありません。
また、「人材開発支援助成金」などの制度を活用することで、企業は社員に対して職務に関連した教育訓練を実施した際、訓練経費や制度導入にかかる費用の助成を受けることができます。こうした制度を背景に、専門学校が社会人教育の担い手として企業と関わりながら人材育成を支えるニーズは、今後さらに高まっていくと考えられます。
3.社会人教育市場が伸長
企業向け研修サービス市場を含む社会人教育市場は、堅調に拡大しています。矢野経済研究所の調査によると、教育産業全体の市場の中でも「企業向け研修サービス市場」が成長分野として寄与しており、教育産業全体のプラス成長に影響を与えています。
こうした市場環境の変化は、専門学校にとっても追い風です。若年層向け教育を主軸としてきた専門学校が、社会人教育市場に対応した講座・研修を提供することで、新たな教育サービスの機会や収益の拡大に繋げることが期待できます。
リスキリング需要における専門学校の3つの強み
リスキリングでは、学びの内容や進め方に対して実用性と効率性が求められます。そうしたニーズに応える存在として、職業教育を担ってきた専門学校ならではの、ほかの教育機関にはない3つの強みを紹介します。
- 実習環境が整っていて、現場に近い
- 短期で体系的に学べるカリキュラム
- 資格取得・就職サポートがある
それぞれの強みについて、詳しく見ていきましょう。
1.実習環境が整っていて、現場に近い
専門学校は、実習や演習を重視した教育を行ってきた職業教育の場です。企業と関わりながら進める実践的な授業や、実際の現場を想定した設備・機材が整っているため、学んだ内容をすぐに実務に結びつけやすい点が特長です。
知識だけでなく、現場で使えるスキルを身につけたい社会人層に、即戦力に繋がる学びを提供できることは大きな強みといえるでしょう。
2.短期で体系的に学べるカリキュラム
専門学校では、目的に応じてスキルを集中的に学べるカリキュラムが組まれています。分野によっては、最短1年程度でリスキリングが可能なケースもあり、長期間の学習が難しい社会人にとって取り組みやすい点が魅力です。
基礎から応用までを体系的に学べる設計になっているため、未経験分野へのチャレンジにも対応しやすくなっています。
3.資格取得・就職サポートがある
専門学校は、専門的な知識や技術の習得だけでなく、資格取得や就職支援までを一体的に行ってきた実績があります。資格試験対策やキャリア相談、求人情報の提供など、学びの先を見据えたサポート体制が整っている点も強みです。
リスキリング後のキャリア形成を重視する社会人にとって、こうした支援が受けられることは大きな安心材料となります。
リスキリング需要において専門学校が直面する3つの課題
リスキリング分野には大きな可能性がある一方で、従来の専門学校の仕組みのままでは対応が難しい点も少なくありません。社会人向け教育に取り組むにあたり、事前に整理しておきたい主な課題を3つ挙げます。
- 昼間課程のカリキュラムでは通いにくい
- 高校生向けの広報では社会人に届きにくい
- 社会人向けの講義設計が必要
各課題のポイントを見ていきます。
1.昼間課程のカリキュラムでは通いにくい
多くの専門学校では、高校卒業後の学生を想定した時間割や通学スタイルが基本となっています。そのため、平日昼間を中心とした授業構成では、仕事を続けながら学びたい社会人にとって通学のハードルが高くなりがちです。
社会人層に対応するには、夜間や週末の開講、オンライン講座、短時間で完結する授業枠の設定など、働きながら学べることを前提とした時間設計が求められます。
2.高校生向けの広報では社会人に届きにくい
専門学校の広報は、進学を検討する高校生や保護者を主な対象として設計されているケースが多く見られます。そのため、Webサイトやパンフレットの内容、情報の届け方が、社会人の関心や検討プロセスと合っていない場合があります。
リスキリングに関心を持つ社会人に向けては、専用のランディングページを用意したり、社会人向けの説明会や個別相談の場を設けたりするなど、対象を意識した情報発信が求められます。
3.社会人向けの講義設計が必要
社会人は、これまでの学習経験や前提知識、学ぶ目的が多様です。そのため、高校新卒者と同じ講義設計では、内容が合わなかったり、必要以上に広範な内容を扱ってしまい、学習負荷が高くなることもあります。
リスキリング需要に応えるには、社会人が本当に必要とする内容を見極め、テーマや学習範囲を取捨選択した上で、講義構成や進め方を設計することが重要です。
社会人から注目を集めているリスキリング領域5選
社会人のリスキリングでは、将来性や実務・転職への繋がりが重視される傾向があります。ここでは、近年特に関心が高まっている代表的なリスキリング領域を5つ紹介します。
- プログラミング・DX
- Webデザイン・動画編集
- デジタルマーケティング
- 医療事務・介護
- 公務員
それぞれ見ていきましょう。
1.プログラミング・DX
DXの推進は多くの業界で急務となっており、IT人材の不足は慢性的な課題です。そのため、プログラミングやシステム理解、業務のデジタル化に関するスキルは、業種を問わず需要があります。
未経験からでも基礎を体系的に学べる点や、業務改善・キャリアアップに繋がりやすい点から、社会人のリスキリング分野として高い注目を集めています。
2.Webデザイン・動画編集
Webサイト制作や動画コンテンツは、企業の広報・採用・マーケティング活動に欠かせない存在となっています。そのため、Webデザインや動画編集のスキルは、比較的短期間で成果が見えやすい分野として人気があります。
副業やフリーランスといった、柔軟な働き方を視野に入れる社会人からの関心も高い領域です。
3.デジタルマーケティング
Web広告やSNS運用、データ分析などを含むデジタルマーケティング分野も、リスキリングの需要が高まっています。企業活動においてオンライン施策の重要性が増す中、専門知識を持つ人材が求められています。
実務に直結しやすく、業界・職種を超えて活用できる点が、社会人に選ばれる理由の一つです。
4.医療事務・介護
医療・介護分野は、今後も安定した需要が見込まれる分野です。特に医療事務や介護関連の資格・知識は、未経験からでも比較的チャレンジしやすく、再就職や職種転換を目指す社会人に支持されています。地域性が高く、地元での就業に繋がりやすい点も特徴です。
5.公務員
安定した働き方を求めて、公務員を目指す社会人も一定数存在します。近年は、社会人経験者向けの採用枠が設けられるケースもあり、学び直しの対象として注目されています。
試験対策や基礎知識を体系的に学べる環境が求められる分野であり、専門学校の教育ノウハウを活かしやすい領域といえるでしょう。
リスキリング需要に応えるために専門学校がやっておきたいこと
社会人向けのリスキリングに本格的に取り組むには、講座内容だけでなく、制度や運営面の整備も欠かせません。最後に、専門学校が事前に検討・準備しておきたいポイントを整理します。
- 教育訓練給付の対象コース化
- 履修証明・専門実践教育訓練の認定取得
- オンライン講座の制度準備
- キャリア相談員の導入
これらの項目について順に見ていきます。
1.教育訓練給付の対象コース化
社会人が学び直しを検討する際、費用負担は大きな判断材料となります。教育訓練給付制度の対象となるコースを設けることで、受講者は給付を受けながら学ぶことができ、受講のハードルを下げることが可能です。
2.履修証明・専門実践教育訓練の認定取得
履修証明制度や専門実践教育訓練の認定を取得することで、学習内容や教育の質を客観的に示すことができます。
社会人にとっては、学びの成果が「公的に認められる」点が安心材料となり、受講検討の後押しに繋がります。専門学校側にとっても、リスキリング分野での信頼性向上が期待できます。
3.オンライン講座の制度準備
社会人の多様な働き方に対応するためには、オンライン講座を含めた柔軟な学習形態の整備が求められます。
授業運営のルールや評価方法、出席管理などをあらかじめ整理しておくことで、対面授業と併用した安定的な運営が可能になります。
4.キャリア相談員の導入
社会人のリスキリングは、学ぶこと自体が目的ではなく、その先のキャリア形成と密接に関わっています。
キャリア相談に対応できる体制を整えることで、受講前の不安解消から、学習中・修了後の進路支援まで一貫したサポートが可能になります。
まとめ
社会人のリスキリング需要が高まる中、専門学校は職業教育の強みを活かせる立場にあります。一方で、時間割や広報、講義設計など、社会人向けに見直すべき課題もあります。
制度の活用や学習環境の整備、キャリア支援体制を整えることで、専門学校は社会人にとって、より身近で信頼される学びの場へと進化していくでしょう。
社会人教育という新たなフィールドに向けた取り組みが、専門学校の次の可能性を広げていくはずです。
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