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TOP教養スキルアップ7月までの授業を振り返って~講義中心の授業における「授業構成」

7月までの授業を振り返って~講義中心の授業における「授業構成」

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

専門学校や大学の教員の方々と授業について話をしていると、「講義中心の授業がうまくいかない」「学生が聴いていない・寝ている・スマホばかり見ている」など、相談と愚痴の中間のような話をよく耳にします。実技や実習と違い、講義は学生が受け身になりやすい環境だからこそ生まれる悩みなのではないでしょうか。

さて、7月までを振り返ってみて、あなたの授業ではいかがでしたか。うまく進んでいる先生もいれば、うまくいかずに悩みを抱えていらっしゃる先生も少なからずいらっしゃると思います。原因はさまざまですが、その一つに「授業の構成」の問題があります。

そこで今回のテーマは、「講義中心の授業における授業構成」についてとし、先生方の悩みを解決する糸口となるように進めてまいります。

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ここで伝えたい授業構成とは

授業構成のことを調べてみると、いろいろな意見や考えが記されています。
今回、皆さんのイメージを極力共有することを目的に、まずはこの記事における「授業構成」の前提条件を記しておきます。

  • 各校・各学部・各コースにおけるカリキュラムやシラバスを確認し、教員が理解していること。
  • 1コマ(50分~90分)の授業単位としての授業構成だけではなく、2コマ・3コマなど複数コマを1つの大きな構成枠として捉えることも可能なこと。
  • 実技や実習の授業ではなく、「講義中心の授業」での構成であること。
  • 「授業デザイン」や「授業設計」などの似ている言葉との違いは設定せず、同義とすること。(これは言語定義を複雑にすることで、わかりづらくなることを防ぐためです)

授業を構成する9要素

以下の「授業構成例」をご覧ください。大きな分類として「導入」「展開」「まとめ」の3つに分けています。さらに、「導入」内で3つ、「展開」内で4つ、「まとめ」内で2つと、合計9つに分類し、先生と学生の授業内の行動例を記しています。

授業構成例

導入 1.学習者の意欲を喚起する ・レディネス ・号令 ・出席確認
2.学習目標を知らせる ・ねらい ・達成行動
3.前提条件を確認する ・小テスト ・確認テスト 
・課題チェック
展開 4.新しい事項を提示する ・新単元導入 ・説明(発問、板書)
5.学習の指針を与える ・ポイント強調 ・課題や問題の提起
・ノート整理(発問、板書)
6.練習の機会を設ける ・演習 ・ペアやグループワーク 
7.フィードバック ・解説 ・ポイント整理・意見等共有
まとめ 8.学習の成果を評価する ・達成度評価 ・ポイント確認
9.学習の保持と発展を促す ・課題指示 ・次回予告

それではこの分類項目について、詳しく説明していきます。

導入

1.学習者の意欲を喚起する

授業において、学生の「目的意識」と「当事者意識」を授業開始時に刺激し、学習意欲を喚起することは、授業全体の流れをつくる上で非常に重要なことです。その方法は意外と簡単なことですが、軽んじている先生が多いというのも現状です。

例えば、授業開始の「号令」や「出席確認」です。この2つを行っている先生の中でも、正しく実行できている先生は決して多くありません。むしろ少ないと言っても過言ではありません。

では、正しい号令や出席確認とは…?

「号令」のキーワードは、就活や社会人になっても役に立つ「分離礼」です。これは、けじめという意味ももちろんありますが、行動を一つ一つ分けて丁寧に行うことで、実技や実習においての作業も一つ一つ大切に、丁寧に行う意識を持たせることができます。もちろん、就活の面接での礼儀作法や社会人になってからの仕事への向き合い方にも役に立つはずです。

「出席確認」のキーワードは、リレーションを強化する「表情と目線」です。無理に笑顔を作らなくても、安心感を与えるやわらかい表情で、一人ひとりを意識して目線を送ることが大切です。固い表情で名簿を見続けていては、逆効果になってしまう可能性があります。

「レディネス」とは、「学習における準備・環境づくり」とお考えください。例えば、授業に必要な教具や教材が机上に準備されていて、不必要なものが片付けてあることや、机の配置やグループ分け、教室の温度や換気などがこれにあたります。多くの専門学校の授業では、「学生の自主性」という名目で授業の環境整備が曖昧になり、それが原因で授業がうまくいかなくなってしまいます。ですから、きちんとした準備と環境づくりが不可欠です。

2.学習目標を知らせる

専門学生や大学生の場合、高校生以下とは違い、卒業後すぐに社会人になることがほとんどです。そのため、シラバスでの学習目標はもちろんのことですが、「社会人基礎力(図1)」を前提に、学習目標(ねらいと達成行動)を学生に伝達する必要があります

参考:経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」

また、ただの目標として伝えるよりも、先生自身の社会人経験での失敗体験や成功体験を交えながら伝えた方が、学生にとって、「当事者意識」や「役に立つ感覚」が向上することは言うまでもありません。特に、「先生の失敗話」は学生にとって大好物の話です。

「授業構成例」の表にある「達成行動」は、後述する「3.まとめ」内の「達成度評価」で振り返るために必要です。

3.前提条件を確認する

授業を観察していると、関連する既習領域や授業を理解するために必要な知識を学生に確認せずに、いきなり授業内容に入る先生が多くいらっしゃいます。

学生にとって完全に新出の内容にはもちろん確認が必要ですが、授業内容と関連する既習領域の取りこぼし(完全に忘れている状態も含む)も問題です。既習領域の内容が未理解の場合、学生は授業スタートからつまずいてしまいます。その場合、学生はどのような行動をとるのか…言うまでもないですよね。

多くの学生にとって、1週間前の授業内容を思い出すことは、まるで1週間前の夕飯のおかずを思い出すことと同じレベルだと私は思っています。「予習復習してくること」を前提とした学びは理想ではありますが、現実的ではありません。もっと現実的な方法で、学習効果を高める必要があるでしょう。

例えば、毎回小テスト・確認テストなどでチェックすることで、復習を促す方法があります。公的資格の審査があるような専門学科であれば、効果が高まるはずです。もちろん紙ベースだけでなく、デジタル配信や口頭(発問含む)でのチェックでも十分な効果が見込めます。

また、資格試験がない専門の学科であれば、ペア学習として前時の課題を提示し、お互いに解決方法を言い合うことで前時の課題をチェックでき、スムーズに本時に進むことができるはずです。時間としても5分~10分程度の投資です。

展開

4.新しい事項を提示する

ここに関してはイメージしやすいと思います。最近は板書を行わず、パワーポイントでの提示やアプリなどのツールを使用されている先生も多いと思われます。ここでのポイントは「発問」です。詳しくは9月の記事でお伝えいたします。

5.学習の指針を与える

本時の伝えたいこと、学生に考えさせたいことの山場となる場面です。伝えたい内容の整理とポイントの協調、また、考えさせたい課題や問題に関しては学生への提起にとどめ、教えすぎずに学生に考えさせることがカギとなります。ついつい教えすぎてしまい、無意識に学生の主体性や当事者意識を奪ってしまうことも少なくない場面です。

この場面で重要となる「プレゼンスキル」に関しては8月、「考えさせる発問」については9月の記事でお伝えします。

6.練習の機会を与える

不思議なことに、講義中心の授業では「学生の話し合いやグループワークをあまりさせてはいけない」と誤解されている先生もいらっしゃいます。しかし、もちろん講義中心の授業でも練習の機会は大切で、個人のワークやトレーニング以外にも、ペアやグループでのワークやトレーニングが必要です。「グループワークの効果的な方法」は、来年1月の記事でお伝えします。

7.フィードバック

ここでの「フィードバック」とは、演習やグループワークに対するフィードバックです。キーワードは、クラス全体での「共有」です。演習やグループワークで出てきた有益な意見やアイデアなどを全体で共有することで、新たな発見や意見、もしくは新たに生まれた課題が浮き彫りになってくるはずです。この学生の新たな「思考の揺らぎ」こそが、学生が成長する上で重要な要素となります。

まとめ

8.学習の成果を評価する

ここでは授業全体の評価(フィードバックおよびフィードフォワード)です。この「フィードフォワード」とは、「フィードバックを踏まえて、学生自身が次回の授業でどのように行動する予定か」という、未来の行動イメージの可視化のことだとお考え下さい。

ここでポイントになるのは、学生自身が振り返るための自己評価のシートの存在です。評価シートがあると、導入段階での達成行動の説明と評価シートの内容をリンクさせることができます。このことで学生の自己評価の精度が上がり、他者との評価のブレが少なくなります。

これにより、現在の学生個人個人の到達度(アチーブメント)が可視化されていきます。さらに、このアチーブメントの考え方は実習や実技の授業にも生かされていくこという利点もあります。

また、学校によっては「ルーブリック評価シート(学習の到達状況を表で可視化して評価するシート)」が存在するかもしれません。一度確認してみてはいかがでしょうか。

9.学習の保持と発展を促す

簡単に言うと、「次回に向けた予告」です。課題が残っている場合は、課題解決の指示(小中学校で言う宿題のようなもの)が必要です。特に提出期限や提出方法は明確に伝える必要があります。

また、次回に確認テストがある場合は、再度重要なポイントを伝えたり、範囲を明確にしたりすることで、少しだけ次回授業前の学習意欲を高めることにもつながります。

以上が私の考える授業を構成する要素です。先生方の授業構成に少しでもお役に立てば幸いです。次回は「指導スキル(1)~伝える力(説明力)を高めるプレゼンスキル」をお伝えいたします。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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