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TOP教養スキルアップ6月までの授業を振り返って~専門学校にとっての「良い授業」とは?

6月までの授業を振り返って~専門学校にとっての「良い授業」とは?

2024.06.28 (最終更新:2024.07.08) スキルアップ 学校運営

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

新学期が始まり、あっという間に約3カ月が過ぎました。今年度から教壇に立たれた先生にとっては、落ち着いて考える暇もなく過ぎ去ってしまった期間ではないでしょうか。

プロフィールにも少し記載していますが、私は教育コンサルタントとして今まで5000を超える授業を観察してきました。その中には、複数の専門学校の授業(看護/保育福祉/リハビリ/医療スポーツ/情報/アニメ/美容/サービス/音楽などなど…)も含まれています。
授業を見ていく中で、最近常々感じていることがあります。

それは「授業のアップデートの必要性」です。

現代の教育の現場では、常に進化・深化が求められています。技術やツールの進歩、社会の動向、そして何よりも学生たちの変化するニーズや多様性に対応するために、教育の方法を更新し続ける必要があります
専門学校の教員に限らず、全ての校種、教科の教員にとっても、今は授業の方法を考え直す時期であると言っても過言ではないでしょう。

この連載では、「授業を通じて学生の意欲(モチベーション)を高める方法」「発問の工夫による思考力を鍛える方法」「伝える力(説明力)を高めるプレゼンスキル」などを紹介していく予定です。

まず第1回目の今回は、専門学校における「良い授業」の本質について、先生方に考えていただく機会を提供したいと思います。

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令和の授業における教員の意識のズレ

では、専門学校にとっての「良い授業」とは何でしょう…?

先生方も、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
特に実習や実技型の授業では気付きやすいことですが、「予定通り会心の授業を行えた!」と自分では手応えがあっても、学生の理解や定着の度合いは十分でないということがあります。
一方、授業者としては手応えが良くないのに、学生たちが主体的に学び、しっかりと技術を定着させていくということもあります。

授業者にとっての良い授業が、学生にとっての良い授業と必ずしも一致しないことはよくあることです。この不一致はなぜ起こるのでしょうか。

また、講義中心の授業によく見られる、授業の本質からの「意識のズレ」も考察する必要があります。
私が見てきた専門学校の授業においては、以下のような「授業者の意識のズレ」が生じていることも珍しくありません。

意識のズレの例

  1. 授業者が「自分の持っている知識やスキル、また教材に書かれていることを伝えるだけでよい」と思っている
  2. 授業者が「授業内容や環境が、学生の意識や能力とかけ離れていることに気が付いていない」、または「かけ離れていても問題ない」と思っている
  3. 授業者が「授業のねらい、ゴールを明確にしていない」、または「授業のねらい、ゴールを伝えなくてもよい」と思っている

この意識のズレは専門学校の授業だけではなく、大学の授業でもよく見られます。背景はさまざまだと思いますが、ほかの校種(小学校/中学校/高校)においても、授業を受ける側の年齢が上がるにつれて見られる現象です。
これらは、昭和や平成初期の時代では「授業者ではなく学生の問題」とされており、「ズレ」として認識されていませんでした

しかし、令和の時代の授業においてはこのズレこそが課題で、意識のズレの修正が授業のアップデートには欠かせないものととらえる必要があると考えています。

専門学校にとっての「良い授業」とは

令和の専門学校にとっての「良い授業」を構成するものについて、私は以下のように考えます。

1.「学生が主役で当事者」の授業スタイル

私は大学で授業を持ち始めて7年ほどになりますが、この7年間でも徐々に変わってきたことがあります。
それは「学生の意識の二極化」です。目的意識を持ち、自ら進んで行動する学生が増えてきた一方、いつも他人事で大人しく、指示されたことを素直に行動する「表面上のよい学生」も多くなってきています。髪の色や服装とは関係なく、とても素直で幼い印象を持ちます。
この現象は、専門学校の授業を観察しているときも全く同じことを感じます。主体的な学生の数と比較すると、やはり圧倒的に大人しい学生の数が多いのが実情です。
この多数派の学生に対していかに「目的意識/当事者意識」を持たせ、自ら行動できるようにサポートできるかが、令和型良い授業のカギと言えます。

2.学生の未来を見据えた授業

現代社会の課題の一つに「未来(職業、働き方含む)がイメージしづらい」ことが挙げられます。学生だけでなく、現在社会人である方々にとっても未来をイメージしづらい時代であることは間違いありません。だからこそ、どんな状況においても問題を打破できる思考やマインドを身につけられるような授業が必要だと言えます。
学生が「現在」のことを考えながら、「未来」に続くイメージも持てる授業が良い授業です。
現在の授業1コマだけで考えることなく、次の授業、次の単元、次の学年、社会人になった状況(専門性を持って企業に勤めるイメージだけでなく、起業家としてのマインド・アントレプレナーシップも)など、未来を見据えて授業を考えていくことが必要です。

「先生が自然体で楽しそう」はどうしてそう感じるのか?

では、このような「良い授業」を作っていくためには何が必要なのでしょうか。

数多くの授業観察の中、「良い授業」を構成できる教員には共通する考え方や行動が存在することが分かりました。

例えば、授業者である教員自身が自然体で伸び伸びと楽しそうに授業を行っていたり、専門教科の内容以外にもいろいろなことに興味や関心を示し、一見すると授業と関係のないような話であっても、いつの間にか学生を専門教科の内容に引き込み、主体性を引き出していたりする、などです。

「なるほど」と共感する一方、このような共通事項の中で抽象的な表現でしか説明できない部分が教員を悩ませる要因にもなります。

例えば「教員が自然体で楽しそう」と、なぜ観察者である私たちや学生は感じたのでしょうか。何を見て、何を聞いて、教員のどのような行動をそう感じて判断したのでしょうか。

この連載を通して、こういった「教員が自然体で楽しそう」ということは、なぜ「自然体で楽しそう」と他者が感じるのか、また逆になぜ「不自然(作為的)で楽しくなさそう」と他者が感じるのかという要素を分解し、少しずつお伝えしていく予定です。

それによって、より良い授業に近づくための道筋が明らかになり、次のステップに向けての考えや行動を教員自身がイメージしやすくなると考えています。

「良い授業」を作るために必要なもう一つの要素

最後にもう一つ。良い授業は教員の考えや行動だけで構成されているのでしょうか。もちろんその要素は非常に大きいと思いますが、それだけではありません。

多くの授業で、次のようなケースを目にすることがあります。同じ教員で同じ教科・同じ単元・同じ内容の授業であるにも関わらず、クラスが変わるとまるで別人のような授業(あるクラスでは良い授業であるが、別のクラスでは全く機能していない)になってしまうケースです。

なぜこのような現象が起きてしまうのでしょうか?
変わっているのはクラス、学生です。学生の人間関係、実習期間の前後や長期休暇明けの時期、週初めと終わり、1限目と6限目、ハードな実技・実習の後など、学生側のさまざまな状態や状況の違いが考えられます。

このように、授業を行う教員にとって、学生の状態や状況も良い授業を行う上での重要な要素と言えます。良い授業に向かうためには、この学生の状態や状況の把握と適切なサポートも必要なのです。

中には「教員が頑張って良い授業になるように一生懸命伝えれば、学生の状態や状況など関係ないのでは?」とお考えの方がいらっしゃると思います。
もちろん、いずれ伝わる可能性はあると思いますが、時間がかかるし無駄も多くなります。どんなに良い内容やパフォーマンスでも、寝ている相手には全く伝わらないはずです。

その点も踏まえて、次回は講義中心の授業における「授業構成」についてお伝えいたします。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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