
連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
新年度が始まって約2カ月が過ぎました。クラスの様子はいかがでしょうか。「授業における当たり前の行動」が定着しているクラスもあれば、新年度の緊張感が薄れ、少しダレ始めてきたクラスもあるのではないでしょうか。
前回もお伝えしましたが、1年間の授業運営を良い方向に進めるためには、夏の長期休みに入る前までのリレーションづくりとルールの定着が必要です。今回は、前回に引き続き「リレーションづくりと授業ルール(後編)」として、授業ルールを中心にお伝えします。
前回の記事はこちらからご覧ください。
目次
授業ルールとは

ここで言う「ルール」とは、「授業を受ける上で定められた約束事」のことです。学生が意識しなくても、当たり前の行動としてできるようになって、初めてルールが定着したと言えます。
授業ルールには、授業に必要な教具やICT機器の使用方法などの「授業の進め方に関するルール」、号令や出欠確認、グループでの話し合い方法などの「集団の育成に関するルール」、課題やレポートの提出方法や評価基準、履修内容、目指すべき資格などの「評価に関するルール」、著作権や肖像権、個人情報保護法など成人として知るべき法律を確認する「法律に関するルール」があります。
授業の進め方に関するルール
何を使用して授業を行うのか、わかっていない学生は多いものです。また、わかっていても、授業が始まる前に必要な教科書や教具の準備ができていない学生は少なからずいます。特に講義形式の授業においては顕著です。スポーツ系のサークルに所属する学生は、活動を始める前に必要な道具をそろえるでしょうし、道具の使い方も適切なはずです。授業も同じように考えれば、授業前に必要な道具をそろえることも、ICT機器などを適切に使うこともできるはずですが、スポーツと同じようにはできないのが現状です。
その理由は大きく二点あります。一点目は授業に向かう「学生の心構え」の問題。二点目は、授業の進め方と教具についての「理解不足」の問題です。どちらにしても解決方法は、「定着するまでの説明と徹底」です。スポーツ活動のように定着するまでは、あえてルール化することで、徹底しやすくなります。
集団の育成に関するルール
最近の学生を見ていると「コミュニケーション力の二極化」と「気持ちの切り替えの不得手さ」が気になります。専門学生に限らず、大学生にも言えることですが、グループワークなど複数でコミュニケーションをとることが、極めて苦手な学生が増えているようです。一方でコミュニケーションが得意な学生も増えています。そのため、話し合い自体は順調に進むのですが、グループ内に1~2名全く参加していない学生がいることは珍しくありません。これは、グループワークをよく観察していないと気付きにくい厄介な問題です。原因として、コロナ禍の影響による成長過程(中学~高校段階)でのグループ活動の不足や、ICT機器の発達による対人コミュニケーションの経験不足が挙げられます。
解決策として、習慣化するまではグループでの発言方法をルール化することがおすすめです。例えば「【発言のルール1】一人ずつ順番に全員話す」「【ルール2】意見を否定せず傾聴する」と設けます。このルールがあれば全員が必ず発言しますし、発言に対する心理的安全性も担保されることで、議論が円滑になります。「小学生じゃないんだからここまでしなくても…」と思う方もいらっしゃると思いますが、実は社会人向け講座におけるファシリテーターでも、このルールを設けてサポートすることが多くあります。また、グループ内の役割分担を明確にすることで、各々の「当事者意識」を高め、効果的なコミュニケーションを促すこともできます。
次に、気持ちの切り替えが苦手な学生に対する対応方法です。私自身いろいろ試した結果、「授業開始と終了時の号令の徹底」と「出欠確認の活用」が簡単かつ効果がありました。専門学校によっては、これらを省略しているクラスもあるかと思います。大学では号令をほとんど行っていないのが現状でしょう。しかし、意外にもこの授業開始及び終了の号令を徹底すること、出欠確認を活用することが、学生の気持ちを切り替える手段になり得るのです。
スポーツの世界では、練習や試合の開始時に挨拶(授業でいう号令)をします。特に練習時は声を出すことで、気合いを入れたり、気持ちを切り替えたりしている姿をよく見かけます。強い運動部の練習を観察すると、この挨拶や声出しに統一性(ルール化)があることに気付きます。一点目は選手が挨拶や声出しの「目的」を理解して行動している点。二点目は、一つ一つの行動を丁寧に行い、流れ作業で挨拶や声出しをしていない点です。これは推測になるのですが、この統一性(ルール化)によって、選手の練習に対する気持ちの切り替えや心構えが向上し、集中力が増すと思われます。その結果、怪我が減ったり、練習の効果が高まったりするのです。
授業においては、号令の徹底が同じような効果を生み出すようです。私が推奨する号令は一つ一つの行動を別々に丁寧に行い、発声してからお辞儀を行う「分離礼」です。これは、社会人になってからも好印象を持たれる、「役に立つ」作法です。学生のうちから当たり前にしておくことで、将来のためになるはずです。
次に出欠確認の活用です。切り替えがうまくいかない学生のほとんどは、授業に対して当事者意識が薄く、何となく他人事のように座っています。まるでモニター越しにオンラインで授業を受けているのと変わらない感覚に見えます。授業に参加している意識を持たせるために、出席確認で「名前を呼んで、返事をさせ、目を合わせてお互いの存在を確認する」ようにしましょう。単に出欠を知りたいだけであれば、出席カードを使用したり、座席を決めて空席をチェックしたりすることでも可能ですが、あえて学生の名前を呼んで出席を取ることで、「気持ちの切り替え」という目的も達成できるというわけです。
評価に関するルール
卒業単位や就職活動先への提出など重要な意味を持つ成績。大多数の学生にとって、その評価基準は興味の対象です。評価の透明性を確保し、学生が自身の学習成果を適切に理解できるようにしましょう。例えば、ルーブリックを利用して「論理的な構成」「独自性」などの評価項目を明記し、可視化するのが理想です。学生が何を重要視すべきかわかるように、評価基準を明示しましょう。
また、課題・レポートの提出方法に関しても、提出期限や提出フォーマット(PDF形式、手書き提出の可否、提出先、タイトルの書き方など)を明確化し、提出遅延への対応方法(減点、再提出可否)を学生が理解できる形でルール化しましょう。
法律に関するルール
学生が適切な行動を取れるよう、社会人として知っておくべき・守るべき法律や社会のルールを伝えましょう。最低限、以下の法律に対する理解は促す必要があります。
著作権・肖像権の理解
授業内や課題で作成する資料やオンライン投稿に関する著作権、適切な引用方法について説明し、学生自身が判断できるように促しましょう。肖像権についても、注意点を共有するとよいでしょう。
個人情報保護法の遵守
学生同士の情報や実習先で取得した個人情報の取り扱いについて、ルールとして明確に伝えましょう。例えば、名簿管理やUSBの取り扱い、オンラインツール使用時の送信先確認などについてです。
ハラスメントとコンプライアンス
専門学生は全員成人です。高校生と変わらず行動した場合、取り返しのつかない失敗をしてしまう可能性があります。成人としてあるべき立ち居振る舞いを少しずつ伝えていきましょう。
まとめ
今回は授業ルールを中心にお伝えしました。授業を円滑に進めるためには、授業構成や内容と同様、授業ルールや人間関係にも配慮が必要です。夏の長期休暇前まで、中期的なスパンをもって、取り組んでください。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)









