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TOP教養スキルアップ指導スキル(13)~学生の主体性を育てる「ファシリテーション」スキル(後編)

指導スキル(13)~学生の主体性を育てる「ファシリテーション」スキル(後編)

2025.08.25 (最終更新:2025.09.18) スキルアップ 学校運営

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

夏の長期休みも終わりに近づき、先生方は休み明けに向けた準備を進めている時期ですね。

今回も前回に引き続き、「学生の主体性を育てる『ファシリテーション』スキル」についてお伝えします。今回は、学生をファシリテーターとし、学生同士のグループでファシリテーションを行えるようにする育成ポイントについてお伝えします。

また、前々回の内容からの続きとなりますので、前回及び前々回の内容を確認してから読んでいただくことをおすすめします。

指導スキル(11)~学生の主体性を育てる「ファシリテーション」スキル(前編)
指導スキル(12)~学生の主体性を育てる「ファシリテーション」スキル(中編)

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学生をファシリテーターに育成する考え方

前回もお伝えしましたが、専門学校の教員がファシリテーションを行う場合は、以下の3パターンがあります。

  1. 自身が主任やリーダーとしてファシリテーターとなり、会議や打ち合わせの場において目的達成や課題解決を容易にするために、中立的な立場から話し合いをサポートする
  2. 授業において、複数の学生グループが円滑に話し合いを進められるようにサポートする
  3. 学生自身がグループ内でファシリテーターとなれるような指導・サポートをする

今回は「3.学生自身がグループ内でファシリテーターとなれるような指導・サポートをする」について説明します。

担当する学生全員を、公平にファシリテーターへと育成することが理想ではあります。しかし、経験上は、まずファシリテーターとなる学生をある程度固定して育成する方が効率的で、効果が高いように思います。

ファシリテーターの選出は、立候補、もしくは教員からの指名(ファシリテーターに向いていそうだと判断した学生)がおすすめです。立候補の場合は「責任感」が生まれること、指名の場合はそもそも「適性が高い学生」を選ぶことによって、効果が高まります。一方で、あまりおすすめできない方法は、じゃんけんなどで負けた学生がファシリテーターを担当する方法です。学生の中で「ファシリテーター=罰ゲーム」の意識が芽生える可能性があるからです。

また、ファシリテーター以外の学生には、「まとめ役(書記)」「タイムキーパー」「プレゼンテーション担当」など、グループ内で役割を分担させます。ある程度ファシリテーターを務められる学生を育成できたと感じた時点で、段階的にほかの学生に交代でファシリテーターの役割を任せましょう。

ファシリテーターの経験は、リーダーシップや調整能力を実践的に学ぶ絶好の機会となり、社会人基礎力の向上につながります。

ファシリテーター選出後の事前準備と考え方

グループワークの最初には、「話し合いの目的」「テーマ」「到達目標」「全体の流れ」をメンバー全員に共有します。時間が取れる場合は、ファシリテーター役の学生だけ事前に集まってもらい、「話し合いの目的」「テーマ」「到達目標」「全体の流れ」を確認し、ルールやワークシートの使い方などを考えてもらい、グループワークのシミュレーションを行うと効果的です。

また、グループワーク終了後に成果をプレゼンしたり、活動を振り返ったり(フィードバックやリフレクション)するといった、終了時の進め方についてもあらかじめ伝えましょう。

あまりグループワークに慣れていない学生の集団でファシリテーターを務める場合には、スモールステップを意識させてください。 最初から完璧を目指すのではなく、「まずは全員から一言ずつ意見を聴いてみよう」といった小さな目標から始め、少しずつ成功体験を積ませることが必要です。

ファシリテーター育成のポイントとワークシート

以下の4つを意識できるようなワークシートを活用しながらグループワークを行うと、ファシリテーターを育成する上で効果的です。

(1)目的とゴールに対して「論点」をぶらさず、話し合いの内容を共有する

「話し合いは脇道にそれることがある」という前提のもと、まずは話し合いの「目的」と到達点となる「ゴール」のイメージを明確にし、全員で共有します。テーマについても、メンバー間で定義やイメージのズレが少なくなるように、事前課題として参考資料を配布(ネット上の情報含む)したり、話し合いを始める前に質問を受け付けて共有したりすることで、全員がより正確にテーマを理解できるように促します。例えば「社会人としてのウェルビーイング」がテーマであれば、「ウェルビーイング」の定義を事前に明確化しておくことが重要です。

また、「人の話をさえぎらない」「まずは楽しむ」といった、話し合いをスムーズに進めるためのルールを共有することも、状況によっては必要です。

議論の内容は、ホワイトボードやデジタル機器を用いて可視化することで認識のズレを防ぎ、議論をまとめやすくします。

(2)メンバー同士の理解を橋渡しする

メンバー間の相互理解を深めることも、ファシリテーターの重要な役割です。発言が長くなった場合には、要点を整理し、まとめ役(書記)と確認したり、議論の目的や方向性を再確認したりすることで、小さな認識のズレを修正します。

さらに上級テクニックとして、腕を組んだり、顔をしかめたりといったメンバーの表情や姿勢にも注意を払いましょう。言動の不一致が見られた場合、その違和感の背景にある原因を探れるようになれば、ファシリテーターの上級者です。話が省略されたり、脱線していたり、過度に一般化されたりした際には、具体的な質問を投げかけ、全員の理解が深まるようサポートするのが理想です。

(3)メンバーの視野を広げ、思考を深める

議論が行き詰まった際には、メンバーの視野を広げ、思考を深める働きかけをすることが重要です。例えば「今まではこうだった」といった固定観念を取り払うために、「もし新しい方法を考えるとしたら?」「他の場所でも応用するには?」といった問いを投げかけます。「そもそも」(ゼロベース)、「もし~だったら」(仮定)といった発問を工夫することで、議論を活性化できます。

また、論点をあえて分割したり、物事の捉え方を変える「リフレーミング」という手法を用いることも有効です。

これらは、教員がファシリテーターを務める場合でも難しい発問テクニックです。上達には慣れと経験が必要ですので、長い目で育成していく必要があります。

(4)意見の共通項を整理して共有・合意する

ファシリテーターは、話し合いの最終段階で出てきた多様な意見を整理し、合意形成へと導きます。意見をジャンル分けしたり、似ている意見をグループ化したりして、議論を整理します。その際に、「緊急度」や「重要度」といった観点を用いて、取り組むべきことの優先順位を確認します。

意見が対立した場合には、その対立構造(例:理想と現実、個人と集団など)を可視化することで、論点を明確にすることが有効です。

最後に、決定事項や今後の行動計画(今後の課題、いつまでに、誰が、何をするか)を全員で確認し、共有します。

あくまでも一例ですが、こちらがファシリテーター用のワークシートのサンプルです。

次回に向けて

今回は、「学生の主体性を育てる『ファシリテーション』スキル(後編)」として、学生をファシリテーターとし、学生同士のグループでファシリテーションを行えるようにするための育成ポイントについてお伝えしました。ファシリテーションのスキルは、知識として理解していても、実際に行ってみると難しく、なかなかできないものです。焦らずにじっくりと取り組んでいきましょう。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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