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TOP教養スキルアップ指導スキル(14)~資格取得率を向上させる授業デザイン

指導スキル(14)~資格取得率を向上させる授業デザイン

2025.09.22 (最終更新:2025.10.10) スキルアップ 学校運営

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

早いもので2025年も残すところ3カ月となりました。専門学校生は、実習や学校行事、国家資格の準備、就活準備などのため、重要かつ多忙な時期に入っていることでしょう。特に国家資格や一般資格、各種検定、就職活動における筆記試験が間近に迫っている学年は、時間をやりくりしながら、効率よく効果的に学習を進める必要があります。

そこで今回は、授業において、学生の得点力をサポートする「資格取得率を向上させる授業デザイン」についてお伝えします。

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「学力向上」と「得点力向上」の違い

専門学校において資格取得指導を行う際、まず理解しておかなければならないのは、「学力が上がること」と「得点できること」は、必ずしも同じでないということです。学術的な理解が深まったからといって、それが直接的に試験での高得点に結びつくとは限りません。むしろ試験で求められるのは、「とるべき問題」を確実に得点できるトレーニングを積むことなのです。

国家資格や公務員試験などの筆記試験の問題構成を見ると、確実に解答すべき基本的な問題から、受験者を選別するための難問まで幅広く含まれています。しかし、合格ラインを突破するためには、すべての問題を完璧に解く必要はありません。むしろ重要なのは、じっくり時間をかけて解く深い思考力よりも、既に習得している知識を活用して「早く・正確に解く能力」を身につけることです。

また、試験本番では、時間的制約がある中で問題を解く必要があるため、ケアレスミスを極力少なくするトレーニングも欠かせません。知識があっても、計算ミスや読み違いによって失点してしまっては意味がありません。学力向上と並行して、実践的な得点力を高める指導が重要になってきます。

「学習(教科)指導」と「学業指導」の違い

教育現場では、「学習指導」と「学業指導」を明確に区別して考える必要があります。「学習指導」とは、各専門教科の指導目標に向けた学習活動の指導を指し、一般的な授業内容の大部分がこちらに該当します。一方、「学業指導」は学習を効率よく効果的に進めるための指導のことで、具体的には学習方法例の提示や学習意欲の喚起などが含まれます。

得点力を向上させるためには、専門知識の指導だけでなく、学業指導も同様に重要です。専門学生の中には、高校までの学習経験が十分でなく、効果的な学習方法が確立していない学生も少なくありません。そのような学生に対しては、「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」を指導することが、資格取得率の向上に直結します。

学業指導を通じて、学生が自分に合った学習スタイルを見つけること、そして、限られた時間の中で最大限の学習効果を上げられるように導くことが、教員の重要な役割となります。

動機×期待×価値理論の活用

学生のモチベーションを高め、継続的な学習を促すためには、アトキンソンの期待価値理論の3要素「動機×期待×価値」を活用することが有効です

※参照:指導スキル(4)~心理学を活用したモチベーションUP術

この理論では、学習者の行動は動機(達成動機:やりたいという気持ち)、期待(主観的な成功確率:自分にもできそうという見込み)、価値(成功時の魅力:やる意味があるという認識)の相乗効果によって決まるとされています。

この3つの要素の中でも、特に「期待」の部分、すなわち「自分にもできそう」と学生に感じさせることが重要です。資格試験という高いハードルを前にして、多くの学生は不安や諦めの気持ちを抱きがちです。しかし、適切な指導により、小さな成功体験を積み重ねることで、学生の自己効力感を高めることができます。 具体的には、難易度の低い問題から段階的に取り組ませたり、過去の合格者の体験談を紹介したりすることで、「自分にもできる」という期待感を醸成します。この期待感が高まることで、学習への動機も自然と向上し、継続的な学習行動につながっていきます。

学業指導の実践例

(1)問題を「〇△×」の3段階に分ける

まず、過去出題の試験問題を「〇△×」の3段階に仕分けする方法があります。〇は「答えや解き方がわかる問題」、△は「全くわからないわけではないが不安が残る問題」、×は「答えや解き方が思い浮かばない問題」として分類します。この仕分けを行った後は、〇に分類した問題から順番に解いていくよう指導します。これにより、学生は確実に得点できる問題を見極める力を養い、試験本番でも効率的に問題に取り組むことができるようになります。

また、〇や△に分類した問題の中で、間違えた問題から復習することで、より定着しやすくなります。

指導例1

(2)正答率が高い問題順に復習する

次に、正答率に注目した学習方法も効果的です。過去の問題やクラス全体での演習結果から正答率がわかる場合は、正答率が高い問題の順番に並び替えて、その順番で間違えた問題を復習させます。多くの受験者が正解できる問題で失点することは、合格への道のりを大きく左右します。一方で、正答率が30%未満の問題については、状況によって解説を省略し「捨て問題」として扱うことも戦略的判断として重要です。限られた学習時間を効率的に活用するためには、このような優先順位付けが不可欠です。

指導例2

ミスを減らすための指導例

資格試験において、知識はあるのにミスによって失点してしまうことは非常にもったいないことです。ミスを減らすための指導として、以下の4つのポイントが重要です。

(1)見直す習慣

第一に、見直す習慣をつけることです。テストのたびに見直すよう継続的に声をかけ、見直しを当たり前の行動として定着させます。多くの学生は問題を解き終わると安心してしまいがちですが、見直しこそが得点アップの鍵であることを繰り返し伝えましょう。

(2)効果的な見直し

第二に、見直しのポイントを具体的に理解させることです。漠然と「見直しをしなさい」と言うだけでは効果的ではありません。「何を(問題文や解答欄)」「いつ(解答後・提出2分前)」「どのように(勘違いや書き間違いがないかなどに注意しながらチェックする)」見直せばよいのかを明確に指導し、効果的な見直し方法を身につけさせます。

(3)時間配分

第三に、時間配分の意識を高めることです。試験時間から逆算して1問あたりにかけられる時間を算出し、見直しの時間も含めた全体的な時間管理を指導します。時間に追われて焦ることで生じるミスを防ぐためにも、余裕を持ったスケジューリングが重要です。

(4)問題文の読解力

第四に、問題文を丁寧に読む習慣を徹底することです。聞かれていること、つまり解答すべきことが何かを間違えないように指導します。特に「適切なものを選べ」と「不適切なものを選べ」といった問題では、思い込みによる読み違いが致命的な失点につながります。このような基本的な注意点を反復して指導することが、確実な得点力向上に結びつきます。

まとめ

資格取得率を向上させる授業デザインにおいては、従来の知識伝達型の授業から一歩進んだアプローチが求められます。重要なのは、学力向上と得点力向上が異なることを理解し、学生に、試験で得点につながる実践的なスキルを身につけさせることです。そのためには学習指導に加えて学業指導を充実させ、効果的な学習方法や試験対策の技術を具体的に指導する必要があります。

学生のモチベーション維持においては、期待価値理論を活用し、特に「自分にもできる」という期待感を高めることが重要です。過去問の段階的な取り組みや正答率を意識した優先順位付けなど、具体的で実践的な学業指導の手法を取り入れることで、限られた時間の中でも効率的に学習を進めることができます。

さらに、知識があっても試験本番でミスにより失点することを防ぐため、見直しの習慣化、効果的な時間配分、問題文の正確な読解といった基本的な試験技術の指導も欠かせません。これらの要素を総合的に組み合わせることで、学生の資格取得率向上につながる、質の高い授業デザインを実現することができるのです。

専門学校の教員として、単なる知識の伝達者ではなく、学生一人ひとりの資格取得という目標達成をサポートする伴走者として、これらの指導法を積極的に活用していただければと思います。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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