
連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
春らしさを感じる日も増えてきましたね。先生方は年度末の業務や新年度の準備に追われて、忙しく過ごされていることと思います。
さて、前回は専門学校生の「伝える力」を伸ばすプレゼン指導の考え方についてお伝えしました。簡単にまとめると、“プレゼンテーションは単なる発表技術ではなく、自分の考えや成果、価値を「相手に届ける行為」であり、言い換えれば「相手にプレゼントを贈る」コミュニケーションであるという意識を持つことが大切だ”というお話でした。
前回記事:指導スキル(18)~専門学生の「伝える力」を伸ばすプレゼン指導の考え方
このお話をしたのは、前回もお伝えした通り、専門学校の先生方から「学生が就職活動で、知識や技術をうまくアピールできない」という声をよくお聞きするためです。プレゼン力の向上によって、この課題が解決の方向に進んでいくこともあります。
しかし、それ以前に学生自身が「自分には何ができるのか分からない」という不安を抱えている場合は、さらに別のアプローチが必要になります。
専門学校の授業には、就職活動でアピールできる要素(知識・技能)が数多く含まれています。問題は、それが学生の中で「実社会で活用できる経験」として整理されていないこと、また、教員側も「就職との接続」という視点で授業を構成する機会が少ないことにあるのではないでしょうか。
さらに言えば、学生は「できるようになったこと」は自覚していても、「どの場面で役立つのか」までは考えていないことが少なくありません。ここに、授業と就職活動(就業後のイメージ)との、“見えない断絶”が存在しています。
今回は、専門学校の授業をどのように設計すれば、より自然に就職(就業感)へとつながっていくのか、その視点について考えていきます。
目次
1.専門学校生が就職でつまずく理由

就職活動において学生が困る場面の一つが、「学生時代に力を入れたことは何ですか?」と問われる場面です。授業で多くの課題に取り組み、作品も制作しているにもかかわらず、それをどのように説明すればよいのか分からないのです。
たとえば、「ポスターを制作しました」とは言えても、「誰に向けて、どんな課題を解決するために制作したのか」「どのような工夫をし、どのような改善を重ねたのか」までは語れないケースが多く見られます。
ですが、企業側が知りたいのは成果物そのものだけではなく、その背景にある思考や姿勢です。
学生にとって、授業は「課題をこなす場」であり、「単位を取るための活動」と捉えていることが少なくありません。そのため、制作や実習の経験が「仕事につながる体験である」という意識が十分に育っていないのです。
結果として、ポートフォリオに成果物が並んでいても、「なぜその表現を選んだのか」「どのような課題を解決しようとしたのか」「どんな試行錯誤があったのか」といったプロセスの説明が弱くなります。
これは前回お伝えしたプレゼン力とも深く関係しています。経験が整理されていなければ、いくら伝え方を学んでも説得力のある言葉にはなりません。
2.授業を「仕事の疑似体験」に変換する視点
授業を就職につなげるために重要なのは、課題を「仕事の疑似体験」として設計する視点です。たとえば、単に「作品を制作する」という課題ではなく、以下のような要素を明確にします。
・誰のための制作なのか
・どのような課題を解決するのか
・どのような条件や制約があるのか
可能であれば、架空のクライアント設定や具体的なターゲット像を提示することも有効です。納期を明示し、途中経過の報告を求めるだけでも、学生の意識は大きく変わります。実社会では、期限があり、予算があり、相手の要望があります。修正依頼もあれば、思い通りにいかない場面もあります。こうした要素を授業の中に少し取り入れるだけで、課題は「演習」から「実務に近い体験」へと変わります。
そして、個人の作業だけではなく、グループ活動として行うことも効果的です。
・期限を守ること
・要件に沿って修正すること
・相手の立場に立って考えること
これらはすべて、就業後に求められる力です。授業で行っていることが、そのまま社会につながっているという認識を、まずは教員自身が持つことが重要です。
3.成果物だけでなく「プロセス」を意識させる
就職活動では完成品の質だけでなく、そこに至るまでの思考過程や姿勢も評価されます。しかし学生は、完成した作品がすべてだと考えがちです。そこで有効なのが、授業の中で「振り返り(リフレクション)」の時間を意図的に設けることです。
可能であれば、以下を口頭発表や短いレポートとしてまとめさせるとより効果的です。
・この課題で工夫した点は何か
・最も苦労した点は何か
・どのように改善したか
・次に同じ課題に取り組むなら、何を変えるか
また、他者の取り組みを聞くことで、自分の経験を客観視する力も養われます。こうした問いに答える経験を積み重ねることで、学生は自分の経験を言語化できるようになります。
これは就職活動における自己PRや面接対策に直結する力です。前回扱ったプレゼン力と同様に、「経験を構造化する力」を育てることが、就職との接続を強化します。
4.教員は「キャリアの橋渡し役」である

専門学校の教員は、単なる技術指導者ではありません。学生の学びを社会の活動につなげる存在でもあります。
たとえば、学生が行っている作業に対して、
「それは実務で言うと、要件定義に近いね」
「今の修正作業は、クライアント対応力につながるよ」
「このスケジュール管理は、現場でも非常に重要な力だ」
といった声かけをするだけで、学生の認識は大きく変わります。
さらに、「今やっていることは、企業で言えば〇〇に当たる」という具体的な職種名や業務名を示すことで、学生は自分の現在地をイメージしやすくなり、自分の経験を「学校の課題」として捉えるのではなく、「社会で通用する経験」として再解釈できるようになります。
こうした日常的な言葉がけの積み重ねが、キャリア意識を育てていきます。
5.授業と就職対策を分断しない
就職対策というと、面接練習や履歴書指導など、特別な時間を設けるイメージがあるかもしれません。しかし、本質的には、日々の授業そのものが就職活動の準備になっている状態が理想です。
たとえば、作品提出時に「企業に提出するならどのように説明するか」という一言を添えさせるだけでも、意識は変わります。ポートフォリオを作る際も、単に作品を並べるのではなく、「目的」「課題」「工夫」「結果」という構造で整理させると、就職活動に直結します。
特別なプログラムを増やすのではなく、普段の授業の中で、
・この経験はどんな仕事につながるのか?
・社会ではどのように評価されるのか?
といった視点を少し加えるだけで、学生の学びは大きく変わります。
授業はすでに就職活動の一部です。その価値を教員が認識し、学生と共有し、言語化することが、これからの専門学校教育に求められています。
まとめ:「経験を意味づける力」を育てる
プレゼン力が「伝える力」であるならば、今回お伝えしたことは「経験を意味づける力」を育てるものです。両者が組み合わさることで、学生は自分の学びについて自信を持って語れるようになるはずです。
就職支援とは、特別な対策を施すことだけではなく、日々の授業に社会的な意味づけを与えることも含まれます。
専門学校の授業を、単なる技術習得の場で終わらせない。
そのための一歩として、授業設計の視点をあらためて見直してみてはいかがでしょうか。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)









