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TOP教養スキルアップ指導スキル(20)~4月・5月でやめてしまいそうな学生をどう支えるか-専門学校における初期離脱への向き合い方

指導スキル(20)~4月・5月でやめてしまいそうな学生をどう支えるか-専門学校における初期離脱への向き合い方

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

新年度が始まり、授業も本格的に動き出す時期となりました。入学したばかりの学生も、少しずつ新しい環境に慣れ始めている頃ではないでしょうか。

さて、この時期になると、専門学校の先生方からよく受ける相談があります。

それは、「『〇〇になりたい』という志望動機を掲げて入学した学生が、4月・5月といった早い段階で、『自分には向いていなかった』『本来やりたかったことと違う』『イメージしていた仕事とは違った』と言って、学校をやめてしまう」というものです。

特にこの時期は、教員と学生の関係性もまだ十分に築かれておらず、本音を引き出すことが難しいため、「どのように関わればよかったのか」「どうすれば引き留められたのか」と振り返っても、明確な答えが見えないという声も多く聞かれます。

前回は、専門学校の授業をどのように設計すれば就職につながるのかという視点についてお伝えしました。

前回記事:指導スキル(19)~専門学校の授業を「就職につなげる」ための設計視点

しかし、その前段階として、「学び続ける状態」をどう支えるかという問題があります。

今回は、4月・5月に起こりやすい初期離脱にどのように向き合うべきか、その視点について考えていきます。

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1.なぜ4月・5月に離脱が起きるのか

将来のビジョンがなく、なんとなく専門学校に入学する学生も多いかと思いますが、目的を持って入学した学生であっても、期待や意欲を持っている一方で、その職業や学びについての理解が必ずしも十分とは言えません。

入学前に抱いていたイメージと、実際の授業内容や求められるレベルとの間にギャップが生じたとき、「思っていたのと違う」という感覚が生まれます。

また、専門学校は入学直後から専門的な内容に触れることが多いため、基礎的な理解が追いつかない段階で難しさを感じる学生も少なくありません。周囲の学生と比較して「自分はできていない」と感じることで、自信を失いやすい環境でもあります。

さらに、新しい人間関係や生活環境の変化も影響します。慣れない環境の中で不安を抱えながら学ぶことは、想像以上に学生にとって負荷が大きいものです。

また、「サービスを受ける側」から「サービスを提供する側」になるといった意識の転換も、壁のひとつとなります。学生は「アニメ・マンガが好き」「ゲームが好き」「スポーツが好き」「美容に興味がある」などの動機のもと、「好きなことを楽しむ側」の意識のまま、入学してくることが多いでしょう。そのため、「好きなことを楽しむ側」から「楽しませる側」への意識の転換は、想像以上に負荷がかかります。その結果、「向いていない」という言葉で自分の状態を説明しようとするのです。

ここで重要なのは、学生は「やめたい」と強く意思決定しているわけではなく、「不安をうまく言語化できていない状態」であるという点です。

2.「向いていない」は結論ではない

学生が口にする「向いていない」という言葉は、一見すると結論のように聞こえます。しかし、その背景にはさまざまな感情や状況が含まれます。

・思っていた内容と違った
・授業や実習についていけるか不安になった
・周囲と比べて自分はできていないと感じ、自信を失った
・評価されることへの恐れを感じた
・好きなことが楽しめなくなってきた

こうした複数の要素が重なった結果として、「向いていない」という言葉が選ばれているに過ぎません。 つまり、この言葉は最終的な判断ではなく、「途中の状態」を表しているものです。これを結論として受け取ってしまうと、学生自身もその言葉に引きずられ、本来は継続できた可能性のある学びから離れてしまうことになります。まずは、背景となっている感情(本音)や状況を探りましょう。

3.本音は無理に引き出すものではなく、自然に出てくるもの

しかし、「本音を探る」と言っても、初期の段階では教員と学生のリレーション(人間関係)はまだ十分に築かれていません。そのため、時間を設けて個別に面談しても、学生が本音を語るとは限りません。

むしろ、「評価する立場」である教員に対して、学生は無意識に“正しい答え”を選ぼうとする傾向があります。また、教員側も新年度の準備や授業対応に追われ、学生一人ひとりと深く関わる時間を確保することが難しい場合も多いでしょう。

そこで意識したいのは、「安心して話せる関係性」と「失敗を許容する雰囲気や環境」をいち早く作るという考え方です。そうすることで、学生は教員に本音を話しやすくなります。

4.離脱の予兆となり得る学生の行動

学生が「やめたい」と口にする前には、必ず行動に変化が現れます。特に注意深く観察すべきは、以下の行動です。

(1)遅刻しがち、休みがちになる

最もわかりやすい兆候です。単なる生活リズムの乱れと捉えるのではなく、その背景にある変化にも目を向けることが重要です。

(2) 休み時間にひとりで過ごすことが多くなる

それまで周囲と交流していた学生が、急に一人でスマホを眺める時間が長くなったり、教室を離れるようになったりする場合、周囲とのトラブルや、友人との「成長スピードの差」に圧倒され、自己否定に陥っている可能性があります。

(3)道具や教材など、持ち物の扱いが雑になる

専門職を目指す上で、道具は命です。その道具を忘れる、あるいはメンテナンスを怠るようになるのは、その分野への意欲が減退している、あるいは向き合うことが苦痛になっている兆候です。

(4)提出物を出さない、遅れがちになる、内容の精度が下がる

学校に慣れてきてダレ始めてくる学生にも普通に起こる行動ですが、これも兆候のひとつです。単なる「ダレ」と決めつけずに観察しましょう。

(5)「正解の確認だけ」が気になっている

「これで合っていますか?」「次は何をすればいいですか?」といった、作業を終わらせることだけを目的とした質問が増えるのは、本来の目的を見失い、単なる「こなすべきこと」になっている可能性があります。

5.初期離脱を少なくするための関わり方

では、具体的にどのような関わり方が有効なのでしょうか。特別な手法が必要なわけではありませんが、いくつかの視点を持つことで、学生の状態は大きく変わります。

(1)「評価」よりも「観察」する

最初の2カ月間は「評価」よりも「観察」を意識しましょう。できているかどうかだけで判断するのではなく、どのように取り組んでいるか、どこでつまずいているのかを見ることで、学生の変化に早く気づくことができます。

(2)「小さな成功体験」を積み重ねる

最初から高い完成度を求めるのではなく、「できた」という実感を積み重ね、自信を持たせましょう。自信の欠如は、「向いていない」という感覚に直結しやすいため、この段階での成功体験は非常に重要です。

(3)“感情”に焦点を当てる

入学間もない学生がうまく作業できていない場合、「なぜできないのか」と原因を追及するのではなく、「やってみてどう感じたか」と“感情”に焦点を当てることが有効です。感情にアクセスすることで、学生自身も現在の自分の状態が整理しやすくなります。自分自身の状態の整理ができてから、分析に進ませるように意識しましょう。

(4)職業につながる授業を設計する

今までも伝えてきたことですが、授業内容と将来の職業とのつながりを早い段階で示すことも効果的です。「今やっていることが、どのような仕事につながるのか」を理解できると、学びの意味を見失いにくくなります。

6.「続ける理由を支える」という視点

学生が学びを継続するかどうかは、「できるかどうか」だけで決まるものではありません。むしろ、「続ける理由があるかどうか」が大きく影響します。

その理由は、十年、二十年先の目標といった大きなものである必要はありません。「少しずつ分かるようになってきた」「この分野は少し面白いと感じる」といった小さな変化でも、十分に意味があります。

教員の役割は、学生の決断をコントロールすることではなく、そのような小さな変化に気づき、それを言葉にして伝えることです。学生が自分の成長を自覚できるようになると、学びを続ける意欲は自然と生まれてきます。

まとめ:学生の「学び続ける力」を支える

4月・5月に見られる初期離脱は、学生の意思の弱さによるものではなく、環境や認識のズレによって生じることが多いものです。

だからこそ、教員の関わり方次第で、その流れを変えられる可能性があります。学生は、「できないからやめる」のではなく、「続ける理由が見えなくなったとき」にやめてしまいます。

その状態に至る前に、小さな成功体験や意味づけを積み重ねていくことが重要です。

専門学校の教育は、技術を教えるだけでなく、学び続ける力を支えることでもあります。

新年度のこの時期だからこそ、学生との関わり方をあらためて見直してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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