
連載専⾨学校の先⽣に贈る「働きやすい学校への道」
働きやすい職場づくりには、「人間関係を円滑にすること」が何より大切!この連載では「楽しくはたらく人・チームを増やす」をテーマに活動を行うNPO法人「しごとのみらい」の竹内さんが、コミュニケーション術やチーム⼒を上げるアイデアを伝授。実践すれば、より働きやすい学校へブラッシュアップすること間違いなし!
しごとのみらいの竹内義晴です。本連載では、専門学校の先生方に向けて、ほかの先生や学生のみなさんとの⼈間関係やコミュニケーション、働きやすい職場づくり、ハラスメントや世代間ギャップの課題解決について、お話ししています。
今回のテーマは「誤解を減らす会話法」についてです。
学生さんとのやりとりの中で、あるいは、教職員のみなさんとの会話において、「会話がかみ合わない」「意見が食い違うことが多い」といったことはありませんか?その結果、場合によっては何を考えているのかよくわからず、モヤモヤすることもあるかもしれません。
それも無理はありません。世代も、育った環境も異なる人たちとお互いに理解し合うのは本当に難しいですよね。けれども、専門学校は「学び合う場」。できれば、モヤモヤしたままにせず、周囲と良好な関係を構築したいものです。
目次
コミュニケーションの特徴「人は、すべての体験を言葉にできない」
相手の言動を理解しようとするとき、「コミュニケーションの特徴」を知っていると、意識的な行動ができるかもしれません。その一つが「人は、すべての体験を言葉にできない」という特徴です。
話を分かりやすくするために、具体的な例を提示します。たとえば、昨日の夕食を思い出してほしいのですが、もしあなたが「昨日の夜、何食べた?」と質問されたら何と答えるでしょうか。「カレー」「パスタ」「魚の煮物」のように、おそらく、もっとも象徴的なもの、あるいはメインとなるおかずを言葉にされるのではないかと思います。
ですが、よくよく考えてみると、一言で「カレー」といっても、ビーフカレーなのか、ポークカレーなのか、はたまた野菜カレーなのか。その種類はさまざまです。さらに、サラダも食べたかもしれませんし、ビールも飲んだかもしれません。パスタもしかり、魚の煮物もしかりです。
このように、人は自分の体験や考えを言葉にしようとすると、すべてを言葉にできない。つまり、言葉を発したときに「情報が削除される」わけです。わたしたちはごく限られた、あいまいな情報を頼りにコミュニケーションを行っています。そう考えると、相手の言動がよく理解できなくて当然です。
もしも、学生さんや教職員のみなさんとのやりとりで「会話がかみ合わないな」「意見が食い違うな」と感じたら、意識的に「それはいつから起こっているのですか?」「なにが原因で、そうなったのでしょうか?」「たとえば?」「具体的には?」のように質問してみます。
意識的に質問することによって、削除された情報を知ることができます。相手の言動の背景や意図が理解できれば、誤解を減らせる可能性があります。
「解釈」ではなく「事実」ベースで会話をする
また、学生さんや教職員のみなさんとの会話の中で、「意見が食い違うことが多い」場合、「事実ベースで会話をする」ことも有効です。
たとえば、ある教職員の方から、「先生、学生の親御さんから多くのクレームが来ています」「これは大ごとですよ」という話をされたと仮定します。その場合「多くのクレーム」「大ごとだ」という言葉にドキッとするでしょう。
ですが、この会話をよく観察してみると、「多くの」や「大ごと」といった表現は、事実というよりも相手の解釈が多く含まれています。「多い/少ない」「大ごと/大したことない」という解釈は、人によってさまざまです。この「解釈の違い」がコミュニケーションギャップとなるのです。
そこで、事実ベースで会話することを意識してみます。「解釈」は人によって変わりますが、「事実」は人によって変わりません。
あいまいな状況から事実を知るためには、5W1H(「いつ?」「どこで?」「だれが?」「何を?」「なぜ?」「どのように?」)のような質問や、「具体的には?」「たとえば?」のような、物事を具体化したり、数値化したりする質問が有効です。
たとえば、「多くのクレームが来ている」から事実を知るためには、「具体的には、何件のクレームが来ているのですか?」。また「これは大ごとだ」から事実を知るためには、「たとえば、どういったことが起こっているのでしょうか?」のような質問によって、さまざまな解釈から事実を引き出して、双方が共通の認識を得ることができます。
「多くのクレーム」の具体的な数が「5件」と「100件」では対策を練る際の判断も異なるでしょう。また、感情のもつれは「多い/少ない」「大ごと/大したことない」といった解釈の違いによって生まれます。事実化することで感情のもつれを切り離す効果も期待できます。
質問で削除された情報を取り戻し、解釈を事実化する
今回は、人が自身の考えや体験を言語化するときのコミュニケーションの特徴から「誤解を減らす会話法」について見てきました。
相手と「会話がかみ合わない」「意見が食い違うことが多い」場合、コミュニケーションにおける「情報の削除」か、人による「解釈の違い」が起こっています。人はすべての体験を言葉にできません。また、それぞれの解釈を付け加えて物事を理解しています。
もし、相手のことがよく理解できなければ、質問をして言葉にできていない情報を知ること。モヤモヤしたことがあれば「なぜ、そう思ったのか?」を質問して、解釈ではなく「事実ベース」で会話をすること。この2点を意識することで、状況が具体的になり、共通の認識を持つことによって誤解を減らすことができるでしょう。
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竹内 義晴
特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長
企業研修や講演を通じて理想の働き方を支援する「しごとのみらい」理事長。元はプログラマー。職場の人間関係でストレスを抱えたことをきっかけに、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。また、サイボウズ株式会社にてブランディングやマーケティングを担当し、「複業」など新しい働き方を実践している。著書に『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』など。
しごとのみらい:https://shigotonomirai.com