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TOP特集インタビュー「メンタルヘルス対応力向上講座」が日産京都自動車大学校へもたらした効果とは?

「メンタルヘルス対応力向上講座」が日産京都自動車大学校へもたらした効果とは?

話を聞かない、遅刻が多い、うまくコミュニケーションがとれない…そういった学生は多くの学校にいるのではないでしょうか。なかには、そのような傾向が特に強く見られる発達特性のある学生もいることでしょう。

※発達特性:人が生まれつき持っている脳神経の発達傾向のこと。一人ひとりその傾向は異なり、個性や得手不得手などの形で現れる。その特性ゆえに社会生活に著しい困難が生じている場合、「発達障害」と診断されることもある。

また、特性によって引き起こされる学習の遅れや対人トラブルは、うつなどの精神疾患といった「二次的な問題」や長期欠席、退学につながる可能性があり、学校にとって大きな課題です。早期に対応し支援につなげるには、教員一人の力では限界があるはず。

今回は、この課題に長年取り組んできた「日産京都自動車大学校」から、学生にも教員にも大きな効果があったという「メンタルヘルス対応力向上講座」について教えてもらいました。

日産京都自動車大学校 教育部教務課

当麻範嗣さん

1991年に「日産学園京都自動車工業専門学校(現:日産京都自動車大学校)」へ。15年間教員を務めたのち、教務、総務、募集、就職の部署を歴任。また、8年間にわたり総務・経理、募集・就職の統括業務を担う。2017年4月より、教育部教務課にて授業カリキュラム、資格、研修、官公庁申請などを担当。

日産京都自動車大学校

栗本竜人さん

「日産学園京都自動車工業専門学校(現:日産京都自動車大学校)」卒業生。大阪府にある日産販売会社で15年間整備士として活躍後、「日産京都自動車大学校」へ2年間の出向期間を経て転籍。現在は自動車課1年統括教員と学級担任を務める。

日産京都自動車大学校

渡辺 慎さん

2022年4月より入職。一級自動車工学科の3、4年生を担当。2022年度より副担任、2024年度より3年生の学級担任に。研究活動では学生フォーミュラ、課外活動ではクライミング部の顧問も担う。

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学校に特化した事例をもとに対応法を学ぶ

―――「メンタルヘルス対応力向上講座」を全教員対象に行っているということですが、具体的にどういった内容なのでしょうか?

当麻さんメンタルヘルスの基礎知識を身に付け、学生に正しい対応が取れるようになることを目指した教員向けの講座です。「一般社団法人めとて」の代表理事で公認心理師の岡本真梨子氏を講師に招き、発達特性や精神疾患に関する基本的なレクチャーや、本校に特化した事例をもとにしたワークショップ、ロールプレイを行っています。事前に教員から「学生指導において困ったこと」の事例を集めるため、具体的で参考にしやすく、実のある講座になっていると感じます。

教員が持ち寄った事例をもとにワークショップを行う。

長い間課題だった学生支援

―――どういったきっかけでスタートしたのでしょうか?

当麻さん私は、2000年頃から発達特性がある学生やメンタルヘルス不全の学生に対するサポートの必要性を感じていました。ちょうど、高等学校における通級による指導が制度化され、障がいのある学生が普通高校へ入学しやすい環境が整い始めた頃です。

参考:高等学校における通級による指導(文部科学省ホームページ)

同時に、特性がある学生の言動の受け止め、学生相談へ引き継ぐという一連の動きを、通常業務に加えて教員が対応していることに限界も感じていました。教員が毎月行っている学生面談において、一部の学生にかかる時間が明らかに増えていたんです。正しいメンタルヘルスの基礎知識と初期対応方法を学ぶことが、教員としての適切な対応にもつながると、当時から考えていました。

長年に渡り良い取り組みはないか探していたところ、2019年に「全国専門学校情報教育協会」が「メンタルヘルス対応力向上研修」を開催すると知り、本校の教員が受講しました。講師の岡本真梨子氏は、心理臨床と教育研究の専門性を持ち、学生相談や教職員・保護者・専門機関などとの連携を多数経験している方で、当校の課題に非常にマッチした内容でした。「これは全教員にすぐにでも受けてもらいたい」と、学内での講座を依頼し、翌2020年度に実施していただくことになりました。

講師を務める「一般社団法人めとて」の代表理事で公認心理師の岡本真梨子氏。

どう対応したらいいか分からず悩む日々

―――講座を受けられた先生方にお伺いします。受講前はどういったことにお困りでしたか?

「メンタルヘルス対応力向上講座」を受講した渡辺さん(左)、栗本さん(右)。

栗本さん講座を受ける前は、できない学生に対して「どうしてできないんだ」という感情を持ってしまうことがありました。その場は一方的に指導することで完結していたこともありましたが、それって結局のところ何の解決にもなっていなかったんですよね。

渡辺さん例えば、どんなに説明しても、1分後には「どうやるんでしたっけ?」と質問する学生がいます。私なりに集中してもらえるよう環境を整え、分かりやすく説明しているつもりでも、話を聞いてもらえないんです。また、自分から質問をしたり、気持ちを話してくれたりすることが全くない学生もいます。こちらが勝手に「質問がないということは理解しているんだろうな」と思い込んでしまい、結果的に学生が全く違う解釈していた…ということがありました。どちらのケースも、特に実習中は安全面に関する説明を聞いていないとケガが伴うこともありますので、どうしたらきちんと聞いてもらえるのか悩んでいました。

教員一人で抱え込まず連携、学生の行動にも変化が!

―――「メンタルヘルス対応力向上講座」により、どのようなことが変化しましたか?

栗本さん:自分自身の気持ちがすごく楽になったというのが大きいですね。さまざまな特性やケースを知ることで、学生に対して「どうしてできないのか」という感情がなくなり、「じゃあどうすればいいのか?」という前向きな考えに切り替えることができました。講座で学んだ中に「困り感の調整」というのがありまして。特性がある学生本人は、その特性ゆえに、「自分が困った状況にある」ということに気付けていないケースがあるそうです。まずは本人が適切な「困り感」を持ち、その困った状況を何とか前進させるために専門家を適切に頼ること。それが重要だと知り、専門家へつなげることに注力できるようになりました。

※困り感:社会生活において、人が抱く「“困った”という感覚」のこと。学校においては、生活や学習、進級、進学、就職などの場面で、本人やその周囲(教員、級友など)が困っているときに「困り感がある」と表現する。

また、教員間で行っている学生情報の共有で、特性を含めた情報を共有することが増えました。教員全員が同じ知識を持っているので、こういった話し合いがスムーズにでき、一人で抱え込むということがなくなっています。

渡辺さん:特性を正しく理解することにより、気になる行動が特性によるものなのかを事前に察知できるようになり、個々に合わせた対応を考えられるようになりました。例えば先ほどの話にあった質問しない学生に対しては、全体に向けた説明の後に「さっきの説明、どういう風に理解した?」と個別に声を掛けるように工夫しています。講座は、多面的に学生と向き合うスキルを得る機会だったと感謝しています。

当麻さん講座の中で、学生の発達特性に対する周囲の理解のない対応が、二次的な障害としての精神的な問題や特殊な言動のきっかけになってしまうということを知りました。だからこそ、教員が一人だけで抱え込まず、適切な対応と専門家につなげることが大切なんだそうです。これをきっかけに「専門家につなげる」という教員共通の意識づけができました。もともと本校では取り組みの一環として、2017年頃より学校カウンセラーを招いて学生面談をしていたのですが、講座の後、教員が学生に働きかけることで面談を希望する学生が増えました。当初は月1回程度だったのが、現在では月2、3回来てもらっています。専門家へのつなげ方に関しても、学生にどう伝え促すのかを講座の中で学んでいます。適切なコミュニケーションをとり、専門家へつなげ、支援することで、学生の行動に変化がみられます。

また、過度な相談にとられる時間や悩みが軽減するという教員にとってプラスの効果も生まれました。教員が特性についての理解を深めたことで、学生への理解を示す発言や、教員同士で意見交換して支援を行う場面が見られるようにもなりました。全教員が受講したため、教員が一人で対応に思い悩むことなく、学校全体で取り組む体制に変わってきています。こうした効果や教員アンケートの結果を見て、姉妹校2校でも同様の講座を開催しました。今後も姉妹校全体で取り組んでいきたいと思っています。

定期的な講座で今後も教員をフォローアップ

―――すばらしい効果が見られるのですね。今後も力を入れていきたいとのことですが、どういったことに取り組まれる予定でしょうか?

「メンタルヘルス対応力向上講座」を導入した当麻さん。

当麻さん:今後も新規採用の教員には、必ず「メンタルヘルス対応力向上講座」を受講してもらう予定です。また、すでに講座を受けた教員向けに、新しくワークショップを中心とした「メンタルヘルスアドバンス講座」を実施します。教員が経験した事例を持ち寄り、事例の見立て方、学生対応のタイミングや方法など、講師のアドバイスを受けながらグループ単位で研究して発表するという内容です。うまくいった事例とうまくいかなかった事例を発表し、講師からさらなるスーパーバイズやアドバイスをいただき、より良い学生支援に活かしていきたいと考えています。こういった講座を定期的に行うことで、教員のフォローアップになればと思っています。

2024年12月から「メンタルヘルスアドバンス講座」もスタート。

教員の悩みが減ることは、メンタルヘルスのケアにつながります。教員がメンタルダウンしてしまうと、学生にとってはもちろん、学校としても困ってしまいますから。この取り組みは本校にとてもいい効果をもたらしましたので、同じような悩みを抱える全国の先生にぜひ知ってもらいたいです。

最後に……

長年にわたり課題を感じていたという当麻さんを筆頭に、学校全体で共通の知識と認識を持ち、学生の支援にあたる姿がとてもすばらしく感じました。学生に対してはもちろん、教員一人ひとりを大切にしているからこその取り組みかと思います。

最後に当麻さんから「本校の取り組みや成果を自慢したいわけではなく、専門学校全体でこの課題を解消していければと思い、取材を受けたんです」とお話しいただきました。

この記事が、同じ課題を抱える先生方の参考になれば幸いです。

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