専門学校卒業者の就職率は大学卒業者よりも例年高くなっていますが、大学卒業者と比べ就職活動が始まる時期も早く、必要なスキルの見極めや資格取得の準備にかけられる時間も少ないという特徴があります。
専門学校に通う学生の就職活動の傾向と、即戦力として活躍するために取得しておくべき資格、スキルの身に付け方について、各データをもとに解説します。
目次
専門学校卒の就職率と就職の特徴
就職率が高いと言われている専門学校の卒業生の就職活動の実態を各データから分かりやすく解説します。
また、専門卒の強みと、大卒と比べた弱みもそれぞれ説明し、専門性にプラスして足りない部分を補うためのポイントを紹介します。
専門学校の就職希望者に対する就職率は94.5%
文部科学省「令和2年度学校基本調査」によると、令和元年度間の専門課程卒業者231,536人のうち、就職者は183,792人で79.4%を占めます。
また、学んだ分野に関連した仕事に就いた卒業者の割合が高く、多くの業界で専門学校卒の人材が即戦力として働いていることが伺えます。
[政府統計の総合窓口(e-Stat)]学校基本調査
[文部科学省]学校基本調査
また、就職希望者の就職率はさらに高いようです。
東京都専修学校各種学校協会の2019年~2020年「専修学校各種学校統計資料」によると、回答を得られた366校の就職希望者の就職率は、昼間部で94.5%と高い水準となっています。
[東京都専修学校各種学校協会]専修学校各種学校統計資料
専門学校卒の就職率が高い理由
専門学校卒の人材の就職率が高い理由として以下が挙げられます。
- 専門分野を学んだ経験から、関連業界での即戦力となれるとアピールできる
- 専門知識や資格を生かした業界に進める可能性が高い
- 就職に関する学校のサポートが大学に比べて手厚い
- 専門学校に関連業界とのコネクションがあるケースもある
専門学校では就職する業界向けの実習や資格取得の支援だけでなく、社会人としての実践的なスキルを学校内で指導しているケースが多く、専門学校卒の人材は働くことに特化した学びの経験があるといえるでしょう。
専門学校卒が大卒者と比べ就職で不利になる点
就職率の高い専門学校卒業者ですが、大卒者と比べ就職で不利となるのが以下の2点です。
- 大卒者でないとなれない職種もある
- 入社後、大卒者と比べて給与に差が出る
とはいえ、応募資格さえクリアできれば、専門学校卒業者の強みを発揮するチャンスがあります。
専門学校の学生は、入学時から就職後に即戦力として働くことを想定しているため、実習やインターンなどで実際の現場体験をする機会も多くあります。
このように在学中から社会人経験を疑似的に積んでいることから、一般常識やビジネススキルは大卒者と比べても備わっています。
また、特定の業界に多くの卒業生を輩出している学校では、その学校の学生を対象とした求人票が届く場合もありますし、業界内での「横のつながり」を持てる可能性があります。
これら強みを生かし、就職活動を有利に進めるために、卒業までに取得しておく資格や身に付けておくべきスキルを学校側が示しておく必要があります。
専門学校の就職スケジュール
専門学校では学校内で行われる就職活動のガイダンスが事実上、就職活動のスタートとなります。
1年制の専門学校では3~4月から就職ガイダンスが、2年制の専門学校では夏休み明けから就職ガイダンスが始まります。
学生が志望する分野・業界によっては特殊な採用フローもありますが、以下の図は一般的な企業に就職する場合のスケジュール例です。
ガイダンスでは、就職活動の流れや就職活動方法、支援プログラム(セミナー)などの案内を行い、就職活動に向けた準備期間に入ります。
専門学校生は目指す業界・企業の分析や自己分析をガイダンスが終わった後に行います。
この段階で就職に必要なスキル・資格を把握して、卒業までに資格取得のための勉強や専門技能を身に付けるための訓練を行います。
また、専門学校生の企業エントリーは例年3月1日から開始しています。
中小企業は7月中旬、大手企業は6月に選考がスタートし、内定は10月頃から決まっていく流れです。
ただし、スケジュールにのっとらない採用活動を行う企業も一定数ありますので、その場合はそれらの企業の採用スケジュールを押さえて準備を進める必要があります。
学生に求められる技能・資質
企業において、専門学校生は即戦力となる業界ごとの専門性のほか、ビジネスパーソンとして入社後すぐに活躍できる基礎スキルの発揮を期待されています。
また、日本企業でもIT化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)がますます進んでいきます。
IT系専門学校の学生以外にも、あらゆる分野の学生にとって、IT・データ活用スキルを在学中に身に付けておくことが、就職を有利にし、就職後に第一線で活躍できる可能性を高めます。
専門学校卒の人材が求められるスキル・資格について具体的に解説します。
「コミュニケーション能力」や「主体性」を求める企業が多数
企業から求められる新入社員のスキルの筆頭が「コミュニケーションスキル」や「主体的に仕事を進める力」です。
経団連が597社を対象に行った「2018年度新卒採用に関するアンケート調査結果」では、学生に求めるスキルとして「コミュニケーション能力」が82.4%と16年連続で1位でした。
2位の「主体性」は64.3%で10年連続2位、「チャレンジ精神」は48.9%で3年連続3位でした。
専門性に特化したスキルだけでなく、入社後に上司や同僚、取引先などと適切にコミュニケーションが取れる能力や、自ら学ぶ姿勢をポテンシャルとして重視していることが分かります。
業界ごとの即戦力となるスキルを有する専門学校生に対しても、コミュニケーションや主体性など、周囲と協調しながら仕事を進め、自ら考えて業務を進める社会人スキルを身に付けられるような指導を在学中に行い、関連資格の取得を促すとよいでしょう。
コミュニケーション能力を身に付けるのに役立つ資格
企業が学生に求めるコミュニケーション能力や、入社後にスムーズに業務を行う力を身に付けるため、以下の資格の取得が推奨できます。
コミュニケーション検定 (サーティファイ) | 【内容】 コミュニケーションに関する「基本的な考え方の理解度」と状況に応じて的確な対応をとるための「実践力」を測定。 【ビジネスで役立つポイント】 ビジネスシーンで遭遇する場面が事例問題として出題される。 職場で実際に発生しうる応対について学ぶため、入社後の会議や商談などにも応用できる。 社内コミュニケーションにおいての基本マナーや面接にも役立つ知識が学べる。 |
ビジネス実務マナー検定 (実務技能検定協会) | 【内容】 ビジネスマンとしての判断・行動が適切にできるかどうか話し方、職場での対人スキル、電話実務など、「ビジネス社会の基本ルール」を身に付けているかどうかを測定。 【ビジネスで役立つポイント】 ビジネスマナーとして敬語表現や来客対応の方法、名刺交換の方法など実践的なスキルも身に付けられる。 入社後にビジネスマンとして知っておくべき知識、身に付けておくべき一般常識について、資格取得を通じて網羅的に学ぶことができる。 |
即戦力アピールができるビジネス系のスキル
即戦力アピールに役立つ基本的なビジネススキルと、就職後のキャリアアップを見込んで専門学校生に取得をおすすめできる資格をそれぞれ紹介します。
就職に有利なビジネス系の資格7選
ビジネス実務法務検定やOffice検定、簿記などビジネスマンの取得率も高い各資格の内容と、実務で役立つポイントを詳しく解説します。
ビジネス実務法務検定 (東京商工会議所) | 【内容】 業種・職種問わず必要とされる基本的な法律知識を評価する検定。 【ビジネスで役立つポイント】 契約内容の不備・不利益をチェックする能力をはじめ、業務上のリスク回避に役立つ知識・能力を幅広く身に着けられる。昇進・昇給の要件に使われることも多い。 |
Microsoft Office関連検定 | MOS マイクロソフトオフィススペシャリスト(オデッセイ コミュニケーションズ) 【内容】 マイクロソフト社公式の国際資格。 Word、ExcelなどMicrosoft Office製品のスキルがどの程度あるか客観的に証明できる。 Word、Excelの他にも、プレゼンテーションソフトのPowerPoint、データベース管理ソフトのAccessや電子メールソフトのOutlookのスキルを計測する科目がある。 一般レベルの「スペシャリスト」と上級レベルの「エキスパート」から選択して受験できる。 受験する場合は、個人で申し込み、月に1~2回開催される大規模な「全国一斉試験」か、全国のパソコンスクールなどでフレキシブルに受験できる「随時試験」のどちらかに申し込む。 日商PC検定(日本商工会議所) 【内容】 ビジネスシーンに即したPC技術を測定する資格。 文書作成(Word)、データ活用(Excel)、プレゼン資料作成(PowerPoint)の3つの科目がある。 レベルは1~3級で、文書作成とデータ活用の試験にはさらに易しいBasic級がある。 個人で申し込みし、全国の商工会議所やパソコンスクールでもフレキシブルに受験できる。受験料はMOSより安価。 Excel®表計算処理技能認定試験・Word文書処理技能認定試験・Access®ビジネスデータベース技能認定試験・PowerPoint®プレゼンテーション技能認定試験(サーティファイ) 【内容】 実務を想定した幅広い出題内容と素材データから成果物を作成する実践形式の試験。 Excel・Word・Accessは1~3級の3レベル、PowerPointは初級・上級の2レベル。 所属する学校で受験する団体受験と、個人で申し込んで全国のパソコンスクールなどでフレキシブルに受験できる随時試験がある。受験料はMOSや日商PC検定より安価。 【ビジネスで役立つポイント】 会議の議事録や売り上げの表計算、取引先へのプレゼンテーションを作成する際の作業効率が上がる。 就職時にも実用的な表計算・文章作成スキルがあると証明でき、即戦力アピールにつながる。 |
日商簿記 (日本商工会議所) | 【内容】 日々の経営活動を記録・計算・整理し、経営成績と財政状態を明らかにする技能「簿記」の資格。 年間で約60万人が受験している知名度の高い資格。 【ビジネスで役立つポイント】 ビジネスの基本であるコスト感覚、経理業務に役立つ知識が身に付く。 簿記の知識をもとに自社や取引先の経営状況を把握できるので、営業やマーケティングの業務でも役立つ。 簿記2級以上を取得していると就職時にアピールできる。 専門学生向けの簿記の試験にはほかに、社団法人全国経理教育協が実施する「全経簿記」もある。 |
語学関連検定 | TOEIC(国際ビジネスコミュニケーション協会) 【内容】 ビジネスシーンでの英会話を想定した英語技能の検定試験で、「Listening & Reading」では聴く力と読む力を、「Speaking & Writing」では話す力と書く力を測る。 満点は990点。 【ビジネスで役立つポイント】 ビジネスシーンで役立つメールの文章や英語でのミーティングで使う実践的な英語が学べる。 英語を使う部署を志望する場合や外資系企業を受ける場合にアピールできる。 企業によってはTOEICのスコアが昇進の条件になっているケースもある。 英検(日本英語検定協会) 【内容】 英語の総合的な能力を測る日本独自の資格で、主に学生向けの内容。 5級から1級までのレベルがあり、1級の試験では2分間のスピーキングが必須となる。 【ビジネスで役立つポイント】 準1級や1級を取得していれば、一定レベル以上の英語の読み書きのスキルがあると証明できる。 企業が就職の際に基準にするのは準1級以上。 ▼TOEICや英検などの試験のレベル比較は、言語能力を評価する国際指標CEFRを参照。 [文部科学省]各資格・検定試験とCEFRとの対照表 |
DX時代に求められるデータ活用のスキル
これからの時代に活躍できる人材の条件として、ビジネスの課題解決力、情報処理や統計学などのデータを扱う理解力、データを理解しビジネスの中で実践できる力がさらに重要視されるでしょう。
情報化が進む現在、クラウドやAIなどのIT活用によって新たなビジネスモデルや製品・サービスを創出し変化に柔軟に対応するための変革として「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の推進が各分野で求められています。
そのため、企業でも今、データ活用を円滑に行うことができる人材の育成が急務となっています。
ここではDX時代に必要なデータ活用スキルや資格を紹介します。
データ活用人材になるために必要な資格5選
データ活用人材として企業で活躍するために取得しておくべき資格を5つ紹介します。
統計検定 データサイエンス基礎 (統計質保証推進協会) | 【内容】 日本統計学会が認定する資格。 統計学、情報工学などを駆使してデータを引き出す「データサイエンス」についての基礎力を評価、認証する検定試験。 【ビジネスで役立つポイント】 社会人がマーケティングや売り上げ分析など業務の身近な課題をデータ処理するために必須の知識を習得できる。 データサイエンティストとして顧客のデータ分析や課題解決を行う場合の基礎的なスキルを身に付けられる。 |
ITパスポート試験 (IPA 情報処理推進機構) (国家試験) | 【内容】 ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験。 事務系・技術系、文系・理系を問わず受験者が多い。 採用活動におけるエントリーシートへの記入を求める企業があるなど、就活生への取得の促進が進んでいる。 【ビジネスで役立つポイント】 企業活動、経営戦略、マーケティング・財務・法務などIT活用で必要な知識が幅広く身に付く。 業務のスキル向上や効率化にも役立つ。 システム部門やIT企業とのコミュニケーションが円滑になる。 |
情報セキュリティマネジメント試験 (IPA 情報処理推進機構) (国家試験) | 【内容】 情報セキュリティマネジメントの計画・運用・評価・改善を通して、組織の機密情報を守るための基本的なスキルを認定する資格。 業務で個人情報を取り扱ったり、情報管理を担当したりする人材向け。 【ビジネスで役立つポイント】 多くのIT企業で、ITやセキュリティの基礎知識の習得として資格取得を推奨している。 ITパスポート取得後のステップアップとして取得するケースも追い。 |
基本情報技術者試験 (IPA 情報処理推進機構) (国家試験) | 【内容】 IT業界を志望する学生や社会人が取得する定番の国家試験。 ITの基礎知識や、論理的思考力・マネジメントの知識など業務で役立つ知識も問われる。 【ビジネスで役立つポイント】 IT業界の各分野(システム開発やプログラムの開発など)のどの分野を志望していても必須の知識を習得できる。 資格を取得しておくとIT業界で働くうえでの選択肢が増える。 |
ITが専門でない学生にも取得がおすすめできる資格
現在、IT業界だけでなくあらゆる業界でIT知識・情報セキュリティ知識のある人材のニーズは上昇しているため、ITが専門ではない学生でも定番のITパスポートか情報セキュリティマネジメント試験の受験がおすすめできます。
この2つの資格を取得しておくことで、就職後の仕事の選択肢が増え、活躍の機会が広がる可能性があります。
また、基本情報技術者試験は、ITパスポートや情報セキュリティマネジメント試験よりも一段階難しい試験です。
ITパスポートや情報セキュリティマネジメント試験を早いうちに取得できた学生には、基本情報技術者試験へのチャレンジを勧めるのもよいでしょう。
[IPA 情報処理推進機構]試験区分一覧
まとめ
専門学校に通う学生の就職活動は大学生と比べて期間が短く、メリットは専門性と即戦力をアピールできる点です。
現在の採用市場で求められる学生の能力の代表格が、コミュニケーション力や主体性などのビジネススキルであり、これに加え、データ活用のスキルを身に付けておくと、IT・デジタル化が進んだ時代でも第一線で活躍できる可能性が高まります。
IT専門人材でなくとも取得することで活躍の幅が広がるIT系の資格もあるため、「取得を推奨する資格リスト」に加え、学校内でサポートできる環境を整備することで、就職率アップにつながります。
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