医療や介護の分野で働く方々や、そういった職場で働くことをめざしている学生の方々に知ってほしい「ケアのプロセスとしてのコミュニケーションの基礎」である「ケア・コミュニケーション」。
本記事では、病院や介護施設などのチームの一員として仕事を進めるための「チーム・コミュニケーション」について説明します。
また、記事内では医療や介護のケアや支援を提供する人を「援助者」、患者さま、利用者さま、そのご家族といったケアや支援を受ける人を「被援助者」と掲載いたします。
※本記事の内容は書籍「ケア・コミュニケーション」(ウイネット)の一部を再編集したものです。
目次
チームの一員として仕事を進めるために
組織内、チーム内で情報を共有する
病院や介護施設などでは、ひとりの被援助者に多くの援助者が関わります。在宅サービスの場合でも、ケアマネージャー、訪問ヘルパー、訪問看護師、かかりつけ医など複数の関係者がケアに携わります。
被援助者は複数の異なる職員に接する度に、その人との関係づくりをすることになり、多くの負担を伴います。新しい人に会う度に、自分のことを説明し理解してもらうのは、時には億劫なことで、不安も伴います。
また、もしも複数の職員から違う説明を受けたりすると混乱を生じ、被援助者に負担がかかります。チーム内の効果的な対人コミュニケーションを通してスムーズに情報共有を行い、被援助者の負担を減らすように努めましょう。
よりよいコミュニケーションの前提として、お互いに信頼しあえる関係が重要であることは言うまでもありません。相手への尊敬と感謝の気持ちを持つだけでなく、具体的に表現しないと相手に伝わりません。その第一歩は、職場内の挨拶や声かけです。
思い込まずに、確認する
医療や介護の職場で最も重要なのは、被援助者並びに働く人々の安全の確保です。
しかし、人は誰でも間違えることがあります。言い間違い、聞き間違い、勘違い、思い込みなどから、思わぬリスクを招いてしまうことがあります。組織やチームの中には、経験豊かなスタッフもいれば新人もいます。
その職場で使われる独特の用語や表現は、慣れていない人には通じないこともあります。チームで仕事をする場合、お互いに質問して確認するとか、書いたものを見ながら確認するといったやりとりが欠かせません。ところが、忙しかったり、気軽に質問できない雰囲気があったりすると、お互いの思い込みで判断が進んでしまいます。
「確認すること」を習慣化するために、指示する場合でも指示を受ける場合でも活用できる「確認のスキル」を学ぶことが重要です。
学習前の30 秒自己チェック
Check1 | 人に何かを頼まれた時、その依頼事項を終えたら、すぐに報告する | Yes | No |
Check2 | 相手の言っていることで曖昧な部分や疑問があったら、必ず質問する | Yes | No |
Check3 | 人に何かをしてもらった場合、「ありがとう」を必ず言葉にして言う | Yes | No |
情報の共有
1.被援助者の立場から考える情報共有の大切さ
被援助者にとって、複数の援助者から同じ質問をされて何度も同じ情報を繰り返さなければならないのは苦痛です。
ただし、本人確認のために、自ら名前を言ってもらうといった被援助者の安全確保を優先した質問は繰り返し必要なことがあります。その場合、いったん本人確認ができたら、それまで被援助者が伝えていた情報は担当する人が代わっても引き継がれている状態にしましょう。診療記録、看護記録、介護記録などは、被援助者についての情報を共有する上で大切な記録なので、誰が見ても読みやすく、わかりやすく記載しなければなりません。
私たちがホテルやレストランを利用したり、通信販売などを利用したりするときに、担当者が代わっても自分の情報や要望がきちんと伝わっていると効率的で、個別にきちんと対応してもらっていると感じられ安心できます。
サービス産業では、コンピュータ技術を活用して顧客の情報を組織内で共有することに積極的なところが増えています。医療や介護の分野でも、診療や看護記録の電子カルテ化や、処方の指示のバーコード化など、さまざまな工夫がされています。
また、組織の中やチーム間でのコミュニケーション手段として、イントラネットや電子メールも積極的に活用されています。今後、医療や介護の分野でも情報システムを利用したコミュニケーションはますます広がり、交代勤務の職場や離れた場所で働くチーム間の情報共有はしやすくなるでしょう。
情報システムを活用した情報共有は、多数の職員が同じ情報を瞬時に受け取ることができ、大量のデータから必要な情報を検索することを可能にしてくれます。
しかし、個々の被援助者について、そうした情報システムに入力できない情報もあります。また、その日の状況変化などコンピュータで瞬時に共有できないものもあります。情報システムを活用する場合でも、職員間の直接的なコミュニケーションを通して、ケアのプロセスに影響を及ぼす情報を共有し、被援助者が安心してケアを受けられるように努めましょう。
<事例1>
外来の診察に来た高齢者の岡本さんは胃の調子がよくない。レントゲン撮影の指示が出たため、看護助手の山田さんがレントゲン室まで誘導した。岡本さんは歩行するのが辛そうである。山田さんは岡本さんの左から体を支えようとしたところ、「左肩が痛いので右からにして欲しい」と言われ、そのようにしてレントゲン室まで案内した。山田さんは、放射線技師にカルテと医師の処方を渡して外来に戻った。
- 放射線技師は、看護助手の山田さんから岡本さんの左肩が痛むことを聞いていない。
- 岡本さんはレントゲン撮影が終わったら、その後どうすればよいのか、誰からも聞いていない。
- 放射線技師は、レントゲンの撮影後に誰かが岡本さんを迎えに来るのかどうか、看護助手の山田さんから聞いていない。
考えよう
もし、放射線技師がレントゲン撮影の際に、「左肩が下になるように横たわってください」と岡本さんに伝えたら、岡本さんはどのように思うでしょうか。
あなたが看護助手の山田さんだったら、レントゲン室でどのような会話をしたと思いますか?
報告例~看護助手の山田さんが放射線技師(またはレントゲン室の受付担当者)に伝える場合~
「岡本さんは左肩が痛いとおっしゃっているので、撮影の際には気をつけてくださいますか」
「岡本さんの撮影が終わったら、外来の内線10 番にお電話ください。私がお迎えに来ます」
報告例~看護助手の山田さんが患者の岡本さんに伝える場合~
「左肩が痛むことを伝えましたが、撮影中に痛むようでしたら、遠慮なくおっしゃってください」
「岡本さん、レントゲンが終わったらお迎えにまいりますので、ここで少しお待ちください」
<事例2>
新人の理学療法士の平田さんが平日の夕方の5時30分頃、たまたま外来のトイレに入ったら、照明がついておらず暗くて、つまずきそうになった。そのときは用を済ませて帰宅したが、何となく気になっている。
・平田さんは外来トイレが暗くて危険なことを、他の職員には伝えていない。
・平田さんは外来トイレの管理責任者が誰なのか知らない。
考えよう
もし、あなたが理学療法士の平田さんだったら、どんな行動をとりますか?
報告例~平田さんが病院の職員と情報共有する場合~
「外来のトイレが夕方暗くて危険なのですが、そういうときは院内のどこに報告すればよいのでしょうか」
「外来のトイレが夕方暗くて危険だと感じたのですが、そのように感じられたことはないですか」
「外来のトイレが夕方暗くて危険だと感じたのですが、患者さんの安全について気になっています」
2.被援助者についての情報共有をする際の配慮
被援助者から得た情報について、他の職員やチームメンバーと共有する際には、その被援助者との信頼関係を配慮した対応が必要です。
被援助者は他の人に知られたくない相談をしたつもりだったのに、他の職員がそのことを知っていることがわかり、傷つくといったことが起こらないように、本人の意図を確認するなどの配慮が必要です。
また、医療や介護の場面では医師、看護師、療法士、薬剤師、栄養士、介護士など多職種がチームとなって被援助者に関わりますが、チーム内で共有している情報だからといって、その情報を知っている人なら誰でも被援助者に伝えてよいとは限りません。それぞれの職種の専門性と被援助者との信頼関係を配慮し、誰から被援助者に伝えると効果的かについても配慮する必要があります。
また、医療機関や介護の事業所は、被援助者についての個人情報を取り扱う事業者として被援助者の個人情報を安全に管理する義務があります。したがって、被援助者の情報を共有する場合は、情報漏えい等の防止に努めると共に、第三者への情報提供の場合は、本人の同意が必要です。診療記録、看護記録、介護記録など被援助者に関する記録は、医療機関や介護事業者のものではなく、あくまでも被援助者のものであることを忘れずに、職場で情報共有する際も十分に配慮しましょう。
必要事項をメモするときは、あちこちに散逸してしまうメモ用紙ではなく、各自が専用のノートを持ち、責任を持って管理しましょう。また、メモが記載されたノートを処分する際も、それぞれの組織のルールに従って、第三者の立ち会いやシュレッダー廃棄など、慎重に扱います。
<事例3>
利用者の馬場さんが悩みを打ち明けてくれ、「あなただけに言ったの。他の人には言わないで」と言われたが、他のスタッフにも共有してほしい情報だった。
考えよう
他のスタッフにも共有させてもらいたい場合、あなただったら馬場さんに何と伝えますか?
対応例A
「とても大事な情報を教えていただいてありがとうございます。他の職員にも伝えたいのですが、馬場さんのことだとわからないようにしますので、ご了承いただけませんか。今お聞きしたことすべてではなく、○○のことについてだけでもいかがでしょうか」
対応例B
「馬場さんのケアをよりよくするために、他の職員にもこのことを理解してもらいたいのですが、利用者さまの個人的な情報は大切にして、外部にもれることはありませんから」
<事例4>
医師からの説明を受け、そのときには「わかりました」と言った後、勘違いしていたり、実はよくわからなかったと患者さまから言われたりした場合、看護師がわかりやすく補足説明してよいものだろうか。
患者さまには、医師からの説明を再度聞きたいのか、その際に看護師に同席して欲しいのかを確認します。また、患者さまが勘違いをした部分や心配していた部分が何であったかを明確にして、医師に再説明の希望があることを伝えます。
考えよう
もし、あなただったらどのように対応しますか?
対応例~遠藤さんへの返答~
「遠藤さん、主治医の説明でわかりにくいところがあったのですね。もう一度、高橋医師から説明してもらいましょうか」
対応例~高橋医師へ情報共有する場合~
「高橋医師、患者の遠藤さんが、昨日の病状説明の○○の部分がわからないと言われています。都合のよい時間を教えていただけますか」
<事例5>
病院の前事務局長の鈴木さんが、患者の川田さんの友人なので病状を聞きたいといってきた。
最近まで病院で働いていた人など身内意識のある人からの問い合わせがあると、ついうっかりと情報提供をしてしまうリスクがあるので気をつけましょう。
考えよう
もし、あなただったら鈴木さんへどのように返答しますか?
対応例
「ご心配ですね。残念ながらご本人の同意なく病院からの情報提供はいたしかねますので、ご了承ください。病院のことをよくご存知の鈴木様なので、ご理解いただけると思いますが、よろしくお願いします」
3.組織の目的や目標の共有
情報を伝達する際には、相手に何を理解してもらいたいのか、次にどのように行動してもらいたいのかを明確にする必要があり、特に「伝達する情報はなぜ重要なのか」、「何のために取り組むのか」という目的を説明すると、その他の情報の理解度がより高くなります。
組織の運営で最も基盤にあるのは、その組織が何のために存在するのかということです。すなわち、組織の設立理念や目的を指します。医療機関や介護施設などでは、基本理念や経営理念と呼んだりミッション(使命)と呼んだりすることもあります。
また、その組織が何をめざしているのか、どんな方向に向かっているのかを表現したものに、ビジョン(目標像)や目標などがあります。経営方針や基本方針と呼ぶ場合もあります。
組織の目的
設立理念・設立目的、ミッション、使命など
組織の目標
ビジョン、基本方針など
こうした医療機関や介護施設などの組織の目的や目標は、スタッフだけでなく利用される方々や地域の方々にもわかるように施設内やホームページに掲示されるようになってきています。ひとりひとりのスタッフが所属する組織の目的や目標、基本となる考え方を理解することが、組織における情報共有の原点となります。
また、組織全体で何らかの活動に取り組むときも、参加者全員がその目的やねらいを理解するかどうかが、その活動の成果にも影響します。
例えば、多くの医療機関では、第三者医療機能評価の受審をするために、さまざまな取り組みをしています。介護サービス事業所でも第三者のサービス評価を受け、改善活動などに取り組みます。これらの第三者評価をどうして受審するのかという目的やねらいが、職員に正しく伝わっていなければ、取り組みもその場限りで終わってしまったり、やらされ感を持ちながら受身になったりしがちです。
ひとりひとりが「何のために取り組むか」を理解することで、組織の目標に向かって、より主体的に参加できるようになります。
報告・連絡・相談
1.「ホウ・レン・ソウ」
職場のコミュニケーションでは「ホウ・レン・ソウ」が大切だと言われます。これは「報告・連絡・相談」の3つの言葉を組み合わせたもので、情報共有をする上で欠かせないものです。「報告・連絡・相談」そのものは当たり前のことなので簡単そうに聞こえますが、職場でのさまざまなトラブルの多くは、後で考えると「ホウ・レン・ソウ」が足りなかったということが少なくありません。
「ホウ・レン・ソウ」の難しさは、「いつ、誰に、どこまで」を報告、連絡、相談すればよいのかという判断が、人によってあるいは組織によって異なることです。どこまでを自分の判断で行動してよいのか、どこからは自分だけで判断せずにリーダーや上司に相談するのかという基準が明確でないために、「ホウ・レン・ソウ」がうまくいかないという状況が起こります。
原則として、以下のように整理するとよいでしょう。
- 報告は「義務」(必ずしなければならないこと)
- 連絡は「思いやり」(知らせておいてもらうと助かること)
- 相談は「問題解決のため」(相談することで、問題をより早くうまく解決する)
「ホウ・レン・ソウ」が重要だからといって、どんな小さなことでも報告・相談をしようとすれば、忙しいリーダーや上司に時間をとらせてしまうことになりますし、その人自身も自立して仕事を任せてもらえるように成長する機会を逃してしまいます。経験豊かな職員であれば、細かく報告を求めるよりも、本人に任せておいた方が力を発揮しやすいものです。一方で、新人の職員や、まったく新しい業務を行う場合には、自分で段取りをし、先を読んでどのような「ホウ・レン・ソウ」が必要になるかを想定することは難しいものです。そういう場合は、具体的にいつ、どのようなときに「ホウ・レン・ソウ」をするかを具体的に指示します。
また、報告する際にはどのような内容を聞きたいか、あらかじめ伝えておくとよいでしょう。
指示を受ける人は、以下のことを確認するようにしましょう。
- 「どこまで」自分に任されているのか
- いつ、どんな時に、どのような手段で「ホウ・レン・ソウ」をすればよいのか
2.良い「ホウ・レン・ソウ」の条件
- 「ホウ・レン・ソウ」を受ける相手が、行動や判断をするのに適切なタイミングで報告する。
- 「 ホウ・レン・ソウ」を受ける相手が、次にどんな行動や判断を取ればよいのか、選択肢が明らかになっている。
- 事実と意見を区分して説明し、報告を受ける相手が客観的に判断できる情報を含んでいる。
最も重要なのは、悪い知らせ、悪い予測ほど、早めに報告することです。そうすることで適切な対策をタイミングよく打つことができ、マイナスを防ぐだけでなくプラスの結果を手に入れることが可能になります。
ほとんどの「ホウ・レン・ソウ」の失敗は、タイミングが遅く、悪い知らせをギリギリになるまで抱えているか、悪くなりそうだという状況把握ができなかったことにあります。
相手に何らかの判断を仰いだり、助言や支援を求めたりするのであれば、できるだけ具体的に依頼します。特に、判断や助言がいつまでに必要なのかという期限を明確に伝えて相手の都合を確認します。
また、どこまでが事実で、どこからが自分の意見や推測であるかを区分して伝えることを心がけましょう。状況の説明をする際には、できる限り、数字やデータなど客観的な情報を使うようにしましょう。
まとめ
コミュニケーション能力は、どれだけ知識を学んでも、実際の対人場面でその力が発揮できるとは限りません。実際に現場で働いてみないと、それぞれのシーンを想定するのはなかなか難しいかもしれませんが、まずは自分の身近な人とのコミュニケーションから意識することをめざしましょう。
書籍「ケア・コミュニケーション」は、医療・福祉・介護従事者が、よりよいケアの過程において重要となる、患者さま・被援助者・ご家族に対しての適切な言動や、スタッフ間での情報共有・連携を円滑に図るコミュニケーションを、スキルとマインドの両面から学習するテキストです。学んだ知識や技術を実際の対人場面で使えるようにするために、会話練習、ロールプレイング、ケーススタディなどの演習を多く取り入れて学習できるようになっています。
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