コミュニケーションツールとして、非常に便利で生活に欠かせないSNS。学生のほとんどが活用しているでしょうし、多くの先生方も親しんでおられると思います。
しかし、ご存知の通り、便利なSNSが犯罪に利用されることも少なくありません。
まだ高校を卒業したばかりで社会経験が少なく、判断力が十分でないことも多い20歳前後の学生たち。
危険なトラブルに巻き込まれないよう、周囲の大人が注意喚起・目配りをする必要があります。そのために、まずはどんな危険があるかを知っておきましょう。
この記事では、特に学生が注意したい項目を中心に解説し、学校サイドでできる対策についても紹介します。
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目次
よくあるインターネットのトラブル事例
SNSにおけるトラブルとして思いあたるのは、悪ふざけの不適切な投稿や悪質なチケットの転売、特殊詐欺への加担やリベンジポルノ、SNSの誘い出しによる未成年者誘拐や性犯罪など、例をあげればきりがありません。
SNSを含めたインターネットに関わるトラブルを特徴ごとにわかりやすくまとめたのが、総務省の「インターネットトラブル事例集」です。
インターネットトラブル事例(2022年版)
コミュニケーション編 ~予期せぬトラブルに備えて~
①グループトークでの友人とのトラブル
②自画撮り写真の交換に端を発した脅迫被害
③心のよりどころだったSNS上の知人による誘い出し
セルフコントロール編 ~ルールやモラルを守って使おう〜
④他者の権利を侵害する投稿・二次利用・ダウンロード
⑤オンラインゲームをめぐるさまざまなトラブル
⑥フリマなどネットを介した個人間取引によるトラブル
⑦個人や学校などへの脅迫行為や犯行予告
⑧不正アクセスを狙って偽ログイン画面を開設
個人情報&プライバシー編 ~防ごう!悪用・詐欺被害・特定~
⑨悪意で設置されたWi-Fiスポットを使用し情報が流出
⑩メールからの誘導によるフィッシング詐欺被害
⑪入力した個人情報が目的外で利用?!
⑫投稿から個人が特定されたことによる被害
情報発信編 〜被害者にも加害者にもならないために~
⑬悪ふざけなどの不適切な投稿
⑭コミュニティサイトなどでの未成年によるアプローチ
⑮アルバイト応募が招いた犯罪への加担
⑯SNS等での誹謗中傷による慰謝料請求
▼引用元
[総務省 総合通信基盤局]インターネットトラブル事例集
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jireishu.html
どの項目も学生にとって身近な危険ですが、特に注意したいのは「コミュニティサイトなどでの未成年によるアプローチ」「アルバイト応募が招いた犯罪への加担」ではないでしょうか。
高校生までとは違い、大学生や専門学校生になれば一人暮らしをすることも多く、生活環境が一変します。
お金についても、コミュニティサイトなどでおいしいアルバイトの話を持ちかけられれば高額な報酬に目がくらみ、安易な小遣い稼ぎに手を出すケースは少なくないでしょう。犯罪に加担したとなれば、その後の人生に大きな影響を及ぼすことも。
また、素性を明かさず情報発信ができるというSNSの特徴も、トラブルを引き起こす原因になっています。
「悪ふざけなどの不適切な投稿」や「SNS等での誹謗中傷による慰謝料請求」などはその典型例であり、「投稿から個人が特定されたことによる被害」も身バレしない(自身の発信だと認知されない)だろうという安易な発信が、悪意のあるものに発言内容や画像を解析されて被害にあうことにつながります。
実際に発生した4つの被害事例
実際にSNSを使った被害が多く発生しています。ここでは具体的な4つの事例を解説します。
- 危険な小遣い稼ぎによる被害
- 人格権を侵害する投稿による被害
- 信頼していた相手から受ける被害
- 個人情報の流出による被害
それぞれ、詳しくみてみましょう。
危険な小遣い稼ぎによる被害
SNSを通して若者が犯罪に加担してしまう例の一つが、オレオレ詐欺などの特殊詐欺でいわゆる「受け子」や「出し子」をさせられるというものです。SNSで誘われ、指示された通りに荷物を受け取りに行き、知らないうちに犯罪に加担していたというケースが少なくありません。
関連記事:学生を狙う闇バイトとは?見分け方や学校側ができることを解説
警察庁「平成30年における特殊詐欺認知・検挙状況等について」によれば、特殊詐欺における20歳未満の少年の検挙数は全体の約3割を占めています。「#高額バイト」「#裏バイト」といったハッシュタグや、「荷物を受け取るだけの簡単な仕事」「単発で高収入」といった甘い言葉は、危険が潜んでいるサインです。
最近では、持続化給付金の不正受給事件でもSNSでリクルートされた若者が「捨て駒」にされていました。
[IT Media News]安易に加担、大きい代償 SNSの“闇バイト”で捨て駒にされる若者たち
こちらの記事で事件の詳しい経緯が報じられていますが、一度共犯となってしまったばかりにその後もそのことを脅しに使われてますます状況が悪化するという恐ろしい構造です。
また、デートや食事だけで金銭的支援をしてくれる年長者と交際関係を持つ「パパ活(ママ活)」等も、SNSの関わりが深いものです。
かつては街角で声をかけていた援助交際が、出会い系サイトを経てSNSへと手段が変わっただけなので、危険性は援助交際と変わりません。
お金が支払われないだけでなく、売春や恐喝、薬物使用や誘拐などの犯罪につながる危険性がつきまといます。
高級レストランでの食事や高額なプレゼントなどキラキラしたイメージがアピールされることも多いですが、リスクを考えれば全く見合わないものだということを学生に認識させたいものです。
「リスクがないように見えるうまい話」にも注意が必要です。
著名人のキャンペーンに便乗して「抽選で大金をプレゼント」などとアピールする素性の不明なアカウントが急増しましたが、フォローやリツイートなどをするだけという気軽さと「当たらなくっても損をすることはないのだから」という意識で応募する人が多くいるようです。
しかし、このようなアカウントが「当選金を振り込むため」として個人情報を要求したり、「うまい話に弱い人」を集めて情報商材ビジネスや詐欺などのいわば「カモリスト」を作ったりしているという報道もありました。
[NHK News Web]追跡!謎の“現金プレゼント”
社会経験が少なく判断力が十分でない20歳前後の学生が誤った選択をして犯罪に加担してしまったり、その後の長い人生に影響を及ぼす傷を負ったりしてしまうのは本当に悲しいことです。
学生たちを守るために、周囲の大人はまず「やりたいことやほしいものがたくさんあるけれど、アルバイト等での収入には限りがある」という学生を狙って搾取しようとする人間が、SNS等を通じて簡単に学生に接触できてしまうということをいつも念頭に置かなければなりません。
人格権を侵害する投稿による被害
悪ふざけで公序良俗に反する写真や動画を投稿したり、アルバイト先の信用を失墜させるような投稿をしたりする「バカッター」「バイトテロ」がたびたび話題になります。
病院で実習中の医療系学生が著名人のカルテについてSNSに書き込んで炎上したこともありました。このような場合、学生自身に加えて学校の信用にも傷が付きます。「まさか」が起きる前に、学校からも十分な注意喚起と指導が必要です。
ほんの軽い気持ちで投稿したとしても、インターネット上に出回ってしまった情報は、「デジタルタトゥー」と呼ばれ、半永久的に残ります。自分のSNS上からは削除できても、スクリーンショットを撮って拡散されてしまえば、自分ではどうすることもできません。
また、SNSへの投稿によって、知らぬ間に個人情報をばらまいているかもしれないという認識も必要です。SNSの投稿の内容によっては、その人の生活範囲や行動スタイルを特定することが難しくありません。
例えば、しばらく旅行に行っていると分かれば自宅が空き巣に遭うかもしれません。行動パターンが分かれば、後をつけられてストーカー被害に遭う危険性があります。
狙いをつけた相手の前で「思わずSNSに書きたくなってしまうこと」を起こし、後で検索してアカウントを特定するというような手口もあります。
[PRESIDENT Online]「クワガタを撮っただけなのに」”1億円”を盗んだ新型空き巣のコワい手口
投稿する前に「不適切な内容ではないか」「個人の情報が分かるヒントがないか」「投稿によって誰かを傷つけないか」などを考えることを習慣づけさせましょう。
投稿内容を書いてから、少し時間をあけてチェックし、問題がなければ投稿するというやり方も効果的です。自分だけでなく、友達などの情報も同様です。
友達だけに向けた投稿のつもりでも、ひとたびインターネット上に発信した情報は取り返しがつかないということ、自分の個人情報を狙う人などいないはずという認識が危険であることをしっかりと伝えましょう。
信頼していた相手から受ける被害
相手の顔や人となりを知らずともコミュニケーションを取れるのがSNSのメリットですが、どんな人なのか分からない相手を信頼してしまい、犯罪に巻き込まれるということもあります。
例えば、SNSで仲良くなった人に写真や個人情報を送ったら、突然態度が急変して「秘密をインターネット上に拡散する」と脅迫してくる行為などです。友達には話せない悩みを聞いてくれた人を信頼し、実際に会いに行って犯罪に巻き込まれてしまったという事件もありました。
元交際相手などが脅しや嫌がらせのために性的な画像を公開する「リベンジポルノ」も深刻な問題です。
また、家出中の少年少女が「#神待ち」などのハッシュタグで家に泊めてくれる人を募るという非常に危険な書き込みが氾濫しています。
最近ではそのようなハッシュタグを警察が見回ってさかんに注意喚起などをしていることもあり、以前より多少減ったかもしれません。しかし、用語や場所を変えて同様の書き込みが続いていくことは依然懸念されます。
このようなケースにおいて、学生は被害者にも加害者にもなりえます。
20歳の学生からすると10代の高校生は年が近いように感じるかもしれませんが、未成年者を保護者に無断で泊めたりすれば未成年者略取・誘拐等の重大な罪に問われる場合があります。
共通の趣味や関心にもとづいて距離や所属の制約なく様々な人とコミュニケーションを取れるのはSNSの素晴らしいところですが、SNSのやり取りだけで相手を判断することはほぼ不可能です。
SNS上では弱みになるような秘密を話さないこと、好きな相手からの頼みでも性的な写真などの提供は拒否すること、実際に会う場合には二人きりにならずいざというとき助けを求められるような場所にすることなどが大切です。
個人情報の流出による被害
SNSへの投稿によって、知らぬ間に個人情報をばらまいているかもしれないという認識も必要です。SNSの投稿内容によっては、生活範囲や行動スタイルが特定されてしまうことも。
たとえば、しばらく旅行をしているとわかれば自宅が空き巣に狙われることもあるでしょう。行動パターンを見抜かれ、後をつけられてストーカー被害に遭う危険もあります。
また狙いをつけた相手の前で「思わずSNSに書きたくなってしまうようなできごと」をあえて起こし、のちにそのできごとを検索してアカウントを特定する手口も。
さらには自宅や私服の一部からも、様々な個人情報が特定されることもあります。プライベートがわかる写真の公開は、仲の良い友人や家族だけに留めておくなど、自分の個人情報を守る意識が必要となるでしょう。
関連記事:学生が自撮りをSNSに投稿するのはなぜ?心理やリスクを解説
学校サイドでできる4つの対策
学生がSNSのトラブルに巻き込まれないために、学校としてどんなことができるでしょうか。一人ひとりに目を配るのは大変ですし、限界がありますよね。そこで学校側ができる対策を4つ紹介します。
- SNSを使う際のリスクや注意点を指導する
- 専門家を招いて講習を開く
- トラブルが発生した際の相談窓口を設置する
- 授業カリキュラムに組み込む
それぞれ詳しく解説します。
SNSを使う際のリスクや注意点を指導する
日頃からSNSを使う際の注意点や、リスクを学生に伝えることが大切です。使い方によっては友人や家族もトラブルに見舞われます。犯罪に巻き込まれたり、責任を問われたりするリスクを知れば、学生の意識も変わるでしょう。
注意点やリスクをまとめた資料を配布する、またはクラス全員が集まる時間に先生が直接指導するのも有効です。ちなみに立命館大学では、SNSとの付き合い方・注意点をWebサイトで発信しています。
[立命館大学]SNSの利用にあたって知ってもらいたい5つのこと
学校のWebサイトがあれば、このようにインターネット上で閲覧できる資料として発信するのもよいですね。
専門家を招いて講習を開く
残念ながら、SNSのプロではない先生の指導では説得力が弱めです。その場合、専門家を招いて講習を開くのも一つの方法です。弁護士などの専門家から、法律を交えた説明を受けることで、リスクを身近に感じられるようになるのではないでしょうか。
危険性が高いと理解できれば、投稿内容にも注意しようと感じてもらえるキッカケになります。
トラブルが発生した際の相談窓口を設置する
どんなに気を付けていても、トラブルのリスクはゼロにできません。何気ない一言で炎上したり、予期せぬサイトに自身が投稿した写真が使われたりすることもあります。SNSが絡んだトラブルは、学校内だけでは対処が難しいことも。
そのため、インターネット犯罪に巻き込まれたときの相談窓口を設置する、警察や専門機関と連携するなど、トラブルが発生した際の体制を整えておくことが大切です。まだ学校内で対策できていない場合は、なるべく早めに対応しましょう。
授業カリキュラムに組み込む
SNSの授業をカリキュラムに組み込んでもよいかもしれません。それほど現代においてSNSのリテラシー教育は重要です。
『SNS・ネットで違法行為をしないためのガイドブック』では、マンガ形式でSNS・ネット上での法律違反の例を学べます。
詳しくは、以下よりご覧ください。
まとめ
SNSなどインターネットを介したコミュニケーションが増えるにつれ、今までにはなかった新たなトラブルも起きています。
学生のSNS使用に介入できない以上、トラブルを完全に防ぐことはできませんが、危険性について理解するための情報発信をすることで防げるトラブルもあります。
また、専門家の助けなども借りて、何かあった時にも対応できる体制づくりも重要です。校としてできることを行い、SNSによるトラブルの少ない環境整備を進めていきましょう。
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