連載元SEが教える、現場で本当に求められること
社内IT歴30年以上!プロジェクトマネジャーや部門管理者経験も豊富な元SEライターが、社会に出てから役立つSEの心構えやスキルを解説するシリーズです。現場で求められるSEになるためのヒントが満載です!
私はメーカーでの営業経験の後、社内IT部門で、プログラマー、システムエンジニア、プロジェクトマネジャー、部門管理者という職種を経験してきました。その間に転職もしましたが、社内ITの経験は通算で30年以上になります。
その中で行った多くの業務システム、インフラシステムの企画、開発、導入、運用もさることながら、外部のSEのみなさんとの付き合いや、社内での人材育成の経験から得た幅広い知識を活用して、現在はライターとしてIT系の記事を多く手掛けています。
SEに求められるスキルは、ITの基礎やプログラミングから始まり、データベースやネットワークというシステム相手のものや、システムの開発手法やセキュリティに関連することなど多岐にわたります。そして、それらは日進月歩で変化するという特徴があります。
一方、SEとして身につけておきたい「変化しないスキル」もあります。いわゆる「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」と呼ばれるものです。
技術的なスキルを「サイエンスの世界」と言い換えるとすれば、これらは人間との関わりが大きく影響する「アートの世界」と言えるかもしれません。
「できるSE」は両方を持ち合わせています。今回はこのSEに求められるスキルを中心にお話しさせていただきます。
目次
働く場所によって異なる「SE」の意味
まず最初に、「SE」の意味について整理したいと思います。
「SE」の種類には、「SIer※やシステム開発会社、IT製品を扱う会社で働くSE」、「企業内のIT部門に属する、いわゆる社内SE」などがあります。
ところが、日本の情報システム人材を育成する中枢のIPA※は「SE」という職種を定義していません。
また、ご存知の通り、情報処理技術者試験にも「SE」という区分はありません。
SIer……システムインテグレーター
IPA……独立行政法人 情報処理推進機構
そのため、「SE」という職種は非常に広範囲の意味を持ち、勤務する会社の形態によっても「SE」の意味や求められるスキルが異なります。例えば以下のような形態に分けてみましょう。
A | システムが利益の源泉である会社 | SIer、システム開発会社、IT製品を扱う会社など |
B | システムなしではビジネスが成り立たない会社 | 金融系、流通系、ECなどの会社 |
C | システムで業務をサポートする会社 | 一般のメーカー、公的組織など |
D | システムを特に重要視しない会社 | 小規模の店舗や工場など |
DはSE職を持たないことが多いため割愛しますが、Aでは「アートの世界」に加えて「サイエンスの世界」の深さが求められ、Cでは「アートの世界」の比重がより大きくなります。Bはそのハイブリッドと言えるでしょうか。
ただ、どの形態であってもSEには、技術的な「サイエンスの世界」と実行・工夫・表現の「アートの世界」両方のスキルが必要となることは変わりません。
SEに求められる3つのスキル
SEに求められるスキルは、主に「ハードスキル」「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」の3つに分けられます。
スキルの分類法には諸説ありますが、この記事では下図のイメージをもとにしています。
専門学校で主に指導されているのは、プログラミング、データベース管理やシステムの開発手法などの「ハードスキル」が中心かと思います。
一方、「コンセプチュアルスキル」や「ヒューマンスキル」についてまでは時間的な余裕が少ないのではないでしょうか。
そもそも、どうしてSEには「ハードスキル」だけではなく、「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」が必要なのでしょうか。
SEは、いろいろな意味で「橋渡し」をする職種です。
ある技術要素(例えばWebプログラム)と別の技術要素(例えばネットワーク)の橋渡しもしますし、システム化の要件とシステム開発の橋渡しもします。
人間的な側面では、システムの発注側と開発側の間の橋渡しもしますし、開発担当者間の橋渡しもします。
このような「橋渡し」に必要とされるのが「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」なのです。
一方から出された情報の妥当性を確認したうえで、もう一方に理解され利用できる形にして伝えなければいけません。
とくに「発注側の要求(システム化したいという思い)」を「具体的なシステム要件」へと橋渡しする「要件定義」はSEの醍醐味です。
ざっくりしたシステム化の要求(場合によっては「ざっくり以下」もあります…)を、「ハードスキル」と「コンセプチュアルスキル」を駆使し、「コミュニケーションスキル」と業務知識を円滑剤として使いながら、「要件定義書」として仕上げていくプロセスは、SEとしての私の一番好きな時間でした。そして、それは要求部門から「そう、それが言いたかったこと!」と感謝される仕事でもありました。
このことから、SEにとって「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」が非常に重要であると言えるのです。
「スペシャル・ジェネラリストSE」とは
この記事のタイトル「スペシャル・ジェネラリスト」とは私の造語ですが、これは前述した3つのスキルを幅広く兼ね備え、なおかつスペシャリストの領域を併せ持つ人材のことを指します。以下の3点について詳しく解説します。
1.ITの特定分野についてスペシャリストのレベルの深さを持つ
2.情報技術のジェネラリストになる
3.ビジネス全般のジェネラリストになる
1.ITの特定分野についてスペシャリストのレベルの深さを持つ
少し前に「T型人間」という表現がよく使われました。「広い知見に加えて、ひとつの深い知見を持つ人材」という意味です。これと似たように、「スペシャル・ジェネラリストSE」は「広い知見に加えてITの特定分野に特化した人材」です。
「ひとつのRDBを深く知れば、ほかのRDBの仕組みを理解することは容易である」や「ひとつのプログラミング言語を習得しておけば、類似のプログラム言語を読むことができる」ため、学生のうちはまず特定の分野を深めるよう指導しましょう。
これは「コンセプチュアルスキル」にも「ヒューマンスキル」にも通じる考え方で、1つ「得意な領域」を持っていることが社会に出た際に強みになります。
2.情報技術のジェネラリストになる
「システム」という言葉は「ソフトウェア」という意味でも「プログラム」という意味でもありません。多くの要素が集まり、連携することによって機能する仕組みのことを意味します。
ITシステムを組み立てたり、提案したりする役を担うSEは、幅広い技術の知識と経験が求められます。特にチームをまとめるリーダーには必須です。
もちろん、すぐにスペシャリストとジェネラリストの要素をどちらも兼ねるというのは非常に難しい話でしょう。また、闇雲に知識を詰め込めばいいということでもありません。
学んだことが「知のネットワーク」として連携されるように、まずは得意分野に近い分野や興味のある分野に触れることで、焦らず一歩ずつITのジェネラリストを目指すことが重要です。
3.ビジネス全般のジェネラリストになる
情報技術を越えてビジネス全般のスキルや知識の広さを持つことです。
「ビジネス全般」には、コンセプチュアルスキルも業務知識も含みます。そして、その基礎となる法律や社会のトレンドを知っておくことも含まれます。
業務を分析し、システム化の要求を分析し、実際のシステム設計につなげていくうえでビジネスの知識は欠かせません。
これらを身につけるのは就職後の比重が大きいですが、学生のうちから意識させましょう。
「ジェネラリストであると同時に、自慢できるスペシャルな領域を持っているSE」が「スペシャル・ジェネラリストSE」であり、これは「社外からも社内からも信頼される優れたSE」と同義です。
この「スペシャル・ジェネラリストSE」は、社会に出たときに非常に市場価値の高いSEであると意識することで、学生の学び方や取り組み方が変わってくるかもしれません。
学生向け「スペシャル・ジェネラリストSEを目指す方法」
スペシャル・ジェネラリストSEを目指す方法として、学生時代にどんなことに取り組めばいいでしょうか。
ここでは、次の3つの方法を紹介します。
1.学校の授業に集中する
2.貪欲な好奇心を持つ
3.抽象化と具体化の癖をつける
1.学校の授業に集中する
まったく当たり前の話ですが、ITの特定分野を深く知るには学校の授業が最も適しています。
また、座学で学んだ知識は、学校の実習によってスキルの形で定着させることができます。ただし、実習できないITの分野については、自分で実習環境を整えるなどの工夫が必要です。
「座学だけで学んでも、2日後には70%は忘れるよ」という忘却曲線の話を学生に伝えて、「繰り返し学ぶこと」「実習と体験の重要性」を強調してください。
2.貪欲な好奇心を持つ
好奇心は知識の源です。SEに限らず、好奇心を持つことは人間的な成長につながり、ビジネス全般のスキルアップにつながるでしょう。好奇心を高めるために、具体的には以下の方法があります。
雑誌・新聞を読む
ITやビジネスに関係する雑誌(「日経xxx」などの月刊誌)を購読するよう勧めましょう。新聞は一般紙でもかまいませんし、自分の興味のある業界紙でもいいと思います。お金がかかってしまいますが、お金には代えられないものが得られるはずです。
先輩SE(卒業生を含む)から学ぶ
優れたSEの話は、成功談も失敗談も役に立ちます。先輩とは積極的につながりを持ちましょう。
現場から学ぶ
学生ですので職場で学ぶことはできませんが、インターンの活用やアルバイト先で使われているシステムの観察も役に立つはずです。
コミュニティサイトを活用する
SEが集まり情報交換をするオンラインのコミュニティを活用するのもおすすめです。技術情報の勉強会やセミナーの開催などもあり、常に最新情報に触れることができるでしょう。
3. 抽象化と具体化の癖をつける
システムを開発する現場やシステムを利用する現場で起きていることは、さまざまな具体的な事象です。そこから本質を学ぶために、抽象化/概念化する癖をつけさせましょう。
また、座学や読書で学ぶことは抽象的な論理が中心になるので、それが現実世界では具体的に何を意味するのかを考えることも重要です。
これがロジカルシンキングの真髄なのですが、学生時代からこの考え方を知っておくことが非常に大切であることを伝えてください。
学生に伝える際の注意点
専門学校には「ITのスペシャリスト」を目指して入学する学生が多いのではないでしょうか。
それは「ITが好きだから」かもしれませんし、「1日中、ディスプレイを見ていても飽きないから」という理由かもしれません。そして「人間付き合いが面倒だから」と言う学生も少なからずいるはずです。
そんな学生たちに「スペシャル・ジェネラリストを目指そう」と言っても引いてしまう恐れがあります。
そこで、ジェネラリストという表現ではなく「なぜ技術以外のスキルを磨かなくてはいけないのか」と「ひとつずつ習得していくことで得られる強み」を伝えるとよいでしょう。
私が職場で後進の指導をするときにはRPG(ロール・プレイング・ゲーム)の例を使い、「まずは弱いモンスターを倒し、武器を身に付けてだんだんとレベルアップし、強いモンスターを倒していって最後に英雄になる。SEも同じ」という話をよくしました。
最後に
スキルの中には、在学中に身につけることができるものと就職後にしか身につけることができないものがあります。
しかし、できることは学生時代から意識して過ごすことで、社会に出てからスキルアップするスピードが異なるでしょう。
学生には、日々現れるモンスターを1つずつ確実に倒しながら、SEとして人間として成長する自分の姿を楽しみにしてもらいたいものです。
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中村 信介
30年以上に渡りメーカーのIT部門でPG、SE、PM、部門責任者というキャリアを積む。現在はITと人材育成関係のWebライターとして活動。