専門学校生の多くは、自分の進路をある程度明確にイメージしたうえで入学しています。
専門的な技術や知識を学ぶことはもちろん大切ですが、社会人としての基礎力・素養を身につけることも重要ですよね。
文科省が提唱する小・中・高校における「生徒指導の3機能」(※)について、専門学校の先生が理解したうえで指導することで、学生の社会への適応性や学習の満足度をより高めることが期待できます。
本記事では、「生徒指導の3機能」の目的や、自己指導能力を身につけている学生の特徴、さらに専門学校で指導する際に活かせるポイントを紹介します。
※令和4年12月に『文部科学省 生徒指導提要』が改訂となり、「生徒指導の3機能」は「生徒指導の4つのポイント」へ変更となりました。
<生徒指導の4つのポイント>
(1) 自己存在感の感受
(2) 共感的な人間関係の育成
(3) 自己決定の場の提供
(4) 安全・安心な風土の醸成
新たに(4)が加わりました。
本記事では改訂前・後で共通する生徒の気質に影響の強い(1)から(3)までの3つについてご紹介します。
目次
小・中・高校における「生徒指導の3機能」とは
まずは、「生徒指導の3機能」とはどのようなものなのか見ていきましょう。
生徒指導の3機能|①自己存在感を与える
「自分はここにいてもよい人間である」「自分は必要とされている」という自覚が「自己存在感」です。
特に、学級での活動が多くを占める小・中・高校では、「学級の中で必要とされている」と感じられるかどうかは生徒にとって大きな課題となります。
生徒に自己存在感を与えるためのポイントは以下の3点です。
①安心:「自分はここにいてもよい」と居心地のよさを感じさせること
②所属:「学級の一員として役割を果たせている」と感じさせること
③貢献:「学級のための貢献が認められている」と感じさせること
自己存在感を与えられた生徒は、自信を持って生き生きと活動できます。
生徒指導の3機能|②共感的な人間関係を育成する
「共感的な人間関係」とは、お互いに認め合い尊重しあえる関係のことです。
生徒同士だけでなく、生徒と先生の間でも育まれます。
人と関わっていくなかで、自分にはない考えや思いを知り、それらに共感することで成長するのです。
これは、人間関係の基礎ともいえる部分です。
具体的には、「人間性を認められた」「発言を最後までしっかりと聞いてもらえた」といった経験によって育まれていきます。
生徒指導の3機能|③自己決定の場を与える
「自己決定の場を与える」とは、自分で決めて実行する機会を設けるということです。
生徒のこの先の人生において、自ら可能性を切り拓いていくためには、「生徒自身が」決めることが非常に重要になります。
自分で決めたことならば、実行しようという思いは強くなるものです。
これにより、自分の行動をコントロールする力が育まれます。
ここまで生徒指導の3機能について紹介しました。
ねらいは、さまざまなシチュエーションにおいて自身が取ろうとしている行動が適切であるかを判断し、さらにそれを実行する力の養成です。
この力を文部科学省では「自己指導能力」と呼んでいます。
自己指導能力を身につけた学生の特徴は?
自己指導能力を身につけた学生とは、どのような学生なのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。
授業への取り組み方
自己指導能力を身につけた学生は、自己存在感を与えられて育っているため、自信をもって物事に取り組めます。
たとえば、授業中に積極的に発言したり、率先して実習を行ったりできる学生が多いでしょう。
共感力も高く、周囲の友人が困っている場合には声をかけてあげるという心配りもできます。
また、自己指導能力がある学生の特徴の1つが、主体的に行動できるという点です。
インプットだけではなく、かみ砕いてアウトプットすることも得意なので、得た知識を応用してさらに発展させていく力があります。
授業内容の一歩先にも興味を示し、積極的に学ぶ姿勢があるため、より深く広い知識を身につけられるでしょう。
周囲の人との付き合い方
自己指導能力がある学生は、自分の行動に責任をもちポジティブな傾向があります。
なにかトラブルが発生した場合に他者のせいにせず、自身の行動を顧みて改善点を見いだすので、周囲の人から信頼されるでしょう。
また、ポジティブな人と一緒にいるのは楽しいものです。
このため、同級生とも良好な関係を築ける傾向にあります。
さらに、授業や実習に積極的に関わるため、先生からも信頼されるでしょう。
総じて、対人関係が良好な学生が多いです。
就職活動でも活かせる能力
就職活動をするうえで欠かせない能力の1つが「自分に自信を持つこと」です。
自信のなさは面接官にも伝わります。
自信がなさそうな学生よりも、自信をもって堂々としている学生に仕事を任せたいと思うのは自然なことでしょう。
また、ポジティブであることも必要な能力の1つ。
少しくらい失敗しても気持ちを切り替えて課題を解決し次に向かう力は社会人でも必要です。
そのような能力が身についていれば就職活動はきっと成功するでしょう。
「生徒指導の3機能」の背景を理解し、専門学校での学生指導に活かせることは?
ここまで生徒指導の3機能は、学生の人間性を形成するうえで重要な要素を含んでいることを紹介してきました。
それでは、人間性がある程度できあがった学生を対象とする場合、専門学校での指導にはどのように活かしていけるのでしょうか。
近い未来のビジョンを明確化し、行動力を身につけさせる
「近い未来を明確化する」とは、「目標を明確に定める」ということです。
ここでのポイントは、遠い未来ではなく「近い未来」であること。
遠すぎるとイメージがしにくく、ビジョンがぼやけがちになります。
身近な目標設定をすることで、行動すべきことが明確になり、「一歩を踏み出す勇気」を出しやすくなります。
また行動量が増えることで、経験値がたまり、対応力がつくので「失敗を恐れない心の強さ」が鍛えられます。
「失敗しても次がある」「失敗しても助けてもらえる」と思えれば、学生は恐れずに行動できるようになるでしょう。
そのためには、学生と対話を繰り返し、未来を可視化できるようにサポートしなければなりません。
専門学校には多くの学生が希望の職業に就くことを目標に通っています。
「○○に就職する」を卒業までの最終目標とした場合、「○○の資格を○○までに取得する」「○月までに○○点とる」というように逆算的に目標を明確に設定にすることで、行動につながり易くなるでしょう。
社会に出ても支え合える交友関係を構築する学級運営
社会に出たあとに、仕事上の悩みや喜びを分かち合える仲間はとても貴重なものです。
同じ専門学校を卒業した学生同士は、同じ業界や職種に就職することが多いのではないでしょうか。
さまざまなバックグラウンドを持ちながら、志をともにし、切磋琢磨した仲間との絆はかけがえのないものになるはずです。
そんな交友関係を構築するためには学生同士が在学中からお互いを尊重し、理解し合い良好な関係を継続できるように学級運営、指導を行う必要があります。
学生たちが、人生を通して支え合える仲間となる環境づくりができるとよいですね。
適切な情報でサポートし本人の自主性を尊重する
自主性を尊重し伸ばすには、学生自身が自分で考え決断するなかで成功体験を積むことが不可欠です。
たとえば、就職という1つのゴールを達成するためにはさまざまな困難が待ち受けています。
多くの学生がうまくいかない出来事を経験し、自分を否定してしまう場面に遭遇するかもしれません。
先生としては心配ですし、頼られると明確に道筋を示したくなりますが、学生が自分で考え、前を向けるようなバックアップがよいでしょう。
「ティーチング」よりも「コーチング」にあたります。
また、ITネイティブ世代の情報感度が高い学生たちは、正確な情報でなければ受け取ってくれません。
先生も日々情報の収集・ブラッシュアップを行い学生の状況をしっかりと見極めながら、正確な情報提供と対話を行いましょう。
先生は、学生が自信をもって前に進めるようにサポートすることが重要です。
まとめ
本記事では、「生徒指導の3機能」の概要と、身につく力、それらを踏まえて専門学校での学生指導に活かせるポイントについて解説しました。
生徒指導の3機能は、小・中・高校生に対する指導ポイントですが、学生たちが経験してきた教育・指導のバックグラウンドであり、考え方、人間性を構成する大切な要素でもあります。
それらを理解することで、さらに学生理解が深まり、よりよい学級運営を行うことができるでしょう。
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