高校から高等教育機関へのスムーズな接続を目的に取り組まれている入学前教育ですが、近年では専門学校においても注目されています。
しかし、専門学校における入学前教育はどのような役割があるのか、実際にどのように取り組めばよいのか、疑問に思う先生も多いのではないでしょうか。
本記事では、入学前教育の実施目的や専門学校における役割などについて解説します。
また、入学前教育の導入方法や具体例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
入学前教育とは?
入学前教育とは、早期に合格を決めた入学予定者に対して、入学前に実施する教育を指します。
AO入試や各種推薦入試などは早い段階で合格発表が行われるため、合格から入学まで半年近く期間が空いてしまいます。
入学までの期間を利用して入学後の学習の準備を行い、進学先へのスムーズな接続を促すのが入学前教育の役割です。
入学前教育が注目されるようになった背景
入学前教育が注目されるようになった背景には、入試形態の多様化があります。
AO入試は1990年に慶應義塾大学で初めて実施され、その後あらゆる大学・専門学校で取り入れられるようになりました。
AO入試や推薦入試は合格から入学までの期間が長いため、入学予定者の学習意欲の低下を招く可能性が高くなります。
また、評定平均といった高校での学力評価や部活動などの成績、面接や論作文などにより、総合的に学生を評価します。
学力以外の「人物像」を含めて評価する入試形態であることから、一般入試入学者に比べ、学力が低いことが課題となっています。
このように、入試形態の多様化によって生じた学習意欲や学力低下への対策として、入学前教育が注目されるようになりました。
なお、主に大学では、2021年度入試よりAO入試を総合型選抜と名称を変え、人物像に加えて資格・検定の成績や大学入学共通テストの結果などから学力も評価するようになっています。
参考:文部科学省「令和5年度大学入学者選抜実施要項について(通知)」
専門学校における入学前教育の目的とは
ここでは、専門学校における入学前教育の役割について解説します。
学びへの動機付づけ
入学前教育の実施目的の1つは、学びへの動機付けです。
前述の通り、AO入試や推薦入試では早期に合格が決まるため、合格から入学までの期間に入学予定者の学習意欲は低下しがちになります。
入学前教育は、入学後の学びに対する興味を引き出し、入学予定者の学習へのモチベーション維持・向上を図るために実施されます。
高校までの基礎学力の補強・向上
高校までの基礎学力の補強・向上も目的の1つです。
AO入試や推薦入試など、学力では測れない能力や意欲を評価する入試形態が増えたことで、入学後の学力の二極化が問題視されるようになりました。
つまり、学生間の学力差が顕著になっているのです。
それにより、専門分野の教育がスムーズに進まないといった問題も発生しています。
入学前教育は、基礎学力を一定の水準まで引き上げるための措置としての役割も担っています。
入学後に必要となる専門知識習得の準備
3つ目の目的は、入学後の専門的な学習の準備です。
専門学校では高い専門性が求められるため、事前に入学後の学習内容に取り組ませ、学びへの目的意識をもたせる必要があります。
専門的な学習に備えるといった意味では、専門学校における入学前教育は大学以上に大きな意味をもつといえるでしょう。
入学前教育を取り入れる方法
専門学校で入学前教育を取り入れるためには、いくつかの方法があります。
それぞれの学校の実情に合わせて、最適な方法を選択しましょう。
実際に授業を受けるスクーリング
入学前教育の実施方法の1つとして、スクーリングの実施があります。
入学予定者に直接キャンパスまで足を運んでもらい、授業を行います。
たとえば、入学後の専攻分野に関する授業を実施すれば、入学予定者たちの学習意欲を高めたり、目的意識をもたせたりすることができます。
また、スクーリングは入学予定者同士が直接つながれる機会にもなります。
さらに、今後の学校生活のイメージも掴めるため、入学予定者の入学に対する不安を和らげることもできます。
Web会議ツールを利用したオンライン授業
Web会議ツールを活用したオンライン授業を実施する方法もあります。
ZoomなどのWeb会議ツールを用いたオンライン授業では、入学後の学びの導入が行えるだけでなく、ITリテラシーも育成できます。
学校生活や社会人生活において、オンラインでの学習や仕事の機会は多々あります。
入学前からオンラインでの授業を経験しておくことで、学校・社会で役立つ力を向上させられます。
また、スクーリングと比べ、遠方に住んでいる入学予定者が参加しやすい点もメリットです。
書籍を使用した自宅学習
入学前教育は、テキストや問題集を使用して自宅で学習させる方法でも実施可能です。
書籍を用いた自宅学習では、スクーリングやオンライン授業のような単発的な学びではなく、長期的に課題に取り組むことになるため、学習の習慣化を促すことが可能です。
また、提出された課題を添削して返すというやり取りを通して、学生が苦手を克服できるほか、学校側も学生の得意・苦手分野を把握できます。
専門学校の入学前教育の実施期間と具体例
ここでは、専門学校における入学前教育の実施期間と具体例についてまとめていきます。
専門学校における入学前教育の実施期間
多くの専門学校では、12月頃から2〜3月までの期間に入学前教育を実施しています。
しかし、学校の特色やカリキュラムなどによって実施期間はさまざまです。
ある語学系の専門学校では、AO入試の合格発表前の7月から入学前教育を行っています。
入学前教育の具体例
ここでは、実際に専門学校で行われている入学前教育の具体例を紹介します。
実際に授業を体験するスクーリング
愛知県にあるデザイン系専門学校の入学前教育では、入学までの間に数回授業日を設定し、あらゆる画材を使ったスケッチやコンピュータでのデザインなど、専門的なスキルに関する授業を行っています。
入学予定者は自分の興味がある分野や入学後に専攻する分野に合わせて授業に参加できるため、楽しみながら専門知識の先取りができます。
独自の通信教材で基礎知識を習得
大阪府にあるIT系の専門学校では、独自の通信教材を用いて入学前教育を実施しています。
入学予定者は、学校オリジナルの自宅学習サイトにログインして学習を進めます。
学習内容は、入学後に必要となる基礎知識です。
入学後を意識した学びへと入学予定者を誘導し、それぞれの目的意識や学習意欲の向上を図っています。
オンラインで在校生と交流
京都府のある製菓専門学校で行われているのは、オンラインを通じた在校生との交流です。
入学予定者の不安や疑問を解消するために、オンライン上で学校の先生や在校生とつながる機会を設けています。
プログラムの中では、例えば先生から製菓業界や学科コースについて説明があったり、学校生活・実習授業・学校外のアルバイト事情などについて在校生と話す時間が設けられています。
このように、オンラインでありながらも入学予定者が学校生活のイメージを掴める工夫が取り入れられているのです。
まとめ
入学前教育は、AO入試や推薦入試で早期に合格が決まった入学予定者を対象に実施する教育で、学習の動機付けや基礎学力の向上、入学後の学習の準備などが目的とされています。
専門学校においても、事前に専門知識について学んだり、入学後の学校生活をイメージさせたりするために入学前教育の実施は重要です。
本記事で紹介した入学前教育の導入方法や具体例を参考に、入学前教育実施を検討してみてはいかがでしょうか。
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