皆さん、こんにちは。
今回は医療・福祉系専門学校におけるコミュニケーションの授業について、お話していきたいと思います。
目次
コミュニケーションの授業
専門的な知識が求められる医療・福祉系の職種に就くには、それぞれに国家試験の合格や資格を取得することが条件になっている場合が多いと思います。
私が担当している歯科衛生士専門学校も、3年通学制で合格率100%の実績を何年も続けています。もちろん国家資格取得が目的のため、授業の大半は専門科目です。その中において、コミュニケーションに関する基礎科目があり、その授業では『ケア・コミュニケーション』(ウイネット)というテキストを使って、2年生の前期15回を担当しています。
昨今、医療・福祉の現場では、患者さんと直に接することが多いため、臨機応変な対応力とコミュニケーション能力は必要不可欠とされています。そのため、どの年代にも通用するコミュニケーション力を身につけることを念頭に置きながら、「ケア・コミュニケーション検定」(サーティファイ)に合格するように授業を進めています。
また『ケア・コミュニケーション』のテキストの他にも『歯科スタッフのためのケア・コミュニケーション』を使用しています。歯科医院の現場で、実際に起こりうる場面を想定して作られているため、授業で役立っています。歯科衛生士役と患者役とに分かれておこなうロールプレイをやってもらうなど、実技体験をしながら、理解を深めてもらうようにしています。
授業展開の注意点
授業展開をするにあたり、注意点があります。それは、コミュニケーションを受講したことで、学生にどのような姿になってほしいかを、最初に学校側と確認しておくことです。私が担当している学校では、教務主任の先生から、2点、要望がありました。1つ目は、歯科実習に現場へ行った際、挨拶ができていない、スタッフや患者さんとのコミュニケーションが不足しているとの指摘をされたことから、自ら積極的に声掛けができるようになること。2つ目は、検定に合格するだけではなく、卒業後、就職した病院で必要なコミュニケーションの基本をしっかり身につけることです。
歯科医院は、コンビニエンスストアより多い時代です。選ばれる歯科医院になるためには、技術はもちろん、スタッフの態度、言葉遣い、気のきいた声掛けができるかも非常に重要な要素になってきています。
歯科医院に限らず、病院、介護施設など医療・福祉業界全般に言えることだと思います。
授業展開の一例
それでは、これらを踏まえ、15回の授業展開の一例をお伝えしたいと思います。
まず、初回の授業では、コミュニケーションのウォーミングアップも兼ねて、他者紹介をやってもらっています。ペアを組み、お互いをインタビューし、全員の前で発表するのです。今まで同じクラスにいたけど、趣味や特技、はまっていることなど知ることができて、会話のきっかけになったと好評です。私自身も学生とのコミュニケーションを図る上で貴重な情報を得ることができています。
次に、2回目から7回目の授業は、このようなコミュニケーションゲームをひとつ実施するようにしています。なぜなら、テキストを読むだけでは、コミュニケーションは身につかないため、グループワークを多くし、活発にディスカッションする時間を取るようにしています。
ワークの具体例として、ジェスチャーゲームを取り入れています。これは非言語コミュニケーションの勉強になり、ジェスチャーだけで相手に言いたいことを伝えるのがとても難しいことを体感してもらいます。グループ対抗にして、いち早く回答したチームを勝ちとし、競争します。これはかなり盛り上がりますのでおすすめです。
8回目から13回目の授業は、テキストを進めていきつつ、ケア・コミュニケーション検定の模擬問題などを並行してやるようにしています。テキストには、看護・介護などの演習が多く掲載されているため、幅広い分野での活用ができます。用途に合わせて使っていくのもよいと思います。
14回と15回目の授業は、定期テストの学習範囲と実施に時間を設けています。定期テストでは、これまで授業を進めてきた中で、敬語の使い方が苦手な学生が多いと感じたため、尊敬語・謙譲語を中心に出題しています。学校では、アルバイトが禁止されていることもあり、テストの他に、授業で実施するロールプレイでも習得を心掛けるようにしています。
以下に私の演習・ケーススタディのポイントと狙いを掲載しますので、ご参考になれば幸いです。
演習・ケーススタディのカリキュラム・ポイントと狙い
第1章 ケア・コミュニケーションの基本的な心構え
ポイント・狙い | 演習・ケーススタディ |
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医療・介護の分野におけるホスピタリティ「心をこめたおもてなし」基本姿勢を理解する | <P11 演習5> ホテルや旅館、レストラン等、ホスピタリティのある対応を受けた経験をグループで話し合ってもらう |
寄り添うコミュニケーション ・コミュニケーションはキャッチボール ・向かい合って双方向に | <P11 演習4> キャッチボールやテニスのラリーを対人コミュニケーションに置き換えて考える |
第2章 被援助者との関係を築くコミュニケーション
ポイント・狙い | 演習・ケーススタディ |
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非言語コミュニケーションの重要性 ・患者さんが何も言わなくてもどこか具合が悪いのか察知する感性が必要 | <P29> 表情筋のトレーニング やわらかい表情や笑顔を自然にだせるようにするため <P35 演習8> いろいろなしぐさをペアで実習 |
声かけ+プラスアルファ=ケア・コミュニケーション ・プラスアルファの一言と肯定的な表現 | <P54 演習11> ペアワークで相手の意向を尊重する言い換え表現を学べる |
クッション言葉 正しい敬語の使い方 | <P54 演習12> よく使う敬語練習でとっさに使えるようになった |
第3章 被援助者の理解と情報の交換、行動化の支援
ポイント・狙い | 演習・ケーススタディ |
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相手を否定しないで、あるがままに受け入れる 受容と共感のコミュニケーション 受容と共感・同情の違いを理解する | <P67 演習14> 傾聴のスキル(繰り返し・言い換え) ペアで話し手・聞き手を交互で役割交代し、傾聴とはどういうことか、ロールプレイでやってもらうことが重要 |
交流分析 ・自分も相手もOK ・I‘m OK. You are OK. (自己受容、他者受容) | <P160> 付録交流分析エコグラム 実際に学生にやってもらい、自分の行動や発言を振り返る |
苦情・クレームを聞く3原則 苦情は被援助者からの大事なメッセージ | <P78 演習17> 外来で待たされた患者のケース ペアワーク |
わかりやすく説明するスキル | <P89 演習22> 聞くだけではわかりにくい言葉の言い換えは実習でもすぐ使える |
コーチングコミュニケーション コーチングにおける3つの支援 | <P105 演習24> 血糖値が上昇しているケース 支援することの重要性を理解できるワークになっている |
第4章 チームとコミュニケーション
ポイント・狙い | 演習・ケーススタディ |
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組織内、チーム内で情報を共有する ・思いこまず確認する ・確認のスキル→確認の習慣化 ホウ・レン・ソウ | <P123 演習29> 実習予定先の施設の目的と目標 実習に行く前に使える演習 |
アサーティブなコミュニケーション 自分の気持ち、イエス、ノーを言うこと | <P138 演習33> アサーティブな自己表現を身につける練習になる問題 |
第5章 その人らしさを大切にするコミュニケーション
ポイント・狙い | 演習・ケーススタディ |
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視覚障害、聴覚障害、言語障害を持つ被援助者とのコミュニケーション それぞれに気をつけないといけないポイント | <P145 演習34> ブラインドウォーク <P145 演習35> 口話ゲーム 実際にロールプレイをしてみることで、障害を持つ患者さんの気持ちがわかり、コミュニケーションがとりやすくなる |
認知症のコミュニケーション ・受容と共感が重要 バリデーション・セラビー ・愛されたい ・役に立ちたい ・感情を表現したい | <P152> 「まだご飯を食べていない」見当識障害のケース <P153> 「家に帰りたい」見当識障害のケース 認知症の理解にとてもわかりやすいケースとなっている |
最後に
コミュニケーションの授業は、たくさん学生に話してもらいましょう。
まわりにいる人との会話を楽しめるようになってもらうことが、コミュニケーション上達の第一歩です。
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川口 晴美
元日本航空グランドスタッフ。在職14年の間、JAL「サービスの達人」社長賞や社内接客大賞「ホスピタリティ賞」受賞。全国各地の空港で指導教官として勤務。退職後、大学、専門学校の非常勤講師として客室乗務員やグランドスタッフを多数輩出。現在は、大学、専門学校(医療系、留学生)高校、NHK文化センターで教える。
オフィス川口(G-mother)を設立し、学生の就活サポート、各種検定、企業研修を手掛ける。サーティファイ認定会場。