連載教えて!伊沢先生!
情報処理オールラウンダー×専門学校講師×Youtuber! 幅広く活躍中の伊沢先生に、最新技術の教え方から教務でのICT活用まで、気になるテーマについて教えてもらうシリーズです。
昨今、社会のニーズや期待の高まりとともに、AIを学べる学科・コースが続々と新設されています。
私の勤務している専門学校でも、2016年からAIを学べるカリキュラムを実施しています。
「AI学科・コース」を新設しようというとき、検討しなければならないことが色々ありますが、特に重要なのがカリキュラムだと思います。
この記事では、どのような内容をカリキュラムに入れていくのがよいかを解説します。
いきなり難しい内容を組み入れようとすると、学生にも、授業を実施する先生にも大きな負担になります。
「その(難しい)内容は企業に求められている技術なのか」
「学生にとって理解しやすい内容なのか」
ということを考えると、何をすればよいのかが見えてきます。
目次
まずは既存のAIを使ってみよう
私がまずカリキュラムに取り入れたのは、「既存のAIを利用してみる」という内容でした。
すでにあるAIのライブラリを実際に使ってみることで、AIでできることが見えるようになります。
過去に私達が授業で使った書籍をご紹介します。
中島能和 著『パソコンで楽しむ 自分で動かす人工知能』インプレス(2017)
[インプレス 商品ページ]https://book.impress.co.jp/books/1116101162
次はPythonでプログラムからライブラリを呼び出してみる
ある程度AIのライブラリが使いこなせるようになると、次はプログラムからライブラリを呼び出したくなります。
そこで、私達の学校では2017年からPythonの授業を実施しました。
Pythonの基本文法はとても簡単です。
文法書を1冊読めば一通りのことはできるようになります。
また、Pythonで利用できるライブラリはとても幅広く、エクセルファイルの操作やAIライブラリの操作、Webスクレイピング、Webクローリング、動画編集など、少しのコード量で本当にいろいろなことができます。
パソコンで行いたいことは一通り何でもできることに気づくととてもびっくりされると思います。
Python自体の文法が簡単なので、他の言語に比べてライブラリそのものの使い方を短時間でマスターできます。
使ってみたいと思ったライブラリの使用例をインターネットで探して読んでみると簡単に理解できて、すぐに実装できるのを体感できるはずです。
Python自体はインタプリタ言語なので、「遅いのでは?」と思われるかもしれませんが、高速性を求められるAI関連のライブラリはC言語などのコンパイラ言語で書かれていることが多いので、高速に動作します。
Watsonなどクラウドサービス上のAIを使って幅を広げる
クラウドサービス上のAIを活用するカリキュラムを入れてもよいでしょう。
私はIBMのWatsonを利用した授業を2017年から実施しています。
画像認識、音声認識、チャットボットなどを簡単に組むことができます。
今使っている書籍をご紹介します。
伊澤諒太・井上研一・江澤美保・佐々木シモン・羽山祥樹・樋口文恵 著『現場で使える! Watson開発入門 Watson API、Watson StudioによるAI開発手法』翔泳社(2019)
[翔泳社 商品紹介ページ]https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798158495
実際の授業では、学生にIBM Cloudのアカウントを作成してもらい、IBM Watsonを利用できる環境を整えます。
Watsonの利用にはNode-REDが便利
IBM WatsonにはPythonでアクセスすることもできますが、私はNode-REDというローコードツールを利用しました。
ほとんどの作業をマウス操作で行うことができ、学生も取り組みやすいのが魅力です。
Node-RED自体はIBM Cloud上にNode-REDが動作するマシンを置くこともできますし、学生のパソコンにNode-RED Desktopというアプリを入れてIBM Watsonにアクセスすることもできます。
[Node-RED Desktop]https://sakazuki.github.io/node-red-desktop/ja/
AWSの無料利用枠を活用してみるのも○
私がAIの授業を始めたころに比べて、今は様々なクラウドサービス上のAIの利用方法についての書籍が豊富にあります。
ですので、先生方の使い慣れたサービスで授業展開をされてもよいでしょう。
AWSに関しては、学生と教員向けの無料利用枠などもあるので、活用することで費用を抑えることも可能です。
[AWS educate]https://aws.amazon.com/jp/education/awseducate/
クラウドサービス活用で学科・コース立ち上げ時の初期投資コストを抑える
ところで、AI系の学科を立ち上げる時に、高速なGPUを搭載したコンピュータを用意しようと思うと、場合によっては数百万円単位の設備投資になってしまいます。
これに関して、私はクラウドサービスを利用することで解決することを考えています。
使った分だけ料金を支払う従量課金のクラウドサービスを利用すれば初期投資のコストを抑えることができるので、おすすめです。
AIの学び方は技術だけではない!「企業や社会でどう活かせるか」を学ぶのもイイ
技術的な視点から離れて、AIと社会という視点で授業を展開してもよいでしょう。
実際のところ、多くの企業はAIをどのように活用するか試行錯誤しているのが現状です。
様々な企業や社会でのAIの活用事例を学ぶことも必要な学びになります。
【応用編】AIのアルゴリズムを学ぶ
ここまでの部分である程度AIの活用方法について理解が深まってきたら、いよいよAIのアルゴリズムについての内容を学ぶカリキュラムを入れてもよいでしょう。
ただし、アルゴリズムに関しては、基本をしっかりと抑えておく程度にとどめてもよいかもしれません。
学生たちがAIを学んだ後、企業で活躍する場面を想像すると、すでに完成されたAIの技術を活用して企業の要求に応える仕事がほとんどであると考えられます。
様々なAIのアルゴリズムが、どのようなデータを入れればどのような結果が戻ってくるかをしっかりと理解しておけば充分でしょう。
あわせて、pandas・numpy・matplotlibなどのライブラリの利用方法について学んでいくとよいでしょう。
AI学科・コースで必ずぶつかる壁
今まで私がAI分野の授業を行ってきて困ったことがあります。
それは時間の経過によるライブラリのバージョンの変化と互換性の問題、クラウドサービスの仕様の変化です。
Pythonで利用できるライブラリは発展途上で、変化が激しく、バージョンが変わることで想定通りの実行結果が得られない、エラーが出るというようなことがしばしばあるので注意が必要です。
昨年度の授業でできたことが今年度はできないといったこともありました。
これについては、授業実施の前に試しておくことと、代替手段の事前準備が必要になりました。
これも何年かやっていると柔軟に内応できるようになってきます。
クラウドサービスの仕様の変化については、学生たちには「クラウドサービスとは変化が激しいものなので、書籍の内容と乖離があったとしても柔軟に対応することが大切である」と伝えています。
AIの学びを通してライブラリの相性問題やクラウドの仕様変更による画面の変化も柔軟に対応できるように学生に指導をしています。
まとめ
まとめると、AI系学科のカリキュラムは
- AIのライブラリを活用する学習
- Pythonの文法学習
- クラウドサービス上のAIを活用する学習
- 社会でAIがどのように利用されているかの学習
- AIの基本的なアルゴリズムの学習
を行える内容を入れるとよいでしょう。
ポイントは「無理はせず、先生が取り組んでも楽しく、学生にぜひ学んでもらいたいという内容をカリキュラムに組み入れること」です。
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伊沢 剛
有限会社プチフール代表取締役
23年間、専門学校にてIT教育、学生募集に従事。その後独立。新人社員向けプログラミング研修、社会人向けDX,AI,クラウド研修、情報教育コンサルティング、DX推進支援に携わる。
Youtubeチャンネル:【IT・プログラミングLab】伊沢 剛