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TOP教養スキルアップ指導スキル(6)~学生の能力を引き上げる「コーチング」スキル(後編)

指導スキル(6)~学生の能力を引き上げる「コーチング」スキル(後編)

連載授業アップデートテクニック

変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。

2025年が始まり、早くも3週間ほど経ちました。先生方は今年度のまとめを行いつつ、次年度に向けた準備を始めている時期かと思います。

今回は、前回に引き続き学生の能力を最大限に引き出す「コーチングスキル」についてお伝えします。前回の記事を確認されていない先生は、是非こちらからお読みください。

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コーチングの基本スキル

社会人の育成にも活用されるコーチング。まずは、その基本的な5つのスキルを紹介します。

1つ目は、学生が話した言葉の背景まで深く理解する「傾聴スキル」、2つ目と3つ目は、学生本人が気づいていない潜在的な能力に気づかせ、意欲や行動に変化を与える「承認スキル」と「質問スキル」、4つ目は、学生の目標達成に向けた行動途中で、目標に正しく向かえているか、軌道がずれているとしたらどの程度ずれているかなど、現状の事実を相手に正しく伝える「フィードバックスキル」、5つ目は、学生が迷った場合に行動を後押しする「リクエストスキル」です。

今回は、学生との継続的なコーチングや目標到達型の面談でよく使用する「フィードバックスキル」と「リクエストスキル」を除き、単発の面談で活用できる「傾聴スキル」「承認スキル」「質問スキル」の3つについて詳しくお伝えします。

また、コーチングのスキルは「こうすれば良い」という単なる手段として活用するのではなく、目の前にいる学生と真摯に向き合い、学生の悩みや問題をより効果的に解決するためのスキルであることを忘れないでください。

「傾聴スキル」のポイント

まず重要なポイントは、学生にとって「安心・安全な場」でコーチングを行うことです。学生にとって安心して話ができる環境や雰囲気なのか、最初に考えてください。そういった場づくりをすることも傾聴スキルの一つです。例えば、「他者が近くにいる環境」や「完全に閉ざされた空間」を避けるなどの配慮がこれにあたります。

場所が決定したら、次に配慮するのは座る位置です。「対面はコーチングに向かない」という意見もありますが、日本の学生は対面でもスムーズにいく場合が多いようです。また、距離が近すぎると、においや目線が気になり不安になってしまう学生もいますのでご注意ください。

次のポイントは聴き方です。1つ目に大切なのは「先入観を持たずに最後まで話を聴くこと」です。専門学校に限らず教員という仕事をしていると、つい口をはさんで教えてしまうことがあります。前回もお伝えしましたが「答えは必ず相手の中にある」というのが前提の考え方です。話の腰を折らずに、最後まで聴くようにしましょう。2つ目は「学生に安心感を与え、学生の感情や気持ちを察しながら聴くこと」です。そのためには相手の目を見て笑顔でうなずき、相槌を打ちながら、ときにはキーワードを繰り返すと良いでしょう。これは、真剣に話を聴いている姿勢がよく伝わる表現方法です。また、普段の会話より、気持ちゆっくり話すと学生の安心感は増します。3つ目は「結論を急がずに聴くこと」です。コーチングには時間がかかることは、前回お伝えしたとおりです。多少の沈黙も問題ありません。優しい表情で温かく、学生の次の言葉を待ちましょう。

最後のポイントは、「学生を無理に変えようとしないこと」です。繰り返しになってしまいますが、結論は学生が選択します。先生が主導にならないように、常に意識をしながらコーチングを行ってください。

「承認スキル」のポイント

「承認スキル」は、学生の自己肯定感や自己有用感を刺激し、存在そのものを肯定させる「存在の承認」、学生の小さな変化や成長を認め、伝える「経過(行為)の承認」、現在の事象が学生の思考や努力(行動)の先にあることを気づかせる「成果の承認」の3つです。この3つは、学生自身が今まで気づいていなかった過去~現在の言動や出来事に対する承認が中心です。

1つ目の「存在の承認」で教員が意識すべきことは、「学生が具体的な場面をイメージしやすい話をすること」「自己肯定感や有用感を刺激する言葉をチョイスすること」です。例えば、「文化祭実行委員の会議後の片づけ、みんなに声をかけてくれていたね。ありがとう!助かったよ」「文化祭中のトラブルでの判断と指示、あなたがいたから解決できたと思うよ」「実行委員での頑張り、○○先生もあなたのことほめていたよ」などです。

2つ目の「経過(行為)の承認」において意識すべきことは、「今の行動がどんな未来につながっているか、学生がイメージできる認め方であること」です。例えば「今行っている練習は○○という点で、とても理にかなっているよ。このまま続けていれば必ず△△になって、良くなっていくから安心して」などです。経験が浅いため、まじめな学生であればあるほど自分の行動が正しいのか疑心暗鬼になってしまいがちです。途中経過の段階で、経験のある教員から承認されることで、安心感と自信を得られることが大きな効果です。

3つ目は「成果の承認」です。社会人向けコーチングの場合、「結果の承認はいらない」と言われることがあります。偶発的な結果を含む場合には、私も結果の承認は必要ないと考えます。ですので、ここではあえて「成果の承認」としました。そのため意識すべきことは、「単なる結果を見るのではなく、学生の思考や努力の先にある成果を見ること」です。例えば、「このチームが勝てた要因は、先ほど話してくれた1カ月前のミーティングだね。特にトレーニングメニューを見直したことが良さそうだね。その点について質問するね」といった承認です。「質問スキル」と併せながら進めることで、効果がより発揮されます。

また、誰かと比較するような承認は、コーチングには向かないのでご注意を。

「質問スキル」のポイント

大きく捉えて「相手の考えを引き出す質問」「相手に確認する質問」「相手の考えを深める質問」の3つがあります。しかし、質問のたびに「これは引き出す質問だ」などと意識すると不自然になってしまうものです。学生との対話で自然に感じたことを質問しながら、経験を重ねてください。

さて、今回お伝えしたいことは質問の構成例です。私の経験上、次の4つを意識しながら質問を構成するとうまくいきやすかったのでご紹介します。

1つ目は「状況質問」です。学生の現状分析を正しくするための質問だとお考えください。まず、悩みや問題に対する、学生本人の感情や意識レベルの確認を行います。「悩みや問題をどう感じているか」「このままで良い/悪いと思っているか」「課題があるとするならどこだと思うか」などの確認です。ポイントは、「抽象的な言葉を具体的にすること」です。例えば「時間の言葉」について、「このあいだ/最近」という言葉を学生はよく使いますが、それでは正確な情報とは言えません。「最近とはいつ頃かな?3日前くらいのこと?」など、より具体的になるよう質問で確認します。また、主語がはっきりしない説明も「誰の言葉/行動なのか」質問で確認することをお勧めします。「今の発言はあなたの発言かな。それとも別の人?」などです。

2つ目は「問題質問」です。悩みや問題が現状のままなら、もしくは改善できるなら、未来はどうなるかイメージさせる質問のことです。例えば「このまま進んでいくならどうなると思う?」「もし仮に○○ができたらどうなると思う?」といった質問です。未来のイメージを持たせる質問ですから、先ほどとは違い抽象的で構いません。学生がざっくりと「良くないだろうな~」や「きっと良いだろうな~」と思えばOKです。

3つ目は「示唆質問」です。学生に解決案を提示してもらう際に、別の問題点やリスクについて考えさせる質問のことです。まずは「継続行動を意識する(意識させる)こと」を大切にしましょう。悩みや問題はすぐに解決することは少なく、時間をかけて解決することがほとんどです。そのため、学生が持続可能な解決案でなければいけません。「答えは必ず相手の中にある」というのがコーチングの考えですから、指摘するというより「質問で気づかせる」ことが重要です。学生の提案でよくあるのが「理想論過ぎる提案」「行動にゆとりの時間がない提案」です。その場合、「私が学生のころだと10時間はかかりそうだけど、○○の所要時間はどう考えているかな?」といったように、教員の体験をもとに質問すると学生は気づきやすくなります。ただ、継続して行動していると「手段/方法の目的化」が起こりやすくなります。目的確認を促すことも忘れずに行いましょう。

最後は「解決質問」です。解決するための最終的な方法を学生に考えさせる質問となります。ポイントは「学生に考えられるだけ意見を出させること」です。例えば「○○をクリアするためには、何ができそうかな?」「ほかにはないかな?例えばほかの人は△△もやっているけど、自分がやるとしたら何か活用できそう?」「□□の視点で考えてみたらどう?」などです。ここで注意すべきは、「解決方法を決定するのは学生本人」であると念頭に置くことです。つい教員が方法を押し付けてしまうことがありますのでご注意を。教員の提案を含む複数の選択肢から、学生に決めさせることは問題ありません。

最後に

学校現場で活用できるコーチングスキルについて2回に分けてお伝えしましたが、いかがでしたか。コーチングの上達には経験も必要です。多少セオリーと違ったとしても、学生本人と真摯に向き合い、対話を重ねて実行していけば自ずとうまくいくはずです。まずはチャレンジしてみてください。

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この記事を書いた人
村上 敬一

村上 敬一

RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab

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