連載大原先生の学生指導のすゝめ
動機づけ教育プログラム「実践行動学」を開発する「実践行動学研究所」大原専務理事の学生指導のすゝめ。 学習塾での指導歴25年の大原先生が、実例を用いて学生への接し方をお伝えするシリーズです。 テンポのよいユニークな文章は、一度読んだらハマること間違いなし。
本連載の執筆者である大原先生が専務理事を務める「実践行動学研究所」のセミナーでは、動機付けに関する講演を行っています。
この度、その講師である法政大学キャリアデザイン学部教授廣川進様より「Withコロナ時代の学生への動機付け~モチベーション向上を目指して~」を主題として寄稿していただきました。
自分から進んで学習したり、「先生!私○○してきたんです!!」と元気よく体験を報告してきたりする学生、最近みられないなぁ。なんでだろう。どうしたらいいかな。そんな風に思っていらっしゃる先生、必見です。
目次
直接経験の希薄化の影響
コロナ禍のさまざまな変化の中でも、これからボディブローのように効いてくると考えられるのが、直接的な経験の希薄化です。
私はふだん、大学の学生とかかわっているのですが、最近ゼミでショックなことがありました。コロナ前には毎年夏に恒例のゼミ合宿を行っていました。関東近郊に一泊して研究発表したり夜はBBQしたりというものです。
コロナ禍で行けなくなって3年間、今年の夏は久しぶりに再開できると意気込んで夏合宿の提案をしましたが、意外にも学生の反応は薄く、旅行委員に手を上げる人もなく、日程も合わず、まさかの中止。私だけが盛り上がって、一人相撲だったのでした。もうゼミ生で、夏合宿を経験した人は誰もいなくなっていました。
経験していなければそれがどんなに楽しいものかも想像がつかなかったのでしょう。考えてみれば、高校時代から修学旅行も体育祭も中止、卒業式さえできなかった人もいます。自分たちで何かを企画してグループで行動して楽しかったという経験をすることが少なかった子たちなのです。「密じゃない青春」を送らざるを得なかったのです。
コロナの後遺症はボディブローのようにこれからじわじわと効いてくるのかもしれません。
経験学習モデル
このことを、経験から学ぶことを重視した「経験学習モデル」(デイビッド・コルブ)と繋げて考えてみます。このモデルは、
- 具体的経験
- 内省的省察
- 概念化と抽象化(教訓にする)
- 積極的実践
といった4つのステップからなるサイクルを繰り返すフレームワークです。 これらを繰り返し実行することで、経験が知識に変換されていきます。
ところが「経験学習モデル」のそもそもの最初のステップ(具体的な経験)の機会が減ってサイクルを回すことがなくなると、限られた経験の中で狭い範囲の浅い理解に留まることが多くなっているのではないでしょうか。
リアルな現実世界に主体的にかかわる直接的な対人関係は、ときに葛藤や摩擦もはらみながら、コミュニケーションスキルやストレス耐性(レジリエンス)を鍛えていく経験のもととなるものです。しかし、オンライン、リモートのコミュニケーションの割合が多くなると、鍛える機会も減ってきています。
私の担当する授業に、秋から15人が新たに加わりました。まず心がけることとして、「心理的安全性」を保証することです。同期の横の関係構築のためのグループワーク、拡大版の自己紹介、私のハマっているもの、「推し活」について時間をかけてお互いを深く知り合うことなどを実践します。パワポでプレゼンする、好きなYouTubeを上映する、ミュージシャンの歌を流す、何でもありです。
こうした活動を通じて、自分の世界や意見を表現しても否定されない信頼関係を時間をかけて育んでいくところから始める必要が出てきたと感じています。
動機付けの自己決定理論
学生への動機付けというテーマをいただいたので、学習へのモチベーション理論とそれに基づいた学習方略(学習効果を高めるための意識的な工夫)について紹介していきます。
一般に学習へのモチベーションには、報酬や罰を受けることで学習へ向かわせる(外発的モチベーション)と純粋に調べたり発見したりすることの楽しさから学習したいと思わせる(内発的モチベーション)の2つあります。
使い方によっては外発的なモチベーションに働きかけることは有効ですが、気をつけなくてはならないのは、内発的モチベーションをもって取り組もうとしている人に、安易に報酬や罰(外発的モチベーション)をちらつかせてしまうと、内発的モチベーションが下がり、学習効果も下がってしまうと言われている点です。
効果的に内発的モチベーションを高めるために、以下の3点が大事です。
- 自分が成果を出す能力を持っていると思うこと(自己有能感)
- 学習内容が自分に必要・関係があること(関連性)
- 学習が他人によって強制されず自分で制御できること(自律性)
カギは自己効力感を高めること
上述の「自己有能感」とも関連してきますが、バンデューラは「社会的認知理論」において、学習モチベーションに「自己効力感」を適用しています。
自己効力感とは、「ある結果を生み出すために必要な行動をうまく行うことができるという確信(効力予期)」のことです。自己効力感を生み出すものは6つありますが、最も重要なのは、自分で何かを達成したり成功したと思える経験(達成経験)です。その達成を周囲から認めてもらえること(承認)も欠かせません。
直接的な経験が希薄になると、達成経験を味わい、周囲から「承認」してもらえる機会も減ってしまい、大事な自己効力感を高めることが難しくなってくるのではないでしょうか。
こんな背景を理解しながら、最近の子はやる気がない、覇気がないとぼやく前に、知識学習の土台となる経験、友人・教師との信頼関係、肯定的なフィードバック、心理的安全性の保証などを教室の内外で配慮するところから始めなくてはならない状況であると思います。
次回(特別編 第4回)は学習モチベーションを上げる「ARCSモデル」を中心にお話をしたいと思います。
参考:横山 悟『学習に対するモチベーション理論及びモチベーション理論に基づいた学習方略理論』(千葉科学大学紀要 12. 105 – 109、2019年)
▼ウイナレッジ編集部からのお知らせ
本記事を寄稿してくださった法政大学 廣川教授が、「実践行動学Webセミナー」にて基調講演講師として登壇されます。
実践行動学は、学生の夢の実現、目標達成に必要な「心のあり方」と「達成のスキル(技能)」を身につけることを目的とした、動機付け教育プログラムです。ぜひこの機会にご参加ください。
【実践行動学Webセミナー】
・基調講演タイトル:Withコロナ時代の学生への動機付け~モチベーション向上を目指して~(法政大学 教授 廣川進様)
・日にち:10月26日(木)および11月20日(月)
・会場:オンライン会場(Zoom)
・主催:一般社団法人 実践行動学研究所
・参加費:無料
詳細はこちら
\ぜひ投票お願いします/
廣川 進
法政大学 キャリアデザイン学部 教授(公認心理師・臨床心理士・文学博士)。
1959年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、株式会社ベネッセホールディングスにて、雑誌編集(『ひよこクラブ』の創刊等)の傍ら、大正大学大学院臨床心理学専攻修士・博士課程を修了。2001年退社後、大正大学心理社会学部臨床心理学科教授を経て現職。