奨学金制度とは、経済的な理由により大学や専門学校などへの進学が困難な学生に、国や自治体、民間企業が進学費用を給付・貸与する制度のことです。
専門学校の中には、日本学生支援機構の制度だけでなく、一定の条件を満たせば卒業後の返還を免除するなど、独自の奨学金制度を設けている学校も少なくありません。
ここでは、専門学校の学生が受けられる奨学金の種類や、奨学金制度が学校にもたらすメリットなどを紹介します。
目次
専門学校における奨学金の重要性
まず、専門学校生の奨学金利用状況と、専門学校における奨学金の必要性やメリットを紹介します。
専門学校生の半数以上が奨学金を利用
日本学生支援機構(JASSO)の「専修学校生活調査」によると、専門学校生(専修学校専門課程)の55.3%が奨学金を受給しています。
[日本学生支援機構]高等専門学校生生活調査・専修学校生生活調査(平成30年度((試行))
また、大学生等を対象とした「学生生活調査」と比較すると、専門学校生の1年間の収入総額は大学生よりも約16万円低い一方、奨学金は大学生より約14万円多いことがわかります。
[日本学生支援機構]平成30年度学生生活調査
専門学校に通う学生の半数以上が奨学金を利用していること、収入に占める奨学金の割合が大きいことから、専門学校生に対しては、大学生と比べても資金面での手厚いサポートが必要といえそうです。
奨学金が専門学校にもたらすメリット
奨学金制度が専門学校にもたらすメリットについて、「進学断念を防ぐ」「成績優秀者を確保できる」という2つの観点からそれぞれ解説します。
学生が進学を断念するのを防げる
学校にとっての奨学金のメリットとして、第一に「学費支払いのハードルによって学生が進学を諦めるのを未然に防ぐ効果があること」が挙げられます。
奨学金によって学費面のハードルを低くできれば、志願者・入学者の増加や、経済的理由による中退の減少が期待できます。
実習室や実習に使う機材など特別な施設、教育機材を要する専門学校の場合、私立大学よりも学費が高くなる場合もあります。
学生に学費を入学のネックに感じさせない努力が必要です。
成績優秀者を確保できる
日本学生支援機構や地方自治体の奨学金の中には、一定以上の学力を申込基準として設定しているものもあり、奨学金によって成績優秀者を確保できるメリットもあります。
学生の成績が優秀だと、学校全体の就職率の向上に加え、国家試験・各種資格試験の合格率向上も期待でき、学校の魅力向上につながります。
専門学校生が利用可能な奨学金の種類一覧
専門学校の学生が利用できる奨学金の種類とその内容についてそれぞれ紹介します。
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金
最も利用者の多い奨学金は、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金です。
日本学生支援機構の奨学金には、すでに大学や専門学校に通っている学生が対象の「在学採用」、これから入学する学生対象の「予約採用」があります。
なお、日本学生支援機構の奨学金を利用できる専門学校は認可校に限られます。
以下の表では、専修学校専門課程入学予定の学生が利用する予約採用の奨学金について「貸与型」「給付型」の2種類をそれぞれ紹介します。
貸与型 | 給付型 | ||
第一種 | 第二種 | ||
学力基準 | ①②どちらかに当てはまる人 ①高等学校等における全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上 ※ただし、上記の基準を満たさない場合であっても、(a)(b)を満たす場合はその限りではない。 (a)特定の分野において、特に優れた資質能力を有し、特に優れた学習成績を修める見込みがある (b)学修に意欲があり、特に優れた学習成績を修める見込みがある ②高等学校卒業程度認定試験合格者 | ①高等学校または専修学校(高等課程)における学業成績が平均水準以上と認められる者 ②特定の分野において特に優れた資質能力を有すると認められる者 ③進学先の学校における学修に意欲があり、学業を確実に修了できる見込みがあると認められる者 ④高等学校卒業程度認定試験に合格した人または科目合格者で機構の定める基準に該当する人 | ・高等学校等における全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上 ・将来、社会で自立し、及び活躍する目標をもって、進学しようとする大学等における学修意欲を有する |
家計基準 ※世帯収入の上限の目安(4人家族の場合) | 給与所得:747万円 給与所得以外:49万円 ※あくまでも目安 | 給与所得:1,100万円 給与所得以外:692万円 ※あくまでも目安 | 【第1区分】 市町村民税所得割が非課税 【第2区分】 支給額算定基準額の合計が100円以上2万5,600円未満 【第3区分】 支給額算定基準額の合計が2万5,600円以上5万1,300円未満 |
支給額(国公立) | 自宅通学:2万円~4万5千円 自宅外通学:2万円~5万1千円 | 学校の種類や通学形態を問わず月額2万円~12万円(1万円刻み) | 【第1区分】 自宅通学:2万9,200円 自宅外通学:6万6,700円 【第2区分】 自宅通学:1万9,500円 自宅外通学:4万4,500円 【第3区分】 自宅通学:9,800円 自宅外通学:2万2,300円 |
支給額(私立) | 自宅通学:2万円~5万3千円 自宅外通学:2万円~6万円 | 学校の種類や通学形態を問わず月額2万円~12万円(1万円刻み) | 【第1区分】 自宅通学:3万8,300円 自宅外通学:7万5,800円 【第2区分】 自宅通学:2万5,600円 自宅外通学:5万600円 【第3区分】 自宅通学:1万2,800円 自宅外通学:2万5,300円 |
[日本学生支援機構]目的から探す
地方自治体の奨学金
地方自治体の奨学金は、成績や家計の基準が自治体によって異なります。
学生が利用を検討する際には、住んでいる自治体に奨学金制度があるか、ある場合は受けられる条件、申し込み時期を自治体のホームページで細かくチェックする必要があります。
ここでは一例として、東京都と大阪府の専門学校生(専修学校専門課程)向けの奨学金を紹介します。
東京都
種別 | 支給額(月額) | 申込資格 | |
大田区奨学金 | 貸付 (無利子) | 国公立:3万5千円以内 私立:4万4千円以内 | ①貸付開始の1年以上前から大田区内に居住する保護者から扶養されている ②学校教育法に定める専門学校(認可校) ※通信制含む ※大学院生、就職経験者、大学既卒者は対象外 ③経済的理由により就学困難 |
港区給付奨学金 | 給付 | 1万4,400円~8万3,300円 ※ただし、夜間学部は1万2,100円~7万2,200円 | ①奨学金を受けようとする者の生計を維持する者が、給付の日の6か月前から引き続き港区内に住所を有している ②経済的理由により修学が困難である ③大学等に在学している学生等である ※進学予定者の場合は、高校等を卒業する見込み又は卒業後2年以内で初めて大学等に進学する者 ③学業成績が特に優れている |
港区貸付奨学金 | 貸与 (無利子) | 国公立・自宅通学:4万5千円以内 国公立・自宅外通学:5万1千円以内 私立・自宅通学:5万4千円以内 私立・自宅外通学:6万4千円以内 | ①貸付日の6か月前から保護者が港区に住所を有している ②経済的理由により修学が困難である ③大学等に在学している学生等である ④日本学生支援機構その他同種の返還義務のある奨学金を借りていない |
大阪府
種別 | 支給額(月額) | 申込資格 | |
貝塚市奨学資金貸付制度 | 貸与 (無利子) | 国公立:1万5千円 私立:2万円 | ①保護者が市民である ②所得要件 ※通信課程は対象外 ※返還期間(貸付期間の2倍の期間)を超えると有利子 |
高槻市奨学金 | 貸与 (無利子) | 国公立:1万1千円 私立:1万4千円 | ①扶養者が高槻市内に住所を有している ②経済的理由により修学困難 ③専修学校は、就業年限2年以上で文部科学省の認定した課程を対象 |
民間の団体の奨学金
専門学校の学生が利用できる奨学金として、個人や民間企業などによる民間育英団体の奨学金や、公益財団法人の設ける奨学金もあります。
給付型と貸与型のどちらもあり、奨学金制度によって採用基準や給付額は異なります。
特定の技能の秀でている学生を対象とした奨学金や、交通遺児を対象とした奨学金、保護者が病気や怪我などで働けず経済的に困窮している学生を対象とした奨学金などさまざまな奨学金があります。
学校を経由せずに募集する団体もあり、応募資格にあてはまるものがあるか学生が各自で調べることも必要です。
ここでは専門学校生(専修学校専門課程)が利用可能な民間団体の奨学金の一例として、「あしなが育英会」の奨学金と「東京都育英資金貸付事業」奨学金を紹介します。
支給額(月額) | 対象者 | |
あしなが育英会 | 貸与4万円+給付3万円 ※貸与部分は20年以内に無利子返済 | 親が病気や災害(道路上の交通事故をのぞく)または自死(自殺)などで死亡、あるいは親が著しい障がいを負っている家庭の子ども ※他の奨学金との併用が可能 |
公益財団法人東京都私学財団 東京都育英資金貸付事業 | 国公立:4万5千円 私立:5万3千円 | 次のすべてに該当し、在学校が推薦する学生 ①申込者と扶養者の住所がいずれも都内 ②勉学意欲があり、経済的理由により修学が困難 ③同種の奨学金(給付制のものを除く)を他から借り受けていない ④申込時に第一連帯保証人、貸付終了時に第二連帯保証人を立てられる ⑤日本国籍がない場合、在留資格が「法定特別永住者」「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」のいずれか ⑥同一学種等で、過去に東京都育英資金を借りていない ⑦大学院に在学したことがない ⑧返還期間の末日に満65歳を超えない |
専門学校独自の奨学金
専門学校が独自に設けている奨学金は、以下の5種類に大別されます。
定期的に奨学金を支給したり貸与したりする一般的な奨学金制度だけでなく、条件付きの授業料免除や卒業後に条件を満たすと返済免除となるタイプなどもあります。
- 試験の成績優秀者に支給する制度
- 特定の資格保持者に支給する制度
- 卒業後の提携施設での就労などを条件に給付する制度
- 卒業生・在学生の親族に支給する制度
- その他の条件で支給する
それぞれの奨学金制度を具体的に解説します。
試験の成績優秀者に支給する制度
入学選考試験の成績や、特待生枠・奨学生枠志願者向け試験の成績が優秀な学生に対し、一定額の奨学金を支給、または学費を免除するタイプの奨学金制度です。
試験の成績に応じて数段階のランクがある場合が多く、全額免除から半額免除、年間50万円など、学校によって支給の条件はさまざまです。
特定の資格保持者に支給する制度
専門分野に関連した資格を持っている学生に対し、授業料などの一定額を免除する奨学金制度です。
この他にも、高校時代のクラブ活動で全国大会レベルの実績のある人を特待生として受け入れ、入学金・授業料の免除を行う学校もあります。
卒業後の提携施設での就労などを条件に給付する制度
看護系の専門学校などでは、卒業後に指定された病院などに一定期間勤務すると貸与型の奨学金が返還免除となるという制度を設けている例もあります。
卒業生・在学生の親族に支給する制度
その専門学校の卒業生または在学生を親族に持つ学生を対象とする制度で、入学金を免除する形をとる場合が多いようです。
その他の条件で支給する制度
このほか、オープンキャンパスやその専門学校主催の説明会に参加した学生を対象に、学費を一定額免除するという制度もあります。
その他の奨学金
日本学生支援機構や地方自治体、専門学校独自の奨学金制度以外に利用できる制度として新聞奨学生と学生支援緊急給付金の制度を紹介します。
新聞奨学生
新聞奨学生とは、学生の学費を新聞社が負担する代わりに、学生には新聞配達の仕事をしてもらう制度です。
卒業してから返済が始まる他の奨学金と違って、在学中に給与から返済し続けることになります。
奨学会によっては、奨学生向けの寮が用意されるため、家賃光熱費が無料だったり、朝晩の食事が付いていたりするところもあり、学生の一部生活支援もセットで行っている場合もあります。
在学中は毎日早起きして働く必要があるため簡単ではありませんが、就職活動時に新聞社から新聞奨学生に対して「就職推薦状」がもらえるため、就職が有利になるメリットもあります。
学生支援緊急給付金
新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、将来の経済社会基盤を確保する観点から「学びの継続」のため、文部科学省が2020年に創設した給付金です。
支給対象は世帯収入が激減した学生、アルバイト収入が激減した学生などが想定されています。
給付額は、住民税非課税世帯の学生は20万円、それ以外の学生は10万円です。
申請から給付金の支給は以下の流れで実施されます。
①学生支援緊急給付金に申請した学生を大学や専門学校が審査する
②審査したリストを、日本学生支援機構を通して国に提出する
③国が支給対象の学生に対して給付金を支給する
まとめ
奨学金は条件によっては併用できるものもあります。
自校への入学意欲のある学生向けに各種の奨学金についての案内をホームページに記載しておくとよいでしょう。
また、学費がネックになって自校への入学をためらっている学生のため、学校独自の奨学金制度がない場合は、新たに制度を設けて門戸を広げることを検討してはいかがでしょうか。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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