連載大原先生の学生指導のすゝめ
動機づけ教育プログラム「実践行動学」を開発する「実践行動学研究所」大原専務理事の学生指導のすゝめ。 学習塾での指導歴25年の大原先生が、実例を用いて学生への接し方をお伝えするシリーズです。 テンポのよいユニークな文章は、一度読んだらハマること間違いなし。
学生指導において、目標や目的を伝えること、イメージを共有することの難しさに直面したことはありませんか。
学生に目標となる資格試験や学習目的を伝える、または学生と目標達成までのイメージを共有するのは大切なことですが、思うように伝わらない経験をされた先生も多いのではないかと思います。
伝える側(先生)と聞く側(学生)がなるべく同じイメージをもって会話ができるとよいですよね。
そこで、今回は実践行動学研究所 大原幸夫専務理事から「聞く人との間にズレを生まない伝え方」について寄稿していただきました。
目次
なぜ伝える側と聞く側でズレが生じるのか
例えば、ありがちなのが、こんな親子の会話。
親 「この間、次はがんばるって約束したでしょ!」
子 「だからがんばってるじゃん!」
親 「あんたね、これでがんばってるって言えるの?」
「がんばってない VS がんばってる」、「約束を守ってない VS 守ってる」の正面衝突です。
このような衝突が生まれる原因は、約束をした時点で「がんばる」という言葉の認識にズレがあることです。
「がんばる」という言葉は曖昧なので、それぞれのイメージで勝手に解釈されます。
「急いで」とか「きちんと」などの言葉も、子育てでよく登場する要注意ワードです。
さて、「がんばる」とは、何を・いつ・どのように・どの程度やることなのか。
親がイメージする「がんばる」とは、家に帰った途端に寝転がってゲームを始めるような姿を見なくなり、すぐに机に向かうこと。
一方の子どものイメージは、ゲームをやるかどうかは別モノで、最終的にやるべきことをやり終えること。
もしこんなふうにズレていたら、親は約束を破られたと思いますし、子どもは子どもで、約束を守っているのになんで怒られなきゃいけないんだ!とアタマにきたりもするでしょう。
では、そのようなすれ違いを生まないためにどのような伝え方をしたらいいのでしょうか?
数値化という方法
私がよく使う方法は2つあります。
もっとも手軽なのが、数値化という方法。
例えば、がんばりを10点満点で表して、「どの状態なら何点か?」を話し合います。
まずは現状の確認から。
「今のがんばりは10点満点中の何点か?」 そして「どうしてそう思うのか?」を聞きます。
次に、その答えをもとに、とりあえずのこちらの要望(目標)を伝えてみます。
「満点とまでは言わないけど、8点くらいならやれるんじゃない?
今と8点の何が違うかというと…」
それを聞いた子どもの返事は、
「ぼくにとっての8点はこれこれこうで、それならできる」かもしれませんし、
「それは難しいけど、こういうことならできそう」かもしれません。
いずれにしても、数字と具体的な行動を結びつけて話すことで、ある程度は互いのイメージが一致した状態をつくり出せます。
もしも互いに納得できなければ、ここからさらにすり合わせていけばいいのです。
要は、人によってどうとでも取れる曖昧な言葉を同じイメージで理解する仕組みとして、とりあえず数字にしてみる、という作戦です。
数字が表す行動をできるだけ具体的な言葉にするのがポイントです。
慣れるととても便利な方法なので、ぜひ試してみてください。
また、「学校は楽しい?」のようなひと言で答えられる質問を、「学校の楽しさは10点満点中何点?」と聞くようにして、より深く理解できる会話にもっていくという使い方もあります。
ここまで親子の例でお伝えしましたが、教員と学生にも当てはまります。
例えば、こんな会話。
教員「次の課題提出は少し早めにできる?」
学生「がんばってみます。」
教員の「少し早め」とはいつのことでしょうか。
対して、学生の「がんばってみます。」という返答…。
お互いに曖昧で、いったい課題がいつ提出されるのか、はっきりしない会話になってしまいました。
では、このような会話ならどうでしょう。
教員「次の課題提出は11月20日までにできる?」
学生「11月25日までならできると思います。」
教員「じゃあ11月25日の提出を目標に、何日までにどこまで仕上げるか、スケジュールを立てよう。」
期限に向けていつ、何をするか、まで具体的に決めてしまいます。
ポイントは、数値化と、具体的な行動に落とし込むこと。
同じイメージを共有しながら会話ができているか、が大切です。
前提から伝える
さて、私にはもうひとつ”必殺技”があります。
みなさんにも、話をしながら「あれ?どうも通じてないなぁ…」とか、「何回言っても伝わらんなぁ」と思った経験がありませんか?
そんなとき、どうしていますか?
「だから、さっきも言ったんだけどさぁ、これこれこうで…」と同じ説明を繰り返しますよね。
説明不足や相手の聞き漏らしが原因であればこれで解決できますが、ときには何度言っても平行線ということもあります。
だんだんイライラもしてきますよね。
こういうケースは、説明の仕方が悪いわけでも相手の理解力がないわけでもなく、そもそもの前提の理解が食い違っているということが少なくありません。
だから、何回言っても伝わらないときは、「なんでこれを伝えているかというと…」という前提から話してみるといいです。
前提の理解が一致した途端に、「あぁ、そういうことが言いたかったんですね!」と、相手が一気に納得してくれることもあります。
そうなったときはとても気持ちがいいので、ぜひ試してみてください。
とっておきの必殺技
「私にはもうひとつ“必殺技”があります」と書きましたが、実は上の内容ではありません。笑
本当は「比喩を使う」という方法をお伝えするつもりだったのですが、、、
「比喩」は、漠然としたことを分かりやすく伝えるテクニックとしてとても有効ですが、うまくまとまりませんでした。(文章力が…泣)
そこで、先日聞いた比喩をとてもうまく使ったお医者さんの話を共有することにします。
新型コロナウイルス感染症の後遺症についての説明です。
テレビでいつも聞くのはこんな感じですよね。
”新型コロナウイルス感染症は、多くの人が治ったあとも後遺症に悩まされています。
数ヶ月経っても倦怠感などの様々な症状があり、元の生活に戻れずに苦しむ人が多いのです。”
これでも情報は伝わっては来ますが、「ふ~ん、そうなんだ」と思うくらいで後遺症の怖さは実感できません。
ところがこのお医者さん、「本当に気をつけてほしいんです!」という気持ちを伝えるために、こんな比喩を使って説明していました。
”新型コロナウイルス感染症による肺炎は火事のようなものでね、肺炎が治るというのは、火事の火が消えた状態だと想像してください。
火が消えたとしても、あちこち焼け焦げた家はすぐに元通りにはなりませんよね。
私たち医者は、火を消すことまではできるかもしれませんが、患者さんがその後すぐに元通りの生活に戻れるとは限りません。
肺はあちこちが焼け焦げた状態ですから。
これは、患者さん自身が時間をかけて元に戻していくしかないんです。”
こう言われると、燃え残った家の映像が目に浮かんできて、火が消えたあとも大変な毎日が続くことが実感として分かりますし、むしろ当然のことようにも思えます。
このお医者さんは「比喩のスキル」のレベルがめちゃくちゃ高いです!
こんな風に実感を促すレベルで伝えることができると、学生との目標共有も含めて指導が円滑に回りそうですね。
まとめ
さて、いかがでしたか。
ポイントをまとめると、ざっとこんな感じです。
① 数値化により曖昧な言葉を数字に置き換え、その数字のイメージが表す具体的な行動を共有する
② 前提から説明することで背景を含めた理解を促す
③ 比喩を使い聞き手にイメージしやすい事例で実感を促す
ぜひ、学生指導において参考にしていただければ幸いです。
※この記事は、実践行動学研究所のメールマガジン「しなやかな心と学ぶ力が育つメルマガ ColorfulTimes」
145号、146号を再編集したものです。
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大原 幸夫
一般社団法人実践行動学研究所 専務理事
学習塾に25年勤務。その後小~中学校向けのワークショップの開発、及びファシリテーターの育成に従事している。またコーチング研修等の講師・講演を行う専門家でもある。