アライドアーキテクツ株式会社(東証GRT上場)は、新潟の専門学校でビジネス分野を学ぶ2年生を対象に、2022年4月から半年以上、延べ99時間をかけてSNSマーケティングの授業を行った。
マーケティングを専門的に学ぶ学科ではない、事前知識ゼロの学生たちを相手に始めた授業は、いつしか学生のやる気を引き出し、成長を遂げさせることができた。
授業を担ったアライドアーキテクツ社久保田氏がいう授業の秘訣は、
「特別なことはいらない。普段、プロがやっている仕事の手順を真剣に繰り返すだけでいい、仕事のごっこ遊びを真面目にやりきること」
である。
実際にどのような授業が展開されたのか、話を伺った。
インタビュアー:ウイネット
インタビュイー:アライドアーキテクツ株式会社 久保田さん、後藤さん
目次
専門学校における授業で感じたこと
今回、初めて専門学校で授業を担当した率直な感想を教えてください。
はい、学生の成長を間近で実感した1年だったと思います。
過去には、企業向けの研修として、SNSマーケティング施策や活用法の勉強会を開催してはいました。
今回のように受講者にSNSマーケティングの知見が無いことを前提にした授業は初めてでしたので、試行錯誤の連続でした。
私たちのようにSNS漬けの日々を送り、仕事・プライベートの境目なくマーケティングマインドの状態にある者にとってはワクワクするようなテーマであっても、学生からは全く反響が無いこともあり、どうしたらツボにハマるのかが見えませんでした。
しかし、後半の授業では、座学のインプットと実習のアウトプットを繰り返していくことで実習成果物のレベルが格段に良くなり、学生の成長を実感することができました。
今回の授業を通じて、SNSマーケティング分野を体系立てて学生に教えていくことの重要性、価値を実感しました。
当社では、新入社員に対してOJTを中心に業務経験を積ませながら即戦力となるように育成しています。
今回の授業実施をきっかけに、当社がこれまで培った知見等も含めてSNSマーケティング分野を体系化し、カリキュラムとテキストの制作を通じて形にしてきました。
これが実現できたという点は当社にとっても価値あることだと考えています。
また、今回の取り組みの手応えとして、学生という学ぶことに集中できる期間を利用してしっかりとSNSマーケティングを教えきることができれば、OJT型で育成するよりも即戦力となる人材育成ができるとの感触を得ました。
授業を展開するうえでのポイント
ありがとうございます。久保田さんがお話しくださったOJT型との違いについてもう少し、詳しく教えてください。
ご存じのとおりOJT型は、現場実務を通じて人材育成を行うスタイルです。
そうなると、当然、顧客ありきでの教育となりますから、業務を遂行するために必要な知識や明日使わなければならないスキルを中心に教えることになります。
そのため、現業務に関係が薄いが本当に必要な知識や将来的に理解しておいてもらいたいスキルのようなものは、自ら時間をつくって学んでもらうことを前提にしなければなりません。
体系的に整理された教科書等のツールが整っている分野であれば自習もしやすいと思いますが、SNSマーケティング分野は、学習ツールが充実しているとはいいがたいのが現状ですし、自己学習だけでは、知識やスキルに漏れや抜け、未習熟部分が出てきます。
そういう点も考慮すると、今回の授業を通じて、学生に広告業界で働くうえで必要な知識を提供できたことには大きな意味があります。
この知識は、広告代理店やマーケティングのコンサルタントと仕事をするためにも必要になってきますので、一般企業への就職を目指す学生にとっても有益なものとなると考えます。
ありがとうございます。では、専門学校生にSNSマーケティングを教えるうえで大切だと感じたこと、授業を行ううえでのポイントがあれば教えてください。
SNSマーケティング分野は、アカデミックな知識をインプットする部分と実践として成果物にアウトプットしていく部分とがあります。
授業においては、このバランスを取ることが必要だと思いました。
学生たちは、普段からSNSを利用していますが、企業が自社の情報発信や顧客との交流のために利用する場合は、全く異なる利用方法や視点が必要なのです。
この部分は、知識のインプットではイメージし難い点です。
そこで、実際に投稿を作成する実習を入れることで私的なSNS投稿とビジネスにおけるSNS投稿の違いをリアルに理解してもらうことができました。
学生にとっては、具体的な投稿企画の立案、写真撮影、写真に添える文章作成、そして、SNSにアップするという一連の業務を体験してもったことで、理解度が一気に高まったと思います。
企業側の視点や投稿のための準備を体験する実習が重要ということですね。
実習はどのように行ったのでしょうか。
実習を行うにあたり、3つの方法を試しました。
1つ目の方法は、学生たちに自由に実習させるお任せ型です。
2つ目の方法は、香盤表やラフ作成などの事前準備をさせたうえで、フィードバックをあまり細かく入れない事前準備注力型、3つ目は事前準備注力型に加えて、各段階でのフィードバックを細かく入れ、香盤表やラフ等の手直し、ブラッシュアップをしっかり行った事前事後徹底指導型です。
成果物のレベルで言えば3つ目の事前事後徹底指導型が高くなりました。
そうでしたか。実際、実習を行って難しかった点などありますか。
3つの実習方法を試すことで学生のタイプが見えてきたように思います。
個人ワーク部分も含めて、3つの方法を組み合わせることは、学生の理解度や成果物の質を高めること、特にグループワークのレベルを上げる点では有効だと考えます。
一方で、今回の授業を通じて事前準備の重要性を感じました。
例えば、撮影前の事前準備として香盤表とラフを作成してもらいました。
その際に、私たちが学生に制作イメージを伝え作成に向けた指導を行っても、情報収集の技術が無いため、どのように進めればよいか、具体的にはInstagramのハッシュタグで情報収集するとか、Pinterestを見てアイデアイメージをつくるとか、その方法から伝えていかなければなりません。
そういったことを繰り返すことで、一定の情報水準まで引き上げたうえで実習を行わなければ、本来体験して欲しい実習にならないという点は私たち自身も良い気付きになりました。
このベース作りがあったうえで実習を行い、学生たちがイメージしていた成果物とプロの成果物の違いをフィードして、はじめて学生一人ひとりにフィードバックが刺さっていきます。
学生が答え合わせのような感覚で、できていた点とできていない点を理解していくことが重要だと思います。
実習当初、私たちが考えていたスピード感よりも倍以上の時間を見ておかなければならないという点を強く感じました。
準備も制作も、私たちの時間軸では学生にとってスピードが速すぎるということ。
そのため、限られた時間の中で実習を行うためには、タイミングを見ながらフィードバックを細かく入れていくことが必要だと感じました。
そして、徐々に作業スピードを上げていく訓練をするということも実習の役割であると考えています。
そもそも、SNS運用の担当者として仕事をする場合も、自分の勝手な解釈で進行していくということはありません。
企画書とか、進行表とか要所要所で相手企業側の担当者やチームメンバーとイメージを共有する、合意を取るということを行います。
ですので、進行に応じて制作物を提出させてフィードバックし、必要なら軌道修正を加えることが、実習授業でも大切だということ、この点は授業の後半で確信が持てました。
結局、専門学校の授業だからといって特別なことをする必要はないのかもしれません。
普段、私たちが行っている仕事の手順を授業でも行っていく、つまり、プロがやっている仕事の手順を真剣に繰り返すだけでいい、仕事のごっこ遊びを真面目にやりきることが一番大切なんですね。
ありがとうございます。実習の場合、学生のキャラクターの違いが出てきます。
例えば、他者と協働することが得意な学生と内向的な学生とがいますが、どのように対応されましたか。
正直、実習でもやる気のある学生とやる気がない学生がいましたが、必ず全員が発表を担うような場面を設けることで、参加意識を高めてみました。
授業を振り返っての感想ですが、1年を通して同じグルーピングで実習を行う必要はないと考えます。
あえて、毎回に近い間隔で様々なグループを作って化学反応を確認することが必要だなと。
また、学生によってはやる気があって情熱もあり、宿題をしっかりやってくるが、グループワークになると積極的に発言できないというケースもあります。
そのような学生に対しては、個人ワークでしっかりと評価してあげることも必要です。
その点で、実習のすべてがグループワークである必要はありませんので、個人のやる気を醸成する実習も重要だと思いました。
とくに注力すべき単元とは
ありがとうございます。SNSマーケティングを学ぶうえで、特に注力する単元はどこになりますか。
投稿運用の部分です。
SNSマーケティングの学習段階をあえてレベル分けするならば、レベル1にあたる部分が投稿運用です。
そしてレベル2が投稿以外の施策運用、わかり易く言えば広告配信やキャンペーン運用等がこれにあたります。
そしてレベル3が戦略立案です。
その観点で言えば、今回はレベル1.5の授業となりました。
ここで、勘違いしていただきたくないのは、レベル1だから初級とか、初歩ということではありません。
実際、企業視点を理解して投稿運用ができることはとても価値のあることです。
SNSマーケティングを生業としている当社でも、企業視点を理解して投稿運用ができる人材がいれば即戦力として採用したいぐらいです。
先ほどもお話ししたように、誰でもSNS投稿はできます。
授業の初めごろは、学生たちもそのような感覚でした。
写真を撮影して投稿するだけだと。
それをそのままにして授業を進行させてしまえば、おそらくそれはそれで一定の満足感で終われるのだと思います。
しかし、それでは駄目なんです。
写真撮影でもライティングでも、企業としてSNS投稿するためには、注意しなければならない視点、投稿するまでに必要な手順や準備、そして撮影時の留意事項など様々な要素を理解しておかなければならないのです。
ここがクリアできていれば、即戦力としてプロの仕事ができますし、企業やショップに就職した際には上司にSNSの投稿運用を指示されても運用していけます。
その先の戦略であるキャンペーンや広告配信は、広告代理店にパートナーとなってもらっている会社も多いため、投稿運用に特化して授業を行うこと自体に大きな価値があると言えるのです。
様々な学科でリテラシーとしてSNSマーケティングを学ぶ場合、どれくらいの授業時間を考えればよいでしょうか。
専門学校の先生方が、専門外でも学生にSNSマーケティングを教えていただけるように、今回当社でテキストを制作しました。
このテキストを使う場合50時間程度の授業時間を確保していただければ、SNSマーケティングに関する知識やSNSマーケティング検定合格レベルまで引き上げていただくことは可能です。
一方で、実習に関しては、学生の成果物に対してどのような観点でフィードバックを行うかというところが難しいのではないかと考えています。
業界経験が無いと、この点は難しい部分であると思いますので、現在、実習の進め方やフィードバックの仕方等をサポートするツールを準備しています。
企業活動においてSNSマーケティングは必要不可欠ですから、ぜひ、専門学校の授業に組み入れていただき、業界で活躍できる人材を輩出してもらいたいと考えています。
授業前後での撮影写真の比較
以下の画像は、授業前と後で実際に学生が撮影した写真を比較したものだ。
ラーメンの写真は、指導前に学生が自由に撮影したもの。
Instagramなどでよく見られそうな構図、画角となっている。
ここから、「構図の工夫」や「対象物と背景のフォーカス」「小物使い」を指導することで撮影のスキルアップを図った。
▼ウイナレッジ編集部より
SNSマーケティングのプロが専門学校で授業を行ううえで大切だと考えるポイントは3点ありました。
1.企業視点での「投稿」ができるようになること
2.座学による知識のインプットと、実習によるアウトプットの両方をバランスよく授業の中に取り入れること
3.実習では、仕事で必要な手順(企画、共有、確認など)を仕事さながらに学生に繰り返させること
今回のインタビューで、専門外の学生でもSNSマーケティングを学ぶことの意義を感じました。即戦力となる実務人材を育成する専門学校においては、最新の理論を教えることも重要ではあるものの、基本をしっかり理解してもらうことを大切にするプロの視点を教えられた気がします。
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