連載大原先生の学生指導のすゝめ
動機づけ教育プログラム「実践行動学」を開発する「実践行動学研究所」大原専務理事の学生指導のすゝめ。 学習塾での指導歴25年の大原先生が、実例を用いて学生への接し方をお伝えするシリーズです。 テンポのよいユニークな文章は、一度読んだらハマること間違いなし。
人と人とのコミュニケーションにおいては、相手の話を「聴く」力がとても重要です。
だれしも自分の話を聴いてもらうのは気分がよいものですよね。
逆の立場で、相手の話に丁寧に耳を傾けることには努力や意識が必要となります。
家族、友人、同僚…どんな相手にも使える「傾聴」のスキルを磨くコツを、実践行動学研究所 大原幸夫専務理事から寄稿していただきました。
目次
Designed Alliance (意図的な協同関係)
いまから10数年ほど前、私はコーチングを習得するためにCTIというコーチ養成機関の門をたたきました。
今になって思うのは、「傾聴」は特定の何かのためのスキルではなく人生全般でめちゃくちゃ役に立つ「ライフスキル」であり、「信頼関係をつくる」という点で絶大な効果を発揮するということです。
CTIのプログラムでは、それまで読んだノウハウ本に書いてあった「うなずきながら聴く」とか、「オウム返しをする」とかがまったく出てこないことに驚きました。
大げさではなく、本当にまったく出てきません。
なのに2日半の基礎コースが終了したときには、みんながそういうことをやるようになっている。
とても不思議な気分で、魔法のようでした。
さて、なぜ私たち受講生は教わってもいないやり方をできるようになったのでしょうか。
振り返ると、たった一つのことを徹底的に叩き込まれたからだと思うのです。(あくまでも私個人の印象であり、随分前のことなので記憶に補正がかかっているかもしれませんが…)
その一つのこととは「Designed Alliance」、日本語訳は「意図的な協働関係」です。
それは、相手との関わり方を聴き手側がデザインするという技術でした。
ここですべてはお伝えできませんが、日常生活の中でスグにできることを2つご紹介しますので、ぜひ試してみてください。
◎その1:どのような関係性を築きたいのかを互いに知っておく
・2人は現在どのような関係性で、この先どのような関係性を築いていきたいのかを伝え合って明確にする。
・相手に何を要望して自分は何を心がけるのかを伝え合う。
◎その2:話し合う目的を合意した上で本題に入る
・たとえば自分が教師で相手が学生なら、言うとおりにしてほしいから話すのか、学生自身で考えてほしいから話すのかを先に伝えておく。
・たとえば自分が上司で相手が部下なら、どんな変化を望んでいるから話し合いをするのかを伝え、部下がその要望に対してどう思うのかを聴いてみる。
このように、自分が聴き手としてリードし、互いに意図を持って関係性をつくるようにすると、コミュニケーションの質は大きく向上します。
また、こうした姿勢や行動そのものが、傾聴の筋力アップにも繋がるのです。
相手への寄り添い方を、単なる方法論ではなく、人の「あり方」として教わったのが、CTIでの学びでした。
その「あり方」が身につけば、自然に傾聴の「やり方」が立ち現れるというわけです。
(偉そうなことを書いちゃいましたが、まだまだ修行中の身であります。汗)
学生との面談などで最初に取り入れるときはちょっと勇気がいるかもしれませんが、ぜひチャレンジしてみてください。
傾聴のポイントは「自己管理」
ここからは、実際に話を聴くときのポイントをお伝えしたいと思います。
「傾聴」の最も重要なポイントを一つだけ挙げるなら…
ズバリ、それは「自己管理」です。
人の話を聞いていて、それが興味のある内容だったりすると、ついつい自分のことを話したくなりますよね。
自分にとって関心の高い内容だと、傾聴はしづらくなるんです。
では、逆に興味のない内容ならどうでしょうか。
心のなかで「興味ないわ~」とか「つまんねぇ~」とかつぶやいたり、いつのまにか違うことを考え始めていたりしませんか?
わたしにはあります、そういうことが。笑
(胸を張って言えます)
あと、ありがちなのが学生や部下に注意を与える場面で、相手の言い分を聴いているようでいて、実は「すみません。以後気をつけます。」と謝罪させることが目的になっているパターン。
こういうときは質問が詰問になってしまい、相手は決して話を聴いてもらっているとは感じません。
「結局どんなときも傾聴ってムズカシイんじゃん!」
って思いましたよね?
そうなんです。笑
だから、「自己管理」というスキルが重要なのです。
自己管理には二つのステップがあります。
第一ステップは、「事前に傾聴する心構えをつくる」ことです。
(また事前の話ですみません。でも、事前準備はほんと大事なんです。)
たとえば、「今から15分間は心から相手に寄り添って話を聴くぞ!」と心に決めておく、ということです。
これは、話し手との関係性が近ければ近いほど、強く意識する必要があります。
上司・部下のような利害関係がある相手の場合も同様です。
なぜなら、相手を自分の思いどおりにコントロールしようという「コントロール願望」が働くからです。
コントロール願望は、傾聴の天敵です。
だから、話を聴く前に傾聴すると決めておくことが大事なのです。
そして、自己管理の第二のステップは、
「聴いている最中に自分の状態に気づいて、傾聴できていなければ意識を立て直す」ということです。
傾聴は言語傾聴と感情傾聴に分けられますが、人は話の内容だけでなく、感情まで受け取ってもらったときに「聴いてもらった」という感覚を味わいます。
傾聴とは話し手の感情まで聴き取ることとも言えますね。
ただし、人は相手の話を聴いている最中でも、反射的に心の中から湧き出てくる自分自身の言葉を聴くようになります。
・この話はいつまで続くのかなぁ…
・さっきから言い訳ばっかりしてるなぁ…
・なんて言ったら説得できるかなぁ…
・どんなアドバイスをしようかなぁ…
こんな言葉が頭の中を巡っているのは、相手の心の声が聴けていないサインです。
ここで「自己管理」の出番です!!
自己管理で相手に意識を向け直すのです。
・相手は私に何を分かってほしいと思っているんだろう?
・相手はどんな気持ちで話しているんだろう?
・相手は何を望んでいるのだろう?
こんな感じで、相手を主語にした問いかけを自分にしてみるのが意識を戻すコツです。
頭の中をぐるぐる回り始める自分自身のつぶやきから、相手の表情や声のトーンに焦点を当て直す、というイメージでやってみてください。きっと相当難しいことに気づくでしょう。笑
でも、聴き手がその心がけでいる時間が長ければ長いほど、相手は「聴いてもらった」という感覚が強くなります。
「傾聴」が難しいものであるからこそ、コーチングやカウンセリングといった仕事が存在します。
簡単にできることなら職業にはなりませんもんね。
どんなに聞き上手な人でも、必ず人の話を聴けない状態になるときがあります。
人間とはそういうものです。
聴くことができていない自分の状態に気づき、そこから仕切り直して聴く姿勢に戻す。
そしてまた聴けていない状態に陥ったら、意識的に立て直す。これこそが「傾聴力」の本質だと思いますし、これを繰り返して経験を積むことでしか、傾聴の筋力をつけることはできません。
はじめはなかなかできなくても、やっていくうちにだんだん集中して聴ける時間は長くなっていきます。
はじめにお伝えしたとおり、傾聴は信頼関係を作る上で非常に重要なスキルです。
傾聴スキルが高い先生のことを、学生は信頼し、慕ってくれることでしょう。
傾聴に元手はかからないので、ぜひ挑戦してみてください。
※この記事は、実践行動学研究所のメールマガジン「しなやかな心と学ぶ力が育つメルマガ ColorfulTimes」126号、127号を再編集したものです。
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大原 幸夫
一般社団法人実践行動学研究所 専務理事
学習塾に25年勤務。その後小~中学校向けのワークショップの開発、及びファシリテーターの育成に従事している。またコーチング研修等の講師・講演を行う専門家でもある。