核家族化、少子化、コロナ禍…。昔に比べて誰かに何かを相談する機会が減っていく一方です。そのため、「内にこもりがちで、なかなか悩みや不安を相談をしてこない」学生が増えてきていると感じませんか。
そんなZ世代の学生との信頼関係を築くために、おすすめなのが1on1。
今回は、個々の学生の不安を解消するだけではなく、ひとり一人の主体性を育み、成長につなげる鍵となる「関係の質」へのアプローチ方法についてお伝えします。
目次
号泣する学生が教えてくれたこと
突然のことでした。いつもはおとなしい学生が肩を大きく震わせたかと思うとわーっと大きな声で泣き始めたのです。それは私が講義を受け持っている大学でのこと。半期の最後に社会人基礎力がどれほど向上したのかを確認するための面談の場でした。
「どう、最近は?」というたわいもない質問の直後ということもあり、面食らってしまいました。
聞けば、コロナになって留学ができなくなったこと、そのせいで勉強にも身が入らずに語学力も伸び悩んでいること、就職活動のこと、ご家庭の事情など次から次に心のなかの悲痛な叫びがあふれ出てきました。
そのときになってやっと私は気づいたのです。普段はなんでもないように取り繕っているだけで、こんなにも不安や悲しみを抱えて日々を懸命に過ごしていることに。そして、そのような学生が少なくないということに。
面談の後に色々と考えました。正確には考えざるを得なくなりました。そして2つの結論に至りました。
サードプレイスを提供
1つ目はサードプレイスを提供するということです。多くの学生には家庭、友人という2つの居場所があります。
しかし、一人暮らしで親と疎遠になった、コロナという制約された環境のなかで本音を吐露できる友人が少ない、といった理由により孤立を深めている学生がいます。大学には学生相談の窓口がありますが、そこまで大げさにしなくても、とためらってしまう学生が少なくありません。
結果として一人で心の重荷を背負うことになるのです。したがって、第3の居場所を提供することが学生の支えにつながるのではないか、と考えたためです。
必然の機会を設ける
2つ目は待ちではなく必然の機会を設けるということです。最近の若者の特徴なのでしょうか、自分のことは自分でなんとかしなければという責任感、自立心が強いように思います。
何かあったら相談に来るだろう、と思っていると前触れもなく退学になるという話をとある大学職員の方から伺いました。したがって、学生が相談に来るのを待つのではなく、学生とのコミュニケーションの場をあらかじめつくってしまう方がよいのではないか、と考えたためです。
1on1という仕組み
この2つの条件をいかに実現するか。ピンときたのが1on1でした。私は普段はコンサルタントとして活動しています。Yahoo Japanが先駆けて導入したことで知られる1on1は、企業の間で注目されており、私も複数の企業で導入の支援を行ってきました。そんなこともあり、この仕組みを産業界だけでなく教育現場に導入したらよいのではないかと思いついたのです。
1on1とはどのような仕組みなのか、ここで簡単に触れておきたいと思います。文字通り1対1で面談をすることなのですが、ポイントが3つあります。
【ポイント1】短時間で
通常、面談というと1時間ほど話し込むことをイメージしますが、あえて20分程度と短時間にします。そうすることで面談者(教員・職員)と面談対象者(学生)の双方の時間的、精神的な負担を減らすことができます。
【ポイント2】定期的に
時間を短くする分、頻度を密にします。1~2週間に1度、あけても1か月に1度といった具合です。モヤモヤとした悩みごとをなるべく早くに共有できるようにします。
【ポイント3】学生が話したいことを話題に
面談でよく行われるのが尋問と説教です。面談者は相手のことを思って質問をし、アドバイスをするのですが、面談対象者には残念ながらそのように受け止められないことがあります。1on1では、面談者が聞きたいことを聞く場ではなく、面談対象者が話したいことを話す、いわば面談対象者のための時間なのです。
このような1on1を既に行っている教育現場もあるようです。昨夏の高校野球で東北勢として初優勝を果たした仙台育英高校。野球部を率いる須江航監督はできる限り毎日、日替わりで選手と面談をしているそうです。試合に出られる選手もいればそうでない選手もいる。そのようななかで生徒の自己肯定感を見極め、選手ひとり一人の目標を達成するためのパートナーという関係性を意識しながら接する。1on1とは名乗らなくともまさにそのものだといえるでしょう。
産業界では1on1を導入している企業が増えてきていますが、うまくいっているかといえば残念ながら形骸化している事例も少なくないようです。次回は、この1on1を教育の現場で効果的に実施するためにはどうしらたよいのか、考えていきたいと思います。
■参考
ダイヤモンド社:「ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法」本間 浩輔(2017)
文藝春秋:「甲子園名将対談 中谷仁×須江航 Z世代との向き合い方」Number#1072(2023)
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栗林 裕也
公益財団法人日本生産性本部人材・組織開発コンサルタント
国家資格キャリアコンサルタント
白百合女子大学非常勤講師
早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄道会社を経て現職。キャリア分野の研究や企業内でのコンサルティング、能力開発の研修に従事。生きがいと働きがいを感じつつ、その人らしさの発揮が強みとなって現れ、目的を達成することができるよう、「人」と「組織」の支援を行っている。