連載大原先生の学生指導のすゝめ
動機づけ教育プログラム「実践行動学」を開発する「実践行動学研究所」大原専務理事の学生指導のすゝめ。 学習塾での指導歴25年の大原先生が、実例を用いて学生への接し方をお伝えするシリーズです。 テンポのよいユニークな文章は、一度読んだらハマること間違いなし。
コロナ禍になって、直接学生と接する時間が限られる中で、難しいのがアドバイス。
学生一人ひとりのキャラクターを把握していなければ、空回りのアドバイスになりがちでは。
そこで、今回は実践行動学研究所 大原幸夫専務理事から「迷惑がられるアドバイス、ありがたがられるアドバイス」について寄稿していただきました。
目次
なぜアドバイスが迷惑がられるのか
教師が行う学生への様々な支援の中で、意外と難しいのがアドバイスの仕方。
「よかれと思って言ってあげたのに、全然響かなかった。それどころか、逆に迷惑がられた」
―そんな経験はありませんか?
でもこれ、言ってあげた“のに”というところで、しくじってる感がにじみ出てますね。
こちらとしては、「人のアドバイスを素直に聞けない奴はダメだ」と言いたくもなりますが、実は伝え方の工夫で、ありがたく聞いてもらえるようになります。
今回はそのコツを、理論×実体験でお話しようと思います。
さて、どうしてせっかくのアドバイスが迷惑がられるのでしょうか?
ズバリ言っちゃいますね。
それは、『あなたにアドバイスを求めていないから』。
どういうことでしょうか。
例えば、ファシリテーションには、『場の安全性を壊す4つの行動』というものがあります。
それは、
① 批評
② 分析
③ 否定
④ 求めてもいないアドバイス
です。
これらをされると、人は防御態勢に入って心を閉じてしまいます。
特に④の「求めてもいないアドバイス」には、①~③のすべてのインパクトが含まれるので注意が必要です。
「あなたのアドバイスを聞きたい」という気持ちになってもらうには
さて、求めてもいないアドバイスに思うことはコレですよね。
「余計なお世話だ」
となれば、よきアドバイザーがやるべきことは、たった一つしかありません。
それは相手に、「あなたのアドバイスを聞きたい」という気持ちになってもらうことです。
難しいように思えますが、やることは超単純。
アドバイスをする前に、まず相手を承認してそのメッセージを伝える。
たったこれだけです。
人というのは、自分を受け入れてくれた人しか受け入れない生き物ですから。
例えば、こんな風にアドバイスをされたら、なかなか聞く耳は持てないですよね?
「あぁ~、何でこうなっちゃうかなぁ。やり方を教えてあげるから、よく聞いてね。
これこれこうすればいいんだよ」
私なら、間違いなく「もう二度とこの人のアドバイスは聞きたくない!」ってなります。
一方、こんな言い方ならどうでしょうか?
「これは難しいからね~。今の段階でそこまでやれれば、むしろかなりできている方だと思うよ。
すごく熱心に取り組んでいることが伝わってきたよ。よくがんばったね~。
そうだなぁ…もし一つアドバイスするとしたら、これこれこういう感じでやってみたらどう?」
アドバイスの前に、力いっぱい相手を承認する言葉を伝えています。
そうすることで、相手の心にアドバイスを受け入れるスペースが生まれます。
「この人の言うことだったら聞いてみたい!」という気持ちになります。
まとめると、こんなかんじです。
まずは相手を承認する言葉を伝える
ちょっとやり過ぎなくらいがGood! でも、ミエミエなのはダメ。
本心から言えるように感度を高めましょう。
相手の心にアドバイスを受け取るスペースができたところで、アドバイスをする
すぐにアドバイスをしたくなっても、グッと我慢することが大切です。
相手を受け入れて肯定的な言葉で自分の意見を伝える
「Yes,And法」
実はこの流れ、「Yes , And法」という会話のテクニックになっています。
「Yes, But法」はご存じの方も多いですよね。
YesのあとにButしてしまうと否定することになるため、相手によっては反射的に“敵”という意識を持たせてしまうことがあります。
そこでAndを使うことで、肯定的な言葉を使って自分の意見を伝達し相手に受け入れてもらいやすくするテクニックを「Yes,And法」と言います。
どうですか。
まず相手にYesをし、次にAndを投げかける。
やること自体はめちゃくちゃシンプルですが、”分かることとできることは話が別”だったりします。
承認の言葉がけは日頃の練習がものを言うので、ちょこちょこやってみる習慣をつけたいですね。
アドバイスは手渡した時点で相手のもの
次に、アドバイスのスタンスについてです。
アドバイスが迷惑かありがたいかは、伝える人のスタンスで大きく変わります。
ズバリ結論から言います!
『アドバイスは手渡した時点で相手のもの』というスタンスでいること。
どういうことかというと、どんなに的確なアドバイスでも、「必ず実行に移すこと!」という押しつけがあると迷惑になってしまう、ということです。
”アドバイスはしても執着はしない”というのが超大事なポイントです。
簡単な例で比較してみますね。まずは、執着のあるアドバイスから。
「なるほど、そういう悩みがあるんだね。じゃあ、この方法でやってみたらいいよ。
いいでしょ? やるよね? いつやる? 明日? やったら報告をちょうだいね!」
ちょっと極端ですけど、こんな感じです。どう思いましたか?
さて、次は執着のないアドバイスの例です。
「そうだな~、あなたに合うかどうか分からないけど、私なりの意見を言うね。
もしも良いと思ったらやってみてね。しっくりこなかったら流してくれていいよ。
こんな方法なんだけど、どうかな?」
こんな風に「取り入れるかどうかはお任せ」というスタンスだと、相手は自分で選択した感覚になるので、実行の際の力強さも違ってきます。
また、いつでも相談できる安心感も生まれます。
まとめ
さて、いかがでしたか。ポイントをまとめると、ざっとこんな感じです。
① 相手に共感と承認のメッセージを伝える
② 自分なりのアドバイスを心から伝える
③ その際、実行の有無については執着せず、相手に選択権があることを伝える
ちなみにコーチング・セッションでは、コーチからの要望やアドバイスに対して、クライアントには3つの答え方があることを伝えています。
・1つ目はYes(はい、やります)
・2つ目はNo(いいえ、やりません)
・3つ目は逆提案(コーチの言ったことはやりませんが、このようなことをやってみます)
”気兼ねなく自分の意思で選択してもらうことがコーチの望みだ”という共通認識があると、クライアントはどんなアドバイスも前のめりで聞いてくれます。
ぜひ、学生指導において参考にしていただければ幸いです。
※この記事は、実践行動学研究所のメールマガジン「しなやかな心と学ぶ力が育つメルマガ ColorfulTimes」
157号、158号を再編集したものです。
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大原 幸夫
一般社団法人実践行動学研究所 専務理事
学習塾に25年勤務。その後小~中学校向けのワークショップの開発、及びファシリテーターの育成に従事している。またコーチング研修等の講師・講演を行う専門家でもある。