連載大原先生の学生指導のすゝめ
動機づけ教育プログラム「実践行動学」を開発する「実践行動学研究所」大原専務理事の学生指導のすゝめ。 学習塾での指導歴25年の大原先生が、実例を用いて学生への接し方をお伝えするシリーズです。 テンポのよいユニークな文章は、一度読んだらハマること間違いなし。
近年、「論理的思考力」と「答えを見つける力」をどのように育成するかが注目を浴びています。
ここで言われる「答えを見つける力」は、課題解決力というふうに置き換えることができるかもしれません。
過去、教育では、出題者が意図した解答をいかに導き出すか、正解を当てるかという点が重視されてきました。
入試という場面においては、いまもその通りであることが多いでしょう。
しかし、社会課題が多様化し、様々な個性がその解決に求められるようになった現代では、一つの正解を当てるのではなく、課題解決にたどりつくための自分なりの方法を見つけることが重要ではないでしょうか。
今回は、実践行動学研究所 大原幸夫専務理事から「答えの求め方」について寄稿していただきました。
目次
別解を導き出せる力
私は、大学を卒業してこの研究所にくるまでの間、長いこと塾の先生という仕事に携わっていました。
先生といっても営利企業なので、経営や管理などもいろいろ経験させていただきました。
大学では高分子材料工学というちょっとニッチな学問を専攻していましたが、毎日研究室でひたすら実験に明け暮れる日々(時には酢酸臭の漂う暗室にこもりっきり)に嫌気が差して、大学を出たらモノではなく人を相手にする仕事に就きたいと思ったのが始まりでした。
そして縁あって入社したのが、東京に本社をも つとある進学塾。
当時は飛ぶ鳥を落とす勢いで合格実績を伸ばし、事業拡大の真っ只中だったので、私が通う地方の大学にも求人票がきていました。
中学受験の“ち”の字も知らなかった私は、「子どもに勉強教えるくらいどうってことはない」という浅はかな考えで入社したので、その後地獄を見ることになります。苦笑
今思えば、そこでの授業はなかなか風変わりなスタイルでした。
・授業中にテキストは使わない。扱うのは先生自身が作成した問題のみ
・授業では数多くの問題を解こうとはせず、厳選した問題を様々な解法で解けるようになる
ことを目指す。
いわゆる「別解」の探究で思考力を伸ばすという塾でした。
テキストもなければ模範解答もない。
自分で作った問題を黒板に板書し、生徒が考えた解法をピックアップして、他の生徒に理解してもらうための通訳をする。
そんな形式の授業でした。
これ、私立中受験の経験がない私にとっては、なかなか熾烈な仕事でした。
そもそも自分で問題を作るなんてことはしたことがない。
工学部出身なので教壇に立ったこともない。
小学何年で何を習うのかも知らないし、もちろん数学を使って解説するのはご法度。
そんな私に子どもが考えた独特な解法の式の意図なんて読み取れるわけがない。
(どのような考え方で答えを導いたのかを説明できない生徒が多いこと!汗汗)
…とまあ、当時の私にとっては二重苦どころではなく、三重苦四重苦五重苦の仕事でした。
私の昔話はこのくらいにして、ふと思ったんですよね。
今こそ、「別解力」って大事だなぁ・・・、
あの頃やっていた授業はなかなか先進的だったんじゃないか・・・と。
仕事をしていると、誰も正解を知らない問題ばかりが起こるように感じます。
その時には、従来のやり方を繰り返すだけでは立ち行かなくなるなぁ…と思うことも多いです。
それがVUCAワールドってことなんでしょうね。
なので、今必要なのは、「他に解決の仕方はないかな?」という発想で自分なりの別解を探求することなんだと思います。
偉そうに言うほどストイックにやってるわけじゃありませんが。。。
子育てであれ仕事であれ、みなさんにも別解力を試される機会がたくさんあるのではないでしょうか?
これからの時代を生きる学生たちには、ぜひ“別解力”を磨いてほしいと思います。
そして、この別解力を活かしてぜひ、「自走できる人」になってほしいと思っています。
やるべきことを自分で見つけ、課題に対して何ができるかを自分で考え、解決に向けて動く。
一人でムリなら人に助けを求めて一緒になってハードルを越える。
私自身、弊所でどんな人材を採用したいかと問われれば、「別解力を持った自走できる人」と答えます。
そんな人が居たら、即採用したいなぁ…と。
でもきっとどの企業でもきてほしいと思う人材ですよね。
自走できる学生になってもらう工夫とは
そういえば先日、クライアントの方、私、私の部下のNさんの3人で打ち合わせをしていたときのこと。
ひょんな話の流れで、クライアントの方が「大原さんはどんな人か?」とNさんに聞いたんですね。
そこでNさんから最初に出た言葉は、
「ちょっと珍しいタイプです」
でした。笑
「なにそれどういう意味?」と突っ込んだら、こんなふうに話してくれました。
今まで自分の周りには仕事のやり方を細かく指示する人が多かったのですが、大原はこういうのが欲しいんだよねとしか言わない。
何をどうすればよいのかについては、何にも言わない人です。
そんなふうに紹介されて、「確かに…、自覚症状あり」でした。笑
私が求めていることは私にしか分からないので、なるべく丁寧に伝えるようにしますが、やり方についてはご自由に、って感じです。
自分だったらこうやるけど、その人にとってのベストはたぶんそうじゃない。
だったら自分で考えて好きなようにやってよ、と。
だって、その人のやり方でその人にしかできないものができたら、お客さんにも組織にも有益だし、その方が楽しく仕事ができますよね。
もしも私のやり方でやらせたら、良くても私のイメージ通りにしかなりませんが、その人に任せたらそれを軽く超える可能性だってある。
その方が私も楽しみです。
これって、まさに別解力があるからこそ、できることだと思いませんか。
これをお読みの先生方の中には、学生に自走してほしいと願っている方も多いかと思います。
やりなさいと言わないとやらない。
そんな姿にストレスを感じているのは、あなただけではありません。
そこで、私が子育てから学んだ自走する習慣をつけさせるためのポイントをお話します。
ポイントは2つで、学生と話すときの最初と最後にあります。
まず1つめ。
あれこれ言いたいことがあっても、最初はこう聞くようにしています。
「きみはどう思う?」
まずは本人の考えを聞くことに徹します。
ちょっとしんどい時もありますが、はじめからこちらの意見を伝えても、そのまままっすぐには受け取ってもらえません。
「放っといてくれ」か「言われた通りにやればいいんでしょ?」となるのが関の山です。
そして2つめ。最後にかならずこう聞きます。
「で、どうすることに決めた?」
もちろん話の途中ではこちらの意見や不満も言いますよ。なにぶん未熟なもので、自分の感情に蓋をしたままではどうにもスッキリしないのです…。苦笑
でも最後には、絶対に指示・命令をしない。
これは私が子育てで最も大切にしている信条でもあります。
学生指導において、
先生、話を聞くフリをしているけど、結局最後は命令に従わせたいんでしょ?
そうなったら自走の真逆の影響しか与えません。
このようなやり方は行動変容に時間がかかるので、すぐに学生に言うことをきかせたい人には不向きです。
ただ、「指示に従わせる」ことはいつでもできるんです。
学生が「自走する」ようになるまでには時間がかかりますが、社会に出て役に立つ素養を身につけてもらいたいと私は思っています。
※この記事は、実践行動学研究所のメールマガジン「しなやかな心と学ぶ力が育つメルマガ ColorfulTimes」
180号、189号を再編集したものです。
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大原 幸夫
一般社団法人実践行動学研究所 専務理事
学習塾に25年勤務。その後小~中学校向けのワークショップの開発、及びファシリテーターの育成に従事している。またコーチング研修等の講師・講演を行う専門家でもある。