テレワークやオンライン授業の広がりから、学校教育でのIT機器利活用がすすんでいます。また、文部科学省が推進するGIGAスクール構想に則り、学生1人あたり1台のデバイスを用意する学校が増えています。
しかし、日本は教育分野のIT化が他の先進諸国に比べて未成熟なままとなっています。
今後普及が見込まれるBYODが導入された場合、どのようなメリット・デメリットがあり、学校や学生はどのような点に注意を払わなければならないかを解説していきます。
目次
私物デバイスを業務に使用することを指す「BYOD」
一般的に個人が所有するパソコン・タブレットを職場に持ち込み、業務で使用することをBYODといいます。
しかし、最近ではGIGAスクール構想推進の一環で、家庭にあるデバイスを学校に持ち込んで授業で使用する「教育版BYOD」も浸透しつつあります。
一昔前に比べるとデバイススペックが低くても作業に不自由のないレベルになりました。
その結果、仕事の場でも教育の場でも、慣れ親しんだデバイスを使いたいという需要が高まっています。
BYODの読み方
BYODは「Bring Your Own Device」の略称で、直訳すると「自分のデバイスを持ち込む」という意味になります。
対象となるデバイスは主に、パソコン・タブレット・スマホなど。厳密にいえば、USBメモリやHDDなどのメディア機器まで含まれます。
近年、スマホの普及率が急速に高まったため、BYODで最も用いられるデバイスはスマホといえるでしょう。
「CYOD」「BYAD」との違い
CYOD(Choose Your Own Device)は「企業や学校が指定したデバイスから、個人で選ぶ」という意味であるのに対し、BYAD(Bring Your Assigned Device)は「指定されたデバイスを持ってくる」という意味です。
CYODとBYADの違いは、使う側にデバイス選択の余地があるかないかの差になります。
BYODは無数にあるデバイスの中から自分の好きなデバイスを選ぶのに対し、CYOD・BYADではデバイスが指定されています。
デバイスが指定されている分、管理者側からすると管理・運用面などに利便性があります。
一見すると学生目線ではCYODの優位性が高いように思えますが、学生によっては選択の幅が狭いと不満を持つ方もいるかもしれません。
学校・教育現場におけるBYOD導入のメリット
BYOD導入のメリットから、高等教育機関ではすでにパソコン室を廃止し、学生自身のパソコン・タブレットを活用できる環境整備やカリキュラム作成を検討し始めています。
BYODは教育面への好影響だけでなく、パソコン導入費用やメンテナンス費用などのコスト面においても優位性があります。
操作に慣れた端末を使える
操作に慣れたデバイスが使えることで、基本的な操作を学ぶ手間が最小限になります。
基本操作を習得しているデバイスが使えると、情報検索や資料作成などを授業でスムーズに活かす事ができます。
慣れ親しんだデバイスであれば操作につまずくことも少なく、学生が積極的に活用することで自主的な学びを促せます。
高価なデバイスであれば数十万円に及ぶものもあります。
すでにパソコンやタブレットを保有する家庭においては新たにデバイスを購入する必要がないため、経済的な側面からも理解を得やすいのがBYODです。
オンライン授業を行う環境が作れる
BYODを導入することで、不測の事態が生じ通学できなくなっても慣れ親しんだデバイスで自宅からオンライン授業を受けられます。
オンライン接続の不具合はよくあるリスクで、慣れたデバイスでなければトラブルが目立ちます。
また、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、対面授業における感染リスクが浮き彫りとなりました。
今後も状況に応じ、対面とオンラインを併用しながら学生の身を守る必要性があるため、オンライン授業の普及が不可欠です。
ICT教育に役立つ
これからの教育には、インターネットや動画、学習アプリを活用して学習効率を高めることが求められています。
一昔前まで、学習方法といえば「先生に教えてもらう」「本を買って読む」「辞書で調べる」が主流でしたが、インターネットを利用することで必要な情報に簡単にアクセスして学びを深められるようになりました。
また、文字での情報収集以外に動画による視覚と聴覚を使った情報収集も主流化しており、ICT教育は日々進化しています。
学校・教育現場におけるBYOD導入のデメリット
BYODでは、学生それぞれが異なるデバイスを持つため、情報漏洩やコンピューターウイルス感染などのセキュリティ面に関するリスクが高まることや、教員が学生の学習状況を把握しづらいといったデメリットが生じます。
学習に集中しづらくなる可能性
学生個人のデバイスには、授業に関係のないアプリなどがインストールされているでしょう。
学生にしっかり目を配っておかなければ、授業に関係のないアプリを開いて遊んでしまうという事態が考えられます。
また、SNS関連のアプリには新着情報を知らせる通知機能があるため、メッセージや通知の内容を確認しようとすることもあるでしょう。
これらの理由から、学生個人のデバイスの場合、どうしても授業や自宅学習に集中しづらい環境となりやすいのがデメリットです。
デバイス費の負担
BYODの場合、デバイス購入費は学生家族が負担することになるため、家庭の経済状況を悪化させる可能性が考えられます。
デバイスの購入は、生活が苦しい家庭にとっては負担が大きいことを頭に入れておく必要があります。
家庭の予算によっては、本当に欲しかったデバイスを諦める必要が生じ、機能・性能に制限がある安価なデバイスを選ばざるを得ないこともあるかもしれません。
十分なスペックを持ち学習に適したデバイスが使用されなければ、学習の効率化を妨げてしまうリスクが上がります。
BYODを導入する際の注意点
BYODを導入する際には、情報漏洩のリスクを重視して対策しなければなりません。
また、個人デバイスはプライベート使用との境界線が曖昧になりやすいため、運用ルールを事前にしっかり決めておく必要があります。
運用ルールの浸透
デメリットで紹介したように、リテラシー教育をしっかり行い、特にセキュリティ面の意識を強く持てるようにしましょう。
将来起こりうるリスクを学ぶことで、運用ルールの遵守意識が大きく変わります。
ITの世界は急速に変化が進んでいるため、運用ルールも定期的に見直し、現状に即した対策がとれるよう柔軟に対応する必要があります。
システム対策
最も一般的なシステム対策は、MDM(Mobile Device Management)を活用することです。
MDMは、管理者が各個人のデバイスをリモート制御できるようにする仕組みで、万が一紛失や盗難などがあった際にデバイスの起動をロックしたり、データを削除したりすることができます。
また、不正アクセスを感知するようなDLP(Data Loss Prevention)システムなどの導入も有効です。
セキュリティ対策
BYODにおける最重要ポイントは、セキュリティ管理です。
悪質なメールやサイトによって、巧妙にウイルス感染させられるケースが日に日に増えています。
メールやサイトの閲覧などへの注意喚起はもちろん、セキュリティそのものを強化しておく必要があります。
ウイルスソフトやVPNを各学生のデバイスに導入しておくようにしましょう。
また、簡単にできるセキュリティ強化対策としてパスワードの定期的な変更が挙げられます。
管理者が定期的に学生にパスワード変更を要求することで、トラブルを未然に防ぐ効果を期待できます。
日本のBYODの普及率は?
総務省の調べによると、日本のBYOD普及率は約10%程度であると示されています。
アメリカでは20%前半、イギリスやドイツでは20%後半と、日本の普及率は先進諸国に比べて遅れ気味であることが分かります。
他国の普及率を見ると、日本が今後加速度的に普及率を上げるための対策を講じる可能性を予見することができます。
BYODにおすすめのOSを比較
文部科学省では、GIGAスクール構想に向けて「iPad OS」「Windows」「Chrome OS」の3種類を推奨しています。
スペックが同じであってもOSそれぞれに特徴があるため、その機能や操作性を十分に理解した上で選択する必要があります。
操作性に優れた「iPad」(iPad OS)
タブレットタイプなのでボディも軽く、持ち運びが非常に簡単です。
またカメラ性能にも定評があるため、写真や動画を扱うクリエイティブ系の作業には特に重宝します。
OSに適した教育用アプリが数多くリリースされている点も魅力です。
文書作成に最適「Windows端末」 (Microsoft Windows)
Officeソフトとの親和性が高く、マウスによるカーソル操作が簡単で、文書作成に向いています。
また、教材を大型モニターに投影したり、配布資料を印刷する際にトラブルが少ないなど、外部接続に定評があります。
操作レスポンスの良い「Chromebook」 (Google Chrome OS)
シンプルな構成であるため起動が早く、操作レスポンスもよいのが特徴です。
また、Googleが提供するサービスとの連携が特にスムーズである点にも定評があります。
同スペックの他のデバイスと比較すると安価に購入することができます。
まとめ
BYODの導入はICT教育の推進に役立ち、今後起こりうる緊急時の休校などでも学習機会が大幅に損なわれないといったメリットが得られます。
また、学校所有のPCや端末とは異なり自宅に端末を持ち帰るので、学校の授業と家庭学習をシームレスにつなげられることも魅力のひとつです。
ただし、管理者には、学生にリスクを充分に説明することや、セキュリティ対策のために様々なシステムを活用するといった取り組みが求められることを忘れてはなりません。
しっかりとした運用ルールを取り決め、周知していくことが大切です。
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