IT技術の発展によりさまざまなものがデジタル化するなか、教育分野でもICTの活用が推進されています。
本記事では、ICT教育の基礎知識やICT教育が推進される背景、メリット・デメリットなどについて解説します。
目次
ICT教育とは|教育のデジタル化
ICT教育とは、いわば「教育のデジタル化」です。
電子黒板・タブレット端末などのデジタル機器を導入し、インターネットなどの情報通信技術を活用した教育のことをいいます。
それでは、そもそもICTとは何なのでしょうか。
ICTとは
ICTは「Information and Communication Technology」の略称です。
日本語では「情報通信技術」と訳されます。
「Communication(通信・伝達)」という言葉が含まれることからもわかるように、ICTは通信技術を活用したコミュニケーションを意味する言葉です。
身近なICTの例を挙げると、SNSやメールのやり取りが該当します。
デジタル化された情報・知識のネットワークを経由したやり取りや、「ヒトとヒト」・「ヒトとモノ」との繋がりに重点が置かれています。
IT・IoTとの違いとは
ICTと似た言葉にITがありますが、ICTとITはほぼ同義の言葉です。
ただし狭義の意味では、IT(Information Technology)は情報技術そのものを指すのに対し、ICTは、情報通信技術の使い方ということができるでしょう。
国際的には、ITとICTのどちらの技術も「ICT」と呼ばれています。
もう1つICTと似た言葉として、IoTがあります。
IoTとは「Internet of Things」の略称で、日本語訳は「モノのインターネット」です。
身の回りのモノがインターネットに繋がる仕組みであり、IoTは、ITやICTの一分野だといえます。
IoTの代表的な活用例は、スマート家電です。
なぜ今ICT教育が求められるのか
IT技術の発展により社会全体のデジタル化が進むなか、教育現場でもICT教育が推進されています。
ICT教育が求められる背景には、文部科学省が提唱するGIGAスクール構想と、社会で必要とされる能力の変化があります。
GIGAスクール構想
GIGAスクール構想とは、2019年12月に文部科学省が発表した教育改革案です。
GIGAは、「Global and Innovation Gateway for All」の略称です。
義務教育段階にある全国の児童・生徒を対象に1人に1台デジタル端末を配布し、高速大容量の通信ネットワークを整備することで、個別最適化された創造性を育む教育とICT環境の実現を目指しています。
日本のICT教育と教育現場のICT環境の整備は、世界的に見て遅れている状況でした。
その裏付けとなるのが、OECDの「生徒の学習到達度調査2018年調査」です。
同調査において、日本は「学校の授業におけるデジタル機器の利用時間」と「コンピュータを使って宿題をする頻度」が加盟国中最下位でした。
こうした状況を打破するためにスタートしたのが、GIGAスクール構想です。
社会で必要とされる能力の変化
ICT教育に注目が集まる背景のもう1つとして、社会で必要とされる能力の変化があります。
変化の激しいこれからの時代を生き抜くには、情報を取捨選択して活用する力や、創造性が求められます。
そのため、知識を一斉に詰め込むだけの従来の教育ではなく、ICTを活用し、個々人の創造性や論理的思考力を養う教育が必要となっているのです。
ICT教育を導入するメリット
ICT教育が求められる背景はわかりましたが、はたしてICT教育の導入で得られるメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。
場所を選ばずに授業に参加できる
ICT教育は、遠隔授業や録画授業に適しています。
そのため、学生が場所を選ばずに授業を受けられます。
さらに録画授業は、時間を選ばず復習に活用してもらえるため、学生の学習時間の確保にも一役買うことでしょう。
学生は提携校の授業や専門家の授業なども受けられることに加えて、他校との合同授業に参加することも可能です。
また、ICTの導入により、自宅近くに学校がない学生や持病などの理由で登校が困難な学生にも学習環境を提供しやすくなります。
これにより、専門学校の入学志願者を増やすことにつながるかもしれません。
ICTリテラシーの向上
ICTリテラシーとは、ICTツール(デジタル端末・ソフトウェア)を使用して情報処理やコミュニケーションを遂行する能力です。
IT技術が発展した現代では、ICTツールを活用する能力は重要です。
日頃からICTツールを活用していれば、ICTリテラシーやインターネット・リテラシーは自然と高まり、インターネットを安全に利用する知識も身に付きます。
授業の理解度・学習意欲の向上
前述したとおり、ICT教育は「教育のデジタル化」です。
デジタル端末を活用すれば、カラフルでわかりやすい図や動画などを授業に取り入れやすく、学生の理解度や学習意欲の向上にも役立つでしょう。
一般的に、人は内容の理解が難しい場合、文章を何度も読むよりも図解された方が理解しやすいといわれています。
また、五感を多く使えば脳が活性化し、記憶が定着しやすくなります。
したがって、図や動画などで理解を促し、視覚だけでなく聴覚も刺激するICT教育は、理解度や学習意欲向上の助けとなるでしょう。
さらに、学習意欲が旺盛な学生が「その分野についてもっと学びたい」と思ったときに、デジタル端末を使って自主学習をすることも容易です。
先生の業務の効率化
ICT教育は、先生の業務効率化にも寄与します。
具体的には、デジタル端末を活用することで、板書をしたり紙ベースの資料を作成・印刷・配布する時間と労力を削減したりできます。
デジタル化されている教材や資料だと、ほかの先生と共有したり、使いまわしたりしやすいでしょう。
ICT教育のデメリットと問題点
いくつものメリットがあるICT教育ですが、どのようなデメリットや問題点があるのでしょうか。
ICT環境の整備と運用にコストがかかる
ICT教育のデメリットとしては、ICT環境の整備と運用に費用がかかることが挙げられます。
ICT教育には、学生が利用するデジタル端末の購入費用や高速大容量の通信ネットワークの整備費用、セキュリティ対策費用、ランニングコストなどが必要です。
学生の思考力や書く力の低下の懸念
ICT教育では、思考力や書く力が低下することが懸念されています。
デジタル端末は、検索能力に優れています。
そのため、考える前にデジタル端末で検索してしまう癖がつくと、思考力が鍛えられない可能性があるでしょう。
いつでもデジタル端末に頼るのではなく、授業の中では「考える」時間を設けることをおすすめします。
書く力は、どうでしょうか。
大人も含めて、デジタル端末で文章を作成することが増えると漢字を書く力が低下するといわれています。
デジタル端末で正しい漢字を選択することはできても、いざ手書きするとなると迷った経験をお持ちの先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
漢字が書けなくなることを、それほど重要ではないと思うかもしれません。
しかし、男女30人の学生を対象としたある調査で、漢字を書く力の低下が文章を作成する力にも影響を与える、ということがわかったのです。
デジタル端末での学習でも「書く」ことはできます。
キーボードで文章を打つだけではなく、ときにはタッチペンを併用して書く力を養うサポートをするとよいでしょう。
前述したように、ICT教育には授業の理解度・学習意欲の向上というメリットがあります。
よって、ICT教育を忌避するのではなく、デメリットをうまく防ぎながら運用をすることが大切です。
参考:手書きの訓練が足りないと文章作成能力が低下? 「読字」「意味理解」より影響 京大グループが研究
先生にICT教育の知識とスキルが必要
ICT教育を実施するには、先生自身がICTに関する知識を身につけ、ICTツールを使いこなすスキルが必要です。
しかし、先生のなかにはICTに苦手意識があったり、ICTツールの使用に手こずったりする方もいるでしょう。
従来の授業を変えることに抵抗のある先生もいるかもしれません。
ICT教育に対する日本の取り組みの現状
前述した通り、2018年時点での日本のICT教育は、OECDの他の加盟国に比べて遅れている状況にありました。
しかし、2022年の調査では、地域ごとに差は見られるもののICT教育に必要とされる環境の整備が進んでいます。
文部科学省の調査によると、「教育用コンピュータ1台当たりの生徒数」は2018年の5.6人から2022年には0.9人になり、「普通教室の無線LAN整備率」は2018年の34.5%から94.8%まで上昇しました。
それ以外のICT環境を評価する数値も改善傾向にあります。
海外に比べてICT教育の推進に出遅れたことや先生側にICTの知識やスキルが不足しているなどの課題はあるものの、それも少しずつ改善されてきています。
海外のICT教育の取り組みを紹介
海外では、ICT教育についてどのような取り組みが実施されているのでしょうか。
先生・学生・保護者がアプリで連携|オランダ
オランダでは、学生の学習進捗をアプリケーションを用いて「先生・学生・保護者」の三者で共有しています。
そのため、それぞれが学習の進捗状況を簡単にチェック可能です。
加えて、デジタル端末を活用したワークショップ(体験型講座)や自主学習を中心とした教育法を実施し、学生の学習意欲を後押ししています。
また、学生は個々の学習の到達度に応じた授業を受けることができます。
すべての学校でフリーWi-Fiを利用可能|エストニア
IT先進国として知られるエストニアでは、教材を電子化しすべての学校でフリーWi-Fiを利用できる環境が整備されています。
授業では、学生個人が所有しているデジタル端末を使用します。
したがって、学校側でのデジタル端末の新規購入は不要で、ICT教育に必要な費用を抑えられます。
1990年代からICT教育環境の整備に着手|シンガポール
シンガポールは、1990年代からICT産業を国の基幹産業と位置づけ、教育分野においてもICTを活用してきました。
1997年という早い段階でICT教育のための環境整備が進められ、2002年には学生の基本情報や成績などを一元管理できる「学校コックピットシステム」を導入しました。
このシステムには、学習の進捗状況を管理するLMS(Learning Management System)が搭載されています。
さらに、低所得層へのパソコンの配布や購入支援、紙ベースの教科書を使わない授業も行われています。
専門学校におけるICT教育の活用事例
日本の専門学校において、ICT教育が活用されている事例をご紹介します。
ICT教育環境導入プロジェクトを発足「医療福祉系専門学校K」
救急救命士・理学療法士を養成する医療福祉系専門学校Kさんでは、2012年に「ICT教育環境導入プロジェクト」を開始しました。
わかりやすい授業を展開することを目的として、学生一人ひとりにデジタル端末を配布し、ICT教育環境の整備も進めています。
在学中に、現場で活きるICTリテラシーやインターネット・リテラシーを獲得することや、壁全面のホワイトボードを活用した双方向型学習に力を入れています。
まだ実証授業の段階ですが、VRを取り入れた授業も視野に入れているそうです。
学生の習熟度に合わせた柔軟な教育「美容系専門学校E」
メイクアップアーティストやネイリスト、美容師などを育成する専門学校Eさんでは、学生の個性や習熟度に合わせた教育プログラムのためにスマートデバイスを活用しています。
一部の授業は録画されていて、時間や場所を問わず予習・復習が可能です。
また、海外で活躍する業界の第一人者によるオンラインセミナーを開催することもあります。
これからの時代には欠かせない動画配信力を培えるといった点も、業界にマッチしているようです。
作品を記録するためにSNSを活用したり、デジタル端末でポートフォリオを作ったりすることは、就職活動でも有利な力となるでしょう。
まとめ
ICT教育が求められる背景や導入するメリット・課題についてご紹介しました。
ICT教育は、情報通信技術を活用した教育です。
社会で必要とされる能力の変化とともに、学生に教えるべきことも変化してきています。
学生がこれからの時代を生き抜くために、情報を取捨選択して活用する力や、創造性・論理的思考力を養う教育が求められています。
今後、義務教育課程だけでなく、専門学校などの高等教育機関でもICT教育が加速していく流れは止まらないでしょう。
時代に対応できる人材育成のため、本記事で少しでもICT教育について理解を深めていただければ幸いです。
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