連載【伝わる・信頼される】先生になる!教務スキルアップ講座
専門学校の先生にとって、【伝わる】授業・【信頼される】学生対応は、専門分野の知識と並ぶ大切な要素。新任の先生も、スタイルの固まってきた先生も、教務スキルを自己点検してみませんか。航空系・医療系をはじめとする多くの専門学校・大学で教え、学生・卒業生から愛される川口先生とお送りする連載です。
皆さん、こんにちは。
5月、新緑の季節となりました。
緊張していた新入生たちも少しずつ学校生活に慣れてきた頃ではないでしょうか。
第3回は、「ゴールデンウィーク明け 授業展開のポイント」と題して、学生のモチベーションを維持向上し、「五月病」を防ぐ授業展開のポイントをお伝えしていきたいと思います。
目次
PEP TALKを使ってモチベーションをアップ
人をやる気にさせる「PEP TALK(ペップトーク)」をご存知でしょうか?
PEP TALKとは、アメリカで開発されたモチベーションを上げるテクニックのことをいいます。
スポーツ中継などで、大事な試合を控えた選手たちを前に監督やコーチが選手のモチベーションを上げるような声掛けをしている場面を目にすることがあると思います。そのような場で使われています。
「PEP」はもともと「元気・活気」という意味で、PEP TALKは、「緊張や不安をやる気に変え、人が本来持つ力を最大限に引き出す話し方」として広く採り入れられるようになりました。
箱根駅伝の常連校である青山学院大学の原監督が、伴走車から選手へ声掛けしているのを聞いたことがあるでしょうか?
「腕が振れてる、振れてる!
いいぞ、いいぞ、いいぞ!
すごいぞ!自己最高記録、いけるぞ!
スマイル、スマイル、スマイル!
そうだ、肩の力が抜けてきた!」
もしこれが「もっと腕を振りなさい! あと50メートルで後ろから抜かれてしまうぞ! もっと足をあげて走れ!」という声掛けだったらどうでしょうか?
選手は逆に萎縮して力を発揮できなくなるかもしれません。
PEP TALKのポイントは以下の4つ。
- ポジティブな言葉を使う。
- わかりやすい言葉を使う。
- 短い言葉を使う。
- 背中を押す言葉(相手が一番言ってほしい言葉)を使う。
原監督の声掛けには、選手がモチベーションを上げることができる要素が詰まっているのです。
日本ハムのBIG BOSSこと新庄監督も、選手のモチベーションの上げ方が上手ですね。
9回2死満塁、1打逆転サヨナラの場面。プロに入って2年目の選手に打順が回ってきました。
手に汗握る、最も緊張する場面です。
監督が選手にかけた言葉は、「結果など気にせず、楽しんでいけ!」。
まずは楽しむこと。
そしていつもポジティブな言葉を使って、選手を鼓舞しています。
先生と学生の関係にも、原監督や新庄監督のモチベーションアップの言葉を使えるのではないでしょうか。
私は、大事な就職試験を翌日に控えた学生には、「楽しんできて」と言うようにしています。
なぜなら、面接の後で「緊張してしまい、頭が真っ白になって何を言ったか覚えていない」と報告してくる学生が多いからです。
第一志望の会社の面接でそうなってしまっては悔いが残ります。
逆に「面接が楽しかった」と言って帰ってくる学生は、合格していることが多いのです。
本番で一番力を発揮できるようにするためには、力を抜いて楽しむことも必要ではないかと思います。
「○〇さんなら大丈夫!! 応援してるよ」という背中を押す言葉も一緒に添えるようにしています。
ここで、言い換えるとモチベーションアップにつながる言葉をいくつか紹介したいと思います。
否定の言葉 | 肯定の言葉 |
---|---|
何でできないの? | どこまでできてる? |
失敗するな | ベストを尽くそう・思いっきりやろう |
寝坊するな | 早起きしよう |
遅刻をするな | 早めに出よう |
ミスをするな | 慎重にやろう |
やる気がおきないの? | やり遂げたら成長する |
これらの言い換えは、授業を展開する際にも使えます。
特に、新入生は、4月の入学当初にはやる気に満ちていたのがGW明け頃から「緊張が緩むとともにモチベーションも下がってくる」第一波がやってきます。
遅刻や欠席なども出てくるこの時期。
時間を過ぎて入ってきた学生に「遅刻をしないように」と言うところを「いつもより早めに家をでてみようか。」と言い換えてみてください。
他の場面でも「~しないように」という言葉をできるだけ使わず、前向きな言葉に言い換えることを意識するだけで、学生のモチベーションが少しずつ上がってくるようになります。
クラス全体のモチベーションを高めるためには
医療系専門学校の2年生のクラスを担当していて、驚いたことがありました。
43人のクラスですが、「入学して1年以上たつのに、まだ話したことが一度もないという子が何人かいる」と学生が教えてくれたのです。
それを聞き、話したことがない子とペアを組んでお互いの魅力を1分で発表する「他者紹介」を全員でやってもらいました。
その結果、「今まで話をしたことがなかったけど、全く知らない部分を知ることができ、これから会話をするきっかけがつかめてよかった」と喜んでもらえました。
このクラスは、3年生の3月に全員で国家資格を取得することが目標となっています。
一つの目標に向かって全員で努力し、目標を達成するためには、お互いのことを知ることも大切な要素となります。
先生たちも学生のモチベーションをあげるよう、ポジティブな声掛けを心掛けています。
その結果、毎年一人も脱落することなく、全員が国家資格に合格しています。
勉強だけでなく、一生ものの人間関係を築けるように
社会人になると、学生時代の友人がありがたい存在になったりすることはありませんか?
職場だとどうしても利害関係などもあったりしますが、学生時代の友人とは損得なしで付き合える、という話をよく聞きます。
同僚には話せないことも、学生時代の友人には何の気兼ねもなく話せることがあります。
専門学校は2年もしくは3年という短い期間で、学生はあっという間に卒業していきます。
近年、学生同士のつながりが希薄になっているように思えて危惧していたところ、コロナ禍を受けてさらに輪をかけて友人作りが難しくなっているように見受けられます。
学生たちには、「勉強だけではなく、学生時代にしかできない友人とのかかわりを大切にしてほしい」ということを伝えています。
最後に
90分の授業運営は、先生によっていかようにも演出可能です。
そのうちの1分だけでも、学生たちのモチベーションを高める言葉をかけてみませんか?
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グランドスタッフ界の「ゴッドマザー」こと川口先生が教える
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川口 晴美
元日本航空グランドスタッフ。在職14年の間、JAL「サービスの達人」社長賞や社内接客大賞「ホスピタリティ賞」受賞。全国各地の空港で指導教官として勤務。退職後、大学、専門学校の非常勤講師として客室乗務員やグランドスタッフを多数輩出。現在は、大学、専門学校(医療系、留学生)高校、NHK文化センターで教える。
オフィス川口(G-mother)を設立し、学生の就活サポート、各種検定、企業研修を手掛ける。サーティファイ認定会場。